第155話 合格祝いの家族旅行その4

翌朝シドがやって来た。


「アーノルド様、ようこそボロン村へ。何か問題でもありましたでしょうか?」


「よ、シド。今回は家族旅行だ。息子にボロン村を見せておこうと思ってな」


「え?ゲイル様でなく?」


「俺も来てるよ!」


卵サンドを頬張りながらシドに手を上げた。


「ゲイルじゃ無くて次男のベントだ。まだ会ったことなかっただろ?」


「ベントです」


「初めましてベント様。シドと申します。ゲイル様がうちのワインを購入して頂いたことでこの村が救われました」


あー、余計なこと言うな。なんか昨日の晩飯時からこいつ機嫌が悪いんだから俺の話はするな。話題変えなければ。


「あ、シド。今日葡萄畑と畑とか見学したいんだけどいいかな?」


「もちろんですぜ。案内しますよ。どちらも前よりずっと広くなってますから」


開拓が進んでるんだな。


「父さん達はどうするの?」


「そうだな、畑もいいが・・・」


「ゲイルの考えた罠ってどれ?」


ベントがぼそりと呟く。


「それならあちこちにありますよ。ボアとか掛かってるかも知れないんで見に行きますか?」


「それなら俺も罠を見に行くかな。アイナはどうする?」


「そうね、私も罠に興味あるわ。シルフィードも罠を見に行きましょう」


えっ?私は畑をと言い掛けたシルフィードをアイナは無理矢理連れて行った。罠の所には村の女性陣達が連れて行ってくれるようだ。


「という訳でシド、悪いけど案内してくれる?」


俺はシルバーに乗ってシドにポコポコ付いて行った。


まずは葡萄畑だ


「わー、ずいぶんと広げたねぇ」


「ワイン作りにいっそう力を入れてますからね。気合い入ってますよ」


葡萄畑が前に来た時の3倍くらいになっている。来年のワインは1500樽くらいあるかもしれないな。


ん?


「あそこの葡萄まだ残ってるけど、なんかダメだったの?」


「いやぁ、調子に乗って葡萄畑を広げたのはいいんですけど、収穫が間に合わなくてシワシワになっちゃったんですよ。それで放置してあります」


「ちょっとあの葡萄食べてみたいんだけどいいかな?」


「そりゃあいいですけど」


俺達は傾斜を登って収穫出来なかったシワシワの葡萄の所へ移動した。


いくつかちぎって食べてみる。


うぉっ、めっちゃ甘い。


「シド、これを収穫するのは可能?」


「はい、もう手が空いてるものが多いですから」


「じゃあ、悪いけど明日の朝、日が登る前に収穫してくれないかな?」


「それだと凍ってるかもしれませんよ」


「そんな状態で収穫して欲しいんだよ。明日中に無理なら何日かに分けてもいいから。それでその葡萄でワイン作って。他のと混ぜちゃダメだよ。このシワシワの葡萄で半分凍ったような奴だけで作ってね。もしちゃんとワインにならなくてもいつもの倍の値段で買うから」


「倍の値段で?」


「そうだよ。いつもの葡萄と比べると半分くらいしかワイン作れないと思うから。上手くワインが出来たら次からは3倍くらい出してもいいよ」


「このシワシワのがそんな値段になるんですか?」


「上手くいけばね。というか上手くいってほしいな」


「わかりました。ゲイル様の言う通りにしてみます。ちゃんとワインになるといいんですけど」


うむ、楽しみにしておこう。


「次に畑ですね、馬用の農機具を頂いてから本当に楽に開拓出来るようになりました。おかげで野菜もパンもきちんと皆が食べられるようになりました」


案内された畑は広々としていた。まだ白菜とかがたくさんある。冬のメイン食材になるんだろうな。


「冬の間ってどれくらい雪が積もるの?」


「だいたいコレくらいですね」


1mくらいか。


「あそこの人参でしょ?」


「そうですね。雪が降る前に収穫しますよ」


「あれさ、全部収穫せずにそのまま雪が降っても置いとけばいいよ。春まで全部食べないでしょ?」


「そりゃ全部は食べないですけど」


「残した所に棒でも立てておいて途中で必要になったら掘ればいいよ。そうじゃなければそのまま置いておいても春まで持つから」


「枯れてしまいませんか?」


「深い雪に埋もれると枯れないし凍らないから。まぁ、騙されたと思って少しだけでも試してみてよ」


はぁ、と気の無い返事をするシド。春になって雪下人参の旨さにおどろけ。再来年の春にはボロン村の名産として売れるだろう。


「あと、川の側で畑作れる場所ないかな?」


それならこちらにと案内された。ここは少し湿った粘土質の場所だ。これならいけるか?里芋あればそれを植えてもいいけどね。


「まだ先の話だけど、来年の秋に収穫する米を籾種として渡すから、ここはその米用の土地として置いておいて」


「米ってなんですか?」


「後で一緒に食べよう。村長は旨いっていってたから」


最後に果樹園にする場所だ。


少し傾斜の付いた場所がある。ここなら木を伐採したらいけるな。


「葡萄畑の開拓って元々生えてた木はどうしたの?」


「建物に使いましたよ。といっても木の少ないところを選んだんですけど」


「ここをコレくらい開拓するのは可能?」


「ここは木が多いから時間がかかりますね」


「この木は材木に使える?」


「このあたりのは曲がってて使えないですよ。せいぜい薪に使うぐらいです」


「じゃ、ここに生えてる木が無くなっても問題ないよね?」


「はい、大丈夫ですけど」


それならアーノルドに相談して了解が出れば枯らしてしまおう。枯れた木は薪になるから村でも使えるしね。


俺は見たいものを見終えたので村長の家に戻った。


アーノルド達はまだ戻っていなかったのでご飯の準備をする。土鍋10個。各5合ずつ米を炊く。その間に残った鹿肉を細かくして味噌で煮込む。作るのは肉味噌のおにぎりだ。


スザンとシドにも手伝わせて、おにぎりの作り方を教える。意外と器用なシド。手慣れた手つきで握っていくスザン。あっという間に全部の米がおにぎりになった。


味見を兼ねて3人でおにぎりを頬張る。


「こ、これが米ですか?」


「そうだよ。どんなおかずにも合うよ。こうやっておにぎりにすれば持ち運びも出来るしね」


近くにいた村人達にも食べて貰ったら好評だった。アーノルド達の分をよけておこう。この勢いだとあっという間に無くなってしまう。


しばらくするとアーノルド達がボア2頭を引きずって美人さん達と帰って来た。


なんかベントの顔が浮かないけど、どうでもいいや。


美人さん達がさくさくとボアを解体してく様はやっぱり不思議だった。


おにぎりは冷めても美味しいけど、アーノルド達の分と狩りから戻って来た美人さんたちに味噌を塗って焼おにぎりにして渡したのだった。



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