第183話 静かに何かが動き始める
ロドリゲス商会が王室認証店となったことで、ディノスレイヤ領の商会長達は大騒ぎになった。王都以外の商会で初めての出来事であったからだ。
ー王都軍部総帥室ー
「ダッセル様、ご報告を致します」
「なんだ?」
「トビーラス・グラッド様が調教の現場に復帰を致しました」
「トビーラスが?あいつ、引退してからエイブリックの馬の世話人をしていたはず。最近軍馬の質も量も落ちていたからしびれを切らして復帰でもしたのだろ。それがどうした?わざわざ報告にくる程の事でもあるまい」
「それがエイブリック様の所に来ていた客人が一枚噛んでると」
「客人?誰だそれは?」
「アーノルド様とその子供です。その子供が一枚噛んでると」
「あいつの子供は騎士学校に通ってるだろう?」
「いえ、もっと小さな子供です。歳は3~4歳くらいのようです」
「ほぅ、アーノルドにそんな小さな子供がいるのか。それで?」
「馬の異常をすぐさま見抜き、廃棄予定の馬を甦らせたとか。トビーラス様はそれに感心して現場復帰をされたようです」
「他には?」
「陛下がその客人が居る間は毎晩エイブリック邸にて夕食を召し上がったそうです。それに内密に見知らぬ子供を宝物庫まで案内されたと宝物庫の護衛が言っておりました」
「何っ!宝物庫にだと。ワシですら入れんのだぞ。それを部外者に見せたというのかっ!重大な規定違反だぞ。そうか王自ら違反をおかしたのか。ふっふっふ」
「告発いたしますか?」
「いや、証拠を固めておけ。この事は温めておくとしよう。宝物庫に入ったその子供のことを調べておけ」
「はっ」
アーノルドか。ワシはあの時の屈辱を忘れてはおらんぞ・・・
ー過去の出来事ー
「立て直せ!なんとしても我が部隊でディノを討つのだ!騎馬隊すすめーっ!魔法部隊は騎馬隊を援護しろっ!」
わぁー わぁー
ぐわぁー
ダッセル部隊長!魔物の数が多すぎます。撤退のご判断を。
「我が部隊に撤退はないっ!魔物どもを蹴散らせっ!ディノはあそこにいるぞーっ!」
ぐわぁぁぁぁっ!
押し寄せる魔物の大群に飲まれるダッセルの部隊。
「なぜだっ!なぜこれだけの部隊をもってしても魔物などに押されるのだ・・・」
もうダメかと思われたときに魔物の動きが突如として止まり、散り散りに崩れだした。
何が起こった?いや、そんな事を考えている暇はない。
「今だ!動けるものは戦えっ!」
血だらけの兵士達がヨロヨロと立ち上がり剣を構えようとする。
うぉぉぉぉぉおっ
その時、突如として歓喜の叫びが辺り一帯に響き渡った。
(何事だっ?)
ディノが倒されたぞーっ!
あの化け物が倒れたぞーーーっ!
冒険者パーティーがディノを討ったぞー!うぉぉぉぉぉお!!!!
(何っ!ディノが討伐されただと?魔物どもが散り散りになったのはそのせいか。誰だっ!誰がディノを討伐したんだっ!)
ダッセルは生き残った兵士達を引き連れて陣に戻った。
「誰だ?誰がディノを討ったのだっ!答えろっ」
陣にいる兵士に怒鳴るダッセル。
「はっ!冒険者パーティーでリーダーはアーノルド。6人のパーティーです」
たった6名でディノを?
リーダーのアーノルド・・・
忘れんぞ、俺はその名前を・・・。そしてこの屈辱をな。
ー現在のディノスレイヤ邸ー
ボロン村から今年最後の白ワイン100樽が商会に届いた。
「じゃ、親方悪いんだけど小屋に運んでくれる?それと帰りに材木を引き取って欲しいんだ」
「結構あるみたいだな。一度で運べそうか?」
「どうだろ?無理じゃないかな?」
「なら今日は運搬にあてるか。昼飯は小屋で食わしてくれるんだろうな?」
「新作を作る予定だよ。おやっさんも来る?」
「当たり前じゃ」
白ワインが森の小屋に運び込まれ、保管庫に次々と並べられていく。この冬に蒸留していこう。ワインを運び終えた後は材木をせっせと従業員が荷馬車に載せていく。
「あと3往復ぐらいで運べるじゃろ。結構あったな」
「そうだね。果樹園用と道広げるのにずいぶん切ったからね」
「買い取り代金の計算は明日でいいか?」
「いや、いらないよ。ここにあっても邪魔だったし」
「それはそれ、これはこれじゃ。代金は払うからとっとけ」
「じゃあ、その分闘技場建設費から差し引いておいて。いま見積り作ってるんでしょ?」
「あの見積りは難しくてな。お前が基礎とかやるじゃろ?今までやったことがない見積りなんじゃ」
「そうなんだ。土魔法で出来る所はやるから、作る時は指導してね」
さて、飯の準備だ。今日作るのはチキンカレー。
鶏肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギを炒めて煮ていく。ご飯を炊いておいて、スパイスを軽く炒めて投入。このままだとカレースープになるので、薄力粉を水で溶いてスープに投入。よくとろみがつくまで混ぜて、塩胡椒、生姜を加えて味を調整していく。ちょいとコクが足らないのでバター投入。まだなんか足りないな。少しハチミツ投入。んー、粉の唐辛子を足して辛味を追加。よしこんなもんか。
トッピングにチキンカツを揚げていく。
「出来たよー」
ご飯をよそってカレーをかけてチキンカツを乗せて完成。
「なんじゃこれは?」
「チキンカツカレー」
「カレー?」
「うん」
「なんじゃそれは?」
堂々巡りだな。
「取りあえず食べて」
嗅いだことのない匂い。見たことがない色のドロドロがご飯に掛かってる。ドワンは怯んだ。
「ぼっちゃん、これ前のと匂いは同じだが違うものだよな?」
「本当はこれを作りたかったんだよ、でも米がなかったしね。ご飯に合うように変えてあるよ」
ダンが一口食べて。
「ぼっちゃん、これ旨ぇぞ。この前のより旨い。カツとの組み合わせもたまんねぇな」
ドワンとミゲルも恐る恐る食べ出す。
「かーっ!なんじゃこの刺激は?口の中がビリビリ来やがるぞ」
「本当じゃ、これが食い物か?」
あれ?ドワーフの口には合わなかったか?
「坊主の作る飯にしては・・・、モグ、そんなに、モグ、旨くは、モグモグ・・・なんじゃこれは?モグモグモグモグ」
「変な味、モグ、こんなモンを、モグモグ、食わせおって モグモグモグモグ。なぜかもう一口食べてしまう モグモグモグモグ・・・」
「ぼっちゃん、おかわりあるか?」
「カツは無いけどご飯とカレーはあるよ。勝手に食べて」
俺も食べよ。あー懐かしきカレーライスだ。ゲイルは一口カレーを食べて昔の事を思い出す。昼飯にカレー食って帰ったら高確率で家でもカレーが用意されている。人のカレー成分が切れるタイミングは似ているのだろう。
ドワンもミゲルも勝手におかわりしている。これでカレー成分が切れるタイミングがシンクロされるだろうから、俺がカレーを食べたくなった時に作ったらサイクルが合う。
しかし、カレー初心者のカレー成分切れの早さは尋常でなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます