第172話 ゲイル王都へその2
翌日、商会でドワンとオークションの話をした。俺達は金貨750枚ずつとなり、残り金貨69枚はミゲルに渡すことになった。蛇の運賃と会場設営費だ。大幅な黒字だろう。ドワンの酒代、こちらの油代やその他は面倒なので各自負担となった。金貨750枚もあればそれくらい自腹でもいい。
「アーノルド、昨日エイブリックの使いが来よって、酒10樽買ったのはいいんじゃが、社交シーズンまで販売するの待ってくれと言っておったぞ」
「その話は今からする」
アーノルドは卵が高額で落札された経緯を話し、レシピと酒の説明をした。
「なるほどのぅ。エイブリックのやつ自慢したいだけか。見栄っ張りなあいつらしい」
「ドワン、そういうわけだ。すまんな」
「別に構わん。既に10樽買って行きおったからの。白ワインの方はまだ知らんのじゃろ?」
「あれはまだだ。完全に出来てから献上する予定だからな」
「しかし、エイブリックの所が望む数の納品か。数を増やしておいた方がいいかもしれんな。王都で広まったらあっという間に在庫切れをおこしそうじゃわい。がっはっはっは」
商売順調で何より。
「おやっさん、調理器具を10セットぐらい作っておいて。レシピ教えるのに必要になると思うから」
「そうじゃの。社交シーズンが始まってレシピが出回り始めたら調理器具も売れるじゃろうし、量産態勢を組んでおくか。片栗粉も大量に出そうじゃしの。また従業員増やさなきゃならんワイ」
どんどん商会が大きくなるな。
さて、レシピはどれだけ書こうか?全部と言われてもたくさんあるからなぁ。その中から貴族がパーティーで食べる料理とか選んだ方がいいのか?しかし、どんなパーティーかわからんし、メニューのチョイスまで考える必要ないか。
俺は屋敷に戻ったあと、せっせっとレシピを書き綴った。羊皮紙と羽ペンって書きにくいんだよな。
そのうち紙を作ってみよう。和紙みたいなものなら作れそうだからな。それとボールペンとか作れるかな?いや、あのボールってかなりの精度が必要だったはず。ボールベアリングより精度が必要なのかな?
いかんいかん、今はレシピを書かなければ・・・
唐揚げ、カツ、天ぷら、その他フライ、ハンバーグ、コロッケ、ローストビーフ、ステーキ、ソーセージ、ベーコン、ムニエル、ラーメンもどきにうどん、茶碗蒸し、マヨネーズ、焼き肉のタレ、ドレッシング。ものの見事に定食屋のメニューだな。貴族飯になるのかこれ?
まぁいい。後は料理人が工夫するだろう。
えっと、お菓子はパンケーキ、パウンドケーキ、ショートケーキ、シュークリーム、プリン・・・あ、砂糖をどうするかだな。黒砂糖だとなんか違うんだよね・・・。甘みはハチミツにしておくか。え~、あとはチーズの作り方と生クリームの作り方。こんなもんでいいか。また思い出せば教えればいいし。
あ、これ登録用に同じもの書かないといけないんだな。面倒くさいな。コピー機あればいいのに・・・
ぶつぶつ言いながら書き物にふけった。
アーノルドは祭りを手伝った者へ特別手当てとして金貨1枚ずつを配った。ミーシャとシルフィードは大喜びだった。ベントの反応がいまいちだったけど、金の価値がよく分かってないのか、お小遣いがたくさんあるからなのかよくわからなかった。
そろそろ鱒釣りに行きたい所だが、先に王都に行くことになってしまった。
「じゃ後は頼む」
アイナは行かないとのことでお留守番だ。俺、アーノルド、ダンの3人で王都に向かう。片栗粉、薄力粉と調理器具、冷凍手長エビ、ソーセージ、ベーコンを大量に積み、シルバーとクロス、ソックスの3頭で馬車をひく。王都迄の街道はある程度整備されてるのでスピードを出して向かった。
本来1泊する道のりをノンストップだ。夜には到着し、門は閉まっているけど貴族特権で中に入る。
「ここが王都かぁ。さすがに立派だね」
もう夜なのにそこそこ明るい。木造建築主体のディノスレイヤ領と違って石造りが主体だ。人力でどうやって造るんだろ?
俺たちは馬車を預けて一応高級な宿屋に入った。
「飯にしよう。どうする?宿で食うか、それともちょっと高級な所に行ってみるか?」
揺れが少ないとはいえ、馬車に1日揺られて来たので宿で食べてゆっくりしたいけど、王都のレストランのレベルが気になる。
「そうだね、せっかくだしレストランに行こうか」
アーノルドに行く店は任せてポテポテと歩いて向かう。どんどん周りのお店が高級っぽくなっていく。こんな普段着で大丈夫だろうか?
「ここでいいか」
結構いい店みたいだな。外でボーイみたいな人が立っている。そのボーイに話しかけるアーノルド。なんかごちゃごちゃ言ってるけど大丈夫か?
「おぅ、入るぞ」
あ、入れるみたいね。
中には入ると高そうな服を着た人達がジロッと俺達を見る。やっぱり場違いだよねぇ・・・
俺達は個室に案内された。こりゃ上客というより隔離だな。
「父さん、この服装だとまずかったんじゃないの?」
「そうだな、服のことをすっかり忘れてたな。俺が貴族だと分かって入れてくれたみたいだ」
やっぱり隔離か。
テーブルに付いてメニューを見てみる。
メインがステーキのコース料理だな。サラダ、スープ、ステーキ、パン。これで銀貨1枚と銅貨20枚。高いねぇ。もっと高いやつもあるな。
ダンとアーノルドも似たようなコースを選んだけど、肉は大きめのらしい
まずはサラダ。アーノルドとダンはエールを頼んでいた。
「ぼっちゃん、いつもの頼む」
「俺もだ」
炭酸を強化してキンキンに冷やす。
「あー、やっぱこれだな。まったく違う飲み物になりやがる」
これに慣れたら生ぬるくて薄い炭酸のビール飲めなくなるよね。と思ってても言えない俺。
さて、サラダは・・・
うん、塩とレモン。悪くはないけどね。マヨ欲しいな。
で、スープ。あー、出汁が出てないな。物凄くあっさりしていると言うか物足りないというか。
パンはあのモソモソした硬いパン。一応焼いて出してくれてるのは高級店だからだろう。
さて、メインのステーキは・・・
ガッツリ火が通ってるな。肉は高級なんだろうけど肉汁どこいった?
二人は大きなステーキを赤ワインで流しこんでいた。
「さ、帰るか」
アーノルドは銀板1枚を渡し、釣りはいらんといっていた。
「ゲイル、お前王都のレストランのレベル知りたかったんだろ?どうだった?」
「食材はいいんだけど、調理方法がね・・・」
「屋敷の飯の方が断然旨いよな」
ダンの言う通りだ。
「貴族街のもっと高級店に行ってもあまり変わらんぞ。使ってる香辛料は増えるがな」
「そうなんだ。宿屋か飲み屋で食べれば良かったよね。あのご飯にあの値段は払いたくないなぁ」
「お前、王都でレストランやってみるか?あっという間に一番店になるぞ」
「飯を作るのを職業でやるのはちょっと・・・。それに他の店から嫌がらせされそうだよね」
「王都はうちみたいにのんびりしてないからな。偉そうな客もいるだろうし。俺には性に合わん」
なるほどね。アーノルドが王都にあまり行きたがらないのがよくわかる。俺もあのステーキだったら焼き鳥の方がいいや。
「明日、俺がレシピ教えてる間は父さん達どうするの?」
「俺はエイブリックと打ち合わせがある。ダンはどうする?」
「俺は街をプラプラ・・・」
「ダンは俺の手伝いだからね。何どっか行こうとしてんだよ?」
「俺も行くのか?」
「当たり前だろ?俺を知らない場所で1人ぼっちにさせる気か?」
「ったく、しょうがねーな」
「色々と作んなきゃダメなんだからね」
宿屋に戻った俺たちは狭い風呂に入り、寝心地があまり良くないベッドで寝た。
ここ高級宿屋だよね?
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