第160話 勝手に決められた
「皆さん、昨日はごめんなさい」
「気にしないでぇ」
「また来て下さ~い」
領主様ばんざーい ばんざーい
俺たちは村人の盛大な見送りの中、馬車に乗って出発した。皆にお詫びを言えたベントもすっきり出来たようだった。
二日後、屋敷に到着すると皆が出迎えてくれていた。
「ぼっちゃまお帰りなさい。シルフィードさんも戻ってきてくれて良かったです。あのまま帰っちゃったらどうしようかと思ってたんです」
「ミーシャさん。春までこちらにお世話になることになりました。また宜しくお願いします」
シルフィードの年齢を知ったミーシャはちゃん付けからさん付けに呼び方が変わっていた。
出迎えてくれたダンと一緒に馬を牧場に連れていく。
「ぼっちゃん、ボロン村はどうだった?」
「ずいぶん葡萄畑も広がってたし、罠も増えて順調に獲物が獲れてるみたいだったよ」
「そりゃ良かった。去年頑張ったかいがあったな」
「そうそう、村の女性陣がダンが来てなくて残念がってたよ。あっちに住めばすぐに結婚できるんじゃない?」
「そりゃあいいな、あそこは美人揃いだからな」
かっかっかっ
ダンはこう言ってるけどまるで本気じゃなさそうだな。男盛りなのに女に興味が無いのか?
牧場でシルバーとソックスに回復魔法をかけ、ご褒美の黒砂糖をあげた。
「疲れただろう、今日はゆっくりお休み」
フンフンフン
シルバーが俺を鼻でつついてくる。
「なんだよ?乗れって行ってるの?」
「ぼっちゃん、この旅でぜんぜん乗ってやらなかったんじゃないのか?」
「村では乗ってたんだけどね。」
「ちょっと乗ってやれよ。帰り道寂しかったんじゃないのか?」
「そうかもね。じゃ、少し走るか?」
ブンブンブンと首を縦に振るシルバー。
俺はシルバーに乗ってオーバルコースを走った。何周かすると満足したのかとても機嫌が良くなったようだ。
「今日はこれくらいにしておこうね。また明日出掛けよう」
シルバーをソーラスに渡して屋敷に戻る際、晩飯の後アーノルドに報告に行くから伝えておいてくれとダンに言われた。留守の間の報告だろう。
夕飯時にアーノルドにダンの事を伝えた。
「ダン、留守の間すまなかったな。蛇の討伐隊はどうなった?あ、口調は普通にしゃべってくれ。最近戻ってきてるぞ」
「あー、では、結果からいうと全滅だな。剣で戦える奴はそこそこいるんだが、魔法を使えるヤツがてんでダメだ。詠唱は遅いし威力も低い。あれでアイツを倒せるとは思えねぇ」
「お前はいつもゲイルを見てるからそう思うんじゃないか?」
「それもあるかもしれねぇが、俺が銃で撃った方がマシだな」
「そうか、剣のやつらでいけそうか?」
「あの場所じゃ厳しいな。蔦や木ごとスッパリいけないと無理だし、囮になれるやつもおらん」
「今の冒険者はそこまで質が落ちてるのか・・・」
「残念ながらそうだな。大量に連れていくなら討伐出来るかもしれねぇが何人死ぬかわからん」
「そうか、仕方ないな。俺が行くしかないか。ダンも行ってくれるか?」
「元々そのつもりだ。俺が居なきゃ場所もわかんねぇし。それとおやっさんには頼むのか?」
「そうだな、俺とお前だけでも行けるかもしれんが、ドワンがいた方が安心だな」
「ぼっちゃんはどうする?」
「ゲイルもか?」
「おやっさんが行ってくれるならぼっちゃんの壁役になって貰えるし、囮なしでもぼっちゃんなら細かくコントロールした魔法で誘きだせるんじゃねぇかな?最悪巣穴ごと焼き払う事も出来るし、それを消す事も出来る。俺たちじゃ消せないからな」
「そうか、ゲイルを連れて行くか・・・わかった。アイナにも相談して、明日、冒険者ギルドにも相談してくるわ」
「おう、ぼっちゃんにはまだ黙っとくぜ」
「よし、後は飲みながら話すか。ボロン村での話を聞かせてやろう」
「お、いいねぇ」
「それがボロン村でよぉ、ゲイルのやつが・・・」
アーノルドはボロン村でのゲイルとの一戦を愚痴りながらダンに話した。ちょっと本気を出してたのにあっさりとやられたのが悔しかったようだ。
アイナはドワンが一緒に行くならという条件付きでゲイル参戦を支持し、翌日ドワンもゲイルが行くなら仕方がないとOKを出した。
ー冒険者ギルドー
「おい、ギルマス。討伐隊が組めないってどういうこった?」
「仕方がないだろう。フォレストグリーンアナコンダを討伐出来そうなパーティーもおらんのだ」
「いつからこんな腑抜けな冒険者ばかりになったんだ?」
「冒険者の数は増えたさ。でも職業としてだ。そこそこの仕事でも食えるからなここは。冒険者らしい冒険者は死んじまうか引退しちまったよ」
「危険な魔物が街を襲いに来たらどうすんだ?」
「そんときゃ強制討伐指示だすぜ。だがな、今回は街に近いとはいえ森の奥だろ?あいつらは森からは出ん。確かに最近帰って来ない冒険者はいるがそいつにやられたとは限らんだろ。強制討伐指示は出せんよ」
「お前も腑抜けたな。自分で行くぐらいの気概は見せれんのか?」
ギルマスは義足の足をプラプラ見せながら無茶言うなと返した。
「今回は俺が出る。おそらく今回の素材は王都でオークションにかけられて莫大な金額になるが冒険者ギルドには一銭も入らん、それでいいんだな?」
「仕方があるまい。今はお前みたいな冒険者はおらんのだ・・・」
・・・
・・・・
・・・・・
「なぁ、マーベリック。いつからこうなったんだ?」
「ダンが引退したあたりからだな。あいつらは魔法使いがおらんくせにどこでも行ってバンバン狩って来やがった。それを見ていた他の奴らもヤル気になって腕を磨いてと・・・。その結果があれだ。他の奴らも相当ショックだったんだろうよ」
「そうか・・・」
「あいつ今お前の息子の護衛やってんだろ?ちっこい子供と馬に乗って幸せそうじゃないか。笑えるようになっただけでも良かったと思うぞ」
「そうだな。しかしな、ダンは冒険者時代よりも強くなってると思うぞ。今度の討伐はダンも連れていくしな」
「何っ!?」
「ドワンも連れて行くがな、それとあと一人・・・」
「アイナも行くのか?」
「アイツは治療院があるから留守番だ」
「じゃあ誰を・・・」
「うちの秘密兵器だ。俺より強いかも知れんぞ。討伐は必ず成功させる。楽しみにしとけ」
「お前より強いって・・・そんなやつがどこに・・・。おい、ダンにいつでも戻ってこいと伝えておいてくれ!」
「そいつは無理だと思うぞ」
そう言い残したアーノルドは冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドのギルドマスター、マーベリックはアーノルドが現役時代に張り合ってた男だ。魔物にやられて足を失い冒険者を引退した。
冒険者の事は奴に任せっきりだったが、もっと話を聞いてやるべきだったな。そうかダンが引退してからか・・・
アーノルドは蛇の討伐後、冒険者育成のテコ入れを決意したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます