第180話 ゲイル王都へ完結
夜の間にトビーさんに翌朝別件が入って来れない旨を伝えておいた。そのあとアルの部屋でここに来てからの事や騎士学校の話とか色々していた。まるで修学旅行のノリだね。
翌朝、応接室に集まり、エイブリックの案内で宝物庫前にやってきた。
「ささ、こっちだ。おい、開けよ」
宝物庫の護衛が命令されて宝物庫の入り口を開ける。ぞろぞろと中に入るとまばゆいばかりの金銀宝石があるのかと思ったらそうでもない。何やら歴史を感じるようなものが置かれていた。
「もっと財宝的なものがあると思っておったじゃろ?そういうものもあるが、それよりも金では手に入らんものがここには保管されておる。ほれ、あの奥じゃ」
案内された所には大きなガラスケースに入れられたあの蛇が生きているような姿で飾られてある。
「アルよ、これが先日ゲイルが討伐した蛇じゃ。見事であろう。このような討伐痕が見当たらない上に今までの最大サイズじゃ。アーノルドが討伐したと思って落札したが、このゲイルが討伐したと聞いて驚いた。実に良い買い物であったと思うぞ」
蛇には保存魔法というものがかけられており、ガラスケースには大きな魔石がはめられている。これでその魔法が持続していくらしい。保存魔法なんてあるんだな。
「おいゲイル。聞くのと見るのではずいぶん違うじゃないか。こんなに大きいとはな驚いたぞ」
「俺は食べられそうになって無意識に魔法を放って勝手に死んだだけだよ。褒められるような内容じゃない。ホントにたまたまだよ」
「いや、この蛇に睨まれたら動けなくなるのは理解出来た。俺でもそうなるだろう。」
ジョンがフォローしてくれる。
「さ、次はお待ちかねのディノじゃ」
さらに奥に進むと馬鹿デカイケースの中にそいつは居た。
う、うぉっ
死んで尚威圧を放ってくるかのような存在感。俺のイメージは恐竜博物館のティラノサウルスだったがまるで別物だ。脚がガクガクと震える。これと比べると蛇なんか大したことはない。
「凶悪な姿であろう?しかしその中に強者のみが持つ美しさというものがあるんじゃ。自分はどう足掻いても到達出来ることのない遥かなる高み。全てを飲み込む事が出来る存在感。まるでこの世の王じゃ。それを討伐したアーノルド達はその遥かなる高みすら飛び越えた者達であり、わが国の誇りじゃ。その中に自分の息子も居たことがどれだけ誇らしいことか・・・」
王の話を聞いてからディノを良く見るとあちこちに傷や焦げたような形跡があり、脚から体にかけて何かで縛ったような痕もある。植物魔法で動きを止めたエルフの痕跡だろう。
しかし、この禍々しさはなんだ?これが魔物とはいえ生物から出るものなのか?死んでいるとは思えないくらい生々しく恐ろしいオーラのようなものを放っているような気がする。ゲイルはそう思いながらディノをずっと見続けていた。
「そろそろ戻るぞ」
エイブリックに声をかけられて我に返った。
「あ、ああ、ドン爺ありがとう。ここに来れて良かった。ディノの姿を聞いて想像していたのとまるで違ったよ。まさに百聞は一見に如かずだね」
「なんじゃそれは?」
「色々聞いて知るより、一目見た方がよくわかるって意味だよ」
「ほう面白い表現じゃな。お前は本当になんでも良く知っているな。それにディノから何かを感じる力もあるようじゃ。連れて来て良かった」
「うん、俺も本当に連れて来て貰って良かったよ」
宝物庫を出たところで王様に改めてお礼を言ってエイブリック邸に戻り、朝食を食べながらエイブリックに聞いてみる。
「エイブリックさん、ディノと戦う時に怖く無かったの?」
「そりゃあ怖かったぞ。しかしそれよりも討伐してやるという気持ちの方が強かったな。あれがもし王都まで来ていたらどれだけの民が死んだかわからんからな。必死だったのは確かだな」
王族の責任感ってやつかな。しかし王子自ら討伐に出ていいのだろうか?
「リッチの時は?」
「あれは思い出したくない戦いと言うか撤退だからな。アーノルドかドワンに聞いたのか?」
「おやっさんだよ。討伐出来る気がしないと言ってたからね」
「俺はお前の魔法と立ち合ってみてリッチの方が詠唱するだけマシだと思ったがな」
「俺はアンデッドじゃないからエイブリックさんがマジでやる気だったら首跳ねられたことすら気付かずに死んでるよ」
「世辞か?それは」
「いや本当に。父さんやダンもそうなんだけどただの狩りとは違って魔物と戦う時はどうやって動いたのかすらわからないうちに消えるし、気配も無くなる。まったく目で追えなかったからね。稽古と実戦は0と100くらいの差があるよ」
「ゲイルよ。お前は良い経験を積んでるな。アーノルドに感謝しておけよ」
エイブリックはそう言ってニヤリと笑った。
翌日、森には4人で狩りに行き、アルとジョンはストレス発散とばかりに狩りをして食べた。
夕食はエイブリックお気に入りの唐揚げ三昧とプリンだ。それを食べ終えたジョンとアルは寮へ戻っていった。
翌日にスイーツのレシピを伝え終わり、いよいよ明日屋敷に戻る事になったので、トビーさんには明日帰る挨拶をしておく。
コック達には調理器具を全部置いて帰ると伝えると喜んでくれた。追加や壊れた時は買ってくれたまへ。
ヨルドには燻製室の設計図を渡し、燻製のやり方を教えて、燻製用のヒッコリーチップを手配する約束をした。
俺は各種スパイスと白砂糖を貰った。今後、ロドリゲス商会を通してお互い欲しいものが手に入るようになるのは嬉しい。
出発の朝、コックやトビーさんと調教師達が見送りに来てくれた。王様は屋敷の中からこっそりと見送ってくれている。
「皆さんお世話になりました。」
俺が簡単な挨拶をするとエイブリックがコソッと耳打ちしてくる。
(ゲイル、頼みがある)
(何?)
(2ヶ月に一度くらいで良いから遊びに来てくれ。父上が落ち込んでしまって仕事にならんのだ)
(分かった。今年の間はもう無理だから年が明けたら来るね。俺付きのメイドと客人も連れて来ていいかな?)
(構わんぞ。だから必ず来てくれ)
(わかった)
俺はこれから何度も王都に来ることになるのだろうか?帰ったらアーノルドと相談だな。
サヨナラ~と手を振り馬車を出すと皆が手を振ってくれるなか、王様は泣いているようだった。そんな所を他の人に見られたら困るだろうに。
王都の門をくぐるとダンは馬車を飛ばした。一人で客車に乗るのもなんなのでダンの隣に座っている。
「途中で一泊するの?」
「飛ばして早く帰ろうぜ。色々ありすぎて疲れちまったぜ」
「そうだね。休む暇なかったからね」
「俺はこのままぼっちゃんが王族入りして、領に帰れないのかと思ったぜ」
「まさか。そんなことあり得ないよ。」
「いや、陛下もエイブリック様もちょっと本気だったと思うぜ。しかし王様を爺さん呼ばわりするかね?」
「いや、そう呼べっていったじゃん」
「王様と王子様だぞ。ちょっとの不敬で首を刎ねられてもおかしくないんだぞ」
「ダンはアルが王族だって知ってたの?」
「名前だけはな。エイブリック様の息子と聞いて確信したがな」
「何で教えてくれなかったんだよ?」
「アーノルド様が話してないものを話せるかっ。それより王様が来るなんて聞いてなかったぞ」
「俺も知ってるわけ無いじゃん」
「それに王子様の護衛頭をぶちのめして無駄飯食らい呼ばわりした挙げ句にダンの方が強いとか言いやがって。俺死ぬのかなとか思っちまったじゃねーか」
「ま、そのお陰で王子様と立ち合い出来て良かったじゃない。光栄だろ?」
「馬鹿やろうっ!どうしていいかわからんようになっただろうがっ!」
「わざと負けたの?」
「本気で負けたんだ。言わせんな。それをぼっちゃんはあっさり勝ちやがって」
ダンの愚痴が止まらない。よっぽどストレス溜まってたんだな。帰ったらハチミツでも買ってやるか。
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