第175話 ゲイル王都へその5

お昼ご飯はハンバーガーにする。


コック達にハンバーグとプライドポテトの準備をさせ、パンもいつもより丸く成形させて焼いてもらう。


中の野菜はなんにしようかな?オニオンスライスとレタスを入れようか。


「ヨルドさん、レタスはある?」


「残念ながら今はありません」


「じゃ、庭で作ろう」


「は?作る?」


庭に移動して持ってきた種を埋めてにょきにょき ポンっ。


「じゃ、これを使おう」


「な、なんなんですか今のは?」


「魔法だよ。葉物は受粉しなくていいから楽だね」


この屋敷では俺に対する箝口令がしかれてるので自重しなくていいらしい。


ヨルドはあんぐりしたままだ。王都にも魔法使いぐらいいるだろ?


「ハンバーグを焼いていって」


パンを半分に切り、チーズを乗せたハンバーグ、オニオンスライス、レタス、トマトソースで完成。


ベーコンと根菜のスープ、ポテトサラダ、フライドポテトにドリンクのセットだ。エイブリックとアーノルドの分を用意して、厨房にいる全員は同じものをここで食べる。


ドリンクはオレンジジュースだ。


「さ、俺達も食べよう」


うぉぉおー!旨い。

なんだこの組合せは


コック達が驚きの声を上げていく。


「ゲイル様。いや、師匠と呼ばせて下さい。是非このレシピ全てを教えて下さい」


コック達陥落。こうしてゲイルはエイブリック邸コック達の師匠となった。


昼からも次々とレシピを伝授していく。さすがにプロの料理人達。俺を認めたあとは素直に言うことを聞くようになり、サクサクと覚えていく。


しかし、レシピを沢山用意し過ぎて初日は半分くらいしか伝授出来なかった。


晩餐は揚げ物のオンパレードにしてやった。アーノルドもエイブリックも胃が丈夫そうだからな。



「ぼっちゃん、疲れたな。料理ってのは重労働だな」


「おやっさんの作ってくれた調理器具があってこれだからね。俺が職業として料理を作りたくないって言ったの分かるだろ?これが毎日延々と続くんだよ」


「俺は耐えられんな」


「だろ?自分達が楽しむ物は作るけど、商売となったらしんどいんだよ。誰かに作って貰う方がいいに決まってる」


「違いねぇ」


しかし、どうするかね?初日は料理教室、翌日午前中は狩りをして帰る事になってたよな。持ってきたレシピを伝え切れないのはちょっと残念だ。コック達はまだ俺が滞在すると思ってるみたいだし。それとスパイスをまだ使わせてもらってないんだよなぁ。


ゲイルとダンは厨房を後にして、執事の人に案内されて応接室に入った。


「ゲイルよ、本日の飯は見事だった。旨かったぞ」


「お口にあったようで何よりです。父さん、明日狩りをしたら帰るんだよね?」


「その予定だが。どうした?」


「今日、レシピを色々教えたんだけど、半分くらいしか出来なかったんだよね。お菓子に関してはまったく手をつけられてないんだよ」


「あとはレシピを渡すだけでなんとかなるんじゃないか?」


「みんな料理の腕は優秀だから何とかなるとは思うんだけど、お菓子類は無理かなぁ。見たことも食べたことも無いものを作っても上手く出来てるかどうかわかんないでしょ?」


「それはそうだが、俺は明日までしかおれんぞ」


「ゲイルよ、お前は帰らねばならん理由はないのだろ?お前さえ良ければ全て教えるまで残ってくれないか?」


「それはいいけど、父さんどうしたらいい?」


「はぁ~、お前が決めろ。俺は明日帰らないといかんから、残るなら置いていく事になるがな」


「じゃあ、ダンと残るよ。やりかけたこと放置して帰ると気掛かりだから」


「ゲイル、見事な心意気だ。なんならずっとここにいてもかまわんぞ。それともいっそ養子に入るか?」


「おいっ、エイブリック!」


「はっはっは、冗談だ。しかし、その気になったらいつでも言え。喜んで受け入れるぞ」


「あははは・・・」



ダンと一緒に寝る前にシルバー達の様子を見に行く。今日1日かまってやれなかったからな。


俺の気配を察知して駆け寄ってくるシルバー。


「寂しかったかシルバー?」


ブヒンブヒンと豚のように鼻を鳴らして俺にまとわりつくシルバー。


「えっと、そちらさんはエイブリック様のお客人ですな」


話し掛けてきたのは馬の面倒を見てくれている人らしい。口髭をはやしたスマートな老人手前って感じの人だ。


「そうだよ、俺はゲイル。こっちはダン。明日帰る予定だったんだけど、もう少しここにいることになったから、このシルバーとそっちのクロスもしばらくお願いするけどいいかな?」


「それはもちろんかまいませんよ。しかし、見事な馬達ですな。よく可愛いがられているのがわかります」


「えっと、名前を教えてもらってもいいかな?」


「これは失礼しました。トビーラスと申します。トビーとでもお呼びください」


「じゃトビーさん。ちょっとここで乗ってもいいかな?」


「乗る?ぼっちゃんが?」


ダンが鞍を持ってきてシルバーにセットしてくれ、シルバーはそっとしゃがんでくれるのでよじ登った。


「シルバーはね、とっても賢いんだよ。シルバー、ゆっくり歩いて」


ポコポコと歩きだすシルバー。もう暗いので安全に歩く。


「こりゃ驚きましたな。そのお歳で見事な馬さばきだ」


「他の馬に乗れるかどうかわかんないけどね。シルバーなら大丈夫」


ほうほうと感心して俺たちを眺めるトビー。


しばらくぐるぐると馬用の広場を回ってから降りた。降りてからもシルバーは俺にベッタリだ。


「いや、良いものを見せて貰いました。ここまで馬が懐くとは」


「どこか馬を走らせる所あるかな?」


「王都の中では軍馬の調教をする場所だけですな。もしくは外に出るしかありません」


「そっか、外に出るほど時間取れないかもしれないな。その調教所は朝だけでも使うことは可能かな?」


「はい、では私めがご案内させて頂きます。明後日からで宜しいですかな?」


「うん、お願い。明後日の夜明けにくるけど大丈夫?」


年寄りは朝が早いので大丈夫ですよ、とのことだったので遠慮なくお願いしておいた。



翌朝の厨房も大忙しだ。今日はコック達に朝食後、狩りに行くことを伝え、お弁当にサンドイッチを作ってもらった。朝ごはんはエイブリック達と一緒に食べろと言われているので、朝食の準備が終わってから食堂へ行く。


「おはようございます」


「おう、朝からご苦労だなゲイル」


エイブリックは今日もご機嫌だ。訓練所で撃ちまくってるのかも知れない。


ん?ヒゲの恰幅のよいおじさんが一番良い席に座ってるぞ。


それを見たダンがさっと跪いて頭を下げた。


「ゲイル、俺の父上だ。急遽狩りに参加することになってな」


「初めまして。ゲイル・ディノスレイヤです。エイブリックさんの所にしばらくおじゃますることになりました。宜しくお願いします」


「そなたがアーノルドの息子ゲイルか?よく来たよく来た。ワシはドゥンリック・ウェストランドじゃ。お前に会えるのを楽しみにしておったのじゃ。ちとこちらへ来てくれ」


ドゥンリック・ウェストランド?

この国の名前が家名? は?


「ゲイル、王の前だ。頭を下げろ」


ふと気が付くとアーノルドも膝をついていた。


「構わん構わん。ここは私邸じゃ。公の場ではないから頭を上げて楽にしろ。窮屈で敵わん。アーノルドもそちらの者も膝をつく必要はない」


はっ、と返事して二人は立ち上がる。なに?王様?


「えっと、父さん。あの爺さんは王様?じゃエイブリックさんは王子様?」


アーノルドはこくっと頷く。


げっ、王子の護衛を俺はぶちのめした挙げ句、無駄飯食らい呼ばわりしたのか?王子にあんな口のききかたしてたらそりゃ怒るよな。悪いことしたな。


「そうだ。公の場であんな話し方するんじゃないぞ」


「大変失礼致しました。知らなかった事とはいえご無礼な・・・」


「そんな畏まってしゃべるな。今まで通りでいい。お前達までそんな態度を取るな。つまらん」


そうなの?じゃ遠慮なく・・・


「良かった。畏まってしゃべる機会少ないから面倒臭いんだよね」


「ゲイルお前ってやつは・・・」


頭を押さえたアーノルド。本人が普通にしろと言ってるからいいじゃんかよ。


「それよりゲイルよ、ちとこちらに来い」


俺は呼ばれるままに王のそばに行った。


「そなたの討伐した蛇は見事なものであった。てっきりアーノルドが討伐したのかと思っておったがまさかこんな小さな子供が一人で討伐したとは驚いたぞ」


「もしかして王様があの蛇を落札してくれたの?」


「そうじゃ、宝物庫に保管してあるぞ。ディノと並べてある」


「王様ありがとう。凄い高額で売れたからびっくりしてたんだ。ディノも保管してあるんだ。へぇ。どんなのか見てみたいな」


「こらっ、ゲイル!宝物庫は王族しか入れん。それも限られたものだけだ!」


「そうかディノを見たいか。そうかそうか。よし連れてってやろう。誰もあの良さがわからんでのう。一緒に見てくれるものがいるのは嬉しいぞ」


「父上、それはさすがにまずい・・・」


カッと目を見開く王様。


「見るくらい構わんっ!ワシが許可するのじゃっ!」


おぅ、柔和なおっさんかと思ったら迫力あるじゃねーか。さすが一国の王だな。びっと空気が引き締まるわ。


「ありがとう王様。でも皆に迷惑かけそうだから気持ちだけ貰っとく」


「ほらみろ、お前らがつまらんことを言うから子供に気を使わせてしまったではないかっ。ゲイル、遠慮するでない。ワシが案内してやるから問題ないぞ。ここにはいつまでいるんじゃ?」


「料理のレシピを教え終わるまでだからあと3~4日くらいかな?」


「料理のレシピ?」


しーっと口に手をやるエイブリック。あれ?内緒だったの?


「さ、父上。朝食を食べて狩りに参りましょう。アーノルドは午後には戻らねばなりませんので。早めに出た方が宜しいでしょう」


朝ごはんは目玉焼きとベーコン、ソーセージ。レタスのサラダに鶏ガラ出汁の玉子スープだ。


パンはトースト。


「おや?見たことがない朝食じゃな?これは干し肉か?アーノルド達がいるから冒険者風の朝食というわけじゃな?」


どうやら内緒らしいので俺は黙るしかない。


「おぉ、この干し肉は旨いな。一度食べたことがあったが、まるで違うぞ」


あー、目玉焼きに絡めて食べた方がいいよ、とは言えないこのもどかしさよ。


「こっちのはなんであろうか?」


パリッ


「ふむ、この干し肉と似た風味を持ちながらパリッとした歯ごたえ、実に旨い。このパンは見たことがないのう。おお、最近旨くなったパンにも似てこれも旨いな。アーノルドよ、最近の冒険者はこのような物を食べておるのか?」


「はぁ、まぁ・・・」


苦笑いのアーノルド。


「実に旨い朝食じゃった。久々に飯が旨いと思ったぞ。では狩りに参ろうか。ゲイルの狩りを楽しみにしておるぞ」


「王様もなんか狩るの?」


「王様か・・・。エイブリック、おまえゲイルからなんて呼ばれてるんじゃ?」


「そのまま、エイブリックさんと」


「ワシだけ名前で呼ばれておらんのか。それも寂しいものじゃな。よし、ゲイル、ワシの事はドゥンと・・・いや、ドン爺と呼べ。アーノルドの息子ならワシの孫同然じゃからの」


「ドン爺?」


「父上、それはちょっと・・・」


止めさせようとしたエイブリックをキッと睨む。


「お前、ゲイルに普通に接しろと命じておったな?ワシだけのけ者か?お前はワシだけのけ者にする気か?」


「いや、そういうわけでは・・・」


「なら、構わんであろう?なぁアーノルドよ。お前の息子はワシの孫同然じゃよな?そうであろう?」


やっぱり王様ってのは我が儘なんだな。これはどこの世界でも同じかもしれん。


「ドン爺って呼んだらいいんだね?じゃ遠慮なくドン爺って呼ぶよ?」


「おー、そうしてくれ。ワシはドン爺じゃ。お前のじじと思ってくれてかまわんぞ」


「俺にはお爺さんがいないから嬉しいよ」


といっても元の年齢で考えると同年代かもしれないんだよなぁ。それを俺は爺さん呼ばわりするのか。俺がポポにじーちゃんとか呼ばれたらやだな・・・


「ゲイル、王がそうおっしゃれてるからと言って調子に乗らんでくれよ。頼むから・・・」


アーノルドは複雑な顔をしていた。


心配するな。なにかあってもお前の教育のせいにするから。






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