第141話 紋章
串肉を楽しんだ後屋敷に戻るとセバスが待ち構えていた。
「旦那様、ご報告がございます。」
「父さん、俺も話したいことがあるんだ。セバス、話し終わったら呼びに来て」
「では、ゲイル様。旦那様へのご報告に同席をお願いします」
俺が同席?なんか関係あるのかな?
執務室へ3人で向かった。
「本日、ベント様と領内を視察して参りました。住民街や商店街を中心的に回ったのですが結果は思わしくなく」
「見て回るだけだろ?何が問題だったんだ?」
「はい、ベント様は馬車の中から見て回るのが多く、ほとんど外には出られませんでした。住宅街はそれでも良かったのですが、商店街では降りて直にご覧になることをお勧め致しました」
「馬車の上からだと何もわからんからな」
「そこで問題がおきました。ディノスレイヤ家の馬車であることが領民に知れ渡っており、馬車から降りた時にみな歓迎して出迎えてくれたところまでは良かったのですが・・・」
「襲われでもしたのか?」
「いえ、皆がゲイル様、ゲイル様と・・・。ベント様の事をゲイル様と間違われたようです。その時誰かがゲイル様はもっと幼いから違うと申しました。その途端に落胆したようにベント様から皆が離れて行きました」
なんで俺の名前を知ってるんだ?名乗ったことなんてないぞ?
「領民からのゲイル様人気は凄まじく、ベント様はふさぎ込んでしまわれました」
「そういや、さっきもゲイルはキャーキャー言われてたな」
「このままだと領民はゲイル様を跡継ぎにと望むでしょう。いったい何をしたら領民からあのように慕われるのでしょうか?」
「何もしてないよ。この前いつもミーシャとかが買い物する商店で揉め事に巻き込まれただけだよ」
「どのような?」
「がらの悪い客が商店の面識ある店員と揉めてたからどうした?と聞いたんだよ。そしたらその客が俺を突き飛ばそうとしたんだ。俺が突き飛ばされる前にダンがそいつの腕を掴んで斬りますか?と聞くから斬らなくていいと答えた。揉めてる内容を聞いて、その言い分を検証したら客の方が正しかったから、店員に返金を命じて、客には子供を突き飛ばそうとしたことを厳しく注意した。それだけだよ。当たり前の内容でしょ?」
「ゲイル、厳しく注意とはどんな内容だ?」
「今度、子供を突き飛ばそうとかしたらゴブリンの群れの中に置き去りにすると・・・」
「あーはっはっはっ!面白い脅しだ。斬ると言うより効果的だな」
アーノルドは爆笑した。
「なるほど、非常に正しい対応です。セバス納得がいきました。このような小さな子供であるゲイル様が自分に無礼を働いたことへの寛大な対応といい、揉め事の検証を行った上での的確な判断といい、見ていた領民はさぞかし安心したことでしょう。この人なら理不尽なことはしないと」
「セバス、普通のことだよ。称賛されるような事じゃない」
「いえ、知らなかったとは言え、領主関係者に無礼を働いた瞬間に斬られてもおかしくないのです。ダンも斬るか聞いたでしょう?私が護衛であればその場で斬り捨てていました。ダンはゲイル様がそのような事を望まないと分かっていたので確認したのでしょうが」
セバスなら斬ってたのか・・・
「ベントの視察は視察じゃないな。ゲイルの人気とは関係無しにだ。馬車の上から領民の心が見えるもんか。セバス、これから毎週視察に連れていけ。屋敷からすべて徒歩だ。馬車の使用は禁止する」
かしこまりましたと頭を下げ、セバスは退出した。
「ゲイルが視察に行くならどうする?」
「シルバーに乗って行くよ。歩くと時間掛かるから。馬車は使わないな。あんな人がたくさん歩いてる所に馬車なんか通られたら危なくて仕方がない」
そうだよなとアーノルドは同意した。
「で、お前の話したい事はなんだ?」
「シルフィードの事なんだけどね。父さん達が射撃場に行ってる時にシルフィードが鑑定してほしいと頼むから鑑定したんだ」
「何か見えたのか?」
「名前に家名があった」
「なんて家名だ?」
「グローリア。シルフィード・グローリア」
その名前を告げるとアーノルドの顔付きが変わった。
「アイナを呼んでくる。ちょっと待っとけ」
アーノルドが慌てて出ていった。何か心当たりがあるのだろうか?
アーノルドがアイナを連れて戻ってきた。
「アイナ、グリムナの本名覚えてるか?」
「グリムナの?確かグリムナ・グローリアだったかしら?」
「ゲイル、聞いたか?俺達の元パーティーメンバーのエルフの名前がグリムナ・グローリアだ。多分アイツが父親なんじゃないかと思っていたがこれでほぼ確定だ」
「凄腕の植物魔法の使い手だった人?」
「そうだ。ディノを一瞬で足止め出来る程の腕前だ。あとは何が見えた?」
「魔力が6000越えてた。俺の倍くらいある。だけど、使い切れないんだ。残り5000以上あっても魔力が切れそうな感じがするらしい」
「どういうことだ?」
「何か精神的なトラウマで魔力が切れそうと思い込んでるか、誰かが意図的に制限をかけてるかだと思う。精神的なものなら俺が鑑定しながら魔力が切れないようにギリギリまで使わせることが出来る。でももし制限がかけられてるなら何が起こるかわからないから怖くて出来ない。父さん達何か心当たりないかな?」
「私達は魔法にそこまで詳しくないからわからないわ。シルフィードはこの話をゲイルから聞いて、そのことを私たちに話す事は承知してるのね?」
もちろんと答える。
「じゃ、シルフィードを呼んで4人で話しましょ。何かヒントがあるかもしれないわ」
そう言ってアイナはシルフィードを呼びに行った。
「父さん、グリムナって人はどこにいるの?」
「エルフの里だと思うがどこに里があるか誰も知らないんだ。グリムナはディノを倒す時にパーティーに入って来て、倒した後消えちまったんだ。恐らくシルフィードと母親を守る為にディノを倒しに来たんじゃないかとボロン村での話を聞いて思ったんだ」
「で、倒して迎えに行ったら母親は死亡していて娘は行方不明になってたということ?」
「そうだと思う。グリムナもシルフィードを探しているかも知れないし、死んだと思って諦めたかもしれないな」
「シルフィードを連れて来たわ」
アーノルド達に話したことをシルフィードに伝える。
「シルフィード、お前は父親の事を知りたいか?」
静かにコクンと頷く
「お前の父親は恐らくグリムナ・グローリア。俺達の元パーティーメンバーのエルフだ。あいつはディノを倒す為だけに俺達のパーティーに加わった。恐らくお前の母親とお前を守るためだと思う。お前達が元々住んでた所は瘴気に侵され始めていた。ディノが現れてから瘴気が濃くなり、グリムナはディノを倒す事を決意したんじゃないかな」
「父さんは私達を捨てたんじゃ無かったんですか?」
「一緒に住めない理由があったんだろう。エルフは人と関わらないからな。里の者を説得していた途中だったのかもしれん」
「それなら私たちの村で一緒に住むことを選んでくれても・・・」
「シルフィード、エルフに家名があるのは王族だけだ。しかもあいつは直系だったんじゃないかと思う。あいつは何も言わなかったが」
「そ、それじゃ・・・」
「シルフィードはエルフの王族の血を引いている。しかし、ハーフエルフをエルフの里は認めていないとかだな」
「父さん、ならやっぱりシルフィードの魔力の問題は制限の可能性が高いと思う。グリムナって人は里を捨ててシルフィード達と一緒に住もうとしてたんじゃないかな?エルフの里の掟はしらないけど、里を捨てるなら子供の魔力をエルフの魔力量でなく人の魔力量にまで制限するなら認めるとか」
「なるほどな。そういうのがあるかもしれん」
「でも全部推測ね。シルフィード、何か覚えてない?身体のどこかに紋章みたいなのがあるとか?」
「紋章ですか?それなら胸の所にあります」
「「「あるの?」」」
3人の声が揃った。
「二人ともあっち向いてて」
アイナが俺とアーノルドにあっち向けと言った
俺達が後ろを向いてる間に紋章を確認する。
「母さん、何か分かった?」
「多分、古代エルフ語ね。さっぱりわからないわ。ゲイル、紋章は鑑定出来ないの?」
「見たことないから出来るかどうかわかんないよ」
「シルフィード、見てもらう?」
ボッと顔が赤くなるシルフィード。
「か、母さん。胸の所にあるんでしょ。シルフィードが嫌がるに決まってるじゃん」
「あら、3歳の子供に胸見られても平気よね?」
顔を真っ赤にしたシルフィードは俺に鑑定してくれと言った。
アイナがシルフィードの服をたくしあげる。どうやら心臓の上辺りに紋章があるらしい。
母親が女の子の服をたくしあげて息子に見せるってどうよ?
「ゲイル、うっすらと紋章が見えるでしょ?」
全身真っ赤になってる肌のどこに紋章があるかよくわからない。マジマジ見てると
「ゲイル、そんなに女の子の肌をガン見するのはダメよ」
違うわっ!
「紋章がどこにあるのかわかんないんだよ」
アイナがここよと指を差す。これか。うっすらとアザみたいな感じだな。
「じゃ鑑定するよ」
紋章鑑定っ!
【契約印】エルフの掟
【効果】魔力を500に制限
「やっぱり魔力に制限かける為の紋章だ。契約印だって」
そう言いながらシルフィードを見ると涙ぐんでいた。俺はいつの間にか契約印に触れながら鑑定していたようだ。
ごめん、お触りするつもりは無かったんだよ・・・
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