第191話 ドワンの秘密道具
もう一度商会に戻り、他の商品も作って貰うことにする。
「おやっさん、あの店の人が来ると思うからよろしくね。それとまだ作って欲しいものがあるんだよ」
はぁーっとため息をつくドワン。
「何を作るんじゃ?」
「馬車用のライト。母さん達が帰る時に簡易で付けたけど、あれをちゃんとしたものにしたいんだ。ドワーフの国に行くときの馬車にも使えるから」
形状を伝えて黄色のレンズのも作って貰う。いわゆるフォグランプだ。
「あと馬用のブリンカー」
「ブリンカーってなんじゃ?」
「本来は馬の気が散らないように前しか見えなくするものなんだけどね。ライトを点けると馬が眩しくて目に悪いかもしれないから、ライトから目を守る為のものだよ。もし自分の影に怖がるようならシャドーブリンカーを付ける必要もある」
シルバーとかは怖がらないかも知れないが、草食動物は基本的に臆病だ。競走馬も自分の影に怯えて走れなくなったりするらしいからな。これもゲームの知識だ。
ライトは馬車に付けるしかないからどうしても馬に影響が出るだろう。夜に馬車を走らせることはそうそう無いけど、いざ使う時に馬が怖がったら意味がないからな。そしてシャドーブリンカーなんて知らないであろうドワンに説明した。
「後は屋敷用の灯りにする天井に付けるやつもお願いね」
30個も買ったけどいくつあってもいいな。懐中電灯も屋敷用に作っておいて貰おう。
文句を言いたげな口をモゴモゴさせて解ったと言うドワン。始めに作ってしまえば量産は従業員に任せるだろうからちょっとの間頑張って。
一週間後、屋敷用の電灯が出来上がってきた。
食堂に2つ、厨房に1つ、俺の部屋に1つ。アーノルドの執務室に1、アイナの治療院に1つ。後はどこに必要かな? ベントはもうすぐ出ていくからいらないな。シルフィードはいるかな?
取りあえず食堂と厨房と俺の部屋に付けて貰った。食堂のはレンズの色を暖色系にしてもらった。その方が料理が旨そうに見えるからね。
「ぼっちゃん、これ小屋で使ってたライトですか?物凄く明るくて調理がしやすいです」
そうだろうそうだろう。
夕食時に明るくなった食堂に全員が驚く。
「ゲイル、あの小屋で使ってたライトをここに持って来たの?」
「そうだよ。明るい方がいいでしょ?」
ランタンや燭台の灯りも捨てたもんじゃ無いが、一度明るいのに慣れると元には戻れない。
「おやっさんが屋敷用に作ってくれたんだけど、父さんの執務室と母さんの治療院にも付けようと思ってるんだけど、他に必要な場所ある?」
「そうね、私達の寝室にも付けて貰おうかしら?」
寝室か。あんまり明るいと小じわとか見える・・・
ぐぎぎぎぎっ
ギブギブっ
だから何で思ったことわかるんだよっ!
「じゃあ、寝室ね」
おー痛ぇ。
注意点として魔石の使用量が半端無いことを伝えておく。100の魔石で80時間ほどしか使えない。毎日8時間点けてたら10日毎に魔石の交換が必要になる。一部屋の電気代が1ヶ月30万円の計算だ。なんて恐ろしい・・・
ベントも欲しそうだったが、その値段を聞いてあきらめたようだ。実際には俺が充填するから無料なんだけどね。
もう少し暗くていいから燃費の良いやつないかな?王都の街灯とかに使ってたやつ。後でアーノルドに聞いてみよう。
執務室に取り付けてスイッチを入れる。
「ほほぅ、これは助かりますな。歳を取ると暗い部屋ではあまり文字が読めませんので」
わかるぞセバス。自分も50歳を過ぎたあたりから近くの文字が読めなかった。暗くなると尚更だ。若い頃はバリバリ視力が良かっただけにショックだった。子供に、「父さん、何でそんなにスマホ離して見てるの?」と言われて気が付いた。老いは気付かないうちに忍び寄ってくるものなのだ。
「セバスは夜も仕事してたりするの?」
「毎日では有りませんが・・・」
「じゃあ、セバスの部屋にも付けよう。でも夜も働けと言ってる訳じゃないからね」
セバスは私にまで気遣い頂きありがとうございますと嬉しそうだった。
「実際に使ってみて問題点があったら教えて。おやっさんに改良してもらうから。改良が終わったら市販するかも知れないって」
商品そのものの値段はともかく、魔石の問題でそうそうは売れないだろうけどね。
電灯はいくつか余ってしまったけど、その内使うだろ。アーノルドの仕事場とかにも必要になるかもしれんからな。その時は売り付けよう。
天井に取り付けられた電灯はスイッチが紐だ。それで事は足りるんだけど、食堂とかで紐がぷらぷらしてるのもなぁ。と、何日か使っているうちに明るい感動より細かい事が気になってくる。
まず治療院の魔石が一番始めに切れた。昼間も患者の状態をよく診る為に点けっぱなしにしているから消費が早い。5日しか持たなかった。天井の電灯の魔石の交換がこれだけ頻繁になってくると面倒だ。300の魔石にしても半月で無くなる計算だ。それ以上の魔石は尚高くなるため現実的ではない。
いま解った問題点は2つ。スイッチと魔石交換の利便性だ。
ドワンの所に打ち合わせに行き、この2つの不便さを伝える。
「おやっさん、こう壁とかにスイッチと魔石の場所をセット出来ないかな?」
「そうじゃな。ミスリルで繋ぐか魔法陣を描くときのインクで繋ぐしかないぞ。但し魔法陣のインクは手に入らんからミスリルでどうにかするしかないな」
「ロープみたいに自由に曲げることが出来る?」
「そうじゃな。坊主ん所の屋敷だけならミスリルで繋いでも構わんが、市販化を考えたら高額になりすぎるからな。ちと時間をくれ」
そっか、電線みたいに簡単にはいかないのか。電気だと銅線がポピュラーなんだよな。
「おやっさん、銅は魔力を通さないの?」
「通すことは通すが、ミスリルの次によく通すのが金じゃ。その次が銅、鉄となりよる」
この中じゃ銅か鉄が現実的だな
「ミスリルが通す魔力が100としたら銅と鉄はどれくらい?」
「正式には分からんが、感覚的には銅が50、鉄が20ってところじゃの」
銅でも50か。魔石の燃費がさらに倍悪くなる。恐らく電気と同じで距離が離れれば離れるほど効率が落ちるだろう。
「おやっさん、ミスリルと銅を混ぜることは可能?」
「そうじゃな、一度試してみるわい」
見ててもいい?と聞くと構わんぞと答える。そういやドワンが作業してるところあまり見たことがない。見たことがあるのは蒸留とか地下室作りとかだけだな。色々な物を加工するときは奥の工房に行くからな。
工房に入りそこにあった変わった釜に銅のインゴットと少量のミスリルを入れてスイッチを入れる。しばらくするとインゴットが溶けだして液体化していく。加熱しているような感じでもない。これが何か聞きたいが真剣な顔をして釜を覗き混んでいるので黙ってみておく。
しばらくして釜のスイッチを消して釜の横に付いているレバーで釜を前に倒して下の受け皿に入れた。
そのまま急いで複数のローラーが付いた所に入れてにょろんと出てきた先をヤットコでつまんでローラーにセットする。
「おい、ハンドルを回せ」
従業員に指示するとよいせっよいせっとハンドルを回し始めた。
ローラーの先から細長い針金がにょろにょろと出てくる。ほー、こうやって針金とか作ってるんだ。面白ぇ。ゲイルは工場見学に来ているように見ていた。
「なんじゃ坊主、おもしろいか?」
「こうやって針金とか作ってるんだね。初めて見たよ。それにあの釜は何?火も入れてないのにインゴットが溶けてたよね?」
「あれは錬金釜という魔道具じゃ。融合と分離両方が出来る貴重な道具じゃぞ」
「錬金釜?そんなもんがあるの?融合と分離?」
「ぼっちゃん、あれ相当高いぞというか値段の想像がつかん代物だぞ」
「ワシの冒険者時代の稼ぎをほとんどこれに使ったからの。それも数が少なくてまず売りに出ることが珍しい。買えたワシはラッキーじゃったの」
へぇ、この前の蛇の落札分が7億円以上あったけど平然としてたからな。これ100億円とかするのかもしれん。ほとんど使ったってことはもっとか?冒険者時代はどれくらい稼いでたんだろな?
「これ魔石使って動くんだよね?今のでどれくらいの魔石使ったの?」
「そうじゃな、コイツが丸々無くなるくらいじゃ」
錬金釜から取り出した魔石は300ちょっとのものだった。
燃費悪いなぁ。
「おやっさん、使い終わった魔石は残ってる?」
「ほとんど燃やしちまうがな。おい、誰か使い終わった魔石持ってこい」
従業員が箱に入った魔力0の魔石を持って来た。300の魔石が10個ほどある。俺は全部に魔力を充填しておく。
「お、坊主いいのか?」
「地下室作りとか実験以外で魔力使うことほとんど無いからね。すぐに回復するし問題ないよ。これからも使い終わった魔石おいといて、ここに来たら充填するから」
ドワンはいつも魔石代を負担してくれてたのか。知らなかった。俺が魔石に魔力を充填出来る事を知っても言ってこなかった。酒と飯以外は俺を利用しようとかしないんだよな。ミゲルもそうだし。ドワーフがそういうものなのか、それともこの兄弟がそうなのかわからないけど、水臭いなと思う反面嬉しくもある。
「しかし・・・」
「これで心置きなく色々作って貰えるから大丈夫」
こう言ったら今までも心置きなく頼んでたろじゃろがっ!と怒鳴られた。
ちょっとは気を遣ってるんだよこれでも・・・
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