第134話 植物魔法を学ぶその3

ミーシャはそのまま屋敷でお留守番して貰ってダンとシルフィードの3人で商会へ向かう。シルフィードは嬉しそうに新しい服と黒い帽子を被っていた。きれいな緑色の髪の毛に黒い帽子が良く似合っている。



商会に到着し、扉を開けて中に入るとドワンがいた。


「お、坊主。その娘は誰だ?」


「ボロン村のシルフィード。植物魔法の使い手だよ」


「お~、お前さんがそうか。ワシはここで武器屋と坊主の使いっパシりをしてるドワンだ」


俺がおやっさんを使いっぱとはまた人聞きの悪い・・・


「初めましてドワンさん。シルフィードです。お役に立てるかわかりませんが精一杯頑張ります」


帽子を被ったまま挨拶をしようとしたが、思いきって脱いで挨拶したようだ。


「お前さん、耳を気にしとるのか?ワシはドワーフじゃが気にせんぞ。それに昔のパーティーにハーフエルフもエルフもいたからの」


がっはっはと笑って説明した。


「シルフィード、おやっさんは父さん達の元パーティーメンバーだったんだよ。だから心配しなくていいよ」


「そうだったんですか。安心しました」


ひとしきり挨拶をした後に育てたい果物と木の実を見せて説明を始める。


「シルフィード、これ食べてみる?」


俺は梨を剥いて出した。収穫してからしばらく経つがまだしゃきしゃきだ。


「わ、これ美味しいですね。すごく甘くてしゃきしゃきした歯応えも凄くいいです」


「だろ?これを果樹園でたくさん作りたいんだよ」


他にもザクロや栗とかを食べさせた。どれも気に入ったようだ。


「これ、上手く育つならボロン村でも作りたいです」


「もちろんいいよ。苗にしちゃうと荷物になるから種を持って帰ったらいいよ」


ボロン村で果樹園作るほど人手は無いだろうが、村で消費するくらいは出来るだろう。


さっそく俺は土魔法で植木鉢を作り、それぞれを植えていく。


「じゃ、やってみますね」


シルフィードはぶつぶつと念じ始め、植木鉢へと両手を向けた。


ぽわっと緑色の光にシルフィードが包まれ、その光が植木鉢達に注がれていくと、ピョコンと芽が出て来てするすると伸びる。あっと言うまに30cmくらいの苗に育った。


これが植物魔法か、凄いな。


「はぁ、はぁ、はぁ。良かった出来ました」


シルフィードは肩で息をしていた。結構魔力を必要とするようだな。


「シルフィード、凄いよ。こんなに上手くいくなんて想像以上だよ!」


「おぅ、嬢ちゃん。上手く行ったようだな。これで果樹園の目処が付いてきたな」


「でも、半日でこれくらいしか無理そうです。まだまだ作るんですよね?」


「うんそうだね。俺も出来るようになればいけると思うんだ。次は俺にも教えながらやってみてくれる?」


「ゲイル様、申し訳ありません。もう魔力が・・・」


「これ舐めてみて」


ゲイルがスプーンに魔力水を掬って渡すと恐る恐る舐めるシルフィード。


「あ、甘いですね。・・・? なんか身体に力が戻って来てるような感覚が・・・」


「これね、マジックポーションの原液みたいなもんなんだよ。さっき食べたふわふわの奴にも甘味料として使ってたんだよ」


「マジックポーションの原液なんてあるんですか? 物凄く高価なんじゃ・・・」


「その辺は気にしないで」


服を買うだけで銀板を何十枚もポンと出したからこれも高額で買ったと思ってるのだろう。なんか金持ちのボンボンみたいに思われてないだろうか?俺、アーノルドから小遣いとか貰ったことないからね。


「魔力回復したよね?じゃ、もう一度やって貰うから」


魔力水の事はまだ秘密だから説明しようがない。とりあえず先に進もう。


「俺の手を握ってくれる?」


「え?手をですか?」


シルフィードは真っ赤な顔をしながら俺の手を恋人繋ぎした。


「あ、ごめん、そうじゃなくて、俺の手首を掴みながら植物魔法を使って貰いたいんだ」


恋人繋ぎされるとなんかテレるな。俺も真っ赤になってるんじゃなかろうか?ドワンがニヤニヤしながら見てやがる。


俺は慌てて植木鉢を同じ数だけ作り、それぞれに種を植えた。植木鉢に手を向けて準備完了。


「シルフィード、俺の手首を掴んで、俺の手から魔法が出るイメージでやってみてくれる?」


多分これで出来るはずだ。身体の中に植物魔法が流れたら感覚がわかる気がする。


シルフィードは俺の後ろに回り、背中から抱きつくような体勢で手首を握った。恐らく顔が真っ赤なのだろう。背中から鼓動が伝わってくる。


「で、ではいきますね。ぶつぶつぶつぶつ・・・」


俺の手首を握っている手が緑色の光に包まれているのはわかるが、俺の手からは放出されない。俺の身体が抵抗になってるような感じだな。


光が強くなってきた。魔力出力を上げてるような感じだ。それでも俺の身体からは放出されないようなので、自分で誘い水のように自分の魔力を手から放出してみた。


その途端スッと俺の身体の中を不思議な魔力が通るのを感じる。お、俺の手から緑色の光が出て植木鉢に注がれていく。


「シルフィード、俺の手首から手を離して」


俺がそういうとビクっとして手を離す。いや、怒ったわけじゃないからね。


シルフィードが手を離しても緑色の光は出たままだ。そのまま魔力出力を上げていくと植木鉢からポンっと芽が出てするすると伸び、すぐに30cmほどになったので魔力を止めた。


えっ?と驚くシルフィード。


「シルフィード、ありがとう。植物魔法が分かったよ。感覚を忘れないうちに続けてやってみる」


俺は梨、柿、栗、ザクロ、椎をそれぞれ10個ずつ植木鉢に植えて植物魔法を注ぐ。鑑定しながらやると魔力2000程使ったようだ。種から30cm程の苗にするのに1つに付き魔力が40か。初めてでこれだから最適化されたら苗作りにさほど魔力は必要無さそうだな。シルフィードは植木鉢5個で魔力が切れそうな感じと言っていたが魔力が少ないのか、最適化があまりされて無いのかどちらなんだろう?葡萄でかなり使ってるはずなんだけど。


「ゲイル様・・・もう植物魔法を覚えた上にこんな数を一度に出来るなんて。あ、それに詠唱してなかったですよね?」


「嬢ちゃん。魔法に関して坊主は特別じゃ。いちいち驚いてたら身体が持たんぞ。坊主だから仕方がないと思っとけ」


「で、でも、詠唱なしなんて・・・」


「うん、シルフィードがなんて言ってるかわかんなかったからね」


「しょ、植物魔法の詠唱は古代エルフの言葉なんです」


なるほど、あれは古代エルフの言語だったのか。道理で全く解らなかったはずだ


「嬢ちゃん、坊主曰く魔法に詠唱は必要無いらしいぞ。坊主は魔法を使う時に詠唱したことないからな」


「えっ?心の中でも詠唱してないんですか?」


「あ、うん。魔法はイメージの具現化だからね。強くイメージを持って魔力を注ぐと出来るんだよ。詠唱するのはそう教えられて詠唱している時に強くイメージする癖が付いてしまっただけだね」


「シルフィード、俺やおやっさんもぼっちゃんのお蔭で無詠唱魔法使えるようになったぜ」


「本当ですか?」


「あぁ、本当さ。なんなら見せてやろうか」


ダンはミスリル銃でファイアボールが撃てるようになったことを誰かに自慢したくて仕方がなかったんだな。シルフィードなら話しても問題なさそうだし。


「ダン、ここじゃダメだよ。まだ森じゃなきゃ」


シルフィードは真剣な顔をして俺を見つめている。


「ゲ、ゲイル様っ! 私にも魔法を教えて下さいっ!」


「いいけど、なんの魔法?」


「水魔法と治癒魔法です」


なるほど、ボロン村には必要だな。


「もちろんいいけど、両方とも使えるようになったら村でこき使われるんじゃない?一人で全部やるのは無理があるよ」


「村長をはじめ、村の皆は私をずっと守って来てくれました。恩返しがしたいんです」


決意は固いようだな。魔法は使えるからどちらも覚えられるだろう。魔力総量がどれくらいあるかわからないけど、魔力水でガンガン過剰回復させて出来るだけ底上げしておくか。


「わかった。ここに居てくれる間に出来るだけ教えるよ。あとシルフィードは甘い物好き?」


「はい大好きです。」


なら良かった。過剰回復手段で魔力水を使っても問題無さそうだ。薄力粉も手に入ったことだし、スイーツレシピをどんどん出していくか。俺が植物魔法を覚えたからもう帰っていいとか可哀想そうだしな。


「じゃあ、ここにいる間に色々な種類のお菓子をブリックに作って貰うよ。それ食べながら特訓しよう」


「はいっ!」


シルフィードはとても良い笑顔で答えたのだった。




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