第143話 魔道具の開発

その日の夕食後、アーノルドと執務室で話をした。


「明日、森で実験するんだけど、父さんも立ち会ってくれないかな。」


「お前が休みの日以外に森へ誘うと言うことは重要なことなんだな?」


「そうだね。重要というか重大というか、父さんに知っておいてもらいたいことなんだよ」


「ここでは概要も話せないか?」


「万が一があるから森で話すよ。おやっさんも一緒だけど、おやっさんにも話してないことがある。明日の実験でわかると思うから」


「分かった。俺は一度職場に顔を出してから仕事で外出することにする。冒険者ギルドと打ち合わせと言うことにしておけば西へ行くのにも問題なかろう。アイナはどうする?」


「本当は一緒に来てもらいたいんだけど、二人が居なくなると怪しいから、父さんから話しておいて」


分かったと真剣な顔をするアーノルドだった。



翌日商会でおやっさんと合流して森へ向かう。アーノルドが到着してから話と実験を進めるのでそれまでは空き時間だ。


「今日の昼飯は味噌豚丼だろうな?」


「ちゃんと準備してあるよ。それも2種類」


「何っ?また違うのがあるのか?」


「そうだよ。味噌豚丼と甲乙付けがたいんじゃないかな?」


「そうかそうか、そりゃ楽しみじゃわい」


ガッハッハッハと大笑いのドワン。


「ぼっちゃん、一人で作れるのか?」


「何言ってんの。ブリックもミーシャも居ないんだからダンが手伝うに決まってんじゃん」


「そんなこったろうと思ったよ」


「わ、私も手伝います」


「じゃシルフィードにも手伝ってもらうね。レシピ覚えて帰れば村でも作れるよ」


取りあえず下ごしらえだけを進めておく。ドワンはさっさと射撃場へ行ってしまった。ダンも行きたかったみたいだけど先に飯の準備だ。


「ダンはこのクルミの殻を割って実をすりこぎですって」


「また面倒臭いことを・・・」


フンッ フンッ


素手でクルミを割っていくダン。普通はクルミ割るやつ使うんだぞ。準備してなかったけど。


「ゲイル様、私は何をすればいいですか?」


「シルフィードはお米を磨いでくれる?こうやってしゃかしゃかしてね。ある程度洗って白い水の濁りが少なくなればザルに米を出しといて」


米を磨ぐなんてやったことないシルフィードは恐る恐るしゃかしゃかしていた。


下ごしらえが終わった頃にアーノルドが来たので小屋の中に全員集合する。


ドワンからアーノルドに俺が魔石を作れる事と属性の魔石を使った棒が魔道具に匹敵することを説明した。


「じゃなにか?ドワンは遺跡から出る魔道具の杖やら剣とかを作れるようになったということか?」


「坊主との協同制作ということじゃがな」


ドワンは新たな試作品の棒を取り出した。先端に一つ、棒に3つ魔石を取り付けられるようになっている


「坊主、言われた通りに複数魔石を取り付けられるようにしてあるぞ」


「ありがとう。これで試さないといけない事があるから、まず検証をダンにやってもらう」


ダンはビクっとした。


「ぼっちゃんじゃなく、俺がやるのか?」


「俺がやって効果が出ても何となく信用できないだろ?ダンがやるのが一番いいんだよ。」


そりゃそうだが・・・と怖じけつくダン。


俺はそんなのを無視して棒の先に火魔法属性の魔石を取り付けた。


射撃場へ移動してダンに使わせてみる。


「ダン、これでファイアボール撃って」


分かったと言って杖を的に向けるがファイアボールが出ない。このポンコツめっ。


「銃も棒も同じだろ?早く撃てよ」


ムムムムっ唸るだけで一向に進まない。


「ダン、引き金ないけど、引く真似をしてみろ」


どかーーーんっ!


やっと発動した。いつものファイアボールとは比べ物にならない威力のファイアボールが飛んだ。


「ダン、いつもと同じ魔力で撃った?」


「そのつもりだがなんだあの威力は?」


「昨日の理論で言うと7倍くらいになったということだよ。父さん、これで魔石の付いた棒の効果は信用してくれた?」


「ああ、魔道具のルーンスタッフみたいだ」


「じゃここからは危ないから俺が自分の魔力を鑑定しながら実験するよ」


ダンから棒をもらい自分で検証してみる。まずは棒無しでファイアボールを撃つ。


魔力1のファイアボール。


ボウッ


続いて魔石の付いた棒を使う。


同じく魔力1だ


どーーーっん!


「今の使用魔力はどちらも1。次はこの属性無しの魔力10の魔石もセットする」


魔力1で撃つ。


どかーーーーーーんっ!


さっきとは桁違いの威力だ。射撃場の壁が一部吹き飛んでしまった。


セットした魔石を見ると赤色から透明になっていた。魔力残量0だ。


同じく属性無しの魔石10を3つセットして魔力1で撃つ。


どかーーーんっ!


一つ目の魔石が空になった。


同じことを繰り返すと魔石二つ目も空になった。


次は魔力2で撃つ


どかーーーんっ!


元の魔力を増やしても威力は同じだな。魔石の魔力が1残ってるから不足分を魔石が補うようだ。棒の先端に付けた属性魔石の数値。今回は火魔法10の魔石だからそれ以上出力されないのだろう。


全員がぼーぜんと立ち尽くしているので無くなってしまった射撃場の壁を再生しておいた。


「おやっさん、回数制限がある奴は魔石が内部にセットしてあって、その魔石の数だけ撃てるんだと思うよ」


「ぼぼぼ、坊主。どういう理論じゃ?」


「いや、簡単だよ。魔石の魔力が使われるだけだよ。セットした魔石が使用魔力の不足分を補うんだよ。先端に付けた属性魔石が最大出力を決める。大きい属性魔石と大きい魔石を組合せたらもっと大きいのが撃てるね」


全員がピンと来ていない顔をしているので小屋に戻って絵に描いて説明した。


「そういうことじゃったか」


「回数制限のあるやつで使い終わってたら攻撃の増幅は出来ないけど発動には使えるよ。俺なら魔力充填出来るから再使用も可能だね」


俺はそういって空の魔石に魔力を充填した。


「ゲイル、これは誰にもしゃべるな。危険過ぎる」


「おやっさんにも言われた。でもね、これ出来るの俺だけじゃないと思うんだ」


「なんだと?」


「だって古代遺跡から魔道具が出てくるわけでしょ?既に作った人がいるじゃん」


「そ、それはそうだが」


「古代にいたなら今もいてもおかしくない。出来るけど気付いてないだけかもしれないし、既に作り出してるかもしれない」


・・・・

・・・・・

・・・・・・


「そう思ったのは他にも理由があるんだ。シルフィードのお母さんが味噌作ったでしょ?前にあれはお告げじゃないかと言ったけどほぼ間違いないんだよね。だからお告げを受けた人間が他にもいる可能性が高いというか確実だね」


「なんてこった。次に戦争がおこったらこんな兵器が使われる可能性があるということか?」


「そうだね。ただいずれにしても魔法の仕組みと魔石の仕組みや作り方、それを生かす技術と鑑定魔法が使えないと実戦投入にまではいかないんじゃないかな。まず魔石を作り出すのに膨大な魔力が必要になるから。特に属性の付いた魔石を作ろうと思ったらその属性魔法が使えてさらに膨大な魔力がいる。なかなか居ないと思うんだよね」


「早々には出来んというわけじゃな?」


「うん。お告げを受けた人間もそんなにいないだろうし、ただ・・・」


「ゲイル、ただなんだ?」


「坊主、前に言ってた魔法陣か?」


「そう、それを解析されていたら兵器が開発されている可能性が高くなるね。使える魔力が少ないと魔法陣を検証するのに時間が掛かるからあまり心配する必要ないかもしれないけど」


「魔力が多い人間が多数いたとしたら?」


「多いっていっても強い魔物を倒しまくった父さん達でも3000やそこらなんだよ。普通の人がそんなに魔力があるはずが・・・」


「普通ならな。じゃが・・・」


「エルフならその可能性が高くなるということか」


ドワンの言いかけた言葉にアーノルドが続けた。


ゴクッ


俺は唾を飲みこんだ。


「エルフと人間の戦争がおこるかもしれないってこと?」


「エルフは人間を恨んでいる可能性が高い。大昔に起こった出来事でもエルフにとっちゃそんな昔のことじゃないからな。」


エルフと人間の戦争。しかも相手には強大な魔道具が用意されているかもしれない。もし、エルフにお告げを受けたものがいたとすれば・・・


俺はそんな事を考えているとシルフィードがポロポロと泣き出した。


「え、エルフと人間が戦争だなんて・・・」


「嬢ちゃん早合点するな。これはもしもの話じゃ。可能性は限りなく低い」


「で、でも可能性が無いわけじゃないですよね・・・」


「そんなこと言い出したらどこの国とも戦争になる可能性はある。ドワーフ達ともな。それに魔物のスタンピートが発生して街が飲み込まれるかもしれんし、大飢饉が発生してみんな飢えて死ぬかもしれん。すべてに可能性はある。そんなもん全部に怯えてたら生きてなんぞいけんわい」


「シルフィード、驚かしてすまない。ドワンの言った通りだ。俺達みたいな領や国を治める者はみんなを守る為にあらゆる事態に備えておかないといけないからこういう可能性も考えてしまうだけだ。エルフと戦争をしたいわけでもないから心配するな。万が一、争いがおこりそうでもいきなり人間を殲滅するような野蛮なやり方をする種族でもないだろう?元々エルフは争いを好まないからな」


「そ、そうですよね。」


「嬢ちゃん、エルフは争いを避けて隠れて住んでいるくらいじゃ、戦いを仕掛けるなら人間がここまで増えるまでに戦っておる」


アーノルドとドワンの話を聞き落ち着いてきたシルフィード。


俺もアーノルドやドワン達の話を聞いてそう思うが確認しておかないといけない事がある。今夜久しぶりに呼び出してみるか。



「ぼっちゃん、飯食おうぜ腹減ったぜ」


「そうだね、下ごしらえは住んでるからすぐに作ろう。ダン、シルフィード手伝って」


「おいさっ!」

「ハイっ!」


アーノルドとドワンに味噌豚を焼く準備をしてもらい、俺達はご飯を炊いて料理を作った。


本日のメニューは味噌豚丼と味噌カツ丼だ。味噌カツに使ったのは味噌と擦ったクルミを混ぜて魔力水を少々加えて酒で伸ばしたものだ。赤味噌があれば良かったんだけど普通の味噌でも十分上手い。


「坊主、この新作のカツ丼旨いぞ。香ばしい味噌豚焼きも美味いが少し甘めの味噌にコクが増しててたまらんのぅ」


「ダンが擦ってくれたクルミを混ぜてあるんだよ。これ付けて芋とか焼いても旨いよ。ご飯はシルフィードが磨いで炊いてくれたんだ。バッチリだね」


味噌田楽も食べたいな。豆腐やコンニャクが欲しいけどないしな。芋もじゃがいもでなくて里芋を食べたい。


「ぼっちゃん、やっぱり旨いものは皆で食う方がいいな」


「そうだろ?一人で旨い物食ってるよりも断然いい」


シルフィードもコクコクとうなずいて美味しそうに食べていたのだった。



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