第154話 合格祝いの家族旅行その3
通常の馬車なら3日かかる道のりだが、シルバー達と新型馬車のお陰で2日目の夕方にボロン村に到着した。
「凄いですね。もう着いちゃった」
「シルバー達は足が速いからね。それに揺れも少ないからスピードをある程度出しても平気なんだよ」
俺達は見慣れない馬車を見つめる村人達の中を馬車でダートスの家に向かった。
「村長、ただいま戻りました」
「おー。シル帰ってきたか。無事で何よりだ。しかしどうやって帰ってきたんじゃ?」
「ダートス、久しぶりだな」
「あっ、これはこれはアーノルド様。ご無沙汰しております。ひょっとしてわざわざシルを送って来て頂いたので?」
「家族旅行のついでだから気にするな。あと、俺の家族を紹介しておこう。妻のアイナと次男のベントだ。ゲイルは前に来たから知ってるな」
「初めまして。村長をしておりますダートスと申します。アーノルド様にはホントによくして頂いており、この村の生活もうにゃうにゃ・・・」
延々とお礼を言うダートス。長ぇよ。
「わかったわかった、もういいぞ。それよりしばらくここに泊めて貰うことは出来るか?」
ボロン村には宿屋が無いので村長のところに泊めてもらうしかないのだ。
「うちで良ければどうぞお泊まりください。領主様のご家族がうちの家にお泊まり頂くのは光栄のうにゃうにゃ・・・」
あー、もう。
「あなた、もうそのぐらいにして、まずお上がり頂かなくては」
そう言ってくれたのは奥さんのスザンだ。
「お久しぶりです。スザンさん」
「まぁまぁ、ゲイル様。少しお見かけしない間に大きくなられて」
そうかな?そういやそうかもしれん。しかし、なんかおばぁちゃんの家に遊びに来たみたいな感じだな。悪くない。
「あ、これ今日の晩御飯にと思って」
「これは?」
「途中で父さんとベントが狩った鹿肉をタレに漬けておいたんだ。一緒に食べよう。たくさんあるから」
肉を味噌漬けにする文化があるボロン村では何かに肉を漬けてあっても驚きはしない。
ありがとうございますと壺を受け取りスザンはニッコリ微笑んだ。
前に来た時のように庭に竈とテーブルを作り、焼き肉の準備をしたあとに土鍋でご飯を炊いていく。
シルフィードが水魔法で米を研いでくれる。
「シ、シルっ!それは?」
「ゲイル様に教えて貰いました。今はアイナ様に治癒魔法を教えてもらってます」
「なんとっ!水魔法に治癒魔法をアイナ様に・・治癒魔法・・・アイナ様・・・・・。あの聖女様のっ!」
「まぁ、聖女だなんて照れるわ」
そう、アイナはこう見えてもちまたでは聖女様と呼ばれてるんだよな。
いでででで。
「こう見えるってどう見えてるのかしら?」
なんで分かるんだよっ。
「こういうところだよっ!頭から手を離してっ」
「まぁ、なんて微笑ましいんでしょ」
どこがそう見えるんだ?頭蓋骨に指の形付いてるかもしれないんだぞ。
「ゲイル様、焼き肉とご飯だけでいいのですか?」
「それも寂しいね。味噌汁お願いしてもいいかな?具は何でもいいから」
はいと返事したシルフィードは家の中に作りに行ってくれた。
俺は焼き肉を巻いて食べる用にレタスを作ることにした。
持って来た種を一つ植えて植物魔法をかける。にょきにょきっと芽を出して葉が次第に丸くなっていく。包丁で根元を切って一応水魔法で洗う。そして手でちぎって皿に盛った。
「焼き肉をこれで巻いて食べても美味しいから食べたい人は勝手に取ってね」
「ゲ、ゲイル様。その魔法はシルと同じ・・・」
「シルフィードに教えて貰ったんだ。育てたいものが多くてね。良い魔法だよねコレ」
ちょっと失礼と言ってダートスは俺の耳を触って確かめた。
「ゲイル様はエルフの血を引いているわけでは・・・」
俺の耳をもぎゅもぎゅするダートス。じいちゃんやめて・・・
「ダートス、ゲイルはエルフでもハーフエルフでもないぞ」
「しかし、植物魔法は・・・」
「あぁ、エルフが得意とするだけでエルフしか使えないわけじゃ無いらしい。」
「そ、そうなんですか?」
「現にゲイルは使えてるからな」
ほーっと感心するダートス夫妻の元にシルフィードがえっちらおっちら鍋を抱えてやってきた。
「お味噌汁出来ました。でもゲイル様が作るように美味しく出来なくて・・・」
具材は白菜とタマネギだった。
注いで貰って一口飲んでみる。タマネギと白菜の甘味は出ているが深みがない。出汁になるものが入ってないからだな。
「シルフィード、焼き肉に合わせて飲むにはちょうどいいよありがとう」
俺がそういうとシルフィードはほっとしたようだった。
さて、ご飯も炊けたし、食べますかね。
アーノルドとダートスが壺に入った肉を網に乗せていく。タレの焼き肉は網焼きの方が旨いからね。
シルフィードが皆にご飯と味噌汁をいれてくれる
「シル、なんだいこれは?」
「これはご飯です。米というものを炊いたものですよ。焼き肉ととっても合うんです」
皆で焼けた肉をご飯に乗せて食べる。
「なんじゃこれは。こんなに旨いものを食ったことがないぞ」
「本当ですね。お肉とこのご飯というのは凄い組合せですね」
良かった。ダートス夫妻にも気に入って貰えたようだ。
「まだ米作り始めたばかりでね、籾種があまりないんだけど、来年にはボロン村にも分けられると思うよ。寒い気候だからうまく育つかわからないけど」
「なんと、この種を分けてもらえるのですか?」
「色々な作物があった方がいいでしょ。それと果物と木の実の種もあるから、来年の春になったらシルフィードに育ててもらうといいよ。明日どの辺に植えるか見て考えよう」
「何もかもありがとうございます。あと、この肉はなんに漬け込んだんですか?味噌だけではないですよね?」
「村長、このタレは味噌を使った特製のものなんです。ゲイル様が考えられてレシピを教えるから村の特産品にしてはどうかと」
「このタレを村の特産品に・・・?それは本当ですか?」
「味噌はこの村でしか作れないからね。味噌はまだ領にも根付いてないから、肉用にアレンジしたものの方が受け入れられやすいと思うんだ。冷やして保管しないとダメだからその点はよく説明して売らないとダメだけどね」
「ゲイル様には本当に色々と村の事を考えて下さりありがとうございます。このご恩はどのようにお返しすれば・・・」
「そんな大袈裟な。美味しい物を作って売ってくれればそれでいいんだよ。いつでも美味しいものがどこでも食べられるのが一番嬉しいんだ」
そう、色々なタレが開発されていけば街で食べる串肉の楽しみも増えるってもんだ。
ダートス夫妻やシルフィードが俺をもてはやし続けるのをベントが恨めしそうに見ていたのを俺は気付かなかった。
焼き肉を堪能したその夜。ダートス夫妻とアーノルド、アイナの4人で話し合いが行われた。
「ダートス、これから毎年冬の間シルフィードをうちで預かろうと思うんだがどうだ?」
「それは本人が了承すればかまいませんが・・・」
「本人もそれを希望している。というのもな、シルフィードの父親がわかったんだ」
「前に心当たりがあると言われていた方ですか?」
「そうだ。あいつの父親は想像通りだったんだが、まだエルフの里を見つけられていない」
「シルにはその話を・・・?」
「あぁ、アイツが聞きたいと言ったから俺達の知っていることを話した。それで来年か再来年にエルフの里・・・、アイツの父親探しの旅に出ようと思う」
「アーノルド様直々に行って下さるんですか?」
「いや、そうしたいのは山々なんだが、俺は長期間領を離れることが出来ん」
「ではいったいどなたが?」
「前に一緒に来たダンとゲイルを行かせようと思っている」
「ゲ、ゲイル様をですか?あんな小さい自分のお子様をシルフィードの為に危険な旅をさせるとおっしゃるのですか?」
「今回のシルフィードの父親探しは政治的な話も絡んで来てしまってな。父親を探すだけならゲイルがもっと大きくなるまで待つんだが、少々急いだ方がいいかもしれんのだ」
「そ、それでもダン様はともかくゲイル様は・・・」
「あいつは来年の春にドワーフの国へ行くことになっている。俺達の元パーティーメンバーとダンの3人でな」
「ドワーフの国へ・・・どのくらいの距離になるんでしょうか?」
「片道1ヶ月はかかるだろう。盗賊や魔物が出る危険な旅になると思う」
「ア、アイナ様。ご自身のお子様がそんな危険な旅に行かれるのをお許しになるので?」
「心配だけどゲイルなら大丈夫よ。そのドワーフの国から無事に帰って来たらエルフの里探しに行ってもらうわ」
「確かにゲイル様は我々が想像も出来ないくらい凄いと思いますが、それでも・・・・」
「心配してくれてありがとうねダートス。あの子はもう実力だけで言うと私達より強いかもしれないの。後は経験の差ね。ドワーフの国の旅、エルフの里探しの旅はその経験の差を埋めると思うの。何よりあの子に何かあっても神様が守ってくれるんじゃないかしら?」
「神様の使徒・・・ゲイル様」
「でな、エルフの里探しにはシルフィードを連れていかないといかん。今の実力じゃ危ないから、冬の間に剣の稽古を俺が、魔法の稽古をゲイルが行う」
「シルが剣の稽古を?」
「もう毎朝やってるが筋がいいぞ。取り組む姿勢がいいから飲み込みも早い。このまま行けばこの冬の稽古だけでこの村で一番強くなるぞ」
「魔法も飲み込みが早いわ。治癒魔法は覚えるのに時間が掛かってるけど、それは別の問題ね。さっき水魔法を無詠唱でやってたでしょ。あれ1日で出来るようになったらしいわ」
「たったの1日で水魔法を?しかも無詠唱とは・・・」
「きっとゲイルの教え方がいいのね。治癒魔法は私が教えてるからそううまく行ってないけど」
「そうでしたか。ご領主夫妻とゲイル様が自らシルの教育を・・・。今日シルが家に戻って来たときに驚きました。ずっと隠れる様に生きてきたあの娘が帽子を被ってるとはいえフードで顔も隠さずあんな笑顔を・・・。アーノルド様、何とぞシルを宜しくお願いします。」
「あぁ、任せとけ。それに春にはこの村に戻して村の仕事をしてもらわんとダメだからな。そうしないとワインに支障が出る」
それもそうですねとスザンが笑ったのだった。
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