第181話 ゲイル帰宅

「ゲイルが帰ってしまったのぅ」


「少し滞在するだけで色々とありましたね。料理はもちろんですが、何やら軍馬の調教でもやってた様でトビーラスが現場復帰するとかなんとか」


「ほう、軍馬は息子達に任せて今はお前の馬を見ているのではなかったか?」


「トビーラスはゲイルに大切な事を教わったと。それを息子達に伝えるまでもう一度現場に戻るそうですよ。見送りに他の調教師達が来ていたのも驚きましたが」


「のう、エイブリックよ。あれは一体なんなのだ?お前どころかワシまで簡単に魔法を使えるようにしおった。ありえんじゃろ?それも無詠唱じゃぞ。魔法の根底を揺るがす脅威じゃ」


「アーノルドからゲイルが無詠唱で使えるとは聞いてましたが他人まで使えるように出来るとは私も驚きでした」


「仮にゲイルが敵になったとしたらお前は勝てるか?」


「1対1であればかろうじて。しかし、アーノルドとダン、それにドワンも組めばこちらが軍隊を編成しても勝ち目はないでしょう。まず軍隊が壁で囲まれて火を放たれて全滅。その間魔法部隊は詠唱している間にアーノルドにとダンに斬られ、それを抜けた者がいてもドワンにやられて終わるでしょう。結局は俺が1人で4人と戦うようなものです」


「そうか、すでに国家戦力並みか・・・ ゲイルを養子に迎える事は可能そうか?」


「それは無理ですね。王権を発動して養子にしようとしたらアーノルド達が敵に回ります。それにゲイル自身が王族を何とも思っておりません。私のことも父親の友人ぐらいにしか見てませんしね。王に対してもそうでしたでしょう?」


「そうじゃな。媚びもへつらいも憧れもしよらんかったの。褒美も断りよったしの。しかも失礼にならん上手い断り方じゃ。一度与えると言った褒美をワシが取り下げても恥をかかん」


「アーノルドが子供を置いて帰ったのも私達を信用しているのか、どう出るか試したのかわかりませんね」


「あいつは抜けてるようでよく見ておるからの。政治に興味があればあっという間に権力を握るじゃろうて。興味が無いのが幸いじゃがな」


「あいつは今でも心は冒険者ですからね。村の為に貴族になり領主になっただけで自らが望んでたわけじゃないですから」


「あとゲイルはうちの魔導士どもの教育をさせる事は可能か?全員が無詠唱魔法を使えるようには出来んのか?」


「詠唱で魔法を覚えた者は無詠唱で使えるのはほぼ無理みたいですね。ドワンはファイアボールを詠唱して使えますが無詠唱では無理だったようです」


「そうか、では次世代の魔導士を育てて行くしかないのだな?」


「ゲイルは義務教育後、魔法学校に入るつもりみたいですよ」


「魔法学校か。しかしまだ何年も先であろう? 飛び級させてはどうじゃ?やつには義務教育なぞ不要じゃろ」


「チラッと聞きましたが、生き急ぐなとドワンに言われたそうで。義務教育を終えてから試験を受けると言ってました」


「生き急ぐな・・・か。そうじゃな。大人のしがらみだらけのつまらん世界にあの歳で関わらせるのは酷というものか」


「そうですね」


「お前の三男がゲイルと同じ歳であったな。魔法学校に入るように教育しておけ。アルファランメルとジョンの様な関係になるようにな」


「は、畏まりました」


「で、ゲイルは次いつ来るんじゃ?」


「年が明けたらメイドと客人を連れてくると言っていました」


「そうかそうか。メイドはともかく、客人とやらはどんなやつかの?ゲイルが連れて来ようとするなら面白い者に違いない。楽しみじゃのう」


次はどこに連れていこうか、あの場所ならいやいや、冬じゃからあそこに連れて行くと喜ぶかもしれん。いや、待てよあそこなら・・ぶつぶつぶつぶつ・・・

しかし、早く年が明けるといいのぅ・・・



ーディノスレイヤ邸ー


「ただいま~!」


屋敷に着いたのはそこそこ遅い時間だった。早い馬車とはいえ、馬で駆けるより時間がかかる。ダンは馬と馬車を預けてとっとと自分の部屋に戻ってしまった。精も根も尽き果てたようだ。



「お帰りゲイル。あら?アーノルドは?」


「とっくに先に帰ってるでしょ?」


「え?まだよ?」


「俺達より一週間くらい前に先に帰ってるんだよ。きっと何かあったんだ!探しに行かなきゃ」


アーノルドがまだ戻ってないだと?何かあったんだ。クソッ、あの時一緒に戻るべきだった。俺は何を呑気に料理教室とかやってたんだ。


「ダンを呼んで来るっ!」


「それは帰って来たわよ。」


えっ?・・・どゆこと?


「あなた達があまりにも帰って来ないから迎えに行くと昼前くらいに出て行ったんだけど途中で会わなかった?」


ディノスレイヤ領と王都は一本道だ。普通は道ですれ違う。アーノルドがうちの馬車に気が付かないはずもない。そう普通なら・・・



ーゲイルの回想ー 


王都からの帰り道、


「ダン、道それてるよ。あわわわわっ!」


カダンゴトンっ


「ここをショートカットすると早えんだよ。ぼっちゃんしゃべんなよ。舌噛むぞ」




あー、コレだな。馬車で今日中に着くにはここを通るしかねぇとダンが無茶したやつだ。


「す、スレ違ったのかなぁ・・・。ぜんぜん気付かなかったよ。俺もう疲れてるから寝るね。お休み~」


「そうね、アーノルドもそのうち帰ってくるわね。話は明日聞くわ。ゲイルももう休みなさい」



ーその頃のエイブリック邸ー


「おいエイブリック、ゲイルはどこだ?」


「またこんな時間に来やがって。今朝帰ったぞ。用件はそれだけか?」


「あぁ・・・」


「じゃな」




翌朝ご飯を食べに行くとアーノルドが居た。良かった途中で引き返して来たんだな。


「父さんおはよう。迎えに来てくれようとしたんだってね?ありがとう。ちゃんと帰って来たよ」


「そうか、エイブリックから帰ったと聞いて知ってるぞ」


エイブリックから聞いた?


「ところでゲイル、馬車でショートカットしなかったか?」


「あぁ、そういえばなんかめっちゃ揺れる場所通った気がするね」


「そうか、それは良かったな。めっちゃ揺れる道を通ったか」


「うん」


「そこは道じゃねぇっ!」


アーノルド激オコ


俺のせいじゃないからねっ


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