第166話 祭りの準備

「ぼっちゃまお帰りなさい。わー、カッコいいですねぇ」


ミーシャのセンスって・・・


「ゲイル様、ダンさんよくご無事でお戻りに」


ポロポロ泣くシルフィード。よっぽど心配してくれてたんだな。小屋で一泊してきたから遅くなったし。


「そんなに心配することないって、父さん達がいたんだから」


俺はそう言い、ダンは心配かけたなとポンポンとシルフィードの頭を叩いて慰めた。


「なんだ食われなかったのか?」


ベントの野郎何て言い草だ。


「残念だったな。お前に食わせる予定の頭は父さんが王都に持って行ったぞ」


あれ、待てよ?コイツわざわざ家に居てくれたんだろうか?


「なんだよその衣装!?」


衣装じゃねぇ、コスプレみたいに言うな。


「これは防具だ。衣装じゃない」


「ちょっと貸せ」


ベントは頭のトゲトゲを俺から奪い、そっと鏡の前で被っていた。この世界の奴には受けるデザインなのか? いや、そういうお年頃ということにしておこう。


「ゲイルお帰り、ダンもお疲れ様だったわね。無事討伐出来たみたいで良かったわ」


アイナがそう労うとダンは蛇肉の塊をポンポンと叩いて見せた。アーノルドはギルドに立ち寄ってから戻ると報告する。


「詳しい話はアーノルドが帰ってから聞くわね。疲れたでしょ。先に休んだら?」


「そうしたいのは山々なんだけど、明日、商会の前で討伐祭りをするから準備しないと」


「あら、そうなの?明日は休みだから見に行こうかしら?」


「何言ってんの?母さんも手伝ってよね。ベント、お前もだぞ」


「僕が?なんでだよ?」


「お前、街の視察とかしてんだろ?領民とふれ合う良い機会だから当たり前だ」


それよりトゲトゲを脱げ。



俺とダンは風呂に入ってから厨房へ向かう。蛇肉をどう調理するか試食しないといけないのだ。


「これが蛇肉ですか?どんな味がするんですか?」


「俺も食べたことがないから試食しようと思ってね。高級肉らしいよ」


高級だからと言って旨いとは限らない。肉質と味を確かめる為に味付けは塩だけで、煮る、焼く、揚げると分けた。


「旨味は濃いですけど、ちょっと固いですね」


あれだけの巨体をビュンビュン動かせる筋肉だからな。


「煮ると余計に固くなるね。出汁は出るからタンシチューみたいにすれば旨いかな。脂が少ないから火で焼くより鉄板向きだ。それか揚げるのが一番手っ取り早いね」


「そうですね。唐揚げが向いてると思います」


同感だ。明日の祭りでは唐揚げと串肉にして鉄板焼きだな。


「ブリック、明日祭りで唐揚げと鉄板焼きをするから手伝ってくれ。休みだけど悪いな」


「いや、腕がなりますよ。あとこれハンバーグにしてパンで挟んでみませんか?子供が食べに来たらそっちの方が食べやすいと思うんです」


おー、素晴らしい。蛇肉バーガーかそりゃいい。


「よし、じゃブリックはパンを焼いてくれ。俺は油とか手配してくるから。あ、母さん晩飯に蛇肉楽しみにしてるから、どうやって食べたいか聞いといて」


ダンと二人で街に行き、大量の油と塩、胡椒、ニンニク、タマネギ、じゃがいも、トマトソースを発注し、商会へ届けるように手配した。



その日の夕食に出た料理は唐揚げ、鉄板焼き、蛇肉バーガー(チーズ入り)、煮込みと蛇肉のフルコースだった。アイナに食べ方を聞きに行ったブリックは「全部食べたいわ」と言われたそうだ。


夕食時に蛇討伐の話をアーノルドが盛りに盛って話し、俺がビビって失敗したことをバラされた。自分が石化されかけたことや俺が倒した蛇の方が大きかったことは省かれていた。


真実を黙っておく代償として、そのうちアーノルドに何かせびろう。



ーアーノルド達の寝室ー


「実際の所、どうだったの?」


「ゲイルを連れて行って正解だった。アイツがいなければ全滅してたかもしれん」


「どういうこと?」


「あの蛇のやろう、石化の魔法を使いやがったんだ。ゲイルが気付いて俺が石化される前に俺を蛇の前から吹っ飛ばしたんだ。」


「えっ?あの蛇が魔法使うなんて聞いた事無いわよ。あの子知ってたのかしら?」


「いや、討伐前に魔法を使ってくるかどうか聞かれたんだが俺は使わんと答えた」


「それなのに・・・」


「あぁ、何かを感じ取ったんだろうな。俺にはまったく解らなかった。斬り掛かろうとした時にゲイルが叫んでな、咄嗟に後ろに飛んだら横に吹き飛ばされた。油断してたつもりはなかったんだがな」


「戦いが始まった時、ゲイルは動けなくなってたんでしょ?」


「威圧感が凄かったからな。ゲイルは良い経験をしたと思うぞ。あれを経験して、ドワンが側にいたとはいえ自分で乗り越えやがったからな。次から固まって動けなくなるようなことはあるまい」


「そうね、普通はそのまま動けなくなるわね」


「そこからは冷静だったぞ。冷気で蛇の動きを鈍らせ、周りの木を枯らして俺達が動きやすいようにしやがった。パニックになって火魔法を撃ってくるんじゃないかと思ってたが完璧な援護だったな。冒険者に戻ってあいつをパーティーに加えて世界中を駆け巡れたら楽しいだろうな」


「そうね、あの子がいると道中の旅も楽で美味しいものも食べられるし。ジョンとベントに領を任せて冒険者に戻る?」


「ホントにそう出来たらいいな」


二人は無理だと分かっている例え話を楽しんでいた。




翌朝、皆でぞろぞろと祭り会場に向かう。


「おー、さすがミゲルの所の大工達だな。もう完全に出来ているぞ」


ずらっと並ぶ屋台。真ん中にはお立ち台まで作ってある。アーノルドが演説するためのものだろか?ずいぶんと大きめだけど。


(おい、来たぜ)

(領主様と聖女様も一緒だ)

(やっぱりあのトゲチビ、領主様の息子なんだよ)

(バカ野郎っ!指を差すなっ)

(聞いたか?昨日の討伐の話。頭に穴空いてた方の蛇、トゲチビが倒したらしい)

(何っ?どうやって)

(武器屋の親父が蛇の口の中にトゲチビを投げ入れたらしいぞ)

(あのトゲが刺さって死んだのか?)

(トゲチビは蛇の口のなかで暴れまくったらしい。それであのトゲが口の中を突き破って・・・)



あー、聞こえてるぞ。なんだよトゲチビって。

それに微妙に内容に尾ひれが付いてる。誰だこんな噂を流したのは?


俺達はぞろぞろと商会の中へ入り、商会の従業員に唐揚げと鉄板焼きをすることを説明してさっそく料理の仕込みに入ることにした。ブリックがやると言い出したハンバーガーはパンを100個ほど焼くのが限界だったようで数が足りないだろうから子供限定にした。


皆でせっせと肉を切り、ミンチを作り仕込んでいく。外では屋台に鉄板やら油の鍋やらが揃えられていく。


「ぼっちゃん、じゃがいもは何に使うんですか?」


「それは細切りにしてってくれ、それも揚げるから」


ハンバーガーっていったらフライドポテトだよね。


料理の仕込みは皆に任せて俺はせっせと土魔法でコップを作る。いちいち洗ってる暇が無いだろうから使い捨てコップだ。他にはドリンクやフライドポテトを入れてやればいい。


ドワンの方は酒の準備をしている。振る舞い用と販売用だ。


「おやっさん、酒の売値どうするの?」


「この小瓶が銅貨35枚。こっちの中瓶が銀貨3枚、普通瓶が銀貨5枚じゃ」


小瓶50ml、中瓶500ml、普通瓶1Lってとこか。ロックのシングル1杯3500円ってとこだな。高い酒だなぁ・・・


赤ワイン30L樽が銀貨2枚、蒸留したら1/10になるから30Lで銀貨20枚の原価。売値が全部普通瓶換算で銀貨150枚。粗利銀貨130枚・・・


まずまずの利益率だな。この領の物価からするとまず農民達は買えないだろう。商人と羽振りの良い冒険者くらいしか買えないな。


「おやっさん、これ樽のままだとどれくらいで販売するの?」


「樽は金貨1枚じゃ。王都の商人にはこれで卸そうと思っとる。この領じゃ買えるやつはまだほとんどおらんじゃろからな」


後で赤ワインの仕入値を聞いたら1樽銅貨80枚だった。アルコールが摂れたらいいので安いのを大量購入することで更に安くしてもらってるらしい。


さて、そろそろ人が集まって来てるから祭りの始まりだな。


準備は大変だけど、高校の文化祭の前みたいで意外と楽しい。討伐祭りじゃなくて毎年の行事にしていってもいいかもね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る