第139話 シルフィードの秘密

「ゲイル様っ!ゲイル様っ!」


俺はシルフィードに身体を揺さぶられてトリップから戻った。


「どうしたの?そんなに慌てて?」


「あ、良かった。何度呼んでも動かなくなってしまったので心配したんです」


「ごめん、ごめん。ちょっと考え事してた」


「な、何が見えたんでしょうか?」


「うん、見えた物を話す約束だったね。まず名前なんだけど、シルフィード・グローリアだった」


「グローリア?」


「多分、家名だね。俺のディノスレイヤと同じ。元の国ではみんな家名があるの?」


「い、いえ・・・」


「お母さんに家名あった?」


「多分無かったと思います。」


「じゃあ、お父さんの方だろうね。何か知ってる?」


「いえ、何も知りません」


「でも植物魔法は教えて貰ったんでしょ?詠唱が古代エルフ語だと知ってたのもお父さんに教えて貰ったんじゃないの?」


「あれ?そういえばそうですね。いつ教えて貰ったんだろ?あれ?」


んー、母親が目の前で殺されたショックで記憶が一部無いんだったよな?これ以上追求していくと殺された情景とかフラッシュバックしてしまうんじゃなかろうか?ちょっと危険だな。


「まぁ、その件はおいといて、魔力の事なんだけど。魔力はめっちゃあるよ」


「えっ?ゲイル様と同じくらいありましたか?」


パアッと顔が明るくなる。


「同じぐらいどころか倍くらいあったよ。6000越えてた」


「そ、そんなにですか?だとすれば魔力の最適化がまったく出来てないのでしょうか?」


「最適化もまずまずだと思う。1つの植木鉢を苗にするのに魔力80使ってた。俺は40だったから、理論上は俺とシルフィードは同じぐらいの数の苗を作れる」


「えっえっえっ?どういうことですか?」


「シルフィードは魔力が5000以上残ってるのに魔力が無くなりそうと感じてたんだよ」


「魔力切れをおこす感覚は私の勘違いと言うことですか?」


「シルフィードは子供の頃とか魔力切れで倒れたことあるか?」


「1度か2度あります。」


一部の記憶がないからあてにならないか。


「魔力が大量に残ってるのに魔力が切れそうにと感じる理由はいくつか考えられる。1、勘違い。2、トラウマ。この2つが原因なら俺が魔力残量を見ながら魔力が無くなりそうな感覚を無視して使わせることで解決出来る」


「トラウマ?」


「昔とても嫌な事があって、それを避けるために自分でブレーキを踏んでしまうんだよ」


「ブレーキを踏むって何ですか?」


あー、確かにこの世界にない表現だな。ちょいちょいあるんだよな。もう誰も何も言わないけど。


「えっとね、嫌な事が起こらないように途中で止めてしまうとかの意味」


「じゃあ、ゲイル様に見てもらいながらやればもっと魔力が使えるようになるんですね?」


「精神的なものならね。原因として考えらるのはまだある。3、制限。4、呪い。だ」


「呪い? わ、私がハーフエルフだから誰かに呪われてるんですか?」


「呪いって言ったけど、本当に呪いたかったら魔法使えなくするだろうから、呪いの可能性は消していいかもしれないね」


「では制限ですか?」


「精神的なものか制限かこの2つの可能性が高いと思う」


「じゃあ、見てもらいながら魔力使って、使えたら精神的なもの、使えなかったら制限ということでしょうか?なら一度試してみれば・・・」


「ダメだ。もし制限だったとしたらそれを越えてしまった時に何が起こるかわからない。シルフィードが自分で魔力切れそうと感じる本能を無視するというのは危険なんだよ」


「じゃ、じゃあずっとこのままなんでしょうか?」


「俺にはこれ以上調べる事が出来ないんだよ。シルフィードがなんとかしたいというなら父さん達に相談しないといけない。この話は父さん達にしていいか?」


・・・

・・・・

・・・・・


「はい、お願いします。自分に何がおこってるのか知りたいんです」



シルフィードの覚悟を聞いた時にちょうど射撃場からみんなが戻ってきた。


「ぼっちゃん、ありゃいいな。心おきなくぶっぱなせるぜ!」


「坊主、ずいぶん的との距離が取ってあったの」


「魔法攻撃は遠距離から攻撃出来るのがメリットだからね、あれくらいの距離で100発100中で当てられるようにならないと効果半減でしょ?そうじゃなきゃ使い慣れた武器の方がいいんじゃない!?」


「弓なら当てられるんだがな」


「弓も魔法も一緒だよ。必要なのは的への集中力だから」


「くっそ!俺も早く撃てるようになりたいっ!アイナも撃てたのに。」


まだ魔力があまり回復していないアーノルドは見ているだけだったらしい。アイナはアーノルドの銃を使って水魔法をバンバン撃ってきてスッキリしていた。


「ちょっと早いけど帰ろうか。ベントより先に父さん達は屋敷に戻った方がいいんじゃない?」


「そうだな、じゃ帰るとするか」


俺はそこでシルフィードの話をせずに屋敷の執務室ですることにした。



屋敷にはアーノルド達と別々に戻るので俺達は商会で他愛もない話をして時間を潰していた。


「しっかし俺達がミスリル銃で魔法を撃った時のアーノルド様の顔は面白かったなぁ」


「まったくじゃ、予想通りの反応で笑いがこらえられんかったわい」


カッカッカッカ、ガッハッハッハと笑い出す二人。良い歳こいた大人のすることじゃないよね。俺も面白かったけど。


「おやっさんから親方に森の資材の引き取りの件を言っておいてくれる?道の整備が出来てからになるけど。」


「かまわんぞ。ミゲルも助かるじゃろ。建築ラッシュが続いておるから材木はなんぼあってもいいからな」


「なぁ、ぼっちゃん。アーノルド様が撃った火魔法はすげぇ威力だったな。ぼっちゃんがあれを使えば果樹園の開墾なんてあっと言う間じゃないか?」


「俺も考えたんだけどね、火災の心配もあるし、せっかくの資材を燃やし尽くすのはダメだと思うんだ。使えないようなやつばかりだといいかもしんないけど」


「そりゃもったいないのはもったいないな」


「それに人前であんな魔法を俺が撃ったらどうなると思う?」


「まずいな」


「そういうこと。だから地道に開墾していくしかないんだよ。幸い切り株を枯らす方法が分かったから、いくぶんかマシになると思うよ」


「ぼっちゃん、人前で切り株枯らすつもりか?」


あっ・・・・


「な、なんか考えるよ・・・」


森の切り株はいいけど、果樹園の切り株はどうするか振り出しに戻ってしまった。



そろそろアーノルド達が屋敷に戻った頃だろう。俺達も戻ろう。


いつもより早い帰宅をしたので厨房へ向かう。ブリックも休みだけど、どうせいるだろうし。


「あ、ゲイルちゃま!お帰りなさい」


あれ?ポポもいる。休ませてないのか?


「ぼっちゃん、お帰りなさい。ずいぶんと早かったですね」


「ブリック、ポポに休みあげてないのか?」


「いえ、今日は休みですよ。部屋に一人でいるのもなんなので、一緒にお菓子作ってたんですよ。」


そういうことか。


「で、何作ってたんだ?」


「薄力粉と卵を混ぜて焼いてみたんです。これなら簡単ですし」


あー、パンケーキか。


「これはパンケーキってやつだ。軽食やおやつになるな。これをどうやって食べるつもりだったんだ?」


「ハチミツ付けて食べようかと」


「もうちょっと豪華にするか?」


俺は牛乳を加熱してレモン汁を加える。


「わ、なんかもらもらしてきましたよ」


「このもらもらしたやつを布の上に出して水分をとる。残った水分はまた使うからまた鍋に戻す。残った水分を再加熱してまたレモン汁投入。またもらもらが出てくるからそれも同じように布で水分を取る」


二つのもらもらをそれぞれボールに入れて、魔力水を少し加える。ハンドミキサーで滑らかになるまで混ぜて出来上がり。


「これを焼けたパンケーキに乗せて、好みでハチミツかけて食べてくれ」


「なんか美味しそうな匂いがしますぅ~」


あ、ミーシャが匂いに釣られてやって来た。


「ミーシャ、シルフィードも呼んで来てくれ、みんなで食べよう」


ミーシャも参戦したので実食。


「わ、美味しいです。このクリームみたいなのなんですか?」


「これはチーズだよ。お菓子向けのね」


「ぼっちゃん、チーズってこんなに簡単に出来るんですか?」


「どっしりした旨味はないけど、お菓子にはちょうどいいだろ?これを生地に練り込んで焼いたらチーズケーキも出来るぞ」


「め、メモを取って来ますからレシピ教えて下さいっ!」


休みなのにブラック体質だな。


「あら、アナタ達何を食べてるのかしら?」


アイナも匂いに引き寄せられるようにやって来た。


「ミーシャ、悪いけど父さんも呼んできて。もう皆で食べよう」


それからブリックはひたすらパンケーキを焼き、チーズを作った。


「ゲイルちゃまってすごいです。こーんな美味しいものたくさん知ってて。ポポ、ゲイルちゃまのお嫁さんになりたいなー」


ぎょっとする皆。


「そうだね、ポポがもっとおっきくなったらね」


「ポポ、ゲイルちゃまより大きいもーん」


あ、そうだった。



パンケーキで結構お腹ふくれたな。晩御飯どうするかなぁ。この時間まで戻ってきてないベントは外で食ってくるだろうし。俺達もそんなに食べられないだろう。


「父さん達、晩御飯どうするの?ブリックは休みだよ」


「あぁ、そうだったな。ベントはセバスと外で食べてくるだろうから俺達もなんか食いにいくか」


「パンケーキ食べたからあんまりお腹空いてないよ」


「ん?そうか?」


アーノルドはまだまだ食べられそうだな。


「じゃ串焼きかなんか買ってくる?それなら皆食べたい量調節出来るし」


「そうだな、そうしよう。どれ、俺が買ってきてやろう」


「父さんが串焼きの屋台なんかに行ったら大騒ぎになるよ。俺がダンとミーシャで行ってくるから」


そんなことあるもんかとぶつぶつ言うアーノルド。自分で選びたかったのかもしれないな。それが屋台の醍醐味でもあるし。


「そんなに自分で行きたいなら一緒に行こうか。でも屋台の人がお金いらないといってもキチンと払いなよ」


「そんなことは分かってる。よし、ミーシャ、ダンも呼べ。皆で行こう。ブリックとポポはどうする?」


「だ、旦那様と一緒にだなんて・・・」


オロオロするブリック。小屋とかで一緒に飯食ったりしてるのに買い物はまた違うのか?


「ポポ行きたーい!」


「よーし、じゃ一緒に行くぞ。ポポ、肩車してやろう」


アーノルドはポポをひょいと肩に乗せた


「わー!たかーい!それになんかお父さんみたいな匂いがするー!」


ポポよ、それは加齢臭だぞ。


「シルフィード、ごめんね疲れてるのにまた出掛ける事になって」


「いえ、街の中をブラブラするのは楽しいです。村にはこんなのありませんので」


「そっか、ならいいんだけど」


「お父さんってあんな感じなんでしょうね。ポポちゃん嬉しそう」


ポポを肩車するアーノルドを見て少し羨ましそうなシルフィードだった。

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