第193話 閑話:時には真剣に

ダンが朝稽古に来てるので久しぶりに顔を出してみる。


ロロもシルフィードも素振りが様になってきてるな。


アーノルドはダンと立ち合いをしている。


カカカカ カンカンと結構激しい打ち合いだ。気合い入ってんな。老化防止だろうか?


「お、ゲイルお前の素振をロロ達に見せてやれ」


はぁ、見てるだけのつもりだったのに。


木剣を持ち軽く素振りをしたあとに縦横斜めの連続切りから振り向き様の薙ぎ払い。


シュパパパッ


ほとんど毎日剣を振っているのでこれくらいは出来る。最近部屋でトンファーの練習もしているので結構筋肉が付いて来ているのだ。小さい内からガチムチになると背が伸びなくなる恐れがあるのでスピード重視の稽古を心掛けている。力強さとか求めても幼児の体重じゃ無意味だしね


「ゲイル様凄いです」


「ロロもちゃんと練習してればこれくらい出来るようになるよ。シルフィードは自衛と狩りの為の剣、ロロは魔物討伐の剣。一緒に稽古してるけどお互い剣の目標が違うからそれを意識して稽古しないとダメだぞ」


俺の話を聞いてふむと顎に手をやるアーノルド。


「ゲイル、魔法抜きで俺と立ち合え」


アーノルドは真面目に立ち合えと言ってきた。良いところを見せようとかそんなんじゃなさそうだな。


「いいけど本気でやるよ」


「いいぞ」


なるほど。アーノルドは今の俺の実力を確かめたいんだな。真面目に問われたら真面目に応えよう。



俺は剣に集中していくとアーノルドは中段に構えた。


始めっ! ダンが開始の合図をした。


俺はアーノルドとダンが討伐の時に見せた動きを強くイメージして身体に伝える。



速く、慎重に、そして大胆に・・・

どんどん意識の集中が高まっていく。自分の存在が空気に溶け込んでいき不思議な感覚に包まれ、アーノルドの呼吸が視覚化されているように伝わってくる。ふっふっと細かく呼吸している。


ふっ


アーノルドが息を吐いた瞬間にゲイルの身体が動く。


狙いは足払いからの斬り上げだ。足に向けた剣をアーノルドは避けずに剣で受け止めるだろう。その受け止めた衝撃を力に変えて上に振り上げて顔面を斬る。


身体の小ささを生かして尚沈みこんで地面スレスレから足に向けて剣を横切りに振るとアーノルドは剣を振り下ろして俺の攻撃を受ける。ガツンという衝撃が伝わった瞬間その衝撃を上への力へと変換するように剣を振り上げた。



ブンっ



アーノルドは顔を後ろに引いてそれを避けた。俺の腕は伸びきり腹ががら空きになった。一撃必殺の技は避けられたら終わりだ。防御の体勢も取れない俺は腹にくる衝撃に備えて力を入れる。



ドンッ



俺はそのままアーノルドの身体にぶつかり、太い筋肉質の腕に抱き止められた。


アーノルドは攻撃してくることなく、すっとゲイルを下に降ろす。


「見事な攻撃だったぞゲイル。お前に身長があれば一撃食らってたかもしれん」


「身長があったら足元への薙ぎ払いが通用しないからどっちにしろダメだ。それに初見でかわされたら終わりのやつだからね」


「ぼっちゃん、いまの俺にやられたら食らったかもしれんぞ」


「ダンなら避けなくても当たらんだろ。デカイんだから」


「ゲイル、連続技も良かったが攻撃に入る動作が見事だった。いつあれが出来るようになったんだ?」


「ゲイル様凄かったです。そこに居るのにいなくなったような気がしたら剣が上に伸びてました。ぜんぜん見えなかったです」


俺も空気に溶け込んだような気がして不思議な感覚だった。元の世界でいう所のゾーンに入る?ってやつかな。


「蛇討伐の時の父さんとダンの動きをイメージしたんだよ。おやっさんに狩りの時の動きと自分が狩られる可能性のある時の動きの違いを良く見とけって。速くてよく見えなかったんだけどね」


「そうか、あの時のイメージでそこまで動けるようになったか」


そういうとアーノルドは嬉しそうに俺を見ていたのだった。




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