第158話 合格祝いの家族旅行その7
「もういい!ゲイルの話なんて聞きたくもないっ!」
シーーーン・・・
何やってんだあいつは?せっかくみんな宴会を楽しんでるのに。
「どうしたベント?何かあったのか?」
アーノルドが様子を見に行く。
ベントの周りにいた村人達がオロオロしている。
「どいつもこいつもゲイル ゲイル ゲイルっ!もうゲイルの話なんて聞きたくないっ!それに父さん達もだよっ!自分達だけで楽しんで!今回は僕の合格祝いの旅行だったんじゃ無いのかよっ!」
「それはそうだが・・・」
「みんなが僕にゲイルの話をしてくる。ゲイルなんてちょっと魔法が使えるだけの子供じゃないかっ!お前達はなんでそんなにゲイルばっかり持てはやすんだよっ!俺だって領主の息子だぞっ!」
何言ってのコイツ?
「ベント様、この度は村人が大変失礼な真似を・・・」
ダートスが慌てて謝罪に来てベントに頭を下げる。
「村長、謝ること無いよ。コイツが勝手に拗ねただけだ、皆は悪くない」
「なんだよっ、俺のどこが悪いんだよっ!」
「お前以外誰が悪いってんだよ。せっかく皆が歓迎の宴会をしてくれてるのにぶち壊しやがって」
「ゲイル、その辺にしておきなさい」
「母さん、そう言う訳にはいかないよ。コイツの甘ったれた根性のせいでみんなの好意が台無しだ。ベント、お前この村の肉や食料がどれだけ大切なものか分かってんのか?」
「食べ物なんて無ければ買えばいいじゃないかっ!それにその辺にでもこんなに獲物がいるんだろっ!」
「お前、昨日、今日と村の何見てきてたんだ?食料を買えばいい?どこで買うんだ?ええっ!言ってみろよ」
「そ、それは街に行って・・・」
「お前、家の馬車でここに来たから分かんないんだろうが、荷馬車で街まで往復するのがどれだけ大変なのか知ってんのか?往復で一週間は掛かるんだぞ。その間野宿して危険な目にあって、買ってくる野菜は日持ちしない、肉は腐る。この村の人全員分どうやって毎日仕入れるんだよ。それにその金はどっから出てくんだ?」
「ワインをたくさん買ってやった金があるじゃないか」
買ってやった?
「お前、ワイン代金くらいでこの村の1年間の食料買えると思ってるのか?それも買ってやっただと?お前何様のつもりだ?」
「ゲイル、その辺にしとけ」
「父さん、ダメだね。コイツがただのぼっちゃんならここまで言わないけど、領主目指してんだろ?こんなやつが領主になったらあっという間に皆が不幸になる。ベント、お前はなんで領主になりたいんだ?どんな領にしていきたいのか言ってみろ」
「ぼ、僕は領主の息子だから・・・」
「はぁ?何言ってんだお前?領主の息子だから?それがなんだってんだよ。それならジョンも俺もそうだろうが。そんなもん理由にならん。お前が領主になりたい理由を言え」
「ぼ、僕は・・・」
「それとも何か?領主様 領主様とちやほやされたいだけか?税金で楽に暮らしたいだけか?」
・・・・
・・・・・
「父さん達は領主だから領民達から慕われてるわけじゃないぞ。領民の事を考えてるから慕われてるんだ。それに何かあったら自ら危険に飛び込む覚悟のある父さん、金持ってるとか無いとか分け隔てなく毎日毎日治療をする母さん。お前にそんなこと出来るのかよっ!」
「お、おれは剣も魔法も使えないじゃないか・・・」
「それがなんだってんだよ。お前の頭や手や足は飾りか?お前に出来ることはなんだ?お前自身が何も出来なくても一緒に悩んで考えることくらい出来るだろうが。お前はそれすらしようとしない、領民のことを見ようとも知ろうともしない、お前はいったい何をしたいんだ?」
「今回は僕の祝いの旅行じゃないか・・・」
「そうだ。別に視察旅行じゃない。お前は普通に楽しめば良かったんだよ。それをぶち壊したのはお前自身だろうが。自分がちやほやされないからって拗ねやがって。それにお前の事を知らない村人がお前をどうやってちやほやするんだよ?ちやほやされるような事を何かしたのか?それに罠を見に行った時に獲物が掛かってたんだろ?それを手伝ったのか?それとも案内してくれた人を労いでもしたのか?どうせボーッと見てただけだろうが。お前は領主の息子ってだけでちやほやされたら満足なのか?」
いかん、自分でもヒートアップしていくのがわかるが止まらん。
「結局お前は自分の事しか考えてないんだ。領民がどうなろうとどうでもいい。自分さえ良かったらいい。そういう人間だと自覚しろ。領主ってのは領民の為に何が出来るのか、どうすれば安心して暮らせるのかを考えて実行する人だ。何も見ようとも知ろうともせず、領民の好意を踏みにじるようなお前に領主は無理だ諦めろ」
あーあ、言っちゃったよ。こいつまだ10歳にもなってないのに。自分がちやほやされなくて悔しいとか子供なら当然の感情なのに。
「うわぁぁぁっ!」
ベントは泣きながら宴会場を走って出て行った。ま、何も反論させて貰えず図星を突かれた子供はああなるわな・・・
アーノルドかアイナがフォローに行ってくれないかな?
アイナがベントを追いかけようとした時に、
「私にベント様と話をさせて下さい」
シルフィードがベントの所へ行こうとする。気になってる女の子に慰められるとか逆効果にならないだろうか?
「じゃあ、お願いしようかしら」
あ、任せるんだ・・・
「ゲイル、この静まり返った皆をどうにかしろ。お前の責任だ」
え?ベントのせいだろ?俺の責任ではない。とも言ってられないな・・・、このままお開きになったら後味が悪すぎる。何かいい方法は・・
ぽくぽく・・・
チーンっ!
そうだ。
俺はうどんとパウンドケーキを持ってきた。
「みんな騒がせてごめんね。これ食べて気分直して」
まずシメのうどんをみんなの鍋に入れていく。なにやら見たことのないうにょうにょしたものにざわつく。
卵があるといいんだけど、ここには卵無いからな。あ、乳牛をアーノルドに支給してもらわないとダメだったんだ。ついでに鶏の支給も頼もう。
煮えて来たので恐る恐るうどんを食べ出す村人。
「うわっなんだこれ、旨いっ」
その声が上がると一斉に食べ出す村人達。
「ゲイル様、これはなんですか?」
「うどんって言ってね、ここの小麦粉と新しく仕入れた薄力粉ってのを混ぜて作るんだよ。材料さえあれば簡単に作れるよ。薄力粉はまだあまり流通してないから今種の手配をしてる。届いたらボロン村でその麦を育てて欲しいんだ」
「新しい麦?」
「その麦からこういうものも作れるよ」
おれはパウンドケーキを並べて女性陣に切って貰う。
「これはパウンドケーキって言ってね、薄力粉、卵、バター、牛乳、砂糖から出来ているお菓子だよ」
村人達が初めて食べる味。女性陣だけでなく、男性陣もパウンドケーキにメロメロだ。
「ゲイル様、麦は作れても卵や牛乳はこの村では・・・」
「父さん、村に乳牛と鶏を支給してあげたら?馬の繁殖出来るんだから牛も鶏も出来るでしょ」
「支給か・・・」
「まだ村で買う資金ないからね。2年くらいしたら新しい名産品とか売れ出すだろうし投資だよ」
「そんなものあるのか?」
「まだわかんないけどね。多分名産になる」
焼き肉のタレとアイスワイン、上手く行けばシャンパンだ。タレは庶民向け、アイスワインとシャンパンは金持ち向けだ
「お前が言うなら何か出来るんだろうな。よしわかった。牛と鶏を支給しよう。シド、春になったら取りにこい。手配をしておくから」
うぉぉぉぉ!牛乳や卵が手に入るぞー
領主様っ そっれ領主様っ!
美味しいものを食べて牛や鶏の支給が決まり、先ほどの静寂が嘘のように再び盛り上がりだした。
ぐすっぐすっ
「ベント様・・・」
「いいからほっといてっ!」
「私の話を聞いてくれませんか?」
・・・・
・・・・・
「どうせお説教だろ?」
「私の身の上話とこの村の話です」
「シルフィードの話・・・?」
「はい、ゲイル様がなぜあれだけ怒ったのかを理解してもらえると思います」
・・・・
・・・・
・・・・
シルフィードは静かに村がなぜここに出来たのか、自分がどうやって育って来たのか話し始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます