第157話 合格祝いの家族旅行その6

村人総出の宴会が始まる。あちこちに竈が作られ、焼き肉と鍋が振る舞われるれ、村人達も楽しそうだ。


「ボロン村のみんな、今日はありがとう。無礼講で楽しもうー!」


おーっ!


領主様っ 領主様っ 領主様っ


あちこちで起こる領主コール


中にはアイナ様可愛いー!とか聞こえてくる。美人が多い村でアイナみたいな可愛いタイプは珍しいのか結構人気があるようだった。歳食ってるけど・・・・


はっ!?


殺気を感じた俺はさっと逃げるとアイナクローが空振りした。


「あら、どうしたのゲイル?」


にじりよるアイナ、逃げる俺。ヤバい・・・


「はいゲイル様あーん」


その時、美人さんが俺を捕まえた。その手にはフォークに差した焼き肉がある。俺にあーんしてくれようとしているのか。助かったけど恥ずかしい・・・


子供が少ないこの村では子犬に餌をあげるような心境なのだろう。次々と女性陣が食べ物を持って近づいてくる。


「は、はいあーん・・・」


俺は観念して口を開けると肉やらなんやら突っ込まれる。


死ぬっ死ぬっ!そんなにいっぺんに食い物を突っ込むんじゃねぇ。


俺がじたばた暴れるとアイナはクスっと笑っていた。


アーノルドにもアイナにも特産のワインを注ぎにくる村人達。酸味が強いけど風味豊かで薄いアルコールのワインは焼き肉ともよく合うようで二人ともパカパカ飲んでいた。


俺はそっと抜け出して鍋を食べようと移動したらシルフィードが近付いてきた。


「ゲイル様大人気ですね、お鍋もあーんしましょうか?」


クスクスと笑いながら俺に鍋の具をよそって差し出してくる。少し酔ってるのかもしれん。


俺はそのスプーンをパクっと食べて、お返しにシルフィードにもあーんしてやると真っ赤になりなりながらそれを食べた。まるでバカップルだ・・・やった俺が恥ずかしいわいっ。


ふとベントを見ると一人でもそもそ食べていた。あいつ、誰とも交流しないつもりかね?


「ゲイル様っ、こいつを見てくれよ」


確かこいつは大工の・・・名前知らんな。まいいか。


大工が持ってきたのはデカイ罠だった


「こいつは大きな熊でも壊せん改良型だ。ほらここがな・・・」


補強した改良ポイントを説明してくれる。なるほど良くできている。


「おー、凄いね。自分で考えたの?」


「そうですよ。何度か壊されちまって工夫に工夫を重ねたんだ。この前ついにその大きな熊を捕まえてやったんだ。ダンさん達が狩った熊にも引けをとらねぇ」


「そこまで大きくなかったじゃない。ダンさんが狩ったのはもっと大きかったわよ」


大工の熊スペクタクルか。構わんからどんどん話を盛ってくれ。聞いてる分には面白いぞ。


「ゲイル様、今回ダンさんは来られてないんですか?」


「うん、街の近くに蛇の魔物が出てね。一応警戒の為に残ってもらったんだよ」


「あらそうなのね、ねー、今回ダンさん来てないって」


えー!?


数名の女性陣から不満の声が上がる。なんだよ、ダン人気あるじゃん。ここに住めばよりどりみどりだぞ。


「あと10年もすればゲイル様もダンさんみたいにダンディになれるのかしら?」


俺はあんな毛むくじゃらの熊にはならんぞ。


「あと10年経っても俺はまだ成人すらしてないよ。あっちに座ってるベントなら10年後は年頃だぞ、今のうちにツバつけといたら?」


「あの子は?」


「次男のベントだよ、俺の兄にあたる」


なんとなくベントを兄と呼ぶには抵抗があるので濁した言い方しか出来ない。


「じゃあ、ちょっと行ってこようかしら?」


そうしてやってくれ、この賑やかさのなかでボッチなんだから・・・



「おーひ、かかってこーい」


アーノルドがなんか始めやがった。言葉が怪しくなるくらい飲んでるのか?どんだけ飲んだんだよ。


「よしっ、俺からだぁぁぁ」


どーっん!


あっけなくひっくり返えされる村人A


「あーはっはっは!どうした。村の男どもはこんなもんかっ」


何をっ!?っと次々とアーノルドにかかって行くがAに続き、B、C、Dとどんどん投げ飛ばされていく。あーあー、もう。何やってんの・・・


投げ飛ばされた村人EかFわかんないけど俺の前に転がってきた。


「ゲイル様、俺達のかたきを取ってくれっ!」


あ、あんた何言ってんの?酔ったアーノルドに参戦しろとか・・・


「何っ?ゲイル様が参戦するのか?」


そっれ、ゲッイル ゲッイル!


あちこちから起こるゲイルコール。


「ゲイル様頑張って下さいね クスクス」


シルフィードまで・・・


「あなた!負けたら恥かくわよっ」


アイナまで何言ってんだよ。って、めっちゃ酔っ払ってんじゃん。


「よっし、ゲイルかかってこい。今日こそぶちのめしてやる」


だから、なんで3歳の子供をぶちのめそうとするんだよっ。


そっれ、ゲッイル!ゲッイル!


あー、もう


「父さん、恥かいても知らないからなっ!」


「よく言ったゲイル。父の偉大さを見せてやろう フッフッフッ」


こいつ身体強化し始めやがった。この前の剣の立ち合いのこと根に持ってやがるな。


そっちがその気なら・・・


「父さん、手加減しないから覚悟はいい?」


「生意気な口をきくじゃねぇか」


「剣を持ってない父さんなんて怖くないね、グタグダ言ってないで掛かって来たら?」


まともにやって敵うはずもないし、挑発しまくって突進させよう。


「行くぞ、とりゃぁぁあ」


やっぱり脳筋、あっさりと挑発に乗って突進してきた。ボアでももう少し警戒するぞ。


俺は土魔法で壁を出した。


「甘いっ!お前のやることはお見通しだ。何回も同じ手に引っ掛かると思うなっ!」


バッと壁を飛び越えようとするアーノルド。


空中に飛んでしまうのは愚策だよアーノルド。


どーーんっ


俺はもう一段壁をグンッと伸ばして飛んだアーノルドを迎撃した。


ぶっ!


アーノルドの身体がくの字に曲がる。土魔法を解除するとビタンとそのままの体勢で落ちた。


「はい、俺の勝ちー」


わぁーわぁー!ゲイル様の勝ちだ!

領主様を倒したぞー!


そっれ、ゲッイル ゲッイル ゲッイル


「お~の~れ~ ゲ~イ~ルゥゥ」


げっ!?アーノルドが鬼の形相でこちらを見ている。


わっ、剣に手をかけやがった。


「いい加減になさいっ!あなたの負けよ!」


ドゴーン


アイナパンチが炸裂し、アーノルドはぶっ飛んだ。オークの頭蓋骨を粉砕したアイナパンチ。アーノルド死んでないだろうな?


アイナが口角を上げて俺に微笑む。


「こ、降参!降参!」


わー、ゲイル様が降参したぞ!

ということは・・・


アイナ様が一番だぁぁぁぁ!


アッイナ アッイナ アッイナ!


宴会場がアイナコールで渦巻くなかアーノルドが起き上がってこっちに来た。


「ちっ、結局一番良いところをアイナに持ってかれちまったな」


「あら、盛り上がったからいいじゃない。みんな楽しそうよ」


なんだ二人とも計算づくだったのか。アーノルドは脳筋なのかよく考えてるのかわからんな。


「ゲイル、いい攻撃だったぞ。ちゃんと俺の動き読んでたな」


「父さんが剣持って本気出してたら俺の目では動きを追えないよ。せいぜい土の壁にこもるくらいしか出来ないんじゃないかな?」


「よく分かってるじゃないか。しかし、お前の慢心しない姿勢には感心するな。普通そこまで自由に魔法を操れたら自惚れていくもんだぞ」


俺は自分が強いとは思っていない。元の世界だと戦うことすらないし、実戦と言えば慌ててゴブリンを燃やしたくらいだ。百戦錬磨のアーノルドが本気で掛かって来たら何も気付かない内に首落とされて終わりだろう。


「そうかな?身近に凄い人がいるから慢心なんてするわけないよ」


そう言うとアーノルドは嬉しそうに笑った。


ガチャンッ


「もういい!ゲイルの話なんて聞きたくもないっ!」


シーーーン・・・


盛り上がり絶好調の宴会場にベントの叫び声が響き、燃え盛る炎に一気に水を掛けたように静寂が訪れたのだった。


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