第188話 寒くなって来た
ベントはやっとシマチョウを飲み込んだ。
そして俺は今猛烈に悩んでいる。
1、焼き肉をタレたっぷりで白飯
2、ネギマタレで焼き鳥丼
3、味噌の焼おにぎり
4、焼おにぎりスープ
どれも食べたいけど、俺のお腹は既に満タンだ。でもどうしてもどれかは食べたい。
3の味噌の焼おにぎりは食べるチャンスが多いから今回は除外。4も悩ましいが、これも屋敷で出来そうだ。
となると1か2。仕込みの事を考えたら1の方が楽だから次のチャンスは近い。
よし、2番の焼き鳥丼だ!
焼いてないネギマはまだ結構残ってる。手間だけど3本焼こう。
みんながまだ焼き肉を焼いているなか、俺は一人で焼き鳥を焼く。丼用にタレ濃い目だ。
よし、こんなもんだな。
「ミーシャ、ご飯入れて」
「もうみんな食べちゃいましたよ」
なんですとっ!?
「え?土鍋二つも炊いてたよね?」
「え?みんなご飯食べてましたから」
5合炊きが2つ、つまり一升だ。みんな酒飲んでたよね?ふつーそんなに飯食わないよね?
「いやぁ、ぼっちゃん。焼き肉もこのシマチョウってのもご飯にも良く合うよなぁ」
ダン、貴様かバカバカ白飯を食ったのは・・・
「ぼっちゃま、今からご飯炊きましょうか?」
「いやもういい・・・」
なんだよあれだけ悩んだのに飯が無いとは殺生な・・・
はぁ、俺は味の濃い焼き鳥で炭酸水を煽った。
そろそろみんな食べ終わってるな。炭火もだいぶ落ち着いて火力も弱まってきた。そのせいか寒くなってきたな。まだまだ飲みそうだし、お湯用意しておくか。もう炭酸割もいらんだろ。
鍋にお湯いれて弱火になった所に乗せておく。気付いたらお湯で割るだろ。
「あー、お腹いっぱいだわ。ごちそうさま。アーノルド飲み過ぎちゃダメよ。私とベントはそろそろ帰るわね」
「あれ、母さん帰るの?」
「あとは寝るだけでしょ?ここはみんなで寝るには狭いし寒いから帰るわ」
こんな真っ暗のなか帰るのか?
俺は庭に設置した灯りの魔道具を2つ取り外して馬車に付ける。これでブランも歩きやすいだろう。万が一灯りに魔物が寄って来てもアイナのグーパンチで大丈夫だ。念のためダンに作ったトンファーを渡しておくか。
「あ、アイナ様私もご一緒していいですか?」
ブリックも帰るのか。それなら、
「もうちょっとだけ待っててくれる?」
俺は焼き肉の炭を焼き鳥台に移し変えてネギマタレ、ネギマ塩を10本ずつ焼く。これを土魔法の箱に入れた。
「ブリック、これをロロとポポに渡してくれ。もう飯食ってるだろうけどこれくらいなら食えるだろ。もし今日食べないなら冷蔵庫にしまっておいて明日温めなおしてやってくれ」
本当はここに誘っても良かったんだけど、ロロが気を使いそうだったから誘わなかった。せめて焼き鳥くらいお土産に持って帰って貰おう。
アイナとベントが馬車に乗り込んだ。ブリックのやついつの間に馭者出来るようになったんだろ?買い出しの時とかトムに教えてもらったのかな?
ベントは馬車に乗る前にちらっとシルフィードを見ていたから残りたかったのかもしれん、ここに来たのもシルフィードが居たからだろうしな。
ブルッ 冷えてきたなぁ。お湯割飲んでるおっさん連中はまったくそんなこと無さそうだけどミーシャとシルフィードは寒いだろうから薪でも燃やすか。
網の上に薪を置いて火をつけるとキャンプファイヤーみたいでちょっと嬉しいしあったかい。酒の代わりに鶏皮で作った鶏スープで暖を取りながら会話に加わった。
「今年の鱒釣りどうする?」
「もちろん行くぞ」
「冬休みに入ったらジョンがアルを連れて帰ってくるからそれでもいい?」
「ちと遅くないか?」
「そうなんだけど、立て続けに行くのは遠いんだよね」
「それもそうじゃな」
「じゃあ、ジョンが帰って来てからね。あと釣竿を増やしてくれないかな?もう少し短いやつ」
「構わんが短くするのか?」
俺がイメージしてるのはルアーロッドだ。あれからスピニングリールを地道に開発しててやっと完成したのだ。細かいネジはまだ無いのではめ殺しで性能はしょぼいけど、ダメになったらまた作ればいい。
全員が釣りに行くと仮定したら何人分魔法で飛ばさなきゃならんのだと言うことだ。そんな事になれば自分で釣りする暇が無い。スピニングタックルなら自分達で投げられるだろ。
アーノルド、ダン、ドワン、ミゲル、ジョン、アル、俺の7セットだな。アイナやベントもやるなら俺がフライやってもいいし、二人分くらいなら魔法で飛ばしても許容範囲だ。
「おやっさん、7本お願い。まだ日があるから素材とか手にはいるよね?」
「あぁ、依頼だしておくか。今冒険者どももやる気になってるやつが多いから大丈夫じゃろ」
俺はあのクモの糸を発注して置かないとな。あれ在庫が無かったはずなんだよな。
さて気になってたことも伝えたし、そろそろ風呂入って寝るかな。ゲイルは炭酸水をコップに入れて屋根の上の風呂に向かう。
湯船にクリーン魔法をかけてからお湯をどぼどぼどぼっと。身体が冷えてるからぬるめにしておいて、入って暖まってから温度を上げよう。
ざぶんっ
あああああ~
いかん、声にならない声を上げてしまう。やっぱり寒い時の風呂はたまらんなぁ。
クスクス
はっ!? またミーシャが来たんじゃなかろうな?
「ズルいですよっ」
シルフィードの声もする。二人ともお湯割飲んだんじゃなかろうな?
「しー、きっとぼっちゃまはここですよクスクス」
「もうミーシャちゃんっ」
隣の女風呂から声が聞こえてくる気がする。あいつら風呂入るなら言えよな。まだそっちはお湯入れてねーぞ。
「おいミーシャ、そっちにいるんだろ?まだお湯入れてないからちょっと待ってて」
「あ、やっぱりぼっちゃまがいました。大丈夫ですよ!」
何が大丈夫なんだ?シルフィードがお湯入れるんだろうか?湯船にクリーン魔法かけてないから汚いかもしれない。
「ちょっとお湯入れるの待て。クリーン魔法かけてやるから」
「だから大丈夫ですよ」
げ?女湯から聞こえてんじゃ無いのかよっ!
ミーシャがタオルを身体に巻いて入ってきた。
「ちゃんとタオルを巻いてきました」
その後ろには同じ格好をしたシルフィードも居た。
「あーもう、お前らまた酒飲んだろ?女湯にクリーン魔法かけてお湯入れてやるからそっちに入れ」
「もう脱いじゃったので寒いですぅ」
じゃぼんと有無を言わせず入って来やがった。
「もうミーシャちゃんズルいっ」
ちゃぽんとシルフィードも入ってくる。
ミーシャは酔ってても確信犯だ。しかし、シルフィードはどうだ?後で思い出したら恥ずかしくて死ぬんじゃないのか?
「はー、暖かいですねぇ」
「気持ちいいですねぇ」
あー、もう好きにしてくれ。
おれは炭酸水を飲もうとしたらミーシャにぐいっと引き寄せられて後ろから抱っこされるような形になる。
「ぼっちゃま本当に偉いですねぇ。何から何まで全部してくれちゃうんですから。焼き鳥も焼き肉も美味しかったですぅ」
頭を撫で撫でされる。少し前まではぺたんこだった胸も年相応に膨らみ、バスタオルごしでも背中に当たっているのが分かる。
「ミーシャ、やめろ。お前はもう大人の女性だろ?少しは恥ずかしがれ」
「ちゃんとバスタオル巻いてますから大丈夫ですよぉ」
そういう問題じゃねぇ、当たってんだよ。
シルフィードはミーシャと俺を見ながらズルい言い続けている。シルフィードはタオルごしでも分かる見た目通りぺたんこだから20歳と言っても子供と風呂に入ってる感じしかしない。
クスクス笑い続けるミーシャはまだ無邪気でもういいかと思ってしまった。
いつまでこんな関係なんだろな。俺は来年4歳だ。ミーシャももっと大人になって行くだろう。あと1年くらいはこのままかもな。
俺はミーシャに抱っこされながら炭酸水を飲んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます