第147話 初めての大物
「ダン、いたよ」
「あぁ、デカいな。どうする?あそこまでデカいと不味そうだよな」
いつものボアポイントには獲物がおらず更に奥まで入ったところに奴はいた。目視出来るかどうかギリギリのところにいるがかなりデカい。この世界の生き物や果物は元の世界より大きい事が多いがこいつはサイぐらいの大きさがあるんじゃないか?
「なぁ、ダン。ボアってあそこまで大きくなるものなの?」
「俺も今まで見たなかで最大クラスだな。ありゃこの辺のヌシかもしれん」
ヌシか・・・
「そんなやつ狩ってしまったら何か問題が増えそうだね」
「かも知れんな。それに固くて食えんかもしれんしやめとくか」
「そうだね。もう少し手頃な奴を探そうか」
そう言った時にボアがこちらを向いた。
気付かれた!?
赤く光る目がこちらを凝視する。遠くてよくわからないが凄く鼻息が荒くなってる気がする。
「ダン逃げよう。狩るつもりが無い獲物と戦う必要ないからね」
「そうだな。走って逃げてもぼっちゃんのスピードだと追い付かれる可能性が高いから魔法で壁作ってくれねぇか?」
わかった。俺はそう返事して壁を作り出した。高さ2m、幅10mほどの壁だ。これでボアもこちらが見えないし、わざわざ壁を迂回してまで襲ってこないだろう。
「よし、後退だ。慌てずに走れ」
俺とダンはその場をスッと離れようとしたその時、
ぴぎゃー
大きな鳴き声が聞こえた。威嚇でもしているのだろうか?
「今のはボアの鳴き声?」
「そうだが様子が変だ。あの鳴き方はやられた時の鳴き方だ。ぼっちゃん、あの壁をゆっくり静かに崩すことは出来るか?」
「少しずつ崩すのは出来るけど、崩れる音は出るよ」
「そうか。なら少し待ってからにしよう。もし何か居て気付かれると不味い。ぼっちゃんも周りに何か居ないか十分に気配を探って不測の状態に備えててくれ」
そのまま息を潜め30分ほど経ったが何も起こらなかった。
「あれから何の気配もねぇからもう大丈夫だろう。ぼっちゃん、壁を崩してくれ」
俺は少しずつ壁を崩し、慎重にボアがいた所まで様子を見に行った。
そこには何も無く血も落ちていなかった。ただ何かが通ったような微かな跡だけが残っている。
「やべえな」
「どういうこと?」
「こりゃ蛇だ。微かに生臭い臭いが残ってるだろう?」
そう言われてみればなんとなく生臭い気がする。
「蛇?あの大きさのボアを丸飲みするくらいデカい蛇なんているの?」
「おそらくフォレストグリーンアナコンダだろう。あのボアを食うぐらいだから相当デカい」
「でも何の気配も無かったよ。そんなにデカい蛇なら音とか気配とかあるよね?」
「あいつらは気配も消せるし音もたてない。デカい図体なのに周りに同化して気付かない事が多いんだ」
そんなデカいのに気付けないとは・・・
「毒とかは?」
「毒は無い。獲物にスルスルと近付いて丸飲みだ。ただ一度食うとしばらく大人しくしてるから今は襲われる心配は少ない」
「襲われる心配が少ないなら臭いを辿って追跡する?」
「そうだな。このまま放置したらその内小屋まで来る可能性があるからな。ぼっちゃんの作った柵では防げん」
ダンは弓からミスリル銃に持ち替え、最大出力にセットして安全装置を解除した。
「ぼっちゃん、俺から離れないでくれ。それと万が一やつと出くわしたら躊躇なく火魔法で吹き飛ばせ。奴は斬ってもなかなか死なんからな」
俺達は慎重に慎重に臭いのする方へ、微かに残った蛇の痕跡を頼りに後を追った。
森の奥深くは昼間だというのに物凄く暗い。それにじめじめが増してきてとても歩き辛い。ここで何かに襲われたら苦戦するだろう。木々が生い茂り蔦があらゆる所に張り巡らされている。剣しか使えない冒険者なら間違いなく殺られるな。
「あったぞ。あれだ」
ダンが指差した方向には木々が倒れて重なりトンネルのようになっていた。注意深くみないとただ木々が倒れているだけのようにも見える。
「あそこにいるの?」
「蛇が巣穴にする条件が重なっている。まず間違いないだろう。中を覗くのは危険だからこのまま引き返そう。アーノルド様にどうするか相談する」
「いっそのことあの巣穴事燃やそうか?」
「それでもいいんだが、万が一失敗したら凶暴化して手が付けられなくなる。あと巣穴に何を食ったかの痕跡があるはずだ。それも確認したい」
「痕跡?骨とか?」
「そうだ。あとは消化出来なかったものだ。鎧とかな」
そうか、人が食われてる可能性もあるんだな。
「わかった戻ろう」
俺達は来るときに付けた目印を頼りに小屋へと帰るともう日が暮れていた。
魔法で灯りを照らしながら戻る。入り口までの道を広げて整備したので暗くても歩きやすかった。
屋敷に戻ってすぐにアーノルドの元へと向かった。
「何っ?フォレストグリーンアナコンダがあの森に?」
「それも相当デカいです。最大級のボアを丸飲みしたくらいでヤス」
「いつから住み着いてたんだろうな?森の奥とはいえ、あいつらはもっと深い場所にいるはずだ」
「人の味を覚えて寄って来たのかもしれませんね。人を食った魔物は次からも好んで人を襲いヤスから」
「その可能性が高いな。ゲイル、蛇退治が終わるまで小屋にも行くな」
そうなるよね。そろそろワインの蒸留をしないといけないからそれまでに退治して欲しいな。
「冒険者ギルドには報告を?」
「巣穴はじめじめしてて木々が重なりあってるような場所だっただろ?」
アーノルドもやっぱり知ってるんだね。
「並の冒険者を連れて行くと被害が増えるだけだな。今日ボアを食ったから雪が降る前にもう一度食いに出てくるだろう。魔物を食ってくれりゃそのあと雪降りだす頃に退治に向かうのが一番いいんだがな」
「蛇の次の飯が・・・」
「そうだ人の可能性があるから、すぐに退治に向かう必要があるな。それに冬眠前に荒食いする可能性もあるからな」
アーノルドは翌日冒険者ギルドと蛇退治について話し合ってくることになった。俺は蛇退治が終わるまで小屋に行くのはお預けだ。
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