第161話 根回し

翌日、アーノルドも商会に来て蛇討伐の打ち合わせをしていた。


「ダンの言う通りだな。ギルマスとも話したが冒険者ギルドに討伐出来るやついねぇみてぇだ。数はいるが職業としてやってるやつばかり増えたみたいだな」


「そうみたいだな。ガツガツ来た奴は基礎もなってねぇ勘違い野郎ばっかだった。あんなの連れてったら死ぬのがオチだ」


「今の冒険者はそこまで質が落ちとるのか。そういやワシもこの1年くらい武器を売っとらんからの」


「おやっさん、酒屋になったと思われてんじゃないの?」


やかましいっ!と怒鳴られる。

だってずっと商会にいて武器屋の店閉めたままじゃん 。


「仕方がないから俺達で討伐に行くことになった。宜しく頼む」


おうと返事するドワンとダン。


「この討伐が終わったら冒険者のテコ入れをしようと思うんだがなんかいい案ないか?」


「冒険者学校の他に?」


「ああ。学校は来春開設する。それとは別に初心者向けじゃなく中級以上のやつら向けだ」


「でもその人達って今の生活に満足してるんでしょ?無理じゃない?」


「そこを考えるんだよっ」


「じゃあ、もっとお金が欲しくなるように仕向けるしかないね」


「どういうことだ?」


「今の稼ぎでは手に入らない欲しいものを作るんだよ。例えば・・・おやっさん、赤ワインの蒸留酒をそろそろ売り出すんでしょ?」


「そうじゃな、去年作った奴をそろそろ市場に出そうと思っとる」


ドワンは赤ワインを大量に購入し、せっせと蒸留しているのだ。ボロン村の白ワインのは寝かせて熟成させる用。赤ワインのは売る用だ。どうせ飲んでるだろうけど。


「それを少し味わせて、高額で売ればいいんだよ。初めから高額だと買わないでしょ?だから先に味を覚えさせるの」


「どうやるんじゃ?」


「蛇討伐祝いとかで祭りにすればいいんじゃない?一人一杯だけ無料で振る舞えばいいんだよ。旨いと思えば買いに来るでしょ?でも値段をみてビックリ!そこで買える値段の割高な小瓶を売ってやる→ちびちび飲むようになる→もっと飲みたいけど今の稼ぎじゃ買えない→稼ぎのいい依頼や素材が取れる魔物を狩るようになる。こんな感じかな」


まるでいけない薬の売り方だ。


「なるほどの。欲しい物を作り出していくわけか」


「父さん、今度の討伐は報酬出るの?」


「元々領主が出すべき依頼だからな、俺が払って俺が貰うようなもんだ」


「じゃあ、これやると赤字だね。」


「報酬は出んが素材は高く売れると思うぞ。あの蛇の皮は人気が高いから王都のオークションに掛ける予定だ。俺が引退してからあの蛇が討伐された話は聞いたことないから、ビックリするような値段が付くだろう。だから皮に傷を付けずに倒すんだぞ」


へぇ、この世界でも蛇皮って人気があるんだね。バッグとかに加工されるのかな?


・・・ん?皮に傷を付けずに倒すんだぞ?


「皮に傷を付けずに倒すんだぞって誰に言ってるの?」


「お前に決まってるだろ?」


「なんで?」


「お前慌てると燃やしたりするだろうが?」


確かにゴブリン燃やしたことあるけど・・・ ん?


「ひょっとして俺も討伐に行くの?」


「初めに言っただろうが。俺達で討伐することになったと。」


え?俺も含まれてたの?


「ちょちょちょっ!ダン、父さんに言ってやってよ。無理に決まってるじゃん。おれ実戦とかしたことないんだよ!」


「ぼっちゃん、ボロン村でアーノルド様に勝ったそうじゃねぇか。十分だよそれで」


はぁ?あんなの遊びじゃないか。


はっ!あれはこの為の布石なんじゃ・・・


ニヤニヤ笑うアーノルド。


くそっ、嵌められたのかっ?


「ねぇ、おやっさんも言ってやってよ。坊主にゃまだ早いって!」


「ワシはお前さんが参加する事を条件に承諾したんじゃ。坊主が不参加ならワシも行かん」


汚っねぇ。俺の知らないところで根回し済んでんじゃん。


「と、父さんならダンと二人で大丈夫なんじゃない?」


「お前、薄情だな。俺たちはパーティーじゃなかったのか?」


こんな時にパーティーの話を持ち出しやがった。ホントに汚い野郎だ。くそっ!


「俺は離れて見てるだけだからねっ」


「ああ。それで構わん。魔法の届く範囲ならな」


「見てるだけでも素材が売れたお金は山分けだからねっ!」


「当然だ。俺たちはパーティーだからな」


くっ、行かざるを得ないのか。そりゃいつかは討伐する機会が来るかもしれないとは思ってたけど、よりによって冒険者が尻込みするような化け物が初戦の相手だと?あんな大きなボアをペロッと丸飲みするような大きさの蛇を・・・ 初心者の街を出ていきなりエリアボス戦とかどんな無理ゲーなんだよ。


「わかったよ。どんな作戦でいくつもり?」


「お前が小さな火魔法を撃っておびきだした所を俺達が斬る」


なんて単純な・・・


「火魔法撃って警戒して出てこなかったらどうするつもり?まさか俺を囮にするつもりじゃないだろね?」


あ、目線そらしやがった。なんて親だ!


「俺に考えがあるから小屋で1泊して、そこから討伐に向かうのでいい?」


「いや、坊主の防具を作るから2日くれ」


「なら、3日後に出発でいいな?」



あーあ、なんで俺も行かなきゃなんないんだ。アーノルド一人で討伐出来るんじゃないのかよ・・・


やだなぁ蛇退治。

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