第159話 合格祝いの家族旅行完結編

シルフィードはベントに話し始める。


「私達は元々北の方にある帝国領の村に住んでいました」


「帝国領?」


「はい、この国とは違う国です。瘴気の影響で村の者が乱暴になり、恐くなった私達は村を捨ててここに逃げてきました。私の母親もその時に殺されました」


「殺された・・・?」


「父親はエルフですが、私にはほとんど父の記憶がありません。そんな父も母もいない私を村長が育ててくれ、村の皆が守ってくれました」


「シルフィードが孤児・・・」


「ここの土地に来てもあまり農作物を育てる場所がなく、狩りが出来る男性もほとんどおらず、毎日食べ物が何かないかと探すような日々でした。そこにこの国の貴族がやって来て細々と作っていたワインを名産にすれば儲かると。それに税金を払えと言われました」


「税金を?」


「はい、村にはお金が無く、勧められるがままに借金をして葡萄畑を広げワインを作りました」


「それが父さんが買ったワインなの?」


「そうです。ようやく出来たワインですけどまったく売れず、たまたまディノスレイヤの街の商店が半額ならと100樽買ってくれたと聞きました」


「しかし、うちのワインはこの国の人の口に合わなかったようで、その商店でも全部売れ残ってたらしいのです。それをゲイル様が知り、全部ワインを引き取り、街に残ってたシド達を探し出してワインを売りに来た理由を聞いてくれたそうです。そして元々売る予定だった金額で全部引き取るから持ってきてくれと」


「ゲイルが全部買うと言ったの?」


「はい、そう聞いています。売れ残ったからと言って値段を安くするわけでもなく、真っ当に作られたものには真っ当な金額を払う必要があると言って元値で全部買ってくれたとシドが感動していました」


ベントは初めて聞いた話が信じられない。


「ゲイル様は売れるかどうかわからないものを大量に作った経緯が気になられたようで、領主様と一緒に理由を聞いて下さいました。その結果、私達は騙されて借金を背負わされたのだと分かりました」


「わざと借金を?」


「はい、借金を背負わせて払えなくし、村の女性と私を奴隷商に売り払うつもりだったようです。初めに話を聞いてくれたゲイル様がその可能性を見抜き領主様に解決してくれるように頼んでくれたようです」


「ゲイルが?」


「はい、何かおかしいと、一つずつ推測したものをシドに尋ねていったそうですから」


シルフィードは話を続ける。


「その後、この村をディノスレイヤ領にこの村を入れて下さる事になり、去年アーノルド様とゲイル様が使用人の方々と住民登録の為に来てくれました。ゲイル様は村長の話を聞き、農地が開拓出来ない理由、獲物が狩れない理由を聞いて、農地開拓には馬に取り付ける農機具、獲物は女性でも狩りが出来るように罠を考えてくれました」


「それで女性が槍を・・・」


「それまでめったに食べる事が出来なかった肉が安定して獲れるようになり、馬が開拓してくれたお陰で野菜がたくさん採れるように、ようやくこの秋から食べ物の心配をしなくて済むようになってきたんです」


「今年の秋から?」


「農作物が育つには時間が掛かりますから。私の魔法を使っても全員分を育てるのは無理ですからね」


シルフィードは一呼吸置いた。


「ハ、ハーフエルフは災いを引き起こすと言うのは聞いた事がありますか?」


「・・・・うん。僕のメイドから聞いた」


「ゲイル様は私がハーフエルフだと知っても何も恐れず変な目で見るわけでもなく、普通の人間として接してくれました。それはアーノルド様もダンさんも同じでした。私は皆と違う種族の血が混じり、災いを生むと言われていたので他の人の目が怖かったんです。村のみんなから何かされたわけじゃありませんけど、ビクビクしながらフードで顔を隠し、怯えて暮らしてました。そんな私を救ってくれたのがゲイル様とダンさんだったんです。罠に掛かった獲物を私でも倒せるように勇気をくれました。獲物を倒せた時、これでやっと私も村に貢献出来る。本当の村人になれると思いました」


「そんなこと僕は知らなかった・・・」


「村にまず食べられるものを、次に美味しいものを、そして好きな物が手に入るようにお金が入る名産品を。そんな風にゲイル様は考えているんだと思います」


「なんでゲイルがこの村の事をそんなに考えてるんだ?」


「村のことだけじゃないですよ。関わった人の事を考えてくれてるんじゃないですか?ゲイル様のお近くにいる人は皆楽しそうです。ゲイル様はいつでも旨いものが食べれるのがいい。自分一人でなく皆で食べた方がもっと美味しいからと言ってましたけど」


「僕はなにも知らないのにゲイルはなんで色々知ってるんだ?なぜ誰も俺には教えてくれないんだっ!」


「それがゲイル様が先ほど言ってたことじゃないでしょうか?何も見ようともしない、知ろうともしないと。ゲイル様は色々な方と分け隔てなくお話されるのと、疑問に思ったことは聞いたり確認されたりしてます。皆が自分からゲイル様に相談されているわけじゃありません。あと自分に何が出来るのかをいつも考えて何か実験とか試されてますね」


「実験?」


「はい、私がお屋敷にお邪魔してからも色々試して失敗してを繰り返されてますから今までもそうされて来ているんだと思います。同じ屋敷で暮らしてるのに知らなかったでしょ?」


「うん」


「知ろうとしなければ解らない、見ようとしなければ見えない、そういうことをゲイル様は言いたかったんじゃないでしょうか?」


「ゲイルの言うことは正しいのか・・・」


「ベント様はゲイル様に言われた事がショックだったのではありませんか?真実の事ほど言われると胸が痛くなります。でも痛みを感じないような人には言っても無駄ですからね。あとゲイル様があんなに感情を出してるのを初めて見ました。いつも冷静なのに」


「あいつ、俺にはいつもそうなんだよ。むちゃくちゃ言いやがって」


「それはご兄弟だからかも知れませんね。血の繋がりがあるとそうなるのかもしれません。少し羨ましいです」


「あんなに人前でボロクソ言われるのが羨ましい?」


「はい、私には血の繋がりがある人がもういないかもしれないので・・・」


そう言われたベントは何も返事が出来なかった。



ーその頃のゲイル達ー


「ゲイル、お前ベントに言い過ぎじゃないか?」


宴会終了後、俺はアーノルドとアイナに説教を喰らっていた。


「そうよ、あなたの言ったことは間違ってはいないけど言い方ってもんがあるでしょ。なんでベントにはあんな言い方しかできないの?」


「ほ、本来は父さん達が言うべきことを・・・」


「内容を言ってるんじゃありません。言い方を言ってるの」


確かにヒートアップしてたのは自覚がある。自分でもよくわからんが、ベントにはなんかムカついたら止まらなくなるんだよな。俺の感情のスイッチを押されるというか・・・ 冷静になるとあんな子供に言うようなことじゃ無いとは思いはするけど。


「わかったよ、ベントに謝るよ。でも言い方に対してだよ。内容は間違ってないから謝らない」


「それでいいから、戻ってきたらちゃんと謝れよ」


へいへい



ベントとシルフィードが戻ってきた。


「父さん、母さん。僕は何も知らずに皆を困らせるような事を言ってごめんなさい。」


お、素直に謝りやがった。シルフィードはどんな話をしたんだろう?


「ほら、ゲイル。あなたもちゃんと謝りなさい」


「ベント、俺の言い方は悪かった。でも間違ったことは言ってないからな」


ゴツンっ


「・・・言い過ぎました。ごめんなさい」


「ゲイル、お前が僕に言ったことは間違ってなかった。でもお前は嫌いだ」


何だとこいつ・・・


「しかし、お前の話は聞いてやる。俺にも色々話せ。きょ・・きょ・・」


きょ?


「きょ、兄弟だからなっ」


フンッ


ほー、


「わかった。俺も領主は無理だと言ったのは撤回してやる。その代わり、今のお前には無理だと言い換える」


ベントが領民のことをホントに知ろうとしていけば、剣も魔法も使えなくても領主としてやって行ける道が見つかるだろうから一部言い換えておいてやろう。



「はっはっはっは!そうか、兄弟か、そうだお前達は兄弟だからなっ」


アーノルドは俺達の頭をつかんでグリグリした。


おいっ!俺の方だけ身体強化してんじゃねーか!


いでででででっ



その後、ベントは村長にも謝りに行き、明日ボロン村を発つことになったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る