第182話 王都の事後処理

ゲイルは王都からの戻った翌日、まずロドリゲス商会にダンと向かった。


「ぼっちゃん、今日は何がご入り用で?」


「買い物じゃないんだ。お前の所を王室との取引窓口にしておいたから宜しくな。じゃ頼んだぞ」


「え?え?え? 何ですか王室とか聞こえましたけど」


「だから王室から色々と注文入るから宜しくなと言ったんだよ、頼むぞ。じゃな」


「待って!待って!待って下さいっ!」


「ぼっちゃん、ちゃんと説明してやれよ」


「説明も何も今言った通りじゃん」


「一般の商会がそれで分かるはずないだろ?」


「単に注文入ったりするだけだろ?」


「王家と取引するには色々あるんだよ。おいザック、商会長を呼んでくれ」


慌てて商会長を呼びに行き、応接室で話す事になった。


「ゲイル様、王室と取引とはどういったことで?」


俺は経緯を話した。


「なんとそんな大役を我が商会にっ!? しかし・・・」


「なんか問題あるの?」


「王家と直接取引をする商会は決まっておりまして。王家から認証を受けた所でないと取引出来ません」


「そうなの?そんなこと何にも言ってなかったけどな?」


「認証を受けられる商会は厳選されておりまして、新規で参入出来る事はまずありません。もし認証を受けられるようになれば一大事です」


「大丈夫じゃない?王家と言っても私邸だし。直接王宮に行くわけじゃないから」


「いえ、同じ事です。私邸であるとかは関係ありません」


「なんか面倒臭いね。向こうからは俺が欲しいもの流通させるとか言ってたし、ここで扱ってるものを売り込んで来たんだぞ。ぶちょー商会のものもあるけど、おやっさんと話してそれも全部ここを窓口にするつもりなんだけど」


「売り込んだ?」


「ザック、この前言っておいた新しい小麦粉押さえてあるだろうな?」


「そ、それはもちろん。あ、種麦も手に入りましたのでそれも置いてあります」


「お、やったね。種麦は後で屋敷に運んでおいて。で、その小麦粉だけど薄力粉という名前にしてくれ。それがもうすぐ大量発注が来ると思うぞ」


「大量発注ですか?」


「そうだよ。まず今年中に注文が入って、年が明けたらもっと注文がくると思う。2~3年後には対応しきれないくらいになるぞ。王都中から注文入るようになるからな」


「なぜそんな事が分かるんですか?」


「そうなるようにして来たから。どうする?窓口が迷惑ならぶちょー商会にお願いするけど」


「ゲイル様。ありがとうございます。認証が受けられるかどうかわかりませんがその大役をこのロドリゲスめにお申し付け下さい」


「じゃ、OKということでいいね?もし認証でごちゃごちゃするようなら言ってきて。俺が話すから」


これで良しと。


次はドワンの所だな。



「おやっさん、帰って来たよ」


「やっと戻って来おったか。どうじゃった?王都は。立派な街じゃったろ?」


「建物とか設備とかすごいよね。どうやって作ったんだろと不思議だったよ」


「王都は石造りの建物が多いからの」


それから王都での事を話す為に森の小屋に移動した。



「なにっ?王と会ったじゃと?」


「おやっさん、聞いてくれよ。ぼっちゃん、王様を爺さん呼ばわりするんだぜ。俺にエイブリック様と立ち合いをやらせやがるしよ」


「王を爺さん呼ばわりか。傑作じゃ、しかし怒らんかったじゃろ?あの王は懐が深いからの」


「王様がドン爺って呼べと言ったんだよ。俺が言い出したわけじゃないからね」


「で、坊主は遠慮なくドン爺と呼んだわけか?ガッハッハッハ。で、エイブリックとの勝負はどうなった?」


「負けたよ。ぼっちゃんは勝ったがな」


「ダンでも敵わんか。まぁあいつの剣の腕前はアーノルドの次くらいじゃからの、仕方あるまいて。坊主はどうやって勝ったんじゃ?」


「立ち合いと同時に壁作って距離取ってから魔力を吸った」


「あのリッチの魔法も見せたのか?」


「父さんがエイブリックさんの所では自重しなくていいと言ってたからね」


「なるほどの。アーノルドはエイブリックだけでなく、王家そのものをこちらに巻き込んでおくつもりなんじゃな」


「どういうこと?」


「坊主の魔法を隠しているのは軍部に目をつけられないようにじゃろ?」


「多分」


「王家と軍部はあまり仲が良くはない。つまり王家をこちら側に引き込んでおく方が軍部への牽制にもなるということじゃな」


アーノルドはそんなこと考えてんのかな?王様が来たのも予定外みたいだったし。脳筋で子供かと思ってたら根回しとか裏で手を打ってたりとかよくわかんないんだよね。


「おやっさん、王様もエイブリック様も息子のアルもぼっちゃんの事を相当気に入ってるぜ。俺はあのまま王族の養子になるかと思ったくらいだからな」


「そうじゃろな。坊主といると面白いからの」


「王様は狩りに付いてくるわ、ぼっちゃんを宝物庫に連れて行くわの可愛がりようでよ、毎晩エイブリック様の所に飯食いに来てたんだぞ。アーノルド様の息子ならワシの孫同然じゃとか言って」


「なにっ?宝物庫じゃと?あそこは王族のみ、しかも限られた者しか入れんと聞いておったが、それは相当気に入られたの」


「そうだね、帰るときに2ヶ月に一度は王様に会いに来いって言われたよ。父さんに相談しておくけど」


「エイブリック様が帰り際に耳打ちしてたのはそれか?」


「そうか、会いに来いか。向こうもゲイルを王家に取り込んでおきたいんじゃろ。ただし、気を付けておけよ。ややこしい事に巻き込まれるなよ」


「それは気を付けておくよ。政治のどろどろしたのに関わるのはまっぴらだからね」


「そういうこった。そんな面倒な事はやつらに任せておけ」


「あ、片栗粉や調理器具と酒が注文入ってくるようになると思うんだけど直接やりとりする?それともロドリゲス商会を通す?」


「その商会がやってくれるなら任すぞ。面倒じゃからな。少々割高になるじゃろが向こうも窓口が一つの方が楽じゃろ」


「あと、馬車の注文入るかも。王様が気に入ってたから。父さんはやんわり断ってたけどね」


「まぁ、そうじゃろな。来年の夏くらいならなんとかなるじゃろ」


王様やエイブリックの魔法の話や軍馬の話とか色々ドワンに話しておいた。



屋敷での夕食でも色々話した。


宝物庫の話はまずそうなのでここでは黙っておく。レシピを教えた話題が中心だ。


執務室でアーノルドが帰った後の事を話しておくことに。


「2ヶ月に一度か。行くのか?」


「行けたらね。年明けたらシルフィードとミーシャも連れて行こうかと思ってる。エイブリックさんはエルフの里の件知ってるかな?」


「いや、あいつも知らなかったな。そうかシルフィードを連れて行くのか」


「本人が行きたいと言ったらね」


「あぁ、顔合わせはしておいた方がいいかも知れんな。ベントの入学に合わせて行くか。それなら一度で済む」


「そうか年明けたらすぐだよね。」



翌日、ロドリゲス商会にぶちょー商会の商品も取り扱うようになった事を伝えに行くと、


ザワザワザワ


「なんか騒がしいね?なんかあったのか?」


「またぼっちゃんが面倒ごとに首突っ込むんだな」


「嫌なこと言うなよ」


騒ぎの元はやはりザックの所だった。


「あれ?エイブリックさんの所の執事さん!?」


「これはゲイル様。ちょうど宜しかった。只今こちらを準備していた所でございます」


「ぼ、ぼ、ぼ、ぼっちゃん!?あのあのあのあの」


ザック落ち着け。


「う、う、うちが王家認証にににに」


「執事さん、もう手続きしてくれたの?」


「はい、社交会まで時間がありませんので、取り急ぎ必要な物を発注しに参りましたついででございます。」


執事自ら来てくれたんだ。


「わざわざありがとうございます。この後はすぐに帰るの?うちで泊まってご飯食べていかない?」


「ありがとうございます。残念ながらすぐに戻らなければなりません。ディノスレイヤ家の食事には興味がそそられますけどね」


「そっか、すぐに帰っちゃうのか。残念だね。あと2時間くらいはここにいる?」


「そうですね、契約の話をせねばなりませんのでそれくらいはおりますが」


「じゃもう一度来るから待っててね」


俺は急いで屋敷に戻る。執事が今から王都に戻るなら暗いなかを馬車を走らせるのだろう。


「ブリック、大急ぎでパン焼いて。ホットドッグ用のを20個」


は、はいっとブリックが返事して準備をし始める。


俺はカレースパイスを調合してキャベツの千切りを炒めていく。次はソーセージだ。


スープも作ろう。夜は冷えるからな。


ベーコンとじゃがいも、ニンジン、玉ねぎを入れて煮込む。


しばらくするとパンが焼けてきた。


ブリックと二人でパンにバターを塗ってからカレー風味のキャベツ、ソーセージ、タマネギのみじん切り入りトマトソース、マスタードを入れたホットドッグを作る。冷めても旨そうだ。


出来上がったスープを土魔法で作った筒に入れて蓋が入れ物になるように工夫する。これを6本作り布でくるんでからクーラーに入れた。


「ブリックありがとう」


荷物はダンに持ってもらい急いでロドリゲス商会に戻ると、ちょうど商会に認証印の看板が取り付け終わった所だった。


「執事さん、間に合って良かった。帰り道にコレ食べて。こっちはスープが入ってるから。王都まで熱いと思うから火傷しないでね」


「これは?」


「今から帰るって夜通し馬車走らせるんでしょ?どこにも寄らずに。簡単なものだけど夜食に食べて。他の人の分もあるから」


「私達の為にワザワザこれを・・・?」


「かなり無理して調整してくれたんでしょ。たいしたものじゃないけど。パンは冷めても美味しく食べられるようにしてあるよ。あ、これ黒砂糖なんだけど、途中休憩の時に馬にあげて。喜ぶし元気も出るから」



執事達は仕事を終えて帰っていった。明日の朝に戻るつもりだろうな。ゆっくりしていけばいいのに。



ガココ ガココ ガココ


「こちらで休憩を取ります。外は冷えますので中でそのままご休憩下さい」


「お前達、こちらに集まりなさい。ゲイル様より差し入れを頂きました。皆で食べるようにとのお言葉を頂いておりますので一緒に食べましょう」


一緒に食べる・・・?ガヤガヤとお互いに顔を見合わせる護衛や使用人。


敷物を用意して皆で集まり、バスケットを開けるとホットドッグがぎっしりと入っていた。それはスパイシーな香りを放っている。


もう一つはスープと言われてたが・・・


使用人の一人が布でくるまれた水筒のような入れ物を持つ。


「アツッ」


ディノスレイヤ領を出てから6時間は過ぎているのに今出来たばかりのスープのようだ。どうやったらこのような事が出来るのであろうか?それとこれは蓋に入れて飲めと言うことか?ちょうど人数分用意されている所を見るとそうなのだろう。


「さ、お前達、ゲイル様のご厚意だ。遠慮なく頂きなさい。こんなにたくさん用意して頂いてるから」


それぞれがホットドッグを口にしてあまりの旨さに顔がほころび、熱々のスープに身体の芯から温まる。


私の話ですぐに状況を理解される聡明さ。使用人達に対しても分け隔て無く与えてくれる心遣い。それに馬にまで気を回してくれるとは。


それにしてもこのパンとスープは実に旨い。冷めても身体が暖まるスパイシーさと酸味が絡み、この歯触りが良い肉との相性が抜群だ。


執事はホットドッグをかじり、スープを飲みとても幸せな気分になった。


そして、ゲイル様に仕えている者達はさぞ幸せでしょうな。と呟いたのであった。

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