第150話 河原でバーベキュー

翌朝の早朝、シルバーの所に行くとアーノルドとアイナが馬に乗る準備をしていた。おはようの挨拶をしているとドワンとミゲルがやって来た


「おやっさん、親方おはよう。二人揃ってどうしたの?」


「今日は河原に行くんじゃろが。馬を取りにきたんじゃ」


やる気というか食う気満々だね。あ、飲む気満々なのかな?


「ゲイル、河原に何しに行くんだ?」


「え?バーベキューだけど。小屋に行けないから河原に行くことにしたんだよ」


「お前らだけでか?」


「ミーシャ、シルフィード、ダンも行く予定だけど」


「何を焼くんだ?」


「え?牛肉とかだけど」


「肉はたくさんあるのか?」


「みんなよく食べるからたくさんあるよ」


・・・

・・・・

・・・・・


回りくどく聞いてくるけど行きたいのかな?


「父さん達も来る?」


「仕方がない。付き合ってやろう」


「私もブランで走りたいから行こうかしら?」


二人とも来る気満々だな。そうなるとベントにも声を掛けざるをえないな。ドワンとミゲルがいるから本当は誘うの嫌なんだけど。


「ベントも行くかな?」


「あいつはセバスと領内の視察だ。この前は馬車から見ただけだからな。歩いて行けと言ってある」


なんか除け者にしているみたいで少し気が引けるがそういうことならいいか。


「わかった。朝御飯食べ終わったら商会に集合ね」


「おやっさん、ということで父さん達も参加になったから」


飯を足しとけよと言われたが仕込み終わった牛タンは増やせない。牛肉を増やして、薄力粉と油を持っていくか。野草やキノコとかあれば天ぷらもいいしな。


俺達は馬を軽く走らせてから朝御飯を食べた。ブリックも休みなのでアイナが珍しく作ってくれたがパンと目玉焼きというシンプルなものだった。



「ミーシャ、今日はなんか予定ある?」


「特に有りませんよ」


「河原でバーベキューするけど行く?」


「めっちゃ行きます!」


なんだよそれ。


「シルフィードも行くからな。もう出るから着替えてきて」


二人とも家着なので着替えてきて貰う。ロロとポポは街に出かけるようだ。ロロ用に買った服をダンから渡しておいて貰ったが、ロロは服を抱き締めて喜んでくれたようだ。シルフィードのはまだ渡していない。ボロン村への出発の時でいいだろう。



シルバーにミーシャと俺、クロスにダンとシルフィードが乗った。荷物も馬にぶら下げてある。


俺達が先に商会に着いてしばらくしてからアーノルド達がやって来た。俺達の大量の食料を一番力のあるウィスキーに乗せかえて出発だ。


駆け足程度のスピードで河の上流へと向かうと広い河原に着いた。


「へぇ、馬で少し上流に来るだけでずいぶん雰囲気が変わるね。何回か来たことあるの?」


「アーノルドと私が子供の頃は何度か来たわね。何があるのか探検したりしてたわ。ここはあの頃と変わってないわね」


へぇ、秘密基地みたいな場所だったのかな?


まだバーベキューを始めるには早いが準備を進めておく。土魔法で竈を作ってもいいけどせっかくだから石を組んで作ろう。


「父さん、冒険者ってどんな風に竈を組むの?まだ出来る?」


「あったりまえだ!見とけ!」


よし、アーノルドに竈を任せておこう。


「母さん、この辺に食べられる野草とかキノコとかないかな?」


「そうね、ちょっと採りに行って来ようかしら。シルフィード、あなたも野草とか詳しいでしょ?一緒に行きましょう」


アイナとシルフィードが野草を採りに行ってくれ、ドワンとミゲルには薪を頼んだ。


俺は土魔法で作業台を作り食材を準備していく。


「ダン、この川には食べられる魚とかいる?」


「いるにはいるが、小さいしあんまし旨くねぇぞ」


いてもウグイとかなのかな?


俺はふーんと返事して川の中を覗いてみた。


ん?なんか動いてるぞ。


あ、エビだ。テナガエビみたいなのがいる。それもデカい!


ゲイルは土魔法で捕獲用のかごを作り、肉の切れはしを入れてあちこちに沈めていく。


「ぼっちゃん、何やってんだ?」


「エビが居たんだよ」


「エビ?」


あれ?エビってみんな食わないのか?そういやザリガニも食ってなかったな。


「罠で獲れたら食べてみよう。多分美味しいと思うから」


食べる前に鑑定してみよう。食べた事が無いということは食べられない可能性があるからね。


「できたぞー」


アーノルドが叫んでいる。お、さすがだね。きっちりと竈が組まれている。ダンに網を乗せて貰い、俺は網を囲むように土のテーブルと椅子を作った。


「ゲイル、お前が竈も作った方が早かったんじゃないか?」


「いや、父さん暇かなと思って。でも立派な竈が出来て流石だなと思ったよ」


アーノルドの竈を誉めたら誇らしげに笑った。


ドワン達が薪を持って来たので火を点ける。先にパンを焼いておこう。


それぞれ役割が終わった男4人が何かソワソワしだした。


「母さん達が帰って来るまで飲んじゃダメだからね」


俺に先に釘をさされてシュンとする男ども。


「おやっさん、エールの金属樽持って来てるんでしょ?炭酸強化して冷やすからここに出して」


ビールサーバーみたいに台に乗せて各自が勝手に注げるようにしておく。


ドワンがまだソワソワしている。


「おやっさん、何ソワソワしてんの?」


「いやな、こいつを早く飲んでみたくてな」


そう言ってビンをドンっと置いた。


「蒸留酒を寝かして半年以上過ぎたじゃろ?どんな風に変わったのか気になっての」


「あれ?ちょびちょび飲んでたんじゃないの?」


「飲んでたのは赤ワインを蒸留したやつじゃ。坊主があの白ワインで作った奴は寝かせるのに向いてると言うとったじゃろ。だから初めに飲んだ以来飲んでおらんのじゃ」


「おやっさん、俺もぼっちゃんから味見してくれと言われて楽しみにしてたら蛇が出やがってお預け食らったてたんだ。やったぜ」


どう変わってるか俺も気になるが飲めないしな。後で匂いだけでも嗅がせて貰おう。



「ゲイル、こんなものでいいかしら?」


アイナが手で抱えてられるくらいの野草とキノコを採って帰って来た。


見たことがない野草の中に青じそがあった。やった!これは使える。後で株ごと持って帰ろう。


キノコも見たことがないけど、これ本シメジかな?それとこれは・・松茸?匂いを嗅ぐとあの匂いだ。これは朗報!国産松茸と言うより外国産みたいな感じだけど十分だ。これも帰りにもっと探さなきゃ。


「母さん、シルフィード、ありがとう。最高の物が入ってるよ!」


俺はめっちゃテンションが上がってしまった。


「ぼっちゃん、そんなに喜んで何かいいものあったのか?」


「うん、後で調理するよ。楽しみにしてて」


「坊主、早く焼け。もう待てん」


まだ昼にもなってないぞ。


まぁ、パンも焼けたし、タン塩から始めるか。


薪も炎が落ちて良い感じに炭火焼きみたいになったから塩タンから出す


「すぐに焼けるからレモン搾るかゴマ油を付けて食べて」


「ねぇ、ゲイル。これは何?」


「牛タン。牛の舌だよ」


「「牛の舌?」」


全員の声が揃う。あれ?


「坊主、わざわざそんなもん食わなくても、他に肉があるじゃろ・・・」


「みんなもしかして嫌いだった?」


「ゲイル、食った事ないぞ牛の舌なんか」


「でも肉屋で聞いたら売ってたよ」


「坊主、それは肉を買えないようなもの達が買うものだ。安かったじゃろ?」


まとめて買い物したから値段見てないや。


「値段は知らないけど。じゃあみんないらない?」


苦笑いするアーノルドやドワン達。


「ぼっちゃん、焼いてくれ。俺は食うぞ。レモンとゴマ油のどちらがオススメだ?」


「好みだからね、両方試したらいいよ。みんないらないみたいだから余ると思うし。これの後、味噌牛タンを仕込んであったんだけど、それも余るね」


取りあえず、ミーシャとシルフィードも食べてみるとのことだったので、4人分を焼き出した。薄切りなのですぐに焼ける。


いっただきまーすとの掛け声にジト目で俺達を見るアーノルド達。


「おっ!」

「あっ!」

「わっ!」


ほら、旨いじゃん。あそこの肉屋の処理が良いのか全く臭みもないし。旨い!


どんどん焼いてパクパク食べていく。


「ぼっちゃん、レモンもいいがゴマ油のうめぇな。」


「そうだろ?俺もゴマ油派なんだ。ミーシャとシルフィードは?」


「レモンがいいですぅ」


「私もレモンです。不思議な歯応えだけど香ばしくて美味しいです」


「お、エールを忘れてたぜっ。ゴクッゴクッゴクッ カーっ!たまらんぜぇ。ぼっちゃんもっと焼いてくれ」


残りの塩タンを全部焼いていく。


「おい、ダン。牛の舌は旨いのか?」


「おやっさん達はいらないんだろ?次は牛肉を焼くみたいだからそれ食え。これは俺達が片付ける」


「う、旨いんじゃな?どうなんじゃダンっ!答えんかっ!」


4人で塩タンをぱくぱくと食べ進める。


「かせっ!」


ドワンが1枚取って恐る恐る口に入れる


「なんじゃとっ!?」


続いてアーノルド、アイナ、ミゲルも1枚口に入れた後に、もう少し残ってた塩タンをダンが食べきった。


「おい、坊主、早く次を焼けっ!」


「塩タンはもうないよ。いらないって言ったから全部食べちゃった」


「なにぃっ!ワシは1枚しか食っとらんぞ」


「おやっさん、レモンも良かったがゴマ油付けたやつはめちゃくちゃエールに合ったぜ!」


「ダンっ!きさま何枚食ったんじゃ?」


「おやっさん達が食べなかった分、堪能したぜ!」


「なぜ、一口食った時に旨いと言わなんだんじゃ!」


「おやっさん、ぼっちゃんが作ったもので不味かったものが今まであったか?ぼっちゃんがエールに合うと言いきった物を疑ったおやっさん達が悪い」


そう、ダンとミーシャは俺の作るものを躊躇せずに食べる。確実に旨いと信じてるからだ。


「ぐぬぬぬぬ」


「おやっさん、塩タンは無いけど味噌漬けの牛タンを今から焼くから。それもエールに合うから喧嘩しないで」


「あれの味噌付けか?」


「少し味付け変えてタンに合うようにしてあるから。豚より早く焼けるけど焦がさないように焼いてね」


もう後は自分で好きに焼いてくれ。皿に味噌牛タンと焼き肉用の牛肉を出して、それぞれの取り皿に焼き肉のタレもどきを入れてやる。


「味噌牛タンはそのまま食べて。焼き肉はこのタレか塩胡椒かお好みで」


それぞれの好みの肉を焼いて食べて飲んで大騒ぎだ。


「ゲイル様、このタレと言うのは味噌で作ってあるんですか?」


「そうだよ。酒、甘味料、ニンニク、玉ねぎ、ゴマとか色々混ぜてある。肉に合うだろ?このタレを付けてから焼いたらもっと香ばしくなるよ」


「凄く美味しいです。味噌がこんな風になるなんて」


「味噌を作ってくれたお母さんに感謝だね。俺は作れなかったから。ボロン村に行ったらレシピ教えるから村の特産品にするといいよ。タレとかまだ無いから売れると思うし」


「え?ゲイル様が考え出したものを村の特産品にしても良いんですか?」


「味噌を作り出したのはシルフィードのお母さんだからね。味噌をベースにした調味料は色々作れるから村で開発していけばいいと思うよ。何かきっかけがあると作りやすいでしょ」


「あ、ありがとうございます!村の皆も喜びます!」


「坊主、味噌牛タンはたまらん旨さじゃな。なぜワシらはタンを今まで食わなかったんじゃ。それにこのタレってのはたまらんな。肉の旨さが倍増するぞ」


塩タンを食い損ねたドワンの機嫌も直ったようだ。


「このタレ、エールにも合うんだけどご飯にもめっちゃ合うんだよね」


「味噌豚丼より旨いのか?」


「俺は焼き肉とご飯の方がいいかな」


「炊けっ!米持ってきてるんじゃろ?」


「あるけど今から炊くの?おやっさん達エール飲んでるからいいじゃない」


「それとこれは別じゃ。すぐ炊け」


ハイハイ。わかりましたよっと。


味噌牛タンが無くなりそうなので、俺はドワンが焼いていた奴を横取りして食べた。うん、旨い!



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