第185話 炭火焼き
炭は焼きに3~4日、冷やすのに2日、合計6日、完成までにこの世界の一週間かかる事がわかった。
炭を叩くと、キンッという甲高い音にまではいかないが、そこそこ硬い炭に仕上がっている。
ベテランの人は色々と試していってくれるようだ。炭になる木や薪は手の空いたものが切り出していってくれている。これでここはもう任せても安心だな。
ここの責任者になるベテランの人はコールという名前らしい。
自分達が作った炭がどのような物かを知ってもらう為にここで焼き鳥を焼いてみることにした。勿論ドワンも参加だ。
小屋の前に土魔法で焼き鳥台を設置し、準備してあった焼き鳥を焼く。仕込みが面倒だったのでモモ肉だけだ。
強火の遠火でじっくりと焼いていく。
じゅうじゅうじゅう
くるくると焦げないように回して焼く。
「さ、出来たよ。皆で食べよう」
噛むと中から溢れてくる鶏の旨み。外はこんがり、中は柔らかくジューシー。薪で焼いた時よりもやっぱり旨い。
「どう?」
「ぼっちゃん、これは炭で焼いた方がずっと旨いですな。それに火力が安定して高い。火を付けても煙が出ないとはどういうことですかな?」
「炭になっていくときに煙が出てたでしょ。それでもう出ないんだよ。焼き物をするとその煙が出ないから食べ物に木の煙の臭いがうつらなくなるんだよ。逆に匂いをつけたいときにはね、コレを・・・」
第二段を焼くときにヒッコリーチップを入れてやる。簡易スモークだ。
「はいどうぞ」
「おぉ、味が変わりましたな。コレも旨い」
「ぼっちゃん、これベーコンみたいな味だな。旨いぞ」
「同じチップを使ってるからね。でもベーコンより柔らかくてジューシーなままでしょ?」
「坊主、これは薪を燃やすより温度が上がってないか?」
「多分そうだと思うよ。風を送りながらだともっと上がるよ」
「そうか、もっと温度が上がるか。そうか・・・」
コール達も自分たちが作っているものがどういう物かを理解し、もっといいものを作ってやるとヤル気が増した。
これも売り出してもいいかもね。値段設定は難しいからドワンに任そう。
黒砂糖の入荷がどうなってるのか気になるので屋敷に戻ってブリックに聞こう。ドワンの所をはもう準備完了している。
「黒砂糖の入荷いつになりそうか分かる?」
「ぼっちゃん、明後日入荷予定だそうです。それとザックさんが聞いたことがないものの発注が来て困ってるそうなんですが」
「聞いたことがないもの?」
「なんか箱らしいんですけどね、言い値で買うと言われているらしいんですが」
なんのこっちゃ?
「そうか、ブリックに言うってことはエイブリックさんとこのだろな。今から行ってみるよ」
ーロドリゲス商会ー
「よぅ、ザック。何を発注されたんだ?」
「あ、ぼっちゃん。良かった。不思議な冷えない箱をいくつか売れと言われまして。何がなんだかわからないんですよ」
冷えない箱?
クーラーかな?
「それ、スープが冷えないとか言ってなかったか?」
「そうです、そうです。スープが冷えない箱です。心当たりありますか?」
やっぱり。
「次はいつ王都に行くんだ?」
「5日後です。あの薄力粉が50と片栗粉50、酒100の発注がありました」
いきなり多いな。粉関係は社交会に向けての練習用かもしれんな。
「そっか、片栗粉と酒はぶちょー商会に言ってくれ。冷えない箱はクーラーって言うんだ。売り物じゃ無いんだけどね。作っておくよ」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
とザックは頭を下げた。
「ぼっちゃん、なんでクーラーの発注入ったんだろな?」
「この前、執事さんにスープ入れて渡したからね。欲しくなっちゃったんじゃない? 魔法使えないと重宝するからね。でも何個くらい必要なんだろ?しかも言い値で買うって」
「他には無い物だからな。相場が解らんのだろ」
「そうだよね。量産する気はないというか俺しか作れないから売らずにあげちゃおうか?」
「ぼっちゃんがそれでいいなら、いいんじゃないか?下手に値段付けて次々と発注がきても困るからな」
取りあえず5個作って献上ということにしておくか。なんか理由があって欲しいなら又言ってくるでしょ。
そのまま商会に行き、ドワンに金属をもらってサクサクと作った。後でミゲルが木箱を作ってくれるらしい。献上品だと伝えると良い木を使うと言っていた。ついでにヒッコリーチップ、リンゴ、ナラのチップも出来るだけたくさん欲しいと伝える。
「坊主、お前達だけで旨い焼き鳥食ったそうじゃないか?どういうこった?」
「試しに焼いただけだよ。明日、焼き鳥パーティーでもする?」
「おお、そうしてくれ。昼は仕事があるからな、夜にしてくれるとありがたい。明後日は休みじゃし食って飲んで出来るぞ」
「わかった。それなら父さん達も来るかも知れないけどいいかな?」
「ワシらはだれが来ても構わんぞ」
ミゲルの後ろからドワンが返事した。
こりゃ焼き鳥仕込むの大変だな。また買い物に戻らなきゃ・・・
「ダン、今から街に戻るよ」
「なんだよ面倒くせぇな。明日の朝買いにいけばいいじゃねぇか」
「焼き肉ならそれでもいいんだけど、焼き鳥は仕込むのに時間かかるんだよ。ダンが食わないならその分減るから明日でもいいけど」
「よし、買いに行こう」
仕込むのも手伝わそう。
「お、ぼっちゃん。今日は何買ってくんだい?」
「牛のアバラの所と、牛タン、鶏のモモ肉と、・・・鶏の内臓って捨ててる?」
「鶏の内臓か。ぼっちゃんやっぱり通だね。俺も好きなんだけどよ、誰も食わねぇから大半は捨てちまうんだ。明日の朝来たら新鮮なやつ置いとくぜ。どこが欲しい?」
「心臓、肝臓、皮、首の肉、あと膝の軟骨としっぽの付け根」
「硬い内臓はいらねぇのか?」
ズリか。俺は苦手なんだよなあの歯触り。好きな人はめっちゃ好きなんだよね。
「俺は苦手なんだけど、好きな人がいるかもしれないからそれも貰おうかな」
「ぼっちゃん、ちなみにどうやって食べるか聞いてもいいかい?」
「串焼きにするよ。塩とタレで炭火焼きにする予定」
「タレ?炭?」
「うん、味噌って調味料があるんだけど、それをベースに色々混ぜて作った調味料なんだよ。帰ってから鶏肉用にアレンジしてみようかと思って。良いのが出来たら分けてあげるよ。炭は今どんどん作ってるからそのうち売り出すよ」
「なんかよくわかんねぇけど、楽しみにしてるぜ」
「内臓肉はタレの方が美味しいからね、楽しみにしてて」
牛肉、タン、モモ肉を持って帰る。内臓肉は明日の朝貰ってからやろう。
「ぼっちゃん、いやに肉屋に親切だな」
「あの肉屋腕がいいんだよ。欲しい部位をきっちり用意してくれるし、処理も完璧なんだよな。目利きもいい。プロだよプロ。そんな人にはなんかしてあげたくなるよね」
「そう言われたらそうだな。確かにあそこの肉はいつでも旨いな。」
「ああいう店は大事だよ。なかなか無いから。この領で仕事してくれててラッキーだと思うよ」
「いっそ、ゲイル認証店とかにしてやれよ。」
「そんなもんに何の価値があるんだよ。」
「そのうち価値が出ると思うぜ」
「そんな訳あるかよ」
ダンはボソボソとそんな訳あるぞと言ったのは俺には聞こえてなかった。
「ダン、今から焼き鳥の仕込みするからダンは焼き肉の準備ね」
有無を言わさず担当を決める。反論は聞かん。
ぶつぶつ言いながらも慣れた手つきで肉を切り分けていくダン。そろそろ料理人になれそうだな。
俺はせっせとモモ肉を串焼きサイズに切り分け。モモ肉単体とネギマを作る。しかし串に刺して行くのが面倒臭いな。ブリックは屋敷の調理があるので手伝って貰えないので仕方がなく無心になって串に刺していく。
はぁ、俺は焼き鳥屋にはなれないな。毎日毎日串刺し作業は無理だ。
せっせせっせ
はぁ、こんなもんで・・・
あ、アーノルド達がくるかどうかも解らないのにこんなに仕込んでしまった・・・。もし来なかったら冷凍でもしておくか。
タンはいつも通り厚切の味噌漬けと薄切りに。バラ肉は焼く前にタレに浸けたらいいか。
出来上がった物を冷蔵庫に仕舞い、焼き鶏のタレ作りを開始する。
焼き肉用よりパンチを落とし、ややスッキリ目の味付けにしていく。味噌も少なめにして上澄みを醤油代わりに使い、アルコールを飛ばした酒とリンゴを絞って果汁の風味を加える。魔力水を少しずつ足して甘味を加えて、こんなもんかな。
一つ試しに焼いてみよう。
炭はないから直火焼きだ。焼いてタレ付けて焼いてタレ付けてと。
どんどん香ばしい匂いが厨房に漂う。
パクっと味見すると、元の世界のタレに近くなってる。旨いぞ。よし、これで行こう。タレの壺は二つ作った。明日肉屋に1本あげよう。
俺が味見してるとダン、ブリック、そしていつの間にかミーシャとポポがジーッと見ていた。
「これは明日食べる分だからみんなの味見は無しだからね。」
焼き鳥の串刺しはもう嫌だ。
ジーッ
「味見したけりゃ自分で串に刺せ」
そういうと全員せっせと串に刺し始めた。それなら手伝えよ・・・
そして試食の焼き鳥は好評だった。
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