第195話 鴨鍋

今日はいよいよ砂糖の精製に挑戦だ。


一気に全部やると失敗したときのダメージがデカイので鍋で実験する。


鍋に黒砂糖を入れてゆっくり温度を上げていくとどんどん溶けていく。いわゆる黒蜜だね。これだと粘度が高すぎるので水をどんどんと足していく。


しゃばしゃばになった所に炭の細かく砕けた物とその灰になったものを投入。しばらくかき混ぜて布で濾すとずいぶんと透明度が増した。


これを別の鍋でゆっくり火にかけて水分を飛ばしていくと飽和した砂糖が結晶化していく。


おやっさんに作って貰った脱水機みたいな遠心分離機に入れてぐるぐる回して水分を抜いていく。


なんとか上手くいったね。味は砂糖なんだけど、火に掛けた分なんとなく香ばしい。これはこれでいいんだけどなぁ。お菓子に使うにはこの香ばしい香りが邪魔になることもある。どうするかな?


「ぼっちゃん、今日は小屋で鴨鍋とか仕込むんじゃないのか?」


ダンが厨房に迎えに来た。


「そうだね、これやってたらどんどん時間が過ぎていくからもう出ようか。」


アーノルド、アイナ、ベントは屋敷で鴨鍋を食べてもらおう。わざわざ小屋に来ることもないだろう。俺とダンとミーシャ、シルフィードは小屋で食べる。そのまま泊まってくるかもと伝えた。昨日そう伝えたらアーノルドは悔しそうだった。別に同じもの食うんだからいいでしょ。ドワン達がここで食べるならいいけど、気を使うから嫌らしい。


ブリックに鴨鍋の作り方を教えて出発する。悪いけど使用人の分まで鴨がないからブリックも味見だけだ。


ロースト用に仕込んだ鴨と鍋用の鴨、ネギ大量、白菜の種、うどんを持って出発だ。


ドワン達は仕事を終えてから小屋に来る予定だ。


「ダン、シルフィードとキノコ採ってきて。もう少ないかも知れないけど」


俺はミーシャと鍋の仕込みだ。


「ネギは根っこの所を長めに残しておいて」


この世界のネギは青ネギしかない。この前の焼き鳥も白いところが少ないから青い所を使ったからな。ちょっと白ネギが食いたいのでネギの根っこで試してみよう。


先に鴨の燻製を作っておくけど今日は食べないからね。


ここに来る度にちまちまベーコンやソーセージを燻製しているけど、だんだんと面倒になってきている。


スモークチップからもくもくと煙が出始めたので後は放置。あまり長時間スモークすると、皮がカチカチになるから中まで熱が通ったらそれで完成だ。


次はネギの根を植えて魔法で育てていく。ぐっぐと伸びだしていくけどそれだけだ。根っこからは伸びるだけなのかな?


そのまま伸ばして行くと花が咲いて種が出来たので、次は種から育てよう。大きめの畝をつくり、真ん中を深く掘る。種を等間隔で埋めて水やり。


さて、発芽させて育てよう。


ネギが出て来て伸びると枝分かれしてきた。白い所に土をかけては魔法で伸ばし土をかけては伸ばしをしていく。こんなもんだろ。


引っこ抜くと立派な白ネギが出来ていた。20本ほど作った。青ネギも大量にあるから足りるだろ。


白菜も2つほど育てる。鍋を2個でするからな。


その間、ミーシャは鴨の骨で出汁を取ってくれていた。



「おーい、採ってきたぞ。」


なんか色々なキノコがあるけど大丈夫かな?一応毒が無いかだけ鑑定したけど大丈夫だった。


鴨肉を薄めにスライスしていく。天然の真鴨は肉質がしっかりしてて硬くなりそうだからな。全てを切り終えた。大皿3つ。鴨も元の世界よりデカイから足りるだろ。俺とミーシャとシルフィード。ダンとドワンとミゲル。この組合せで鍋を分けよう。あいつらと食うと俺が食べられない可能性がある。


切った白菜を土鍋に敷き詰めて鴨出汁を入れておく。味付けはシンプルに塩だけだ。これでも十分に旨い。


鴨肉を冷蔵庫に入れて、土鍋は蓋をして準備完了。


ドワン達が来るまで剣の稽古をすることになった。ダンがシルフィードの稽古を見てやるようだ。基本の素振りが振れるようになってきているので、俺がやってる板の隙間に通すやつだ。


シルフィードは何度もカツンカツンと木剣を板に当てていた。隙間に挟まって折れたりはしないから剣筋はブレて無いんだろうな。


「シルフィードさん頑張ってますねぇ。剣で狩りするのって難しいんですよね?」


「罠に掛かった獲物なら槍で突く方が簡単だけど、森の中じゃ槍が使えなかったりするから狩りは弓か剣になるね。シルフィードの体格なら弓で狩りする方が向いてると思うけど、自衛の事も考えたらまず剣を使えた方がいいからね」


「私も狩りが出来たら思う存分お肉が食べられるのに」


ミーシャよ、思う存分食わしてないみたいに言うな。


そうしている内にドワン達がやって来た。少し早めの晩御飯にすることに。



土鍋がグツグツと煮え出した。そこに白ネギ投入。


「坊主、その白いのもネギか?」


「育てる時に白い所に土を掛けて育てると白いところが長くなるんだよ。いつも食べてるネギと同じものだよ」


「ずいぶんと面倒な育て方じゃの」


全部魔法だからそうでもないけど。


キノコも投入して煮えたからいよいよ鴨の出番だ。


「鴨は自分で入れて好みのタイミングで食べて。白菜とネギはお代わりあるよ」


なぜか、俺とシルフィードとドワンの組合せになってしまった。ミーシャはあちらで食べるようだ。


ゲイルは鴨があまり煮え過ぎないようにして食べる。


「旨いっ!」


全員が声を揃えた。ホントにめっちゃ旨いね。鴨肉を入れる度に脂がスープに足されて濃厚になっていく。白ネギはそのスープを吸ってたまらなく旨くなっていた。


「坊主、この白ネギ旨いの。鴨と食べると絶品じゃ」


「ちょっと変わった食べ方も試す?」


もちろんとのことなので、白ネギを白髪ネギで山盛り作った。


「これをね、鴨で巻いてこうしゃぶしゃぶっと」


ほんのり赤さが残るタイミングでパクっとな。


柔らかい鴨にシャキシャキのネギがたまらん。ドワンとシルフィードも真似して食べて大喜び。煮えて柔らかくなったネギもシャキシャキもどちらも旨い。


オッサン連中はお湯割りを飲みながら鴨とネギを食べ尽くした。


「そろそろ〆にする?うどんから入れようか?」


みんなうどんも雑炊も食べたいとの事だ。俺もお腹いっぱいだけど両方食べたい。


結局両方食べて満足した。鴨も無くなり、あれだけあったネギも完食だ。


「坊主、この鍋は旨いのう。これで焼き鳥しても旨いんじゃないか?」


「美味しいよ。でも狩ってきてもらわないとダメだしね。値段も鶏肉の5倍したよ」


「鶏肉の5倍なら知れとるじゃろ。入荷するのが少ないなら自分等で狩りに行けばすむ話じゃ」


「それなんだけどね。生きたまま捕まえて繁殖させようかと思ってるんだよ。そうしたらいつでも食べられるし、羽毛も捕れるからね」


そう、俺は羽毛布団で寝たいのだ。


「生きたままか。水の上にいるからのう。坊主が魔法で捕まえるしかないんじゃないか?」


「やっぱりそう思う?」


「効率よくやるにはそれしかあるまいて」


「近々狩りにいくから手伝ってくれない?」


構わんぞということなので繁殖地を確保してから狩りに行くことになった。田んぼのそばに養殖池を作ればやればちょうどいいかな。


さて、どうやって鴨を狩るか考えておこう。



珍しくみな酔い潰れなかったので、ご馳走様してから帰る事になった。


ドワンが先頭で懐中電灯を照らしてくれ、俺はライトの魔法で全体を照らしながら夜道を帰った。



明日は砂糖を精製するつもりだったけど鴨狩りに行こうかな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る