第170話 アーノルドのお泊り

「父上、競り落とした蛇を見せてもらえませんか?」


「なんじゃもうバレておるのか?」


「バレバレです」


「今運ばれて来たとこじゃ。ほれ見てみろ。まるで生きたままのような姿。流石アーノルドよのう」


確かにまだ生きているかのような状態だ。どうやって討伐したのかわからない。剣で付けた傷も魔法で傷ついているわけでもない。


エイブリックはぐるぐると蛇の周りを回って確認する。


ん?


丁度脳天の所に穴があいている。これが討伐痕か。しかし妙だな剣の刺し傷とは違う。


「おい、誰か蛇の口を開けろ」


護衛の二人が蛇の口を持ち上げると口の中にも穴があった。


これは口の中から脳天へ何かを突き抜けさせたような感じがする・・・


「父上、ありがとうございました」


「何か分かったか?」


「いえ、討伐痕は見付けましたがどうやったかは分かりません」


「そうか、アーノルドから討伐話を聞きたいのう・・・。お前は最近ちょくちょく会っておるのだろう?次はいつ来るんじゃ?その時に話を聞かせてもらいたいもんじゃが・・・」


「あいつはいつもいきなり来るので次がいつかは分かりません。社交シーズンも来ませんし」


「そうか、残念じゃ。次来たら引き留めておいてワシに知らせろ。ぜひ討伐話を聞きたいのじゃ」


「分かりました。アーノルドが来たら捕まえておきましょう」


「そう言えばお前も卵を競り落としたと聞いたが、ずいぶんと高くついたようじゃの?」


「まったく余計なものを出品してくれたものです。その件に付いては改めて報告しますので」


アーノルドはいつ来るかのぅと呟く王を後にしてエイブリックは自室に戻った。



「何か分かったか?」


「は、内偵する前に死にました」


「自殺か?それとも殺されたのか?」


「オークション会場を出た後、倒れました。自殺か他殺か不明です」


「ちっ、口封じか。調べても何も出んだろうが一応調べとけ」


まったく、あいつが絡むとろくな事がないな。手間をかけさせやがる。



「祭りで出された食べ物と酒が届きました」


「蛇肉を揚げてあるのか?」


「そのようです。」


パクっ


ん?旨いな。冷めているのにカリッとしたところが残っており、肉の旨味が封じ込め込められている。揚げたてならさぞ旨いだろう。エールが欲しくなる味だ。


「こちらを」


氷の入ったグラスを差し出される。


「これは酒か?」


「はい、ぶちょー商会が作った新しい酒とのことです。水で薄めて氷を入れてありますが、かなりきつい酒とのことですのでゆっくりお飲み下さい」


「新しい酒ねぇ」


一口飲むエイブリック。


「何だ?これは?」


そのままグッグッグと飲み干す。エールやワインとはまるで違う味わいの酒。強い刺激があるがまた飲みたくなる不思議な酒だ。


「これは水で薄めてあると言ったな。氷だけ入れて薄めずに入れてくれ」


大きめの氷がカランと入ったグラス。そこに注がれた酒は透明に近いがほんのりと色付いている。


一口飲むとカッと喉が熱くなる。唐揚げを一つ口に入れる。そしてまた飲む・・・


「あいつらは何を企んでいるんだ?こんなものを民に振る舞ったら皆虜になるだろうが!」


エイブリックも唐揚げと酒のコンボに手が止まらない。


「おい、この揚げ物はうちでも作れるのか?」


「料理人にも味見させてみましたが、味付けはともかく、このようには揚げられないとのことです。唐揚げのレシピは近々公開されると調べが付いております」


「唐揚げ?これは唐揚げというのか。そう言えばアルがそのような物を食べたと話していたな。他の料理はなかったのか?」


「後は串焼きとハンバーガーとやらです。ハンバーガーは子供限定だったので入手出来ませんでした。申し訳ありません」


「どういうものだ?」


「肉を細かく刻み丸めた物を焼き、それをパンで挟んだ食べ物です」


「そうか、それは作れそうか?」


「それはまだ試しておりません。現物が無いもので・・・」


「それはそうだな。ハンバーガーか。確かアルがハンバーグとやらの話をしていたがそれと関係あるのかもしれんな」


ったく、あいつの所にはまだ色々ありそうだな。


「ディノスレイヤ領にはその他のレシピは流通しているのか?」


「いえ、まだ関係者だけで楽しまれているようです」


「そうか、レシピが手にはいるか調べておいてくれ。出来れば社交シーズンまでにだ。それとこの酒はもう買えるのか?」


「今回、この瓶を銀貨5枚で購入致しました。これから正式に販売が開始されるようです」


「それも仕入れろ。あと出来れば社交シーズンが始まるまで一般販売を待つように交渉できるか?俺の名前を出して構わん。販売を遅らせる補償金は払うと言え」


「はっ」




翌日の夜


「エイブリック様、アーノルド・ディノスレイヤ様がお見えになられました。如何いたしますか?」


「通せ。応接室で会う」


いつもいきなり来やがってと言いたいところだが今回はいいタイミングだ。聞きたいことが山ほどある。



「よう!悪いな。いつもいきなり来て」


「お前はそういうやつだと諦めている。で、用件はなんだ?」


「卵の事だ。落札したのお前だろ?」


「ったく、厄介なもの出品しやがって。お陰でいらん金を払うことになったぞ。良かったな儲かって」


ヘンッと悪態をつくエイブリック。


「その件なんだがな。不成立にしてくれ。卵は研究所に寄付する。ありゃ元々洒落で出したもんだ。どうせ研究所が落札するだろうと思ってな。最低落札価格も高めにしてあったから不成立でも寄付するつもりだったんだ」


「金貨1500枚もふいにすると言うのか?お前何か知ってるのか?」


「いや、あの生きてるか死んでるか、それも蛇のかどうかすらわからん卵にあんな値段が付くのはおかしいだろ?おまえ絡みしか考えられん。理由があって競り落としたんだろ?あれに金貨1500も貰えんよ」


「ふん、それなら始めっから寄付すりゃ良かったんだ」


「こんな事になるなんて誰が想像付くんだよ。で、競り合った相手はだれだ?」


「死んだよ」


「なっ?殺されたのか?」


「まだ調査中だ」


「調査中か・・・。調べても何も出てこんってやつだな」


・・・


「ま、とりあえず。卵のオークションは不成立って事にしておいてくれ」


「馬鹿かお前は?今さらそんな事が出来る訳なかろう。俺が絡んでる事を気付いてる奴もいるんだ。今さら不成立にしたらバレるに決まってるだろうが」


「なら、金を返そう。それでいいか?」


「あれは正式なオークションだ。ただ予想以上の高値が付いたそれだけだ。お前は黙って受けとればいい」


「いや、しかしそれは・・・」


「悪いと思うなら、これらのレシピを教えろ」


唐揚げの残骸とドワンの酒をドンッと出すエイブリック。


「これ、祭で出した唐揚げと酒か?なんでお前の所にある?」


「そんな事はどうでもいい。他にも色々あるんだろ?レシピを社交シーズンまでに出せ。それで手打ちにしてやる」


「料理のレシピは構わんが、酒はドワンと相談しないとダメだな」


「ぶちょー商会とやらはやはりドワンがやってるんだな。酒のレシピはいらん。王宮が求める数を卸してくれればいい。それより料理のレシピだ。お前の息子が考えてるんだろ?社交シーズンまでに教えろ。それとそのレシピも酒も社交シーズンが始まる前に外に出すな」


「お前、社交シーズンで自慢するつもりか?」


「悪いか?」


「いや、構わんが・・・」


「どうせお前は来ないんだろ?なら初めての料理、初めての酒と自慢出来るじゃないか」


「いいけどよ、バレても知らんぞ・・・」


「それはそうと今日は泊まっていけ。蛇の討伐の話を聞かせろ。あの丸ままの蛇はどうやって倒したんだ?」


「しょうがねぇなぁ、なら飲みながらでも話すか」



アーノルドはエイブリックと飲みながら蛇討伐のことや祭りのこと、闘技場建設の話を夜更けまでしたのだった。


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