第136話 ず、ズルいぞ

「どうして俺たちには黙ってたんだ?」


小屋に入るなりアーノルドが聞いてくる。


「別に深い意味はないけど」


「なぜ、俺たちより先にドワンやダンが知っているんだ?」


アーノルドはいつも親より先に他のひとに話すゲイルに不満気だ。


「いつも一緒にいるからかな?話す機会も多いし。家だと他の人もいるからなかなかこういう話は出来ないしね。毎回執務室に集まって話してたらベントとか変に思うでしょ!?」


「・・・・」


「それだけか?」


「それだけだよ。別に隠す必要もないしね」


「お前の言い分は分かった。しかしなるべく早く話せ」


「そうしてるつもりなんだけど、なんで?」


・・・・・

・・・・・・


「ゲイル、アーノルドは寂しいのよ。私もだけど」


「そうなの? 父さんも母さんも忙しいからあんまり込み入った話する機会が少ないのが当たり前になってたよ。ベントが王都に行けば問題無くなるね」


「ゲイル・・・、ベントを邪魔者みたいに言うんじゃありません」


そんなつもりはないけど・・・・あるかな。


「分かった」


そう返事しておいた。


「親子の話は済んだようだな。アーノルド、ちょっと稽古場に付き合え」


ドワンがニヤニヤしながらアーノルドを稽古場に連れていく。


「なんだ立ち合いでもするつもりか?」


「今さらお前とそんなことしてどうするんじゃ。いいから見とけ」


ドワンはミスリル銃を構えて撃ちだした。


ドン ドン ドン


的の丸太が木っ端微塵に砕け散る


「な、なんだその武器は?」


驚くアーノルド。


その横にすっとダンが立ちミスリル銃を構えて同じように撃つ。


ボウっ ボウっ ボウっ。


火の玉が当たり激しく燃える丸太。


「なっ!」


「おい坊主、お前もやれ」


言われた通りに俺は懐からミスリル銃を出して土の弾を連射した。


ズドドドドドッ


「そ、それは魔道具か?それとも新型の武器か?」


「さぁ、のう。お前には使えん代物じゃ」


「貸せっ」


アーノルドはダンのミスリル銃を奪い取って引き金を引いた


カシャッ カシャッ。


「あ、あれ?何も出んぞ。壊れたのか?」


「アーノルド様、そんな事ありませんよ。ほら」


ダンはミスリル銃を奪い返し、もう一度撃った。


「なんだ、なんなのだそれはっ?教えろっ!早く教えろっ!」


喚くアーノルドをドワンとダンがニヤニヤしながら、どうしよっかなぁともったいぶる。これがしたくて朝からニヤついてたのか。


「ゲイル、お前なら教えてくれるなっ!」


アーノルド必死。


「一つお願い聞いてくれたら教えてもいいよ」


「なんだ、どんな願いだ」


「ここの森をね、俺の敷地にするつもりなんだぁ。でもここでお金稼ぐことも出来ないし、税金払えないんだよねぇ。免税ってことでいいかなぁ?」


おもいっきり公私混同だ。でも商会の方から多額の税金払ってるからね。


「わ、分かった。森の管理者という事で処理する。それで税金は掛からん」


やった!


「じゃあ教えよっかなぁ。どうする?おやっさん?」


アーノルドの反応が面白いから俺もちょっと焦らしてみる。


「お、おま、おまっお前ぇぇぇっ!」


あ、本気で切れそうになってる。相変わらず大人気ないなぁ。


「父さん、これ武器でも魔道具でもないよ」


「なにっ?」


「単純に攻撃魔法だよ」


「攻撃魔法だと?ドワンもダンも詠唱してなかったし、特にドワンはファイアボールしか撃てなかっただろうが?」


「努力したんじゃよ、努力を!」


ガッハッハッハと笑いながらミスリル銃を撃ちまくるドワン。


「ほれ、ワシも無詠唱で土魔法攻撃が出来るようになったんじゃ。」


風魔法覚えられなくて土になったことは黙っておいてやろう。


「そ、それはダンもか?」


へいっと答えて。


「俺も無詠唱で火魔法が使えるようになったんですぜっ!」


ボウボウと火魔法を撃つダン。


ヒャッハー 汚物は消毒だぁとか言い出しかねないな。ここは世紀末じゃ無いぞ。


「ズ、スルイぞっ!お前らだけ」


「しょうがあるまい。練習するのはここでしか無理じゃからの。お前は仕事で来れんじゃろ?諦めろ、お前には無理じゃ」


誂うように話すドワンにアーノルドの顔が怒りと嫉妬で爆発しそうだ。どんどん身体が金色に光ってきている。ちょちょちょっアンタ身体強化してなにするつもりだ?


「まずい、坊主、吸えっ!」


吸え? あぁ、アーノルドから魔力を吸うのか。俺はアーノルドから魔力をズズッと吸った。


「ぬぉっ! こ、これはリッチがいるのか?まずいっ、お前ら逃げろっ!なんでこんなところにリッチが」


魔力を吸われながらもアーノルドは剣を抜いて構えた。さすがだね、慌てずに迎撃態勢を取るとは。


ゴンッ


アイナが剣を構えるアーノルドの頭を殴った。


「リッチなんて居ないわよ。さっきドワンが言ってたじゃない。ゲイルの能力がリッチを越えるって。ゲイルもいい加減にしなさい。アーノルドが干からびるわよ」


あ、吸ったままだった。


「い、今のはゲイルがやったのか?」


「そうだよ。父さんが頭に血が登って身体強化とか始めちゃうから」


俺はアーノルドに手をやり今吸った魔力を戻した。


「おぉ、力が戻ってくる・・・」


「今吸った分戻しといたから」


「お前、本当に魔力を吸ったり戻したり出来るんだな?」


「そうだよ。自分の魔力の上限まではね」


「それを無詠唱でか・・・。確かにリッチを越えてるな。で、ドワンとダンが使ってるあれはなんだ?」


「あれはミスリル銃。魔力の流れが良くて魔法が出やすくなるんだよ」


「お、俺も撃てるようになるのか?」


「さぁ?」


「お前が教えたんだろ?俺にも教えろっ!」


「いでででっ」


アーノルドは俺の頭をグリグリしながら教えろと言う。


ズズズズっ。


「ぬおっ ぐぎぎぎぎっ」


俺はお返しに魔力を吸ってやる。


グリグリグリ

ぐぎぎぎぎっ


「あなた達、いい加減にしなさいっ!」


俺とアーノルドはアイナクローを食らったのだった。




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