第192話 できちゃった

銅とミスリルを混ぜた線を1mほどに切る。使い終わった魔石がまだまだあったので魔力1だけ充填する。


ライトに線を繋いで魔石1をセットして実験。単純計算で100%の効率で約5分点灯するはずだ。


スイッチオン!


ライトがびかっと光る。この線で通電というか通魔力するのはこれで確認出来た。


時計が無いので体内時計で数えるしかない。100の効率で280秒ほどだ。


3人で数えるけど数値がバラバラで当てにならない。懐中電灯を持ってきて両方同時に点灯して試そう。


「スイッチオン!」


びかっと光るライトと懐中電灯。


すっと先にライトが消える。2~3秒遅れて懐中電灯が消えた。


「おやっさん、思ったより差がでなかったね?」


「そうじゃな、金より良くなるとは新発見じゃ。これ、あの魔法の杖にも使えるな。試作品は細いミスリルを使ったがこれで十分じゃ。それにもし分解されても見た目には銅線じゃからの、同じものは作れまいて」


ガッハッハッハと笑うドワン。


これで屋敷のスイッチと魔石交換の問題が解決されたな。


「これで市販化出来るね」


「まぁ、売ったとしても売れんぞ。これだけ魔石を使うものを買うやつはおらん。買うやつは金持ちの道楽じゃろな。懐中電灯とかは点けてる時間も短いじゃろ?それに魔石を使うより稼ぎが上回るからの。あっちは売れると思うぞ。」


「おやっさん、このライトの魔道具でもっと小さくて魔石消費の少ないやつあるかな?」


アーノルドに聞こうかと思ってたけどドワンの方が詳しいかも知れない。


「明るさが落ちる奴ならあると思うが調べておくか?」


「お願い、調べておいて。物によってはめちゃくちゃ使い道あるから。この魔道具がたくさん売れたら魔石の需要も増えて冒険者への依頼が増えると思うしね」


「そうじゃな、討伐依頼がたくさんあるわけでもないし、魔石採取の仕事が頻繁にあればみな潤うの。それでまた道具が売れると言う訳じゃな?」


そうこれが利益の循環だ。欲しい物をどんどん作ってやるのが一番。


あとどうしても気になっているのが錬金釜だ。もう少し使い方を教えて欲しい。


「おやっさん、あの錬金釜って融合はさっきやったやつだよね?分離は?」


そういうと見せてくれるらしい。もう魔石消費を気にすることないから気軽にお願いする。


「ここにな抽出したいものを置くんじゃ」


そういって錬金釜の横に付いている箱にミスリルの欠片を入れる。


「後は鉱石を釜に入れてスイッチを押してやる」


見た目は変わらない。ドワンは釜を覗きこんでスイッチを止めた。錬金釜の下に付いてる蛇口みたいな物を捻ると液体が出てきた。受け皿に受けて見せてくれる


「こうやって鉱石に含まれる物が溶けて出てくる。鉄や銅は熱で溶かして同じようにするんじゃが、ミスリルを溶かす熱を作り出そうとすると今のところ魔法しか無理での。それも飛びきり温度を高く出来る魔法使いは限られておる。しかし、それで取り出すと鉱石自体も溶けるから純粋なミスリルを取り出すのが難しいんじゃ。だからほとんどのミスリルはこういった錬金釜から抽出するんじゃ」


「だからミスリルってめちゃくちゃ高くなるんだね。」


「鉱石そのものも高いが、どちらかと言うと抽出と加工のせいじゃの。加工もこんな錬金棒と言うものを使うんじゃ。すぐに硬くなっていきよるからこれで部分的に柔らかくして加工していくんじゃよ」


なるほどねぇ。この釜、中はどんな仕組みなんだろうか?錬金魔法とかあってその魔法陣が組まれているのかもしれんな。俺も錬金魔法使えたら良いのにな。そしたら自分で抽出も加工も融合も自由自在だ。


土なら自由自在に操れるんだけどな・・・



ん?待てよ。俺ってクーラー作る時に金属に穴あけて空気吸いだして蓋をしてってやってるよな?リールの加工もやってるよな?それって錬金棒と同じなんじゃ?


「おやっさん、ミスリルの鉱石まだある?」


石をひとつ渡される。ミスリル鉱石だけど重い・・・


片手にミスリルを持って、これを抽出するイメージで鉱石に魔力を流していく。


ボタボタボタボタっ


わっ、本当に出た!半信半疑だったので受け皿を用意してなかった。


「坊主、いま何やったんじゃ?」


「あ、ごめん、まさか出来ると思わなくてね、受け皿用意するの忘れててこぼしちゃったよ」


「そんな事は聞いとらん。いま鉱石から何が出たんじゃと聞いておる」


「えっ?ミスリル・・・」


ワナワナワナワナと震えるドワン


「ばっかもーーーん!」


わっ、めっちゃ怒ってる。従業員達がさっと居なくなる。こいつら危機回避能力が高い。


「な、何で、何でそんな事が出来るんじゃ・・・。ワシのワシの・・・」


あ、ちょっと泣いてる


「ワシの苦労はなんじゃったんじゃーーーー!」


ドワンは自分が求める武器を作る為にドワーフの国を飛び出し、金と素材を集める為に冒険者を何十年もやりアーノルド達と出会ってパーティーを組んだそうだ。せっせと金を貯め続けて錬金釜が売りに出てないか探し、やっと見付けて有り金をはたいて購入したらしい。


ドワンのこれまでの人生はこの釜を買うために費やしたといっても過言ではない。それを俺は釜を見ただけでやってしまったのだ。


「おやっさん、たまたまだよ。たまたま!」


「こんなもんたまたまでされてたまるかーーーーっ!」


あーあ、拗ねて泣いてる子供みたいになっちゃったよ。


「ダン、あと任せていい?」


いいわけ無いだろっ!とダンにも怒られた。



しばらくするとドワンも落ち着いてきた。


「坊主は神様の使徒じゃからの、これくらいは出来て当然か・・・」


あんなアホそうな女神の使徒じゃねーし。


「おやっさん、俺は釜と同じことが出来たけどそれだけだ。素材の知識や加工技術、そういうものがおやっさんが手に入れたもんなのじゃないかな? 確かに人生をかけて手に入れた釜かも知れないけど、最悪釜は金で手に入る。でもおやっさんの知識と腕は金では買えない。そういうことだと思うよ」


「本当にそう思っとるのか?」


「あったり前じゃんっ!だからいつもおやっさんに欲しいもの相談するんだよ。俺はおやっさんが居なかったら何も作れてないからね」


「本当か?」


「本当だよ。この前貰った魔手袋とかも凄かったじゃない。あんなの考え付いて作れる人がどこにいるんだよ? おやっさんの腕は世界一だ!」


「そうか・・・?本当にそうか?」


「うん、ドワーフの国の人もおやっさんが今どれくらい凄くなったのか知らないでしょ?春に帰ったら驚くと思うよ~」


「そうか?そうかの?」


「絶対そうに決まってるよ!」


「そうじゃな、錬金釜はしょせん道具じゃ。ワシの力は腕と知識じゃ。」


そうそう


「よっ!世界一!」


「がーはっはっは。そうじゃな。坊主の言う通りじゃ。よしっこれからも面白いもんどんどん作るぞ。遠慮なく言え坊主!」


がーはっはっは

がーはっはっはっ



良かった機嫌直った。



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