第135話 森での話し合い

商会に預けてあった荷車に苗を乗せて森までやってきた。こんなところに小屋があるのにシルフィードは驚いていた。


まず苗を植える為の場所を確保しなければならない。陽当たりが悪いとダメだから広範囲に木を伐採する必要がある。


「ダン、木を切ってくれる?植える場所を確保しないと」


あいよ、とダンは返事して身体強化してズバンズバンと木を切っていった。俺は切った木を資材になりそうなのとそうでないのと分けて魔法で積み上げていく。


シルフィードは見たことが無い魔法でさくさく開墾されていく光景をポカンとした顔で見ていた。


「ぼっちゃん、そろそろ終わりにしようぜ。くったくただ」


日暮れ近くになってダンが音を上げた。


「そうだね、もうすぐ日が暮れるし終わりにしよう。この切った木どうする?」


「親方に引き取って貰えばいいんじゃないか? ダメな奴は薪にすればいい。」


「これ人力で運ぶの大変だよ。無理じゃない?」


「それもそうだな。」


ここまでの道は狭く、小型の荷車が通る幅しか無い。


「いっその事、道を広げようか?」


「分かりやすい広い道が出来ると誰か来るぞ。危険じゃねーか?」


「入り口だけ今まで通りにしておいて、大型馬車が通る時だけ入り口を大きくすればどうかな?」


「通った後どうすんだ?」


「植物魔法で木を育てて元通りにすればいいかなと」


「お、そうだった。ぼっちゃんがまた便利になったんだっけな」


便利とか言うな。


そういうことで明日は道路拡張工事をすることになった。


「シルフィード、ごめんね。魔法の訓練するのは明後日以降になるよ」


俺に謝られたシルフィードは首をぶんぶんと振って恐縮していた。



その日の晩御飯を食べた後にブリックの元へと向かう。


「ブリック、仕事が終わったとこ悪いんだけどちょっといいかな?」


「あ、ぼっちゃん。どうされました?」


「薄力粉も手に入ったし、お菓子のレシピ増やそうと思うんだけど、バタバタしてて晩御飯の後しか時間取れないんだよね。仕事が終わってからになるけどやる?」


「やりますやります。勿論やりますっ!」


ブリックも相当ブラック体質だよな。今は助かるけど。


こうしてお菓子のレシピを毎日一つずつ増やして行くことになった。初回はパウンドケーキだ。



翌日、ダンと俺は丸一日かけて道路拡張工事に精を出していた。苗を植えるのは後回しだ。


魔力水を舐めながら拡張幅の木の伐採を終えるのに丸一日かかった。


「ぼっちゃん、これ疲れるな」


「そうだね、でも後は切り株抜くだけだからね。なんとかなるよ」


土魔法で土を柔らかくして引っこ抜いて行けば良いだろう。ダンが疲れたらシルバーやクロスに引いて貰えばいいしね。



翌日の朝食時


「ベント、今日は休みだから俺は出掛ける。お前はセバスと一緒に街中を視察して来い。領民が何を食べ、話し、どんな暮らしをしているのかを見ておくのは重要なことだ」


「はい分かりました」


アーノルドはセバスに言ってベントが森の方へ来ないように仕向けたんだな。自分で森に来たことないけど念のためってやつだ。


アーノルド達と俺達は別々に森へ向かう事にした。アーノルド達は後から出発だ。



くっくっくっく


ダンが何やらニヤついている。何か良いことあったんだろうか?


「ダン、なんか楽しそうだな。良いことでもあったのか?」


「いいこと? あぁそうかもしれんな。くっくっくっく」


なんだコイツ気持ち悪い。



商会に到着するとドワンがすでに外で待っていた。


「おー、坊主。やっときたか。アーノルドとアイナは?」


「父さん達は後から来るよ」


「そうか、くっくっくっく。じゃあワシらは先に森へ行くぞ。」


なんだドワンもニヤついてやがる。



森の入り口を越えたら拡張された道路を見てドワンが驚いた。


「いつの間にこんなに道を広げたんじゃ?」


「昨日だよ。苗を植えるのに木を伐採したから親方に引き取ってもらおうかと思って。今までの道じゃウォッカが荷車引いて通れないでしょ」


「入り口は前のままじゃがどうするんだ?」


「通る時だけ広げて、使わない時は元に戻そうと思ってる。広げたままだと誰か来ちゃうからね」


「そんな事せんでもこの森を柵で囲ってお前さんの敷地にしてしまえば済む話じゃろが。小屋作ってから誰も来とらんじゃろ?文句言う奴はいるまい」


なるほど、この世界の土地は早い者勝ちだ。それもありだな。


「そうだね、そうするよ。ありがとうおやっさん」


森全部を囲うのは大変だから半径2キロくらいを目処にするか。でも税とかどうなるんだろう?後でアーノルドに聞いておこう。



小屋に到着し、アーノルド達が来るまでに少しでも切り株を処理して行くことに。


土魔法で切り株まわりをふかふかにしていく。これで抜けるだろう。


「ダン、これ引っ張って抜いて」


ダンは切り株にロープを巻き付け引っ張った。


切り株はぐわんぐわんと動きはするが一向に抜けない。


「ぼっちゃん、相当根が張ってて抜けねーぞこりゃ」


もっと広範囲にふかふかにしてみたが結果は同じだった。


「おやっさん、切り株ってどうやって抜くの?」


「普通はそのまま放置して朽ちるのを待つか、回りを掘って根を切断してから抜くはずじゃ」


朽ちるのなんて何年も掛かりそうだな。ということは全部掘って根を切断・・・・・


無理だな。ダンと二人でやる仕事じゃない。しかしこれ果樹園の開墾にも言える話じゃないか?


あの木だらけの土地の切り株を抜いて行く・・・?無理だな。


ミゲルはどうやって処理するつもりだったんだろうか?抜かずに放置予定だったのか?


それだと均等に苗を植えるのに支障がありそうだし・・・


「待たせたか?」


アーノルド達がやって来た


「おー、やっと来たか。じゃ話をするか。坊主は一緒に聞いておくのか?」


それより俺は切り株のことで頭がいっぱいだ。何かいい方法はないか・・・


「シルフィードと外で待ってる。父さんがシルフィードに聞かせても問題無いと判断したら呼んでくれる?」


ドワンにそう伝えるとアーノルド達と小屋の中に入って行った。


んー、根の周りは俺が掘るとしても、切断する根はたくさんあるだろうし、ものすごく手間というか時間が掛かりすぎる。苗植える準備だけで冬になってしまうだろう。もっと早く掘り出せる方法はないだろうか?重機があれば早そうだな・・・


無い物ねだりをしても仕方がない。


とっとと朽ちてくれないかなぁ・・・


植物魔法は成長を早めるからおもいっきり成長させたら寿命が来ないだろうか?いや、木によっては1000以上生きるから無理だろうな。


寿命短くしたら枯れるのかな?


寿命を短く・・・?


よし、一度試してみるか。


俺は切り株に手を置き、魔力を抜く要領で植物魔法をイメージしながら魔力を吸えるか試してみた。


ズズズッ


お、吸えた!魔力を吸われた切り株は急激に朽ちていく。まるで血を大量に吸われてミイラみたいになっていく様だ。


朽ちてボロボロになった切り株をコンと蹴ってみると崩れ落ちた。やった、これなら切り株除去の問題が解決出来る。


「げ、ゲイル様・・・今何をされたんですか?」


一瞬で朽ちた切り株を見て驚くシルフィード。なんかずっと驚きっぱなしだな。


「植物魔法って植物を成長させるだろ。多分植物魔法の正体は植物が持ってる魔力なんだと思う。俺はその魔力を吸ったんだ」


「魔力を吸う?」


「今おやっさんが父さんたちにそれに関係する話をしてるんだ。他にもあるけど詳しくは許可が出てからね」


そう言った俺は切り株から魔力を吸い、貯まった魔力で土を柔らかくしてして埋めていった。非常に効率がよろしい。


小屋周りの切り株を全滅させた所でドワン達が出てきた。


ドワンが俺とシルフィードに手招きをした。どうやら許可が出たようだ。


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