第184話 それぞれの後日
「エイブリック様、只今戻りました」
「爺、ご苦労であったな」
「これをお試し頂けますか」
「ん、スープか?なぜ今渡す?」
「ゲイル様が私共にお渡し下さったものです」
ごくっ
「確かにゲイルの作ったスープだな。まだ温かいが温め直したのか?」
「いえ、渡されたままです。温め直してはおりません」
熱々とはいかないが飲み頃の温度のスープだ。
「ではなぜ温かい?この入れ物に魔法でもかけてあるのか?」
「いえ、魔法は掛かっておりません。単純に冷めていないのです」
「なに?」
「たくさんのホットドッグと、この箱にスープを人数分下さったのですが、一つを食べずに持ち帰りました。温かいのはこの箱のおかげのようです」
「そこに入れてあると冷めないということか?驚くべき代物ではないか?これは販売されているものか?」
「それはわかりません。」
「そうか、これをいくつか発注してみてくれ」
「このような魔法も使わず長時間保温出来るものとなるといくらになるか想像が付きませんが」
「かまわん。言い値で買え」
「かしこまりました」
魔法や魔石も無しに長時間冷めない箱か。やつらは一体何をどれだけ開発してるんだ?ヨルドもゲイルが持ってきた調理器具は見たことが無い物ばかりだと報告していたな。そしてそれを惜しげもなく全部置いていったと。こうやってしれっと渡して来るところを見ると隠しているわけでも無さそうだ。それともあいつらにとっては取るに足らないものなのか? 全く解らん。これは一度ディノスレイヤ領に行ってみるしかないか。
「おやっさん、エイブリックさんの所に白い砂糖があってさ。少し貰ってきたんだけど、これ作れないかな?」
「どうやるんじゃ?」
「黒い砂糖はね、甘さ以外の成分が含まれてて、それを取り除くとこうやって白い砂糖になるんだよ。黒砂糖は黒砂糖の美味しさがあるんだけど、お菓子にするときには純粋に甘さだけの方がいいんだよね」
「何が必要なんじゃ?」
「大きな釜と炭、それとそれを濾すための目の細かい布がいる」
「炭とは薪を燃やしたやつか?あんなもん直ぐに出来るじゃろ?」
「いや、純粋な炭が欲しいんだけど、火の管理を何日かしないといけないんだよね。煙も出るからここじゃちょっと難しいし、誰かに火の管理をしてもらうには小屋でやるのも難しいんだよ」
「どこかで炭を作る人間がおれば作れるんじゃな?」
「そうそう。果樹園作る予定地がいいかなと思ってるんだけど、誰かいるかな?」
「4~5人ならなんとかなるぞ。」
「じゃ、お願いね。ちょっと果樹園予定地に炭を作る窯を作ってくる」
ワシも見に行くとのことなので一緒に果樹園予定地にいく。
「ダン、この辺一帯の木を切って」
人使い荒いぞとかいいながらスパスパと切るダン。
「ここいらの木は細い割には相当硬いな。切るのに時間かかるぞ」
硬い木か、それはいい。
誰もいないので遠慮なく切り株を枯らして炭焼き窯の場所を作る。
熱が窯全体を覆うように土魔法で窯を成形していく。かなり大きい窯だ。火を炊くところの煙突、炭から出てくる煙と木酢液が出てくる所を付けてと。後は雨が降っても大丈夫なように屋根付けて。そうそう休憩の小屋もいるな。
日暮近くまで掛かって炭焼き窯と小屋を作り上げた。
「やってくれる人が見付かったら早速作ってみようね。この炭で焼き鳥とか焼き肉するとめっちゃ上手く焼けるからね」
「何っ、薪で焼くより旨いのか?」
「薪は薪で魅力的なんだけど、上手く焼けるのは炭かな?高温が持続するから安定して焼けるしね」
「よし、明日から作るぞ」
ドワンは酒か旨い物があると異常に仕事が早くなるな。
翌日から炭作りが始まる。
硬い木の枝を切り落とし、使えそうな太さのはすべて炭にする。幹も1mほどの長さに揃えて窯に隙間なくきっちりと詰めていき、土の扉で空気が入らないように閉めた。
炭にも資材にもならない木は全て薪だ。
炭焼き担当になったのは4人。爺さんくらい、おっさん、若手二人だ。爺さんは火の扱いが上手く、火魔法が使えるらしい。
薪に点火して炭作りのスタートだ。
「この中に入れた木は燃えてるけど燃えてない状態になるんだ」
燃えてるけど燃えてない?
まぁ理解出来んだろね。
「この炭になる窯から煙が出るんだけど段々色が変わって最後はほとんど煙がでなくなる。それまではガンガン薪を燃やし続けて。煙が出なくなったら火を消して2日くらい冷ましたら完成だよ。薪を燃やした灰、炭を出した時の灰は分けておいてね」
これであってるよね?間違ってたら色々試してもらおう。
窯に火が入り始めた。乾燥してない木でも上手く燃やすな。煙凄いけど・・・
さて、見ててもしょうがないので後は任せて商会に戻る。
ドワンが大きな窯を作ってくれてある。蒸留器の上が無いようなやつだ。下から出せる取り出し口もある。
「こんなもんじゃろ」
「おやっさん、これもっと上に設置してくれない? この取り出し口から濾した液を次の釜にそのまま入る方が作業が楽だね。下に貯まった甘い液をゆっくり加熱して水分を飛ばしたら白い砂糖になると思うから」
従業員に指示して設置場所や釜の位置を調整していく。後は任せておこう。
さて、今日は帰ろう。少し早いが帰宅して厨房へ向かう。ブリックに黒砂糖を大量発注して貰う為だ。
「ゲイルちゃまお帰りなさい」
「ポポ久しぶりだね。ただいま」
「ゲイルちゃま、おとうさんのかたきをとってくれてありがとう。」
あ、ロロのやつポポに父親のこと話したのか。
「おにぃちゃんからもうおとうさんがかえって・・こな・・いってき・・いって」
ぐすぐすと思い出したかのようにポポは泣き出す。泣き止むまで少し待った。
「ゲイルちゃまがおとうさんをたべちゃった蛇をやっつけてくれたっておしえてもらった。ありがとう」
俺はポポを抱き締めた。
というより抱き合っているような感じだ。
「お父さんは残念だった。でも二人を守ろうとしてくれたお父さんは凄いと思うよ」
ポポは俺にしがみつきながら泣いていた。
辛いよなぁ・・・
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