第171話 ゲイル王都へ
「どうやってあの蛇を倒したのか不思議だったんだ。そうか、口の中から土魔法で突き刺したのか、普通出来んぞ」
エイブリックは謎が解けてスッキリしていた。
「自分では気付いていなかったがな、口を閉じられないように思わずやったんだろ。狙ってやったわけじゃねぇと思うぞ」
「それでも見事だな。咄嗟に蛇の頭を貫通させる土魔法とか、王宮の魔導士達でも無理だろう」
「あいつ、狩りでよく土魔法使うからな。ウサギとか狩る時に便利だぞ」
「どうやるんだ?」
「ウサギの下から串刺しだ。いきなり地面から刺されたら逃げる暇なんてないからな」
「それほ是非見てみたいな。なんとかならんか?」
「なんとかなる訳ないだろ?お前、自分の立場上分かってんのか?」
「時間は取る。いい方法を考えてくれ」
「あのなー、昔とおんなじに考えてんじゃねーぞ」
「なら、王都近くの森でどうだ?あそこは王宮の者しか入れん。レシピを教えにくる名目で連れてくればいい。それなら出来るだろ?」
「あいつはお前の立場もアルの立場も知らねーんだぞ。バレたらどうすんだ?」
「バレたら何か問題あるのか?」
「いや、無ぇけどよ・・・」
「だろ?だったらいいじゃないか、連れて来いよ。そうしなきゃレシピをうちの料理人に教えるのにぞろぞろそっちへ送るはめになるぞ」
「それも迷惑な話だな」
「息子にもオークションの報酬山分けするんだろ?それぐらいしてくれてもバチ当たらんと思うがな」
「ちっ、だから返すと言ったんだ」
「オークションは成立したんだ。今さらぐちゃぐちゃ言うな」
「分かったよ。帰ったら相談してみる。だが狩りに来るのはお前だけだからな。もし他に来てもアルだけだ。他の者は護衛以外呼ぶなよ」
「それは任せとけ。他の奴に教えるつもりはない。元冒険者として興味があるだけだ。出来れば蛇を狩る所を見たいがな」
それは勘弁してくれと返事をして、もう寝ることにした。
たまには立場を離れて息抜きしたいのだろう。昔の言葉使いに戻ったエイブリックを見てアーノルドはそう思いながら目を閉じた。
ー朝ー
「久しぶりじゃの、アーノルドよ」
アーノルドは起きて帰ろうとして応接室に挨拶に行ったら王が居た。
王がなぜここにいる?
「王よ。ご無沙汰しております。このような格好で申し訳ありません」
「よいよい、堅苦しい挨拶は抜きじゃ。此度の蛇討伐の話を聞かしてくれんか?もう気になって気になって仕方がなかったんじゃ。ふぉっふぉっふぉ」
チラっとエイブリックを見ると視線を反らせて窓の外を見ていた。嵌めやがったなコイツ・・・。アーノルドは帰るのを諦めて王に討伐の話をするしかなかった。
なんとっ!
まことかっ!
おおー、それでっ?それでどうなったんじゃ?
王は子供がおとぎ話を聞くかのように嬉しそうにアーノルドの話を聞いていた。
「いやぁ、ハラハラドキドキの話じゃった。これは吟遊詩人に語らせねばならんな」
まさか、ディノ討伐の話を吟遊詩人に教えたの王じゃなかろうな?あのアイナとの壮大なラブロマンスのやつ。
「そいつは勘弁して下さい・・・」
「しかし、あの蛇はアーノルドでなく、息子のゲイルとやらが討伐したとはのぅ。ちと驚きじゃがそれはそれで良い買い物じゃったな。して、そのゲイルは王都に来ることは無いのか?」
あー、こりゃ王宮の森の件が王の耳に入ったら不味いな。と思って再びエイブリックに目をやると口笛吹いてやがった。
「はっ、戻ってから確認することになりますが、近々王宮の森でエイブリック様の狩りに同行させるつもりにしております」
「なんとっ!それは僥倖。ワシも行くぞよ。エイブリック、日時が決まったら即教えよ」
「はっ、父上」
やっぱり・・・
「では楽しみにしておるぞアーノルド。アイナやドワンにも宜しくな」
王は満足げに応接室を出ていったのだった。
「エイブリック、狩りはお前だけだと言っただろうが」
「お前が誘ったんだ。俺は知らん」
汚ったねぇ、俺のせいにしやがった。
「ゲイルを連れて来ても1泊しかさせんぞ。初日はレシピを教えて、翌日の午前中に狩り、昼過ぎには帰るからな」
それで構わんから日時をいくつか指定してくれとのことで話は付いた。
アーノルドは面倒なことになったもんだと思いながら馬を走らせた。
ーディノスレイヤ邸ー
夕食を食べてる時にアーノルドが帰宅した。
「父さんお帰り~。どこ行ってたの?昨日も帰って来なかったけど」
「あぁ、ちょっとな。ゲイル、飯食ったらダンと一緒に来てくれ、話がある」
なんだ?出掛けたアーノルドから話か。多分ろくな話じゃないだろうな。
ー執務室ー
「父さん、ダンも呼んで来たよ」
俺はダンと執務室に入る。中にはアイナも居た。
「明日、ドワンにも話すが蛇のオークションの落札価格についてだ。」
「お、高値で売れたんだな。全部で金貨300枚くらいになったのか?アーノルド様?」
金貨300枚?蛇2匹で?3億円・・・
「もっとだ」
え?もっと?
「そうか、馬鹿デカイ魔石があったな。あれが2つで金貨200枚として・・・。ひょっとして500越えたとか?」
魔石ってあの大きさになるとそんなに高値が付くのか。魔石作りだけで一生贅沢に暮らせるな。
「3410枚だ」
「銀貨で?まさか金貨なこと無いよね」
「金貨で3410枚だ。」
34億?あの蛇が?
「なんでそんな値段に?」
ダンは喜ぶどころか訝しげな顔付になる
そりゃおかしいよね。いくら珍しくて大きい蛇でも2匹で34億円とか。
アーノルドはオークションのあらましを話してくれた。
「そんな事が・・・」
「それで卵の競りは無しか金は返すと言ったんだがな、結局そのまま受けとることになった。こちらの手元に入るのは手数料の1割を引いた3069枚だ。そこから祭りの経費を出していいか?」
「そりゃ構わないけど・・・貰い過ぎじゃない?」
「相手がいいと言ってるからな。問題ない。ただ条件を出されてな飲むしかなかった」
「どんな条件?」
「ゲイルが考えた料理のレシピを教えること。それを社交シーズンまで外に出さないこと。ドワンの酒の販売を社交シーズンが終わるまで待つこと」
「そんなのでいいの?」
「あぁ、レシピの権利もこちらのものだ」
あー、ジョンのパンと同じ理屈か。
「結構多いけど、レシピ渡すだけでいいの?片栗粉や薄力粉も一緒に?」
「それは任すが。が、お前が教えに行くことが条件だ。そのついでにエイブリックとゴニョゴニョと王都の森で狩りをする。お前の土魔法を使った狩りを見たいらしい」
ゴニョゴニョって誰だ?
「王都まで行くの面倒だね。こっちに来てくれればいいのに。エイブリックってアルのお父さんだよね?アルが冬休みに遊びに来る時に一緒に来れば?」
「それは無理だ」
「えー、ならダン、お前も来いよな。俺だけに任すなよ」
えっ!?と驚くダン。
「なんだよ、お前護衛だろ?一緒に来いよ」
「お前ら、日時はいつでもいいか?」
「俺たちはいいよ。」
「じゃ、決まったら教える。ゲイルはレシピを用意しておいてくれ」
へいへい。
こうして俺とダンは王都に行くことになったのであった。
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