第162話 蛇討伐

その日の夕食時にアイナに愚痴った。


「母さん聞いてよ。父さんは俺も蛇退治に連れて行くつもりなんだよ」


「あら、良かったわねぇ」


なんですと?


「どっか遊びに連れて行ってくれるわけじゃないんだよ?蛇退治だよ蛇退治」


「あらフォレストグリーンアナコンダでしょ?美味しいのよあれ。たくさん獲って来て頂戴ね」


たくさん獲って来いって・・・ボアや鹿じゃないんだぞ。


ん?蛇って旨いのか・・・?


「ゲイル、決まった事をぐちゃぐちゃ言うな。女々しいぞ」


アーノルドの奴、ベントにはそんなこと言わない癖に。


「父さん、ゲイルが討伐に付いて行って何か役に立つんですか?」


ベントの野郎。俺が役に立つのかだと?お前よりマシだ。


「囮くらいはできるぞ」


あっはっはっはと二人で大笑いする。


アーノルドの野郎・・・ 蛇退治の時に後ろからファイアボール誤射してやるからな。


「ま、冗談はさておき、危険な討伐になるのは確かだ。今回、俺とダンとドワンが中心になるが3人とも武器使いだ。ドワンもダンも魔法攻撃が出来るようになってきたとはいえ、実戦でいきなり連携しながら使えるものではない。やつの巣穴周りは木や蔦で覆われていてな、武器使いには不利なんだ。しかも奴は気配も消せるし音も立てないで移動する。周りに擬態していきなり巻き付いてきたりするからやっかいなんだよ」


「そ、そんな危険な魔物討伐にゲイル様が・・・」


シルフィードがオロオロしている。


「特攻は俺とダンでやる。ドワンはゲイルの壁役だ。もし全員がヤバくなった時に巣穴ごと焼き尽くしてその後火を消す。こんな事が出来るのはゲイルだけだからな。ドワンとゲイルは俺達が失敗した時の保険だ。前には出さんから安心しろ」


そういうことだったのか。だからドワンも俺が行かないなら行かないと言ったのか。

初めにちゃんと説明しろよ。


「父さん、僕が参加すると言ったらどうする?」


「ベントがか?んー、正直に言うと邪魔だ。ゲイルは毎日のようにダンと狩りをして魔物の動きにも慣れているし、俺達の動きを見てるから連携も取れる」


いや、連携とれてたらアーノルドを土壁にぶつけたりしてないぞ。


「ゲイルはそんな事をすでに・・・」


「それに一度ゴブリンに殺されかけた経験がある。冒険者は魔物の怖さを知らないとダメだし、怖がってばかりでもダメだ。ゲイルは殺されかけたこともあるし、殺したこともあるからな。こればっかりは経験の差だ」


誰が冒険者になりたいと言ったのだ?


「ゲイル、お前はゴブリンを倒した事があるのか?」


「倒したというか燃やしただけ」


「燃やした?」


「襲われそうになって慌てて燃やしただけだよ。倒そうと思って倒したわけじゃない。父さんやダンみたいに目で追えないスピードで移動したり首刎ねたり出来ないからね」


「そんな所を見たことがあるのか?」


「ベントも父さんが獲物見つけて移動したり鹿斬ったところを見たんじゃないの?それと同じようなもんだよ。稽古で振ってる剣と、狩りとはいえ実戦の剣はまるで違うからね」


確かに父さんが鹿を追い込むと言ってから気が付くと消えていたなと、ベントは旅の途中の狩りのことを思い出していた。


「ベントも一度ゴブリンに襲われてみたいか?なら今度ゴブリン狩りに連れていってやるぞ」


「いや、止めとく。僕にゴブリンを斬れるとは思わないから」


「そうだな。自分の事を知るというのは大切な事だ。やりたいかやりたくないか、向いてるか向いてないか。それを知っておけばいい。お前がゴブリン狩りに行きたいなら連れてってやるが、そうでなければ行く必要もない」


「俺、蛇討伐行きたくないんだけど・・・」


「それは別の話だ。諦めろ」


どこが別の話なんだよ、同じじゃないか。



俺とベントは旅から帰ってきてから口をきくようになっていた。アーノルド達も変に隠そうとせず、現状やこれから何をするのか話すようになっていた。ふと食堂を見回すと壁際にいつもいたサラがいなくなっていた。アーノルドがベントに話をするのにサラには聞かせないようにしたのかもしれない。



ー討伐に出かける朝ー


「ぼっちゃん、怪我しないで下さいね」


「ゲイル様、ダンさん。お気をつけて」


ミーシャとシルフィードが見送りに来てくれていた。


「父さん、討伐の成功をお祈りします。ゲイル、蛇に食われんなよ」


ベントも見送りに来てくれた。こんなこと初めてだな。


「誰が食われるか。お前に討伐した蛇の頭を食わしてやるよ。旨いみたいだから残すなよ」


俺とベントはお互いに憎まれ口を叩きながら出発した。


討伐の間、馬を森の小屋においておくのは心配なので徒歩で向かう。


「ぼっちゃん、ベントと話すようになったんだな」


「お互いギスギスした会話だけどな」


「何があったか知らねぇが、良かったじゃねぇか」


「ダン、こいつボロン村でベントにボロクソ言いやがってな・・・」


アーノルドはあの時の事を面白おかしく説明しだした。やめろよ、他の人が聞いたら俺が悪者みたいじゃないか・・・


ダンもそりゃひでぇとか笑いながら聞いてやがる。まだ笑い話にするほど日にち経ってないぞ。



馬だとすぐ到着する商会も歩くとこんなに遠かったっけと思う?人間って楽なのには慣れるの早いね。



「ドワン、準備出来てるか?」


「おう、今行くぞ」


ドワンが冒険者スタイルで出てきた。アーノルドとダン、俺は普段着だ。


ドワンを見て周りがざわつく。


「坊主、これがお前さんの防具じゃ」


ばっと広げて俺に着せようとする。

ヘルメットのような帽子に肩当て、胸当てなどはいいのだが、どれにも鋭いトゲトゲがあしらわれている。


どこの世紀末だよ・・・俺にヒャッハーとか言わせたいのか?


(ちょっと、おやっさん!俺が討伐に行くのバレたらどうすんの?)

(なんじゃバレたらいかんのか?)

(俺が魔法使ったりするの秘密だったでしょ)

(そうか、これもいかんのか?いやぁ、気付かなんだワイ)


すでに周りがざわつき出している。


(おい、武器屋の親父が防具着けてるぞ。それに領主様も一緒だ)

(あのでかいのダンってやつじゃねーか?)

(あの冒険者だった?)

(そうそう、ずいぶん前に引退したはずだが)

(あのちっこいのはなんだ?)

(馬鹿、やめとけ。指差すな。この前ガラの悪い冒険者があのチビに文句言った瞬間、武器屋の親父に殴り飛ばされてたのしらねーのか?)

(それによ、あのちっこい奴商店でごろ巻いてたやつに土下座させたらしいぜ)

(おいおい、なんだよあの恐ろしい防具は)

(見るな見るな、関わるとヤバいんだよ)


なんか俺、腫れ物扱いされてないか?それにどれも嘘じゃないだけにタチが悪い。


「お、おやっさん。防具ありがとう。後で着けるから早く森に行こう」


俺はそそくさと森へ向かった。蛇にやられる前にメンタルがやられそうだ。



小屋に到着


「おやっさん、この防具のトゲトゲは何?」


「万が一飲み込まれた時の為じゃ、これがあると飲み込むのに時間が掛かるから、対処する時間が稼げるじゃろ。あいつらは噛みちぎったり咀嚼したりせんからの」


飲み込まれる前提の防具・・・嫌すぎる。


取りあえず防具を身に着けてみる。見た目と違ってすごく軽いし動きを疎外しない。さすが名匠ドワンの作品だ。見た目はヒャッハーだけど。


「お、おやっさん、この手袋・・・」


ダンが俺の手を握りしめて手袋をマジマジと見ている。


熊に手を握られても嬉しくないぞ。


「お、気付いたか。さすがじゃの?」


「この手袋がどうしたの?」


拳にボツボツが付いている。いわゆる中2病的な手袋だ。


「ゲイル、その手袋は魔剣ならぬ魔手袋ってやつだな」


「そうじゃそうじゃ、アーノルドも良く分かってるのぉ」


魔手袋?


「坊主、火でもなんでもいいから魔法をその手袋に纏わせてそこの丸太を殴ってみろ」


俺は言われた通りに火魔法を纏わせて殴ってみる。


ゴウッ


丸太が何の抵抗もなくえぐり取られ、そのえぐり後からプスプスと煙がでていた。


「なんだコレ?すげぇ」


俺がそういうとドワンがそうじゃろうそうじゃろうと嬉しそうだった。


「おやっさん、俺のっ俺の剣はっ?」


「そこの腰にあるじゃろ?」


「いや魔剣・・・」


「まだ自由自在に魔法を操れんじゃろ?それが出来てからじゃ」


「ちっ、なんだよ。ぼっちゃんばっかり・・・」


ぶつぶつ言いながら拗ねるダン。


「坊主には必要ないかも知れんが、万が一目の前に敵が現れた時に役立つかもしれんから作ってみたんじゃ。こうやってすぐに使いこなせる坊主には色々と作りがいがあるワイ」


「いつもすまんなドワン」


「なぁに、ワシの武具を使いこなせるやつはあまりおらんからの。たまにはこうして作らんと腕が鈍るからちょうどいいんじゃ」


俺は火魔法や氷魔法、土魔法を纏わせて色々試した。特に土魔法を纏わせると殴ったところが石化して面白い。まるでメデューサの目みたいだ。


ん?メデューサ? 蛇?


「父さん、あの蛇魔法使わないよね?」


「あぁ、使わんぞ。なんでだ?」


「いや、ちょっと気になっただけ」


「なら作戦会議といこうか。ゲイル、お前考えがあると言ってたな」


「うん、魔法を撃ち込んでも出てこないと思うんだよね。そろそろ餌を食べに出てくるかもしれないんでしょ?」


「そうだな。ちょうどそれくらいだろう」


「ボアを狩って、毛皮を土で作ったボア人形に被せて巣穴の前で動かしたら出てくると思うんだ」


「ほぅ」


「蛇は基本的に目をあまり使わず、臭いと振動で獲物の動きを察知してるんだよ。中には熱に反応してる奴もいるんだけどね」


「それならわざわざボアの皮を剥いで人形に着せんでも、そのままボアを連れて行けば済む話じゃろ?」


「巣穴に近付く前にがさがさ音を立てたら先に気付かれるからね。父さんとダンがそっと巣穴に近付いた後に囮を出す方がいいと思うんだ。人形だと音をたてずに魔法で運べるからね」


「ぼっちゃん、良く考えてあるな。そうしよう。巣穴から出た蛇をアーノルド様と俺が首を斬るということで行こう」


「よし、決まりだ。なら飯も兼ねてボアを狩に行こう。万が一蛇が巣穴から出てこの辺にいるかもしれんから全員で行くぞ」


俺達は蛇退治の前にボアを狩ることにしたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る