第173話 ゲイル王都へその3

「へぇ、ここがエイブリックさんの家かぁ。物凄く立派だね。うちの屋敷とは比べ物にならないや」


まるで城みたいだ。やっぱりかなり有力な貴族なんだな、門とかもすげぇ


門番に馬車ごと通してもらうと手入れの行き届いたガーデンというか公園みたいな所を馬車で進む。


「ようこそおいでくださいました。アーノルド・ディノスレイヤ様、ゲイル様、ダン様」


「アーノルド様よぉ、俺まで良かったのか?」


ダンはお客様扱いされて恐縮しているようだ。


「あぁ、かまわんぞ。やつにもダンの話はしてるからな」


俺達は執事らしき人に案内され応接室に入った。


「おう、お前がゲイルか。聞いた通り小さいな」


この人がエイブリックだろうか?


「初めましてエイブリックさん。ゲイル・ディノスレイヤです」


俺が挨拶すると護衛らしき人がピクっと動く。あれ?


「そっちは?」


ダンはさっと床に膝を突き胸に手を当てて頭を下げる。


「初めましてエイブリック様。ディノスレイヤ家使用人、ゲイル様の護衛をしております、ダンと申します」


あれ?ダン敬語使えるじゃん?それになにその挨拶?


「お前がダンか。堅苦しい挨拶はいい。頭を上げて立て。今回は私用だから気を使わなくていい」


はっ、と返事をしてダンは立ち上がった。


【エイブリック】、アーノルド達とパーティーを組んでいた炎の魔剣使い。それに真っ赤な髪に金色のメッシュ・・・


この歳でまだヤンキーなのだろうか?


「この後、料理人にレシピを教えて貰うが何種類ぐらいある?」


「んーと、結構あるよ。お菓子のレシピも持ってきたから今日中に伝えきれるかなぁ?料理人のレベルもわかんないし」


またもやピクピク護衛達。


あれ?敬語使った方が良かった?


チラっとアーノルドを見るとクスクス笑ってやがる。まぁ、深刻な問題でもないだろう。エイブリックも怒ってなさそうだし。


「そうか、それは助かる。アルがお前の所で食べた料理を気に入ってな。料理人にも作らせてみたがまったく再現出来ないらしい」


「あ、そっか。エイブリックさんはアルのお父さんだったよね。アルはどれもめっちゃ美味しそうに食べてたよ。また冬休みに来るって言ってたから、一緒に鱒釣りに行く予定なんだよ」


「きっさまぁ!」


護衛の1人が殺気を放って剣に手を掛けようとする。俺は咄嗟にミスリル銃を構えた。


「やめんかっ!俺が許可している」


エイブリックが護衛を叱る。


しかし・・・と答える護衛。


「お前、剣を抜いていたら死んでいたぞ」


 「ま、まさかこんな子供に…?」


「信じられないなら後で立ち合わせてやるぞ。ゲイル、うちの護衛を殺しても構わんから立ち合いをするか?」


はぁ?何言ってんのこの人?それに何なんだよ人を呼びつけておいて。剣を抜こうとするとか酷くないか?


「おい、お前は護衛の癖に相手の実力もわからんのか?コイツはあのフォレストグリーンアナコンダを1人で瞬殺したのだぞ。命拾いをしたと思え、下がれっ!」


コソッ

(父さん、俺なんか不味い事を言ったかした?)

(別に構わんぞ。エイブリックも上機嫌だしな)


ならいいけど。


「しかし、ゲイルよ。蛇の討伐の話はアーノルドの親バカの戯言かと思っていたが、今の身のこなしを見て信じる気になったぞ。それとお前が構えたソレはなんだ?」


「これ?これはおやっさんが作ってくれた護身用の銃だよ」


「見せてくれ」


アーノルドからエイブリックには隠し事は不要と言われているから素直に話して銃を手渡した。


「これはなんだ?ミスリルで出来てるのはわかるが。それにおやっさんとは誰だ?」


「武器屋のドワンだよ。知ってるでしょ?」


「これはドワンの作か。どうやって使うんだ?」


「慣れていないとここで使うのは危ないよ。俺が魔法を使う事を知られるのはダメだから魔道具と言うことにしてあるけど、本当はただのミスリルの塊なんだ」


「アーノルド、どういう意味だ?」


「ゲイルの言った通りだ。そいつはただのミスリルだな。それ以上でも以下でもないぞ。ゲイルはソレ無しで魔法を撃てるからカムフラージュ用だ」


「しかし、ドワンが作ったんだ。何か意味があるのだろう?」


「俺にはカムフラージュ用だけど、これは魔法を使えない人の練習に使えるんだよ」


「練習用に?」


「そう。おやっさんも土魔法攻撃出来るようになったし、ダンも火魔法攻撃出来るようになったよ。父さんは・・・」


「い、一応使えるぞ」


「何?ドワンは火魔法しか使えんだろが。それにアーノルドは魔法すら使えんかっただろ?まさか引退してから使えるようになったとか言うなよ」


「そのまさかだ。魔法は誰にでも使えるようになるらしいぞ。お前も魔剣じゃ無しに火魔法を撃てるぞ」


「嘘つけっ、何度も試したが上手くいった試しがなかったのだぞ」


「じゃ試せばいいじゃないか?自分で見ないと信じられんだろ?」


「よし、地下の訓練所に行くぞ。」


「料理は?」


「後でいい」


何の為に呼んだんだよ?



ー地下訓練所ー


へぇ、地下にこんな場所あるんだ。凄いな。


「ゲイル、手本を見せろ。エイブリックどの魔法がいい?」


「どの・・・?」


意味がよく分かってないエイブリック。


「じゃあ土、火、水の順で撃つから使えるようになりたい魔法を選んで」


ゲイルはミスリル銃を構えて順番に撃つ。


ドカカカカッ


ボゥ ボゥ ボゥッ


ビシュ ビシュ ビシュッ


「どれにする?」


「今のは魔法か?」


「そうだよ。」


「詠唱は?」


「知らない」


クックックックッとアーノルドとダンが笑う。


「な、見るまで信じられんだろ?」


「おい、誰か。さっきの護衛を呼べ」


おいおいおい、立ち合いさせる気かよ。


「お呼びでしょうか」


「お前、ゲイルと立ち合え。それとここで見たことは他言するな。お前らもだ」


「はっ」


「ゲイル、どの魔法を使ってもいい。立ち合え」


立ち合いと聞いてニヤッと笑う護衛。顔以外甲冑に隠されている。それって戦うというより、護衛対象を守る為の装備じゃないのか?


「エイブリックさん、こんな重い甲冑着たまま戦わせる気?ノロくて相手にならないと思うよ。それとも父さんくらい動ける人?」


「アーノルドみたいな奴がそうそういてたまるもんか。おい、甲冑着たままでいいか聞かれてるぞ」


「ふんっ 甲冑を脱がす為に姑息な手を」


あっそ、別にいいけどね。


「剣抜いておかなくていいの?」


「うるさいっ」



「では始めっ!」


ドカカカカッ


ドサッ


「ハイお仕舞い。甲冑に撃ったから怪我はしてないと思うよ」


「おいっ!コイツを運びだせ」


剣を抜く前に倒された甲冑の人が運び出されて行く。


「エイブリックさん、あの人が護衛で大丈夫?ダンの方が100倍強いよ」


「あっはっはっは!そうかダンの方が強いか。あれは護衛頭だぞ」


「じゃあ、エイブリックさんは護衛必要ないんじゃない?お金の無駄だと思うよ」


「そう言うな。雇わねばならん理由もあるからな」


ふーん、あんなの居ても邪魔だと思うけどね。


「お前面白いな。アルが気に入っているのもわかるぞ。あーはっはっは」


自分の護衛が呆気なく倒され、金の無駄だと言われた事を大声で笑うエイブリックなのであった。


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