第167話 祭りだ

「え~、俺はアーノルド・ディノスレイヤ。この領の領主をしている。今回、近くの森にフォレストグリーンアナコンダという蛇の魔物が住み着いていたことが分かった。冒険者も帰って来ない事が増えていて、そいつに襲われた可能性が高かったが今の冒険者に討伐出来る者がおらず、やむなく俺達が討伐に向かった。ダン、ドワン上がってくれ」


俺は表向き討伐に参加していないことにした。


「その魔物もこいつらの力を借りて無事討伐する事が出来たのでここに報告する。もう大丈夫だ安心してくれ」


うぉぉぉぉーっ!


観衆の声援が上がり、昨日ここで蛇の解体を見ていたものが唾を飛ばしながらその様子や蛇の大きさを周りの人に話し出す。そいつの話だと蛇は100mくらいあるらしい。


「今日はその報告と祝いを兼ねて祭りを開く。この屋台の飲み食いは無料だから思う存分食ってくれ。肉は討伐した蛇の肉だ。めったに食えないやつだからよく味わったほうがいいぞ。あと酒はぶちょー商会からの提供だ。ドワン、説明を頼む」


「ドワンじゃ。この酒はまだどこにも無い新しい酒じゃ。エールやワインとは比べもんにならんくらい強いから気を付けて飲め。初めは水で割った方がいいぞ。ぶっ倒れても知らんからな」


高級肉に新しい強い酒だとよ!


うぉぉぉぉーっ!

うぉぉぉぉーっ!

うぉぉぉぉーっ!


もう大地が揺れるくらいの大歓声だ。アーノルドをはじめとしてドワンやダンにも称賛の声が止まない。


「はーい、唐揚げ揚がってますよー。並んでくださーい」


唐揚げ?


「酒はこっちにあるぞー!」


「串焼きどーぞー」


「子供限定でハンバーガーあるよー」


屋台から呼び込みが始まると一斉に群がる領民や冒険者たち。アーノルド達にはまだ声援や女性から黄色い声が飛び続けている。



旨ぇ、なんだこれ?

唐揚げって言うらしいぞ。

なんだこの酒、ゴホッゴホッ。水で薄めてあるのに喉にガツンと来やがる・・・でも旨い。こんなの飲んだことねぇぞ。

なにぃ?俺も飲むぞ。


わーわーわー

やんややんや


まるで戦場だね。元気があって宜しい。



押すなよっ!

お前が割り込むからだろうがっ


俺の近くで冒険者らしき者同士の揉め事が発生する。


「おい、ちゃんと並べ。喧嘩したら蛇の口の中に放り込むぞっ」


「うるせ・・・、と、トゲチビっ! す、すいません。ちゃんと並びます」


だれがトゲチビだ。もう少しで俺様の名前を言ってみろとかいうはめになるじゃないか。


俺が歩き出すと冒険者達がザッと通る道を開ける。一般人からはヒソヒソ声で何かを言われ始めたので居心地が悪い。


屋台の裏に居よう・・・


祭りは大盛り上がりだ。アーノルド達はみんなに囲まれたまま楽しそうにしている。領主というより偉大な冒険者として称えられている。ドワンもダンもそうだ。ディノを倒した時もこんなんだったろうな。


ディノを倒した者がいる。それを見て聞いたものが集まり大きくなってきたディノスレイヤ領。またコレがきっかけで冒険者らしい者達が生まれてくるかもしれない。


屋台を見るとやはり唐揚げが人気だ。食べた事がない揚げ物。酒にも飯にも合う唐揚げ。この領の名産になるかもしれないな。


酒も大人気だ。初めは水割りだったのがだんだんロックに移行してるヤツが出てきた。もう虜になってるんじゃなかろうか?


飲み食いは領民や冒険者に限るとかセコイことはせずに誰でもOKにしてるので他領の人間もいるだろう。酒や唐揚げがクチコミで広がっていくのもそう遠い未来じゃないだろうな。



「よし、次は誰だ?遠慮なく掛かってこい!怪我しても心配はいらんぞ。アイナも来ているからここでの怪我は無料で治療してやる」


うぉぉぉぉーっ!聖女様ぁぁぁ!


アーノルドのやつ、ボロン村と同じことしてやがる。元々そのつもりであの舞台はあんなに大きかったのか。高くしてある分ここからでも良く見える。


「それ次っ 次っ!」


アーノルドは素手なのに剣を持った挑戦者達がポンポンと投げ飛ばされていく。


「なんじゃだらしないのぅ。賞品でも出してやるか。おい、お前ら。アーノルドから1本取ったらこの酒をやるぞ!」


おい聞いたか?今飲んでる酒くれるんだとよ。

あれ1本銀貨5枚するみてぇだぜ。

これそんなに高ぇのか?

でもこれ飲んじまったらワインやエールじゃ物足りなくなっちまったな。

よし、1本取って酒もらうぞ。


おぉぉぉぉー!


余興のバトルから酒のかかった真剣バトルに移行する冒険者達。しかし誰も一本を取ることが出来ない。


「まったくダメじゃの。おい、そこの嬢ちゃん、お前はなんの魔法が撃てるんじゃ?」


「あ、あのファイアボールです」


「この杖を貸してやる。アーノルドに挑戦して来いっ」


「む、無理ですよ。私まだそんなに実力が・・・」


「構わん。この杖で攻撃してこい」


は、はひ・・・


ひげモジャガチムチ親父に杖を渡されて無理やり挑戦させられる女性冒険者。


「おやっさん、あの杖は?」


渡した杖はいかにも高そうな装飾を施した魔法使い用の杖だった。


「持ち手から杖の先まで細いミスリルを仕込んである。装飾はそれを隠す為のもんじゃ」


「ミスリル銃の代わりだね?」


「あぁ、元々魔法を使える奴が使ったら威力が増したじゃろ?あの嬢ちゃんがアーノルドを倒したら評判になるワイ」


「いくらで売るつもり?」


「金貨10枚じゃ。努力した冒険者が手が届くギリギリの値段じゃな」


ミスリルはほんの少ししか使ってないらしいからぼったくり価格だ。しかし、普通の杖より格段に攻撃力が上がるからその点からみると妥当な価格なのか?



今度は若い女魔法使いだ!

無理無理、あいつの魔法だとゴブリンが精一杯だぞ。


この冒険者を知ってるやつらが無理だと叫び出した。


「魔法使いか、いいぞ遠慮なく撃ってこい!」


女性魔法使いも自分の実力が分かっているのでもじもじしていたが、遠慮なく撃てと言われて詠唱をぶつぶつと唱え出した。詠唱に結構時間が掛かるがアーノルドはそれを待ってやる。


「放てっファイアボールっ!」


ゴウッ


予想したよりもはるかに大きなファイアボールがアーノルドに向かって飛ぶ。舞台上だと至近距離と言ってもおかしくはない。


「うぉっ!」


避ける事は可能だがそれだと後ろの観客に被害がでてしまう。アーノルドは慌ててファイアボールを上に受け流すように弾いた。


「あっぶねぇ。ちっ!予想よりはるかに大きかったからミスっちまった」


無傷に見えたアーノルドだが、前髪が少し焦げていた。


「見事な1本じゃ。ほれ嬢ちゃん、賞品の酒じゃ。アーノルド、代金はお前が払えよ」


「分かったよ。仕方がねぇ」


うぉぉぉぉーっ!あんな娘が1本取ったぞーー!


「えっ?えっ?えっ?」


新米っぽい若手の女性魔法使いがアーノルドから1本取ったことで一層盛り上がりをみせる。


何でアイツがあんな魔法撃てるんだよっ!

おい、いつもの杖じゃねーぞ。

なんだあの杖は?


「あ、あのコレお返しします。あの威力はこの杖のお陰ですか?」


「ワシの所で新しく売り出す。欲しかったら金を貯めて買いに来い。金貨10枚じゃ」


「き、金貨10枚・・・」


おいおいおいっ!あれ新作の杖らしいぞ。

なにっ?あれを使うとあんな魔法が撃てるのか?


騒がしくなる観衆。


「おかしいと思ったんだよ、あの詠唱であんな魔法が飛んでくるのはよ。ドワン、お前のせいかっ」


「相手をなめてるからじゃよ。良かったの石化されんで」


ガッハッハッハ。


ちっとアーノルドは舌打ちをして舞台を降りた。


「ダン、代われ。お前一本とられたら賞品の酒自腹だからな」


八つ当たりするようにダンに言い渡してアーノルドは酒を取りに行った。


アーノルド様が降りたぞ。

あいつなら勝てんじゃねーか?

よしっ俺が行くぜ!


あいつなら勝てる、それが聞こえたらしく、ダンは投げ飛ばすのではなく、掛かって来る挑戦者を笑いながらぶん殴って倒していた。



酒を取りに来たアーノルドの前に冒険者ギルドのギルドマスター、マーベリックがいた。


「見事だな。飯といい、酒といい、それにあの魔法使いの杖はなんだ?ドワンのやつ、いつの間に魔法使い用の武器まで作るようになったんだ?」


「ドワンも土魔法攻撃出来るようになったから魔法に興味出て来たんじゃねぇか?」


「何っ?引退してから覚えたのか?そんなことが可能なのか?」


「ダンも火魔法撃てるようになってるし、俺もちょっとな」


「ダンやお前まで? なんで引退してから攻撃魔法が使えるようになるんだよっ!」


「お前も頑張れば使えるようになるんじゃねーか?」


アーノルドはあっはっはっはと笑いながら、マーベリックにドワンの酒を1本渡した。


「俺の奢りだ。ギルマスの部屋にでも置いとけ。誰か来たときに丁度いいだろ?」


「ありがたく貰っとくわ。しかし酒1本に銀貨5枚とはべらぼうな価格だな」


「そうでも無いかもしれんぞ。あと5年、いや10年くらいしたら、おいそれと買えない酒が出てくるからな」


「お前ら一体何を隠してんだ?」


「そのうち分かるさ。また新しい時代に向かって動き出す時が来てるんだよ。ほら見てみろよ。新しい料理、新しい酒、新しい武器。あいつらの欲を刺激するものばかりだ。明日からギルドが騒がしくなるから覚悟しとけよ」


「あぁ、楽しみにしとく」


アーノルドとマーベリックは土のこっぷをコツンと当てて、酒を飲んだのだった。

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