第145話 それぞれの稽古

それから俺は様々な大きさの火と土の魔石を作った。魔力1、10、30、50、100の5種類ずつだ。ドワンとダンのミスリル銃にダイアルを付けて出力調整を出来るようにした新型だ。ダイアルは出力調整用魔石の使用無しを含めて6段階。いざと言うときの為に魔力100の魔石を6個リボルバー形式に仕込める。安全装置を外せば魔石を使用可能。出力調整無しにダイアルをあわせて使うと自分が撃てる属性魔法が魔力600で撃てるし、魔力が少なくなっても魔石で補えるものだ。使う人によって威力が異なるが立派な魔道銃となった。


試し撃ちをするドワンとダンは感心していた。どちらも同じ形の銃だ。


「これはなんとも・・・」


「出力調整が楽でいいでしょ?魔法最適化がもっと進んだらもっと出力を下げた魔石が必要になるね。俺が使うと魔力1でも威力強くなりすぎるから。もっと小さな魔石はすぐに出来るからいつでも言ってね。慣れたら出力調整用の魔石無しに合わせて自分で調整出来たほうがいいけど」


「いや、このまま使う。魔道具を扱ってるって感じがするぜぇ」


「ダン、お前の目標は魔剣を扱えるようになることじゃなかったのか?」


「えーっと、魔銃でもいいかな!?」


「なんだそりゃ?」


「だってよぼっちゃん、これカッコよくないか?」


「いや、わかるけどさ。剣はどうすんだよ。銃に頼りきり過ぎると腕が鈍るぞ。鈍った上に魔力切れたらどうすんだ?戦う術を失うぞ」


俺に図星を突かれて黙るダン。


「俺だっていつ魔法が使えなくなってもいいように剣の稽古もしてるんだからさ、便利な物に溺れるなよ。道具は使う物であって使われちゃダメだ」


ドワンもうんうんと頷いていた。あれだけの剣の腕と弓の腕が錆びてしまうのはもったいない。


はしゃいでたダンは静かになってしまったが銃はあくまでも攻撃手段を増やす為のもの。それだけになってはいけない。


「シルフィードも攻撃魔法を使えるようになりたい?」


「はい、ゲイル様みたいに色々な魔法が使えたらと思います」


「じゃあまずは属性のない魔力が無詠唱で出せるようにしていこうか。属性は魔石でなんとかなるから」


俺はこの前ドワンが作った試作品の棒に水の魔石をセットしてシルフィードに持たせた。


「じゃ、俺がシルフィードに魔力流して棒から出すからその感覚を覚えておいて」


シルフィードの背中に手を当てゆっくりと魔力を流して棒に伝わるようにする。棒の先からチョロチョロと水が出できた。


「シルフィード、身体に魔力が流れて行くのがわかる?」


「はい、ゲイル様の熱い物が身体に入って来ています」


その言い方やめてくんないかな?会話だけ聞いたら何してるか誤解されそうだ。


「そのまま自分の魔力も一緒に流れて出て行くようにイメージして」


シルフィードは集中していく


ジョロロロー


水の出る勢いが増した。俺は魔力の量を変えていないからシルフィードの魔力が加算された証拠だ。


俺はそっとそのまま俺の魔力を抜こうとすると。


「ダメっまだ抜かないでっ!」


だからその言い方止めて。


仕方がないのでそのまま少しずつ少しずつシルフィードに気付かれないように魔力を減らしていく。そしてついに0にしても水は流れたままだった。


「シルフィード、俺の魔力はもう流してないよ。自分の力だけで水を出せてるんだよ」


「えっ?本当ですか?」


ジョロッと出た後に水が止まってしまった。


「あ、自分の力を疑ったから止まっちゃったんだよ。魔法はイメージだからね。ちゃんと出来てるから自分を信じてもう一度やろう」


「ハイ」


俺とシルフィードはそのまま同じ訓練を続けたおかげで帰る前にはちゃんと出来るようになっていた。



帰り道にダンがポツリと話し掛けてきた


「ぼっちゃん、目を覚まさせてくれてありがとうな。俺が魔剣を扱えるようになる目的を見失う所だったぜ。あんなに大切なことだったのに」


「別にいいんだよ。今まで出来なかった事が出来るようになる楽しさは理解してるから。ダンはいつも自分の為より人の為に何かしてるだろ?たまには自分の為に何かしてもバチは当たんないよ。その事に溺れさえしなきゃ」


ダンは常に俺を見て先回りで行動してくれて余計な口出しもしない。これはなかなか出来ないことだと思う。俺が見たなかでダンが自分のことでハシャイだのを見たのは初めてだ。ハシャギ慣れてない人はそれに溺れる可能性があるからちょっと引っ張って止めるくらいがちょうどいい。



夕食を食べてるとアーノルドがベントに話し掛けた。


「ベント、遅くなってしまったが、お前の合格祝いをしようと思う」


「合格祝いですか?」


「そうだ。ジョンの時は鉄板焼パーティーだっただろ?同じじゃつまらんと思ってな家族旅行をしようと思う。どうだ?」


「旅行ですか?」


「そうだ。それともジョンと同じ鉄板焼パーティーがいいか?」


「旅行ってどこに行くんですか?」


「ボロン村だ。そろそろ紅葉がきれいなシーズンだしな。シルフィードも一緒に行こう」


「えっ?シルフィードも?」


パッと顔が明るくなるベント。非常に分かりやすい。


が、シルフィードは浮かぬ顔だ。


「そ、そうですね。私もそろそろ村に戻らないといけませんね。お手伝いする仕事も無くなりましたし・・・」


そっか、シルフィードを旅行のついでに送って行こうということか。まだ魔法の訓練も途中だし、寂しくなるな。


「シルフィード、お前は冬の間村で何かしないといけない仕事はあるのか?」


「いえ、冬の間は特にありません。春になってからです」


「そうか。ならこのまま冬の間はここにいるか?」


「えっ?」


「戻るにしろ、残るにしろ一度ダートスに話をしておかないといけないだろ?あいつもいつシルフィードが帰ってくるのか心配してるだろうからな」


「こ、ここに冬の間は居ていいんですか?」


「もちろんだ。どうする?」


「こ、ここに居させて下さい。お願いしますっ!」


「なら決まりだな。ベントどうするボロン村への旅行ということでいいか?」


「はいっ!」


こうして来週ボロン村へ行くことが決定した。



夕食後にブリックにお菓子のレシピを一つ加えてからアイナの所へ行った。


「母さん、俺に治癒魔法を教えて欲しいんだけど」


「何言ってんのよ。あなた使えるじゃない?」


「俺のは欠損部位まで治せないでしょ?母さんのと何が違うかわからないんだよ」


「そうね。でも欠損部位を治すことってあんまりないからいつ出来るかわかんないわよ。」


「切れた髪の毛元に戻すのも部位欠損治癒の応用でしょ?前にダンにしかしなかったやつ」


「あら、執念深いわね。くりくり頭は可愛かったわよ」


そう、俺とダンの髪の毛が燃えた時、アイナはダンの髪の毛しか再生してくれなかったのだ。


「ただ切っただけじゃダメよ。怪我みたいな状態にならないと」


「燃やすとか?」


「そうね」


ただ切ればいいだけかと思ったが燃やす必要があるのか。嫌だな自分の髪の毛燃やすのは。でも仕方がないやるか。


「わかったよ。自分の髪の毛燃やすから治してよね」


「ちょっと、ここで燃やさないでよ。髪の毛燃えると臭いんだから」


息子が髪の毛を燃やす心配より臭いの心配するのか・・・ 確かに髪の毛燃やすと臭いけどさ。


「じゃ、剣の稽古場にいこう」


俺とアイナは稽古場に向かった。



めっちゃドキドキしている。自分の頭を燃やすのにこんな勇気が必要とは思わなかったな。ダンの頭は躊躇なく燃やせたのに。


えい、覚悟を決めろ俺!


「母さん、絶対治してよね」


いいわよと言うアイナの返事を信じて自分の頭を燃やす。


魔力1で極力弱い炎を


ぼおぉぉぉぉ!


「あっづぅぅぅぅう!!!」


「キャー!ゲイル!ゲイル!」


最近ファイアボールとか撃ちまくった俺は火魔法の最適化が進んでたようだ。想像してたより遥かに大きい炎で自分の頭を焼いてしまった。


あわてて水をかけて酷く痛む頭皮に治癒魔法を自分でかける。危うく焼身自殺してしまう所だった。


アイナは俺に駆け寄り治癒魔法をかけて髪の毛を元に戻してしまった。


いや、それじゃダメなんだよアイナ。俺を通してやってくれないと・・・


はぁ、もう一度頭を燃やさなくては・・・


今度は直接燃やすのではなく、そこにあった木に火をつけて少しずつ頭に近付けて髪の毛だけを焼いた。


俺が説明した通りに俺の腕を握りしめて・・・・


ギリギリギリギリ


「あいだだだだだっ!母さん強いっ!握る力が強いっ!」


このスキル怪力めっ!子供の腕を潰すつもりか?


「あら、強いほうが分かりやすそうなんだけど!?」


「触れてるだけでいいから。ちぎれたらどうすんだよっ!」


あら、ちぎれたら部位欠損治療が出来るわよとか抜かしやがった。見てくれは可愛いけど、よくこんな女をアーノルドは嫁にしたよな。俺なら引いてる。


今度は普通の力で俺の腕を握るアイナ。


ぶつぶつと詠唱をして俺の身体に治癒魔法を流す。なんだろうこの感覚。慈悲の心というかすべてを許すというか、とても心地が良くて心が浄化されて行くような感じがある。


「はい終わったわよ」


「ありがとう母さん。怪我の治療と部位欠損の治療は同じ魔法でやってるの?」


「そうよ。状態によって流す魔力量は違うけど魔法自体は同じよ。出来そう?」


これは技能とか魔法の種類とかの問題じゃないな、心の問題だ。


慈愛の籠った治癒魔法か。技術とか効率とかでは解決出来ない。俺に出来るだろうか?


「母さん、お願いがあるんだけど。」


「なんのお願い?」


「シルフィードに母さんの治癒魔法を教えてやって欲しいんだ。俺の治癒魔法じゃダメだ」


「どういうこと?」


「俺と母さんの使ってる治癒魔法は同じものなんだよ。でも質が違うんだ。シルフィードが覚えるなら母さんからの方がいい。シルフィードなら母さんと同じ魔法が使えるかも知れないから」


「よくわからないけど、私が教えればいいのね?」


「うん、俺にやってくれたようにシルフィードの背中に手を置いて、シルフィードを通して治癒魔法を使ってやって欲しいんだ。絶対他の従業員に任せたらダメだからね」


分かったわと返事したアイナと屋敷に戻った。


勝ち負けじゃないけど、自分に出来ない魔法の存在を知って伸びた鼻が折れた気がした。



ダンに偉そうに言ったけど、一番はしゃいでたのは俺じゃないか・・・



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