第133話 植物魔法を学ぶその2
翌朝、ロロの朝稽古を覗こうと思っていたらシルフィードも起きてきた。
「おはよう。ずいぶんと早いね。まだ寝てていいんだよ」
「おはようございます。毎朝これくらいには起きているので目が覚めちゃって」
「それなら父さんの朝稽古を覗いてから馬の所に行くけど一緒に行く?」
ぜひと言うのでシルフィードも連れて行くことにした。
「ロロ、おはよう。」
「ゲイル様おはようございます。そちらの方は?」
「ボロン村のシルフィードだよ。しばらく俺の仕事を手伝いに来てもらったんだ。こっちはロロ。ちょっと事情があってうちで預かってる」
「こちらでお世話になっているロロでふ・・・です」
ロロよ、お前もか。顔赤くしてんじゃねーよ。
「シルフィードです。宜しくお願いします」
「お、シルフィードも来てたのか。昨日はよく眠れたか?」
「はい、ふかふかのベッドだったのでぐっすりと眠れました」
「そりゃ良かった。お前も剣の稽古を付けてやろうか?」
「父さん、女の子に何言って・・・」
「えっ?いいんですか?」
え?やるの?
「構わんぞ。短い期間だろうけど、基礎くらいは教えてやれるだろう」
ソウデスカ・・・
シルフィードと一緒に稽古が出来ると聞いてパァと顔がほころぶロロ。ふ抜けた面してたら怪我するぞ。
「じゃあ明日からだね。稽古着もないし」
「もう使ってないベントのとかあるだろ?」
「あんな古着を女の子に着せれられる訳ないだろ。今日準備しておくから明日からね」
「わ、わたしは古着でも・・・」
「ダメ。明日から」
ということで本日は見学のみ。
ロロが素振りをする度にすごーいとか言うもんだから、ロロはおもいっきり張り切っていた。
途中で見学を切り上げてシルバーの所へ移動。
「ゲイル様、何ですかここは?」
「ここは馬が走る練習をするところだよ。安全に走れるように作ったんだ」
わー、すごーいとはしゃぐシルフィード。
「ぼっちゃん、シルフィードを連れて来たのか?」
「あ、ダンさんおはようございます」
「今日だけね、明日から父さんと朝稽古することになったよ」
「シルフィードが剣の稽古?お、あれから狩り続けているのか?」
「はい、教えてもらった事を思い出しながらやってます。罠に掛かった鹿とかに止め刺すだけですけど」
そうなのか。トラウマを乗り越えられたんだな。それで剣の稽古もしておきたいのかな?
馬の世話人達にシルフィードを紹介してから食堂に向かった
朝食のベーコンと玉子のサンドイッチにも感動していた。
「シルフィードは明日から朝稽古するんですって?」
アイナがアーノルドに聞いたらしくシルフィードにも確認するように聞いてきた。
「はい、アーノルド様が剣の基礎を教えて下さるというお言葉に甘えました」
「えっ?剣の稽古をするの?」
ベント、剣を捨てた君には関係ないだろ?
「狩りの時に役立てたいと思ってます。ゲイル様が考えて下さった罠のお蔭で女性陣でも獲物が捕れるようになりました。なるべく苦しまないように倒したいんです。槍で突いた後も苦しんでますので・・・」
なるほど。殺して食べるとはいえ、苦しい時間を極力少なくするための剣か。目的がしっかりしているな。
「ゲイルが考えた罠・・・?」
「はい、ボロン村は女性が多く、狩りが得意なものがほとんどいないと知って、女性だけでも獲物が狩れるように考えて下さったんです。お蔭でお肉が定期的に食べられるようになりました。ゲイル様とダンさんが村に居てくれたら罠も必要ないですけどね」
屈託のないゲイルへの賞賛を聞いてベントはうつ向いていた。
朝食のあとミーシャに午前中付き合えと伝えた。シルフィードの服とか買いに行くのだ。昨日、小さな鞄一つしか持ってなかったから着替えがほとんどないだろう。
「ぼっちゃん、今日は街に行くのか?」
シルバーに俺とミーシャ、クロスにダンとシルフィードが乗ってお買い物だ。
「ちょっと買い物にね。それが終わったらおやっさんのところに行こう。」
ポコポコと繁華街に向かう。こっちに来るのは久しぶりだ。
ずいぶんと店が増えているな。人が増えたら店も増える。順調に発展している証拠だな。
「ミーシャ、今日はシルフィードの服を買うから見繕ってやってくれないか。普段着を4~5着と稽古着を2着、あとお出掛け用を1着だな。靴もそれぞれにあわせて。他足りないものとか」
「そ、そ、そんなに必要無いです。稽古着だけで・・・」
「ほとんど服持って来てないだろ?ここにいる間の服いるじゃん」
「いえ、これがあれば・・・」
ボロン村は貧乏だ。服を買うこともほとんどないだろう。
「たまに服を買ってもバチは当たらないよ。ミーシャも欲しい物があったら一緒に買っていいから宜しくね。古着じゃなくて新品のを買ってね。俺はちょっとこの辺を見てくるから女性陣だけで宜しく」
女性の服を買うのに付き合う気力はない。あれほど疲れるものは無いからな。
ダンに言ってミーシャに全部使っていいよと銀板5枚程渡しておいた。円に換算すると50万円くらい。この世界の服はそこそこ高いがこれで足りないということはないだろう。
ミーシャも渡されたお金を見て驚いていたが、もう俺に遠慮する仲ではない。俺が全部使っていいと言ったら喜んでいた。
シルフィードのえっえっえっ?という顔が面白かった。
「ダン、こんなに店出来てたの知ってた?」
「いや、俺も最近来てなかったからな」
いちいち中に入る事はせず見て回ってると、なにやらもめているような声が聞こえて来た。
「こんな不良品掴ませやがって!返品するから金返せっ!」
「そ、そんな事を言われましても・・・」
「じゃあ、お前がこれを使って作ってみろよ」
こんな感じの怒鳴り声が聞こえてくる。
「ぼっちゃん、揉めてるのはザックの所だな。どうする?」
えっ?ザックの所?店でかくなってないか?
以前と比べて店が大きく豪華な作りに変わっていたので気が付かなった。
「取りあえず顔出してみるか。どんなもの売ったんだろ?」
ザックはボロン村のワインを安いからと勝手に大量に仕入れて困ってた所を助けてやった奴だ。今度はなんだろう?
「どうした?不良品でも売ったのか?」
「あ、ゲイルぼっちゃん」
「あぁ?なんだこの坊主はっ!邪魔すんなっ!」
がなり立ててた客が俺を突き飛ばそうとした。俺が対応する間もなくダンがそいつの腕を掴んでねじり上げた。
「いででででっ!なんだお前はっ!腕を離しやがれっ!」
「ぼっちゃん、こいつどうする?斬るか?」
き、斬る?
「お、お客さん、こちらはゲイルぼっちゃん。領主様のご子息様です・・・」
「りょ、領主様の・・・」
「ダン、離してやれ。こんな所で斬ったら道が汚れる。おい、お前。俺が領主の息子とか言う前にこんな小さな子供を突き飛ばそうとするのはどうかと思うぞ。痛い目にあっておくか?」
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁっ!」
その場で土下座する男。
「次に同じような事をしてるのを見たらゴブリンの群れの中に捨てるからな」
男の顔色がザーッと音を立てて引いていく。元冒険者の領主の息子ならやりかねんと思われたのだろう。
「ザック、俺が来る度に揉めてる気がするけど、なんか悪いことしてるんじゃないだろうな?」
「め、めっそうもございません。普通の小麦粉を売っただけですよ。それが不良品だと言われて・・・」
「おい、お前。不良品とはどういうことだ?」
「は、はい。ここで買った小麦粉でパンを作ろうと思ってこねたらいつまでたってもべちゃっとしてて上手くまとまらないのです」
ん?
「ザック、こいつに売った小麦粉はいつものところから仕入れたやつか?」
「い、いえ。違うところから・・・」
コイツ、またやりやがったのか。
「また内緒で仕入れたのか?」
「は、はい・・・」
「その小麦粉とボウルと水と塩持ってこい。確かめる」
あわてて言われたものを持ってくるザック
「おい、そこの。いつもみたいにパンこねてみろ」
慌てて水と塩を入れてこねていく。しかし、ベタベタのまま上手く固まらない小麦粉・・・
「み、水が多かったんじゃ・・・」
ザックが慌てる。
「ザック、こいつの言う通りだ。いつもの仕入れ先から仕入れた小麦粉を渡すか返金しろ。お前が悪い」
「は、はい」
「お、俺はおとがめ無しで・・・」
「小麦粉の件はお前の言う通りだ。が、子供を突き飛ばそうとしたのは別だ。次は無いと思え」
「は、はい~~」
男は返金された金を持って走って帰っていった。
ワーパチパチ
騒動を見守っていた周りの人間から歓声と拍手が起こる。
やっべ、目立ってしまった。俺は慌ててザックと一緒に店の応接室に入っていった。
「お前、白ワインの時に懲りたんじゃないのか?」
「これは少し安かっただけで、普通の取引をしただけで・・・」
まぁ、そうか。見た目は同じだからな。安い取引先を探すのは通常の事だ。
「まぁいい。違う取引先を使う時は売る前に商品の品質確認をするのは商人として当たり前のことだぞ。いい加減な商売はあっという間に信用無くすぞ」
「は、はい」
「ところでぼっちゃん、この小麦粉は何が悪いんだ?」
「小麦粉が悪いわけではないよ。使い方が悪いんだ。この小麦粉はパン作りに向いてない」
「ど、どういうことですか?」
「小麦粉には大きく分けて3種類ある。いつも使ってる奴は強力粉と呼ばれる奴だ。今回のこれは恐らく薄力粉だ。これ以外に中力粉ってのがある」
「そ、それでこの小麦粉の使い道は・・・?」
「今の所無いな」
「そ、そんなぁ~」
「取りあえず一袋買ってやるから屋敷に運んでおいてくれ。使い道を探しておいてやる。そのうち必要になるかもしれんから捨てずに置いておけ。あと今後も仕入れ出来るようにしておけよ。使い道が出来て、もう仕入れられませんとかなったらお前をゴブリンの群れに置き去りにするからな」
「は、はい~」
ちょっと時間食ってしまったな。ミーシャ達の所へ戻る前に買わないといけないものがある。
「ダン、帽子はどこに売ってる?」
あぁ、それならと店に案内してくれた。
大きめで深く被れる帽子を探す。お、これなんか可愛くていいかも。
俺は無難な黒と深い緑色の帽子を買ってミーシャたちのところに戻った。
「ぼっちゃま。遅かったですね。」
「ごめん、ちょっとトラブルがあってね。全部買えた?」
「ゲイル様ありがとうございます。こ、こんなに服を買ったのは初めてです」
二人はほとんど渡したお金を使いきっていた。お出掛け用の服が結構高かったようだ。余ったお金で串焼きやハチノスを食べながら屋敷に戻る。
「シルフィード、はいこれ。」
「これはなんですか?」
俺は買った帽子を渡す
「ずっとフード被ったままじゃうっとうしいだろ?これの方がいいと思うぞ」
「わ、帽子・・・。ゲイル様が選んでくださったんですか?」
「地味な色でスマンね。普段使いにはこの方がいいと思ってね。派手な方が良かったか?」
「い、いえ、とても嬉しいです。」
渡された黒い方の帽子を被るシルフィード。
「あ、耳が・・・」
大きめの深い帽子なのですっぽりと頭全体を覆うように被れるタイプだ。
「耳を他の人に見られたくないんだろ?深いフードでも隠せるけど怪しさ満載だからな。こっちの方が可愛いいぞ」
ぼっと顔を赤くするシルフィード。しまったな・・・
「あ、ありがとうございます。一生大切にシマス」
いや、普段使いの物だから一生は持たんぞ。
「じゃ、串焼きだけじゃ食べたりないし、なんかブリックに作って貰おう」
俺は話題を変えて厨房に向かった
「あ、ぼっちゃん。これがさっき届いたんですが、小麦粉まだあるのに買ったんですか?」
もう届いたのか。ゴブリンがよほど恐ろしかったのかもしれん。
「それ、他の小麦粉と分けて管理してね、別物だから」
???
小麦粉に種類があるのは一般的ではないのだろう。昼飯代わりになんか作るか
シルフィードにブリックとポポを紹介してから薄力粉の説明をした。
「言われてもよくわかんないだろうから、これで何か作ろう」
俺は土魔法でケーキの型を3つ程作った。絶対に一つでは足らんだろうからな。
「ミーシャは生クリームを泡立てて。甘味は砂糖じゃなく、壺の甘味料を使ってね」
生クリームの泡立てもおやっさんに作ってもらったハンドミキサーがあるので簡単だ。
「ブリック、卵を白身と黄身に分けて。ダンはこの白身を泡立てておいて」
薄力粉、水、油、卵の黄身、甘味料を入れて混ぜる。そこにダンが泡立てた白身、メレンゲを入れてざっくりと混ぜて型に流したらオーブンへ
「ブリック、この作り方を覚えておいてくれ。色々と応用が効くから」
しばらく待つと甘くいい匂いが漂ってきた。棒を刺してみて中身がついてこなければ完成だ。
本来冷ます必要があるけど、すぐに食べるからいいか。
切り分けてそれぞれに食べて貰う。
「生クリームかジャムとか好きなのを付けて食べて」
「「「「いただきまーす」」」」
うわっ、フワッフワ
うまっ! ナニコレー?
各自が驚愕の声と美味しい歓声をあげる。
「ゲイルちゃますごーい!」
ポポも大喜びだ。
「ぼっちゃん、これいったい・・・」
ブリックはまた知らない世界に連れていかれた驚きが隠せない。
「この小麦粉、薄力粉はお菓子作りに向いてるんだ。いつもの小麦粉でも作れるけどここまでふわふわにはならないんだよ」
「小麦粉にも種類があるんですね」
「いつものとこれを混ぜて麺作ったりとかも出来るしね。良いのが手に入ったよ」
「ぼっちゃん、ザックにはああ言ったけど初めから使い方知ってたんだろ?」
「そうだよ。アイツ定期的にやらかすからな。お灸だよ」
「ザックさんが何したんですか?」
ダンが店先であったことをミーシャに説明してから苗作りに行くのであった。
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