第140話 また絡まれた
大所帯でぞろぞろと街中へ向かう。商会とは反対側の屋台がたくさんあるところだ。ブリックは緊張するとのことで来なかった。
「ぼっちゃん、俺は何で呼ばれたんだ?」
「初めはダンとミーシャとシルフィードの4人で皆のを買いに行くって言ったんだけど、父さんが自分が行くって言い出したんだよ。それなら皆で一緒に行くぞって」
「まぁ、いいけどよ。しかし、ぼっちゃんよりポポの方がアーノルド様の子供みたいだな。」
「女の子だし、俺と違ってちゃんと子供らしいから父さんも嬉しいんじゃないの?俺なら人前で肩車なんて拒否るからね」
「ぼっちゃんは子供って感じしねぇからな。アーノルド様もぼっちゃんへの態度はパーティーメンバーに対するのと同じような感じだからな」
「ん?そう?」
「あぁ、そうさ。ぼっちゃんにはいつも感情丸出しだろ?ベントとかにそんな態度取るか?」
「そういや見たことないね」
「ぼっちゃんには気を許してんだよ。領主、親、いつでもしっかりしてないといけない立場だからな。ぼっちゃんといると気負わなくていいから楽なんじゃないか?」
ふーん、そういうもんかね?俺相手に身体強化まで使って剣振りおろそうとするのはたまったもんじゃないぞ。
屋台街に到着。
「よーし、お前ら好きなもの好きなだけ買っていいぞ」
串焼きはアーノルドの奢りようだ。
「ぼっちゃま好きなもの買っていいみたいです。何にしますか?」
ミーシャはめっちゃ嬉しそうだ。俺は何でもいいと言われても焼き鳥だな。あれば牛串も食べたい。
さっきはお腹空いてないの思ったけど、こうやって屋台に来ると匂いでお腹が減ってくる。
「俺は焼き鳥3本と牛串2本。シルフィードは何にする?」
「あ、えっと・・・」
「ぼっちゃん、シルフィードは何があるかわかんないだろうから、適当に見繕ってくるわ。それでいいか?」
「あ、はい、お願いします」
「じゃ、俺達はあっちのテーブルのある所で座って待ってるよ。父さん達にも言っておいて」
ダンは了解の合図代わりに手をヒラヒラさせて串焼きを買いに行ってくれた。
「じゃあそこで待ってようか」
ミーシャ、シルフィード、俺の3人で一つのテーブル。となりにアーノルドとアイナ、ポポだなと、テーブル二つを確保して串焼きを楽しみに待つ。
ここは食べ歩きしたり、ちょっと座って食べたり、こうやってテーブルで飲んだり出来る場所でとても賑わっている。庶民の憩いの場だ。
両手に花でキャッキャウフフしてると、
「お、こんな所にメイドがいるぞ。俺の酒の相手をしろっ」
あー、酔っ払いが寄ってきた。そこそこ身なりがいいから金持ちなんだろうけど、たちが悪いな。ダンがいればこんなことは滅多にないけど、俺だと舐められるからなぁ。
「おい、酔っぱらい。この娘は俺のメイドだ。痛い目に合いたくなかったらあっちに行け」
「なんだぁ?このガキは?ヒック 偉そうに言いやがって」
「こっちにもガキ臭いけど、上玉がいやすぜ」
手下Aみたいなヤツがシルフィードをからかう。
ったく。
「もう一度言うぞ。今なら許してやるからここから失せろ」
「うるせぇっ!」
ガシャンっ
テーブルを蹴飛ばす酔っぱらい
「キャーッ」
見ていた周りの人の悲鳴が上がる。
「お前みたいなガキに女は勿体ない。俺様が貰っていくぞ」
ヘイッと返事した手下Aがミーシャの手をつかもうとした。
魔法を使うのはまずい。剣も持ってきてない。ドワンがくれたミスリル銃がもう役に立つとは。ゲイルはミスリル銃を取り出して手下Aの肩を土魔法で撃った。
タンっ!
魔力は微量しか流してないから軽い音だ。それでも酔っぱらいは激痛が走ったのかその場で倒れる。
「き、きっさまぁ!何しやがった」
吠える酔っぱらい。
「今のは警告だ。次は死ぬぞ。早くそいつをつれてどこかへ行け」
「おのれぇ!」
酔っ払いが剣に手をかけた。
「俺はミーシャとシルフィードを守る為には躊躇しない。今去らないとお前の頭をぶち抜く」
俺は身体に強化魔法を流して銃を構える。
「ヒッ」
強化魔法は見えてないだろうけど酔っぱらいが怯えてその場にへたりこんだ。さっき撃たれた手下Aが肩を押さえたまま酔っぱらいを引っ張って逃げて行った。
わー!わー!すげぇぞちっこいの!
キャーッ守る為には躊躇しないだって!私もあんなこと言われたーい
また大騒ぎになってしまった。こんなことなら絡まれた瞬間に水魔法で窒息させてやるんだったな・・・
「ミーシャ、シルフィード。怪我とかない?」
二人ともコクコクと頷く。
「ぼっちゃん、かっこ良かったぜ」
「ダン、見てたんなら助けに来いよ」
「ぼっちゃんならあんなカス、一捻りだろ。それにほら、これ放り出すのはもったいねぇからな」
ダンは両手に山ほど串肉を抱えていた。お前、護衛だろ?俺より串肉を選びやがって。
ミーシャとシルフィードがテーブルを元に戻してくれた。
「ほれ、好きなもの選べ。鳥、牛、豚、羊だ。飲み物はアーノルド様達が買ってきてくれるってよ」
ミーシャはご機嫌に串肉を見定め始めた。絡まれたことなんかぜんぜん動じてないな。シルフィードは怯えて震えてるんだぞ。
「待ったか?ほれ飲み物だ。ところで騒がしかったけどなんかあったのか?」
アーノルドがエールジョッキ3つ、アイナがジュースのジョッキ3つ持ってきた
「ぼっちゃんがお姫様達を守ったんでさ」
「酔っ払いに絡まれたんだよ。ミーシャに触ろうとしたから撃った」
「何っ?殺したのか?」
「肩を殴ったくらいの衝撃くらいしか与えてないよ。血も出てない」
ヒソヒソ
(ねぇ、あれ領主様じゃない?)
(アイナ様もいるわね)
(じゃ、さっきメイド達を守った小さな子は領主様のお子様?)
(あっ!あたし知ってる。商店でごろ巻いてたやつを一喝してたわ)
(あーあれね、あれは商店も悪かったみたいで、ちゃんと商店の人も叱られてたわ)
(きゃーっ、私も領主様のお子様に守られたーい)
「ゲイル、お前人気ものだな」
観衆よ、ヒソヒソ話が全部聞こえてるぞ。
「たまたまこの前ザックの所で揉め事に出くわしただけだよ。俺みたいな子供をおもしろがってるだけだ。とんだ見せ物だよ。それより早く食べよう。冷めちゃう」
はーいと返事したミーシャは羊肉を選んだ。シルフィードも羊肉をチョイス。俺は羊はパスだ。
「ぼっちゃん、このエール冷やして炭酸強化してくれ」
人前で魔法使わすなよ。
俺は焼き鳥を食べながらダンのエールを冷やして強炭酸にした。これは誰も気付かんだろ。
「ゲイル、母さんのも」
「俺のもだ」
ヘイヘイ
「かーっ!うめぇ。やっぱり外で飲む方が旨いよな」
「そうね、串肉とよく合うわ」
みんな羊か。癖のある肉を選ぶのは肉食系だからかな?
ガッコガッコガッコ
こんな時間に馬車が通るのか。迷惑なやつ・・・ って、うちの馬車じゃねーかよっ!こんな人混みに来るなよ。
カチャっとドアが開いてベントが降りてきた。やっぱりお前か。
「父さん達はこんな所で食べてるんですか?」
「あぁ、外で食べる飯は旨いぞ。お前も食っていけ」
ベントは俺にチラッと目をやると、
「もう食べて来たからいらない。先に帰ります」
ベントはすぐに馬車に乗って帰っていった。なんだアイツ、感じ悪いな。
「あいつ愛想悪いな。ちょっとくらい付き合えってんだよ。なぁダン?」
「こういう場所が苦手じゃねぇんですかね。無理して付き合う必要もないでさ」
「そうかも知れんな。ベントは人見知りな所もあるし」
皆はすっと切り替えてワイワイと串肉を楽しんだのだった。
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