第165話 腫れ物
材木用の荷車に蛇を載せて街に戻る。
おいっ!なんだありゃ?
なんてデカい蛇だ。
あれ、この前ギルドから討伐依頼が出ても誰も参加しなかった奴じゃねーか?
おいおい、領主様自ら討伐して来たんだとよ。
武器屋の親父と熊みえてぇなやつもいるぞ。
商会の前まで来ると蛇の解体が出来るように台がしつらえてあった。ミゲルが蛇を受け取りに来る間に指示してあったらしい。この短時間で素晴らしい。
「よし、頭を落とした蛇はここで解体する。もう1匹はそのまま王都に運んでくれ。悪いが大至急になるが頼んでもいいか?」
ミゲルは任せとけと胸を叩く。
いつの間にかアーノルドは伝令を王都に走らせ、討伐した蛇が運び込まれることを事前に告知したようだ。
首を落とした蛇をアーノルド自ら剣を入れる。背中と腹の間、つまり横側をすっぱりと斬った。
「坊主、蛇は背中の模様がある皮と腹側のひだがある皮では用途が違うんじゃ。どちらも使えるようにあそこから切るのが一番効率がいいんじゃ」
なるほど。へんな所から切るなと思ってたらそういうわけか。背中側は装飾品やバッグ等に加工され、腹側は防具等に使われるらしい。
あれよあれよと言う間に皮が剥ぎ取られ、内臓や血は廃棄され、肉と大きな魔石が取り出された。
「ミゲル、その蛇は丸まま。いま解体したこいつの頭、皮、魔石、それと卵だ。これを王都まで頼む。門番には伝わっているはずだからどこに運び込むかはそいつらの指示にしたがってくれ」
ミゲルは数人の屈強そうな大工を引き連れてすぐに王都に向かってくれた。明日の朝には到着させるとのこと。
「おい、明日この蛇肉で討伐祭りをやるぞ!お前らみんなに食わしてやる」
うぉぉぉぉーっ!
領主様太っぱらっ!
ヤバかったな
さすが英雄パーティー!
ワーッ ワーッ
蛇の肉って食えるのか?
何言ってんだお前、高級肉だぞ。普通ならあのまま王都行きだ。肉だけでも金貨何枚にもなるんだぞ。
それを俺達に食わせてくれるのか?
さすが領主様だ。気前がいいぜ!
みんなにも声掛けとけ。明日は腹一杯食えるぞ。
しかしたったあれだけの人数でフォレストグリーンアナコンダ2匹も倒したんだな。
しかもあんな大きいとはな。
さっき遺品らしきものが冒険者ギルドに運び込まれてたぜ。
ということは最近帰ってこなかった奴らは・・・
残った大工達が急ピッチで商会前に屋台を作り始める。祭り前の慌ただしさだ。
「ドワン、明日酒の用意を頼む。こっちは蛇肉料理の手配をしておくから」
おうっと返事をしたドワンと別れて蛇肉の塊を一つ持って屋敷に向かった。
「ダン、ゲイルと先に戻っててくれ。俺はギルマスと話をしてから戻る」
「了解」
ー冒険者ギルドー
「アーノルド、この遺品ありがとうな。ギルド内で展示して遺族が申し出たら渡していいな?」
「あぁ、そうしてくれ」
「謝礼はどうする?」
「確実に遺品として返してやれるならいらん」
通常、遺品は回収した者に権利があり、遺族はそれを買い取るシステムになっている。
「あと、1人分は先に返しておいた。ドドと言う奴の分だ」
「やはりあいつも食われてたんだな・・・」
本当は冒険者達に緊急討伐依頼をするべきだと思っていたマーベリックが呟いた。しかし緊急討伐依頼で召集しても無闇に冒険者達を死なせてしまうことが分かっていたのでアーノルドに託すしかなかったのだ。
「明日、討伐祭りをするからお前も食いに来いよ。冒険者の欲を刺激するきっかけになるからな」
「欲を刺激する?」
「あぁ、討伐した俺達に寄せられる称賛、旨い肉と酒、これで眠っている冒険者の心が動き出す奴がいるんじゃねーか?やる気になるヤツが出てくれば鍛えようがあるからな。まずそのやる気を起こさせてやる」
「そうだな、明日を楽しみにしてるぞ。それとお前が言ってた自分より強いかもしれない冒険者ってのはあのちっこいのか?」
「そうだな。デカい方の蛇はアイツが1人で倒した。これは内緒にしとけよ」
「何っ!どうやって倒した?」
「それも内緒だ。教えても誰にも出来んからな。それにアイツがいなければ俺は死んでたな。今回の最大の功労者はアイツだ」
「ど、どんな戦いだったか教えてくれっ!」
「そいつはまた今度酒でも飲みながら話そう。俺もさすがに疲れたからな」
「そ、そうか。そうだな。今度ゆっくり飲んで話そう」
じゃ、とアーノルドはギルドを後にしようとした時に最後にこう言う。
「王都のギルドから連絡がくると思うが、あの蛇、石化の魔法を使うぞ」
「なんだとっ!?フォレストグリーンアナコンダが石化の魔法?どういうことだアーノルド。おい、そいつを話してから帰れっ。おいっアーノルドっ!」
ぽてぽてと歩きながら屋敷に向かう俺とダン。蛇肉を抱えたダンが俺に話かけて来る。
「なぁ、ぼっちゃん。そのトゲトゲいつまで着てんだ?一緒に歩いてる俺が恥ずかしいんだけどよ」
えっ!?
あ、すっかり脱ぐの忘れてた・・・ 軽くて動きやすいから身体に馴染んで違和感が無くなっていたゲイルはそのままずっとトゲトゲ防具を身に着けたままだった。
もう今さら脱いでも遅い・・・
「き、気に入ってるからこのまま着て帰る・・・」
「まぁ、ぼっちゃんがそういうならいいけどよ」
チラチラ見られているのはダンがデカい肉の塊を持ってるからだと思ってた・・・
商会の前にいたやつらは俺の事を何も触れていなかった。見るな触るなの腫れ物状態が定着してしまったのだろう。
明日にはどんな噂が流れているのだろうか?
なんて恐ろしい・・・
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