第169話 祭りの後か後の祭りか
討伐祭りもそろそろ終わりだな。
あの巨体だった蛇肉も在庫が切れ、今揚げたり焼いたりしているので終わりだ。あちこちにベロベロに酔った冒険者や領民がいるが喧嘩や騒動は起こっていない。血の気のある奴はアーノルドやダンに挑戦して大人しくなってるし、挑戦しなかったものも俺が見回りするだけでひきつった笑顔を見せて大人しくなる。実に平和な祭りだ。
揚げ物を渡していたミーシャやシルフィードはちょっとしたアイドルになり、ベントは酒を渡す役割をしていたが、強面の男どもにずっとびくびくしていたようでヘロヘロだ。
お、ダンも舞台から降りるようだな。結局商品の酒を手にしたのはあの女性魔法使いだけだったか。
「ダン、お疲れ様」
「いゃ、歯応えのあるやつはおらんかったな。しかし俺もスッキリしたぜ」
俺達が座って休んでいる所にドカッと座るダン。
「ダン、こ、これ・・・」
「お、ベントのぼっちゃん、ありがとうよ」
ベントがダンに水割りを持って来た。ちょっとは気が利くようになってきたのかもしれない。それか冒険者達を次々と殴り倒す姿を見てダンへの見方が変わったのかもしれないな。
ふと見るとダンの両拳が赤く腫れ上がっているので治癒魔法をかけといた。ダンはフッと笑顔を見せながら水割りをグッと煽った。
「こいつもなかなか旨ぇな。」
「そうじゃろ?酒もそこそこ売れての。普通瓶17本、中瓶30本、小瓶は100近く売れたワイ」
「高いのに結構売れたね」
「まぁ、酔った勢いもあるじゃろの。帰って嫁さんに叱られとる姿が目に浮かぶワイ」
普通瓶、中瓶は街の人が、小瓶は冒険者が中心に購入していたようだ。
「父さん、ボロン村でもそうだったけど、みんな戦いを挑むのも見るのも好きだよね」
「ここには娯楽ってのが少ないからな。見ているやつらもはしゃいでただろ?」
「これさ、いっその事、行事にしたら?王都には観客席のついた訓練所とかあるんでしょ?この領にも作って賞品出してやれば参加する人多いんじゃない?観客席に入るのに入場料取れば賞品代も出るだろうし」
「坊主、それには格闘場作らにゃならんぞ」
「基礎は俺が作ってもいいよ。後は親方に頼めばそんなに建築費用掛からないだろうし」
「そりゃいいな。勝ち上がれば称賛浴びられるし、冒険者の底上げにも繋がるかもしれん」
「武器の大会と魔法の大会に分けて、年の最後は武器と魔法の混合戦とかパーティー戦とかしたら盛り上がりそうだね」
「おー、面白い。それやろう。格闘場か。どれくらいで出来そうだ?」
「基礎作るのはそんなに日数掛かんないと思うけど、作ってる所を見られるとヤバいからその辺をどうするかだね」
「なら先に囲いを作って、見えないようにすればいいんじゃ。完成までずっと隠しておけば出来た時に皆も驚くじゃろて。賞品にワシの武具を出しても構わんぞ」
「えっ?おやっさんの武具?魔剣も出すのか?」
「もし出してもお前は関係者じゃから参加出来んぞ」
「なんだよそれ~っ」
ちょっとした思い付きで格闘場の事を言ったら大盛り上がりだ。こりゃ本当に作る事になるな。
「あとは予算が確保出来るかだな。セバスとも相談しておくが、ミゲルが帰ってきたら見積りを頼んでおいてくれ」
こんな話をしているうちにすべての食べ物がなくなり、アーノルドが締めの挨拶をして祭りは終了となった。
皆で手分けして片付けをした帰り道。
「おいゲイル。お前はなんであんなことをポンポンと考え付くんだ?」
ベントが俺に聞いてくる。
「みんな楽しそうだったからね。討伐祭りなんて単発だろ?定期的にやれば毎回みんな楽しめるだろ?今日用事でこれなかった人もいるだろうし」
「お前はいつも何を見ているんだ?僕は酒を配るだけで精一杯だったぞ」
「別に意識して見てたわけじゃないけど、みんな戦い好きだなぁと思っただけだよ。みんな楽しそうだったのは分かっただろ?」
「酒はこうした方が旨いとかは僕の前でも言ってたけど」
「そうやってみんな自分なりの楽しいを探してるんだよ。楽しみを見付けられる奴はいいけど、見付けられない奴もいるだろ?誰かが楽しんでいるもの、自分が楽しいと思えるもの。それを知らせてやれば楽しいを見付けられる人が増えるんじゃないか?」
「楽しいを見付ける・・・」
「お前は自分が楽しいと思うことが見付かってないだろ?そんな人は多いんだと思うぞ。生活するだけで精一杯の人もいるしな」
「お前は何が楽しいんだ?」
「美味しいもの食ってるのも楽しいし、出来なかった事が出来るようになるのも楽しいぞ。その楽しさを分かち合える人がいないと虚しいけどな」
「楽しさを分かち合える?」
「旨いもの食って旨いと思う。それはそれで楽しいけど、これ旨いよなぁとか一緒に楽しめる人がいればなお楽しいってことだよ。自分が考えた物とか作った物なら自慢も出来るしね」
「僕は出来なかった事が出来るようになってもホッとするだけで楽しいとか思ったことないぞ・・・」
「やらされてる事だとそうだろうな。出来なかったら怒られたり、責められたりするからな。でもな、それが必要な時もある。今はわからなくてもいずれ役に立つことがあったり、直接関係なくてもあの時頑張ったという事が自分への励みにもなるからな」
「お前、なんでそんな事が分かるんだよ」
やべっ、この世界での人生経験はまだ4年弱しかないのにおっさんみたいな事を言ってしまった。
「なんとなくだよ、なんとなくそんな気がするだけだ。それよりベント、お前は自分が何をしたら楽しいか王都の学校で見付かるといいな」
「そうだな、僕も探してみるよ。自分の楽しいってやつを」
思ったより疲れてたのか、俺は屋敷に戻ると意識を失うかのように眠ってしまった。中身は初老だけど、身体はやはり3歳児だ。
翌朝、アーノルドに一報が入る。
「どうしたセバス、そんなに慌てて」
「はい、オークションの結果が早馬で入りました」
「そんなに慌てて報告が入ると言うことは結構高値で売れたのか?フォレストグリーンアナコンダは久々だから高値で売れると思ったんだよな。で、いくらだ?」
ほくほく顔のアーノルド。
「そ、それが・・・」
「ん?もしかしてぜんぜんダメだったのか?」
「いえ、総額は金貨・・・」
「金貨何枚だ?」
「金貨3410枚・・・」
「はっ?341枚じゃないのか?何かの間違いだろう。桁が違うぞ?」
「はい、何度も確認しましたが間違いありません」
「内訳を教えてくれ。何がどうなったらそんな金額になるんだ?」
「まず、解体した方の腹の皮から競りが始まりまして、それが金貨10枚」
「初っぱなから高値がついたな。相場の倍くらいか」
「次は背中側の皮が金貨600枚。宝飾屋と皮革屋が競り合って値が上がりました」
「相場の6倍以上だな。お互い引くに引けなくなったんだろうけど採算取れんだろ?そんな価値で競り落としても」
「はい、販売しているものは違えど王都の一番高級店という座をめぐっての競りになったようです」
「下らん意地だな」
「魔石は王宮が一声で競り落とし、金貨100枚」
「それは想定通りだな。献上してもよかったんだが、褒美云々で王都まで行くの面倒だから競りに出したがな」
「次は丸の蛇です。これが1200枚。東の辺境伯と競り合われた方が・・・」
「王か?」
「恐らく。辺境伯も途中で気付かれたのか、1200の後で引き下がった様です」
「それでも計算が合わんぞ。3000にも届かんじゃないか?」
「後は卵です」
「卵?」
「あれが1500で競り落とされました」
「はぁ?あの卵が?せいぜい高くても金貨2~3枚で売れたら十分と思って出したやつだぞ。研究所に寄付しようかと思ってたが洒落で出品してみただけのものなんだぞ」
「はい、物好きが大勢居たようで、多くの入札か細かく入り、嫌気が差した研究所が一気に競り落としにかかり50枚で入札しました。そこから不穏な動きが・・・」
「50でも異常な値段だぞ?」
「はい、その後100を提示したものが出まして、競りが終わりかけた時に200が提示されました」
「研究所がか?」
「いえ、恐らく王宮関係者かと」
「そうか、そんな事をする奴はエイブリックしかおらんな」
「恐らく・・・」
「で、1500までつり上がったわけだな」
「はい」
「エイブリックがそんな値段で卵を欲しがる訳がない。何かあったんだ。理由はわかるか?」
「申し訳ありません。そこまでは・・・」
「分かった。オークションの落札価格はまだ伏せておいてくれ。俺は今からエイブリックの所へ行くから後は頼む。アイナには伝えておいてくれ」
アーノルドはソックスに跨がり、王宮へと走っていったのであった。
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