第199話 みんなで仲良く

「きゃーはっはっはっは」


涙を流しながら笑ってたのはアイナだった。


「ゲイル、あなた役者になれるんじゃないかしら? か、か、か家族に言い残すことはないか?とか言っちゃって」


アイナはヒッヒッヒッと声にならない笑い声を出している。意外な事に俺とアイナの笑いのツボは同じだった。


「アイナ、お前は相変わらずだな」


エイブリックの話によるとパーティーメンバーが必死に戦ってても魔物に一撃食らったりしたのを見てよく笑ってたそうだ。本当に危ない時はそんな事は無かったと信じたい。


アイナは初めから俺の意図を見抜いてたのかもしれないな。いつも心の声を読まれてるし。ジョンの話によるとずっと笑って楽しそうに見てたそうだ。



「ゲイル、魔法とは凄いな。俺にも教えてくれる約束だったよな」


アルは護衛達が一方的にやられるのを見ても俺を恐れず無邪気に魔法を教えろと言ってくるあたりは強者としての余裕なのか血筋なのかは分からないけど、引かれてなくて良かった。



森からダンがボアを引きずって帰って来た。ドン爺はホクホク顔だ。


「戻ったぞ。解体手伝え」


アーノルドが俺にそう言う。


ゲイルはその前に筆頭護衛に話し掛けると、ちょっとビクッとしながらなんだと答えた。


「ずっと何も食べてないんでしょ?ボア解体して調理するまで時間掛かるから今朝渡してあるサンドイッチでも食べて休憩してなよ。」


「そういうわけには・・・」


「ドン爺、護衛の人達に休憩取って貰うけどいいよね?」


好きにしろと返事が返ってくる。それよりもボアを食べるのが楽しみで仕方がないみたいだ。


「ここは分からないだろうけど、小屋周り以外も森全体的に柵で囲んであるし、人も魔物も入ってこないから本当に護衛の必要が無い場所なんだよ。王様の許可も出てるし、ちゃんと休憩するのも仕事のうちだよ。そうしないといざというときに働けないからね」


「ゲイルの言う通りだ。鎧も脱いで休憩してこい」


エイブリックも護衛達に休憩を勧めたのでようやく護衛達は休憩に行った。スープは冷めてるだろうけど仕方がない。とっとと食わないのが悪い。


俺はジョンとアルを連れて解体の手伝いに行った。



「アイナ、ゲイルはいつからあんななんだ?護衛どもを倒せるとは思ってたがあんな戦い方は想像出来なかったぞ」


「そうね、私も初めて見たけど面白かったわ。エイブリックも負けたんでしょ?」


「聞いたのか?まさかリッチと同じ魔法を使えるとは思わなかったからな。しかし、戦略も見事だった。俺の踏み込みを壁で阻止してからの発動だからな。それでもゲイルは自惚れたりせず、俺が本気なら負けてると平然と言う。どんな育て方をしたらああなる?」


「そうね、ゲイルは勝手に学んで勝手に育ってるわ。私達が足りない所を怒られるくらいよ」


「勝手に学ぶ?」


「ちゃんと周りの人を認めて学んで行くのよ。アーノルドも何かを教えるというよりも自分の背中を見せているだけだわ。ドワンやダンもね。特にこの前の蛇討伐から一気に成長したんじゃないかしら?さっきの魔法での立ち合いより、朝の戦い方を見て驚いちゃった」


「確かに自分の欠点すら利点にする戦い方、相手の出方を読み切るというか誘い出して仕留める狡猾な戦法には舌を巻いた。あれも教えたわけじゃないんだな?」


「そうね、アーノルドも嫌な戦い方をすると言ってたから。あの大振りが無くてもいくつも倒す方法を考えてたんじゃないかしら?相手が仕掛けて来なくてもあのまま続いてたら脚が止まってたでしょうしね」


「ゲイルの頭の中はどうなってるんだろうな?不思議な物もしれっと作って出して来やがるし」


「ゲイルは自分が便利で楽しいものと美味しいものを求めてるだけね。あと関わった人の幸せかしら?だから年齢性別問わずゲイルに集まって来るし、みな協力的で楽しそうだわ」


「確かにな。父上のあんなに楽しそうな顔は見たことがないからな。見ろよ一国の王がまるで子供みたいに笑ってやがる」


「本当、陛下も楽しそうね。突然来るからビックリしちゃったけど、来て良かったんじゃない?あなたも楽しそうよ」


「そうだな。公務に就いてからこんな風にアイナと話すことも出来なかったからな。ゲイル様々だ」


「相変わらずお上手ね。そろそろ調理に入れそうよ。準備手伝いましょ。ゲイルに働かざる者食うべからずとか言われちゃうわ」


「なんだそりゃ?」


「働かない者はご飯食べさせてくれないんだって。この前次男がそう言われて焼き鳥焼かされてたわよ」


「そうかそれは大変だな。手伝いに行こう」



「ドン爺、食べ方のリクエストはある?」


「よくわからんから任せるぞ」


「じゃ何品か作るね」


ヨルドにも手伝ってもらう。


「ヨルドさん。骨で出汁を取って、それとこれを薄く切ってくれる?。ダンはこいつをこれくらいの分厚さに。父さんは火の管理をお願い。薪じゃなくて炭でね。アルとジョンはジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ宜しく」


手早くやらないとね。昼飯の時間が遅くなればなるほど晩飯の時間がずれる。


「ゲイル、私達も手伝うわ」


あら、珍しい。でももうすることないんだよな。


「じゃあ父さん達と火の管理をお願い。あと食器だして。スープ椀、どんぶりとか」


適当な仕事を与える。俺はご飯を炊こう。どれくらい必要かな?護衛の分を入れたら土鍋10個くらい必要だな。5升か・・・業者だな。


土鍋を作り足してご飯を研いでいく。手では無理なので魔法だ。10個の土鍋に均等になるように入れて水も適量。


「ダン、ここで炊くの無理だから向こうで炊いてきて」


すっかりダンも料理人だ。ご飯くらい炊ける。


「師匠、こちらは終わりました」


「ヨルドさん、この肉はカツにしていくから味付けとパン粉をお願い。ジョンとアルは切った野菜を出汁で煮込んでいって。煮えたら教えてね。沸騰したら野菜からアクが出るからそれは掬って捨てて」


ボウルに切った肉と串を持ってアーノルド達に渡す。


「これ、串肉だから全部刺して」


そのまま焼いてもいいんだけど、人数が多いから串に刺した方が食べやすいだろう。


「ワシは見てるだけで良いのか?」


「ドン爺は周りを見て、誰がどのような働きをしているのか把握するのが仕事」


そうかそうかと嬉しそうに見て回るが邪魔はしないでくれよ。



ジョン達が煮ていた野菜が煮えたので薄切り肉投入。またアクを取らせる。


ヨルドにカツを揚げて行ってもらう。串肉も刺せたみたいなのでテーブルと椅子を追加。


「ダン、護衛の人達呼んで来て。鎧も脱いだまま来いって」



ボア汁が出来たのでジョン達に配膳してもらう。


護衛達が来たけどビシッと整列したままだ。


「はい席について、どんどん料理を運ぶから」


後は俺とヨルドさんがやるから皆を座らせようとするがオロオロしている。


「早く座れってば」


「し、しかし、陛下と同じくテーブルに付くわけには・・・」


「今日は遊び。身分は関係なく食べろ。ドン爺が狩ってきた獲物を食って年寄りの自慢を聞くのが仕事だと思え」


「ゲイルは口が悪いのぅ。年寄りの自慢とはなんじゃ!?」


「何言ってんの?ボアを狩ってきた話をしたいでしょ?こんな立派なボアなんだからみんなもドン爺の話を聞きたいんだよ。それが狩ったものを皆で食う醍醐味。さ、護衛達に座れと命令して」


「そ、そうか?皆が話を聞きたがってるのか?」


「筆頭護衛さん、聞きたいよね?」


「は、はいっ!陛下のご活躍をこの目で拝見出来なかった無念をぜひお言葉で埋めて頂けるなら光栄です」


「そうか、早く座れ。今から話してやろう。」


ドン爺めっちゃ嬉しそう。


ようやく座った護衛達。まず王都でこのような戯れ事は無理だろう。


小屋の中に入り、ジョン達によそわせたどんぶり飯に卵でとじたカツを乗せていく。訳がわからないまま俺に言われてせっせと同じ作業をするヨルド。


テーブルに運び終わって一斉に丼の蓋を開けて貰った。


「師匠これは?」


「ボアのカツ丼とボア汁。冷めないうちにみんな食べて」


作ったヨルドも何かよくわかってはいない。どういう食べ物かもわからないので中々手を付けない護衛達。


アーノルドとアイナ、ダンが食べ出したので、それを見てドン爺達も食べ出す。


「これはなんと・・・」


トロッと溶けた卵にカリッとしたカツの組み合わせ。不味いはずが無い。


「へ、陛下の狩られたボアのなんと言う旨さよ」


筆頭護衛が涙を流して感動している。おべんちゃらでなく本心から出た言葉で誉められると嬉しいのは世界共通だ。


ドン爺はめっちゃ嬉しそうにボア狩りスペクタクルを語り出した。


「これは本当に旨いな。ゲイル、このカツの下にあるのはなんだ?」


揚げ物大好きエイブリック。新たな揚げ物の食べ方に驚いている


「米だよ。まだ収穫量が少なくて流通させるほど無いけど、3年後くらいにはある程度流通するかな?」


ヨルドもなるほど、なるほど、と言いながら食べていた。コックの性だね。


俺はさっさと食べて串肉を焼いていく。


塩胡椒味と焼き肉のタレ味だ。鶏の肝やネギマほど気を使って焼くものでも無いのでどんどん焼いて皿に盛っていく。一足先に食べ終えたダンが焼きを手伝いに来てくれた。


ジョンとアルが皿を取りに来てくれる。

アルが皿を運ぶのを見て護衛達はアワアワしているが、アワアワするくらいなら運べよとは言わない。ドン爺のスペクタクルを聞く業務があるからだ。


みなボアを旨い旨いとドン爺を褒め称える。もうドン爺は有頂天だ。そうそう。年寄りの自慢を聞いてやってくれ。


「あーよく食べたわ。エイブリック、腹ごなしにちょっと立ち合わない?アーノルドはやってくれないのよ」


「そうかアイナがそう言うなら仕方がないなぁ」


アイナに誘われたエイブリックは嬉しそうだ。もしかしてアイナに惚れてたんじゃなかろうか?そうじゃなきゃトンファーを手にしたアイナの立ち合いを受けるとは正気の沙汰とは思えない。


ドン爺スペクタクルはまだまだ続きそうなので、俺とジョン、アルだけで見に行く。ダンは馬の様子を見てくると言ってスッと消えた。ダンの野郎、討伐の動きをここで使いやがった。アーノルドは早く行けと俺をしっしとあしらった。



「あら、エイブリック。木剣でいいの?」


「アイナに真剣使えるかっ!」


エイブリック、木剣だと命が危ないぞ。


「ゲイル、合図して」


いいのだろうか?エイブリックの息子も見てるんだぞ?


「始めっ!」


アイナを見るとうっすらと笑みを浮かべている。怪我人の前だと聖女の微笑みに見えるが今は悪魔の微笑みにしか見えない。


エイブリックは構えたまま攻撃動作に入らない。受けるだけのつもりだろう。


アイナがシュンッと踏み込み打撃を撃つ。カッカと木剣で受けるエイブリック。


「アイナ、腕が落ち・・・」


ドコンっ!


エイブリックが何かを言おうとしたと瞬間にトンファーがくるんと回って顔面に直撃した。


その場で倒れるエイブリック。今朝俺がトンファー使ってたの見てたんじゃないのか?てか動かないけど死んでないよね?


息子の前で二度も負けたエイブリックの威厳は地に落ちただろう。


ちょっと違うのよね、そう言いながらトンファーで素振りを繰り返すアイナ。ちょっとはエイブリックの心配をしてやれよ。俺はそっとエイブリックに治癒魔法を掛けておいた。


「次はゲイルがやる?」


なんて恐ろしい事を言い出すんだ・・・


「か、か弱い母さんに攻撃魔法を使いたくないからからやめとく」


「まぁ、ゲイルったら。か弱いだなんて」


ゴスッ


アイナの攻撃が見えなかった俺も昇天しそうな勢いでぶっ倒れた。


「おい、ジョン、ディノスレイヤ家で一番強いのは聖女様か?」


「そうかもしれない・・・」


後でアーノルドからアイナが毎晩部屋でトンファーの素振りをしていることを聞かされた。



俺はアイナ似なのかも知れない。そう思ったら同じ治癒魔法が使えるかもと希望が沸いた。






と言うことにしておく。


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