第179話 ゲイル王都へその9
軍馬調教所の調教師達ともあれから仲良くなり、調教師達も馬を可愛がるようになっていた。
エイブリック邸に来てから5日目。王様は毎晩夕食を食べに来ていた。
「今回持ってきた料理のレシピは昨日で終わり。今日からはお菓子作りに入るけど担当決める?」
お菓子作りの担当とはパティシエだ。全員に教えてると他の料理が作れなくなるから業務に差し支える。
ヨルドも興味ありそうだったけどお前はダメだぞ。
「ぼ、僕やりたいです」
手を上げたのはまだ見習いだろうか?かなり若い。成人して間もないんじゃなかろうか?
「じゃ、君ね。名前は?」
「ポットです」
「じゃ、やろうか。まずは素材とクリームとかの作り方ね」
様々な物を詰め込みで教えていく。カスタードクリームや生クリーム、お菓子用のチーズの作り方からケーキ類の類い。
驚いた事にここには白砂糖があった。めちゃくちゃ高いらしいけどバンバン使う。蛇の卵に金貨1500枚も払うんだ。白砂糖の値段なんて気にしないだろう。
ポットはもうヘロヘロだけど、俺もそろそろ帰りたい。ダンは何も言わないけど同じ気持ちだろう。
昼飯もささっと厨房で食べる。
「さ、どんどんやるよ」
今からはスポンジの作り方だ。こねすぎないよう、だまにならないようにまぜていく。これは晩御飯のデザートに出す予定だ。生の果物でケーキに使えそうなものが無いのでシフォンケーキで我慢する。
「おー、ゲイル。水くさいぞ。来てるなら来てると言えっ!」
「ア、アルファランメル様、このような場所に・・・」
「父の屋敷だ。俺が来ても構わんだろ?」
「あ、アル!久しぶり。学校は?」
「いま帰って来た所だ。明日は休みだから、一緒に狩りに行こう」
「来月うちに来るんでしょ?ここでしなくてもいいんじゃない?」
「いや、待ちきれん。明日の昼飯は森で食おう。楽しみにしてるぞ。おい、ヨルド、晩飯はハンバーグだ。もう作れるようになったんだろ?」
「はい、師匠のお陰で作れるようになりました」
「師匠?ゲイルがヨルドの師匠か。ゲイル、こいつは王都で1位2位を争う料理人なんだぞ。その師匠ならばゲイルは王都1位だな。あっはっはっは」
やめて・・・そんな順位聞きたくなかった。めっちゃ偉そうに言ってるんだよ俺・・・
「ジョンも来てるからな。晩飯は一緒に食えよ」
アルファランメルは慌ただしく現れ、慌ただしく消えて行った。
「ヨルドさん、そんなに凄かったんだごめんね」
「何をおっしゃいますか師匠。自分の未熟さを気付かせて貰って感謝しておりますぞ。まだまだ成長出来るのも喜びです」
「ならいいけど・・・。アルのハンバーグはチーズインにしてあげて。喜ぶと思うから。あとポテトサラダと鶏肉のマヨ焼きも付けようか。マヨ焼き好きなんだよね」
「アルファランメル様ともお知り合いでしたか?」
「うちの兄貴、長男のジョンっていってね、騎士学校で同級生の友達なんだ。それで夏休みに遊びに来てたんだよ」
「そうでしたか。アルファランメル様から色々と作るように言われたのはそれが理由だったのですね。どれも実現出来ずに落胆されましたが、やっと汚名返上が出来ます」
「じゃ、料理はお願いね。こっちはデザートのケーキ作るから」
ポットの作るスポンジは固かったり、モソモソしたりしてなかなか上手く焼けなかったが、夕食までになんとか及第点のものが焼けた。
「じゃ、このケーキは食後に生クリームを添えて出してね」
俺は執事に連れられて食堂へ。
「ジョンっ、久しぶり。元気だった?」
「ゲイル、久しぶりだな。少し大きくなったか?」
「夏休みからそんなに経ってないのにあんまり変わんないよ」
俺が来る前に王様とジョンは挨拶をすでに終えていたようだ。
「ゲイル、宝物庫の件じゃが、明日の早朝はどうじゃ?その時間だと口うるさいのもおらんからちょうどいい」
「おじいさま、ゲイルを宝物庫に入れるのですか?」
「ディノを見せたくてな。自分の親がどんな怪物を倒したか知りたかろう」
「私とジョンも同席させて下さい」
「アル、宝物庫は王族であっても成人してなければ・・・」
「良い良い。ワシと一緒に入れば問題なかろう。口うるさい宰相も早朝にはおらんであろうからな」
「明日の夜明け前にワシの所へ来てくれ。エイブリック、お前が案内せよ」
王様はエイブリックを共犯に巻き込んだ。巻き込まれたエイブリックは渋い顔をしている。
「そろそろお食事をお運びして宜しいでしょうか」
「頼む」
アルはチーズインハンバーグとマヨ焼きにポテトサラダをがっついた。
「お前よく食うようになったな」
「やっぱり旨い。父上、俺の言った通りだったろ?ディノスレイヤ家では毎日旨いものばかりだった」
「アル、これからここに戻ってきたら食べられるよ。ヨルドさん達にレシピたくさん教えたから」
「ホントか?ピザとかもあるか?」
あー、忘れてたな。
「それは忘れてた。帰るまでに教えておくよ」
「頼んだぞ!」
「アルよ、明日は休みであろう?宝物庫を見た後どうするんじゃ?」
「ゲイルを連れて森で狩りをしてそこで喰うつもりです。遠征の訓練ですよ」
「何?そこで食うとな?どうやってじゃ」
アルはうちの森でのことを話した。
「ほぅ、そのような事をのう・・」
「父上、ダメですよ。この前の狩りでも調整が大変だったのに」
「う、うるさいっ!誰も行きたいとは言ってはおらんじゃろ」
いや本当に来るとか言い出すかと思ったよ。
「そうだゲイル、蛇討伐の話をしてくれ。すごいのやったそうじゃないか。」
ジョンも知ってるのか。俺はまた討伐の話をさせられた。
「アル、面白い物を見せてやろう。訓練所に行くぞ」
ご飯食べた後はゆっくりしようよ・・・
王様も行くとの事でぞろぞろと向かう。ダンも呼んでやったら嫌そうな顔をしていた。分かるよその気持ち。だから分かち合おう。
ー訓練所ー
「いいか、見てろよ」
ボゥ ボゥ ボゥ
お、ミスリル銃無しで撃てるようになってんじゃん。手は銃を構えてるようになってるけど。
「父上っ!いつの間に火魔法を撃てるようになったんですかっ?」
「どうだ凄いだろっ!」
「おぉ、エイブリックが火魔法攻撃を・・・。ゲイルが教えたのか?」
チラッとエイブリックを見るとうなずいたので、
「そうだよ。ほんの少しね。ほとんど何もしてないけど」
「宮廷魔導士達が教えても無理だったのじゃぞ。何もしてないわけがなかろう。どう教えたのじゃ?」
「エイブリックさんと一緒に撃っただけだよ。ドン爺もやってみる?」
ドン爺?
「ゲイル、その呼び方はなんだ?」
アルが驚いて聞いてくる。
「いや、こう呼べって・・・」
「フォッフォッフォ。いいじゃろ?ゲイルはワシの孫みたいなもんじゃ、ささ、ワシにも教えてくれ」
エイブリックは王様にミスリル銃を渡し、銃の説明をする
「じゃ、ドン爺の体を通して撃つから良く見てて、自分が撃ってるように思ってね」
王様に銃を構えてもらって撃っていく。
「そのまま火魔法をイメージしてて」
俺は火魔法から純粋な魔力に少しずつ切り替えていく。
ボゥという火魔法から徐々に小さい火の玉になるのでイメージを強くと言い続けると、徐々にボゥっと大きくなりだした。
「そのまま、そのまま」
ボゥ ボゥ ボゥ
少しずつ魔力を抜いて行き、完全に抜いてもボゥ ボゥと飛んでいる。
集中している王様から手を離して見てるとそのまま撃てていた。
「ドン爺、もう自分で撃ってるんだよ」
「何っ!」
スッと飛ばなくなる。
「さすがはエイブリックさんの父上だね、こんなにすぐに撃てるようになるとは思わなかったよ」
「本当にワシの力で撃ってたのか?」
「父上、最後はゲイルが手を離してましたよ」
「わ、わひも撃て撃て・・・」
号泣し始める王様。どうやら魔法が使えない事がコンプレックスだったらしい。
誰にも言えないコンプレックスか。王様って辛いよなぁ、
「ゲイル、ほ、褒美を遣わす。何なりと申せ」
「別に何か欲しくてした訳じゃないからいいよ。蛇も高額で買ってもらったし。それに俺の爺さんなんだろ?褒美とかいらないよ」
そう言うとさらに号泣し抱きしめられた。同世代に抱き締められても嬉しくねぇ・・・
それをじっと見ていたアルが、
「ゲイル、俺にも教えてくれるよな?」
「冬休みに遊びに来た時ね。でも騎士には魔法いらないんじゃない?」
「お前も剣を稽古してるだろ?それと同じだ」
魔法に嵌まると剣がおろそかになりそうだけどいいのかな?
「そうだ、お前に稽古を付けてやる。誰か木剣を持て」
なんでそうなる?
「よし、どこからでもいいぞ。好きに打ってこい。」
はぁ、仕方がない。ちょっと付き合うか。
「遠慮なく行くからね。」
相手はジョンと同レベルだ。思いっきりやっても問題なかろう。
アルの呼吸を感じとる。ボアにやったのと同じ要領で すー はー すー はーはっ
俺はアルが息を吐いた瞬間に切り込んだ。アーノルドやダンの戦いを見てからイメージがしやすくなっている。
カンっ といなされるがそのまま切り落としから振り上げて横切りの連携に持ち込む。
カッ カッ カッとすべて受けられた。
「見事だゲイル!必死でかわすはめになるとは思わなかったぞ」
ハハハハッと笑いながら反撃される。
ちょちょちょっ 打ってくるのかよ?
カンカンカンと受けたあと剣を弾かれた。
「参りました」
ふっふっふと勝ち誇るアル。
「ダン、俺の仇をとってくれ」
ダンも巻き込んでおこう。巻き込まれたダンはめっちゃ嫌そうな顔をする。王子様の息子を王子様の前でやっつけろと命令されたらこんな顔になるんだな。
「師匠お願いします」
アルはノリノリだ。森での稽古を思い出しているのだろう。
アルが一方的に攻めるがダンは軽くいなしていく。アルの一瞬の隙を見逃さず剣をカツンと弾いた。
「やっぱりまだまだですね」
「いや、夏よりも伸びてるぞ」
今の反省点をここをこうとか指導する。
「おい、ダン。俺とやろう」
エイブリック参戦。ダンが俺を睨む。お、俺のせいじゃないからねっ。と、視線をそらす。
「では宜しくお願いします」
ダンは諦めて立ち合うようだ。
カカカカカカッ
お互いに様子見もせずに打ち合い始める。
段々とスピードアップしていき目で追えなくなっていく。エイブリックもさすがは英雄パーティー。魔剣無しでも強い。
もうどうなってるかぜんぜんわからん。ちょっと目に強化魔法をかけて見たらみえるかも。
お、動体視力が上がった。こんな使い方があるのか。
見える!私にも見えるぞ!
さっきは同格かと思ってたがエイブリックが押してるようだ。
ボキッ
ダンの剣が折れた。いなしきれなくてまともに受けたな。
「参りました」
「貴様強いな。俺とここまで撃ち合えたやつはほとんどおらんぞ。護衛頭の100倍強いとゲイルが言ったのは嘘じゃなかったな」
負けたダンを絶賛するエイブリック。
「よし、次はゲイル、かかってこい。」
「無理だよっ」
「お前は魔法を使え。ただし死ぬような攻撃は無しだぞ」
エイブリックの奴、やる気満々だな。
「遠慮なくやっていいの?」
「構わんぞ」
「ダン、開始の合図して」
フフッと笑うダン。俺が何をするか読んでるな。
「始めっ!」
合図と同時に身体強化で後ろに飛ぶと同時に分厚い土壁を出す。ちょっと驚いたくらいでぶつからずに横に避けるエイブリック。
よし距離が取れた。次は一気に魔力を吸ってやる。
ズズズズズッー
「ぬおぉぉぉ」
エイブリックはその場で膝を突いた。
「ギブ、ギブ、やめろゲイルっ!」
魔力を吸うのを止める。
「お前は離れてても魔力を吸えるのか?」
「離れると吸えるスピードは落ちるけどね」
会話している途中でこっそり魔力を捨てて吸える状態にしてあったのだ。あれでギブしてくれなかったら負けてたかな。
「無詠唱で魔力吸えるなんて聞いてないぞ」
「知ってたら対処されるからね。武器は隠しておくものだよ」
ゲイルはフフンと笑って答えた。
「父上、今ゲイルは何をしたんですか?」
「うるさいっ!」
あ、エイブリックが拗ねて、息子に八つ当たりしやがった。
俺は王様に盛大に誉められ、撫でぐり回された。
ジョンは遠慮しているのか、立ち合いや魔法を教えてほしいとか言わずに黙って見ていたのだった。
そういやシフォンケーキ食ってないじゃないか。
「ポットが作ったデザートをまだ食べてないから戻ろう。せっかく作ったのに食べて貰えなかったからしょげてるかもしれない」
俺はそう言って王様の手を引き、反対の手でダンを掴んだ。
うまーい!
生クリームの付いたシフォンケーキは好評でアルから
「これは次の社交会で話題になりますね」
と言われ、すっかりご機嫌になった。
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