第176話 ゲイル王都へその6
狩りをする場所は王族専用の森らしい。危険な魔物が排除された安全な場所だそうだ。
王様が狩りに行くと大事になるらしく、うちの馬車に乗って森に向かう事になった。護衛がぞろぞろと付いてくるのでバレバレだと思うけど。
馬車に王様、王子様、辺境伯当主。世間から見ると物凄いメンバーだろう。俺の場違い感半端ねぇ
シルバー、クロス、ソックスの3頭立てだがスピードは出さない。御者をするダンは丁寧に馬車を走らせた。
「アーノルドよ、これはディノスレイヤ領の馬車か?」
「そうです。いつもは借り物でしたが新調いたしました」
「この馬車は装飾こそ粗末じゃが、この乗り心地はなんだ?まったく揺れんぞ?」
「領周りは王都ほど道が整備されておりませんので、職人が創意工夫しながら作ってくれたものです。ゲイルが馬車に弱いもので、なるべく衝撃がないものをと」
「ほうー、見事な作りであるな。これは王家も取り入れる事が出来るのか?」
「それは職人次第ですが、かなりの時間と費用が掛かる為、あまり作れないとは聞いております」
「エイブリックよ、どう思う?」
「驚きました。アルから聞いていましたがここまでとは・・・」
「何っ!アルファランメルはこの馬車に乗った事があるのか?なぜじゃ?」
「騎士学校の同級生にアーノルドの長男がいるのですよ。アーノルドが息子の様子を見に来た時に一緒に乗ったそうです」
「そうか、アーノルドの長男がアルと同級生なのか」
「剣の腕前が良く、アルとはライバルでもあり、友達でもあり仲良くしてますよ。夏にはアーノルドの所で世話になって冬にも遊びに行くと言ってました」
「そうか、アルは良い友達を手にいれたのだな。それがアーノルドの息子とは愉快じゃ。して冬に遊びに行くとは何をするんじゃ?」
「アルが来たら鱒釣りに行く予定だよ。夏に来た時に鱒釣りの話をしたら絶対行くと言ってたから」
「そうか鱒釣りか。まぁ狩りに比べたら小物であろう?それほど楽しみにするものか?」
「大きいのはこれくらいあるよ」
俺は両手を広げる。
「何っ?そんな鱒がいるのか?」
「うん、アベレージはこれくらいだけどね」
手を広げて大きさを示す。
「そうか、冬休みに鱒釣りか」
まさか来るつもりじゃないだろうね?
「父上、無理ですよ」
「わかっておるわっ、妄想するくらいかまわんじゃろっ」
良かった。王様が釣りに来るなんて大事はごめんだからな。しかし、偉くなると何にも出来なくなるね。ちょっと可哀想な気がする。俺は王様とかごめんだな・・・
馬車の歩みがゆっくりになった。そろそろ到着かな?
「到着いたしました」
「では参ろうか」
俺たちは歩いて森の中にむかう。
「エイブリックさん、狩るのはウサギでいいんだよね?」
「そうだな、他に何かいるならそれでも構わんぞ」
「他に何がいるの?」
「鹿、ボア、鶏だな。熊や他の魔物はおらん」
うちの森と同じだね。
「土魔法で狩ればいいんだよね?」
「あぁ、それが見たいんだ」
ポイントが分かればすぐに終るんだけどな。アーノルドに広範囲に探って貰おうか。
「父さん、近くにいる?」
「いや、この辺りは狩りつくされてるんじゃねーか?反応を感じないな」
やっぱりそうだよね。もう少し奥まで進むしかないか。30分ほど進むとアーノルドがスッと手を出して皆を止める。どこだろう?
「あの木と木の隙間にいる。蔦も絡んでで厄介な所に隠れてやがる」
んー?
あ、居た。やっぱりアーノルドは凄いなぁ。
(エイブリックさん、あれを狩るね)
(あんな所のもいけるのか?)
(おい、ワシにはどこにいるのかわからんぞ)
(ほら、あそこの木の間。蔦が絡んでる下だよ)
(まったくわからんぞ)
(ゲイル、いいからやってくれ)
(わかった)
ザシュッ
「はい、狩れたよ」
「何っ?」
「いつ狩ったんじゃ?」
「今」
「どれじゃ?」
俺はポテポテとウサギの所へいく。
この蔦邪魔だな。手が入らないや。少し魔力を捨てて、えいっ。
蔦がぼろぼろと崩れる。これで手が届く。
ウサギを持ち上げて 。
「さ、終わったよ」
と振り返ったらアーノルドが頭に手を当てていた。
「ゲイル、今何をした?」
「え?ウサギを狩ったんだけど?」
「そうじゃないっ!蔦はなぜ枯れた?」
「蔦の魔力吸ったからだけど?」
アーノルドはハーッとため息を吐いていた。あれ?自重しなくていいと言ってたよね?
「えっと・・・」
「・・・エイブリック、ゲイルは魔力を吸えるんだ」
「何っ?あのリッチの魔法か?」
「同じかどうかわからんがな。最近知った」
「それは植物だけか?それとも人からもか?」
「あー、人からもだ・・・」
「おい、ゲイル、俺から魔力は吸えるか?」
「多分」
「やってみてくれ」
「いいの?魔力吸われるのしんどいらしいよ?」
「構わん。やって見せてくれ」
俺はエイブリックに手を当てた
ズズズッ
ぐっ、と苦しそうにして膝をつくエイブリック。
「ほら、キツイんでしょ」
そう言って魔力を戻す。
「ん?今のは?」
「今吸った魔力を戻したんだけど? 」
・・・
・・・・
・・・・・
「アーノルド、お前、今日帰れると思うなよ」
エイブリックおこ。
王様は何が起こってるのかさっぱり解ってなく、どうしたんじゃ?どうしたんじゃ?またワシをのけ者にするつもりか?と喚いていた。
その後、王様が見えるように鹿とウサギを狩って終了となった。
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