第132話 植物魔法を習うその1

「応接室で待ってて。母さん呼んでくるから」


アーノルドはまだ帰って来てないので先にシルフィードが来たことをアイナに伝えに行く。


一人で応接室に残されたシルフィードは落ち着きなくキョロキョロしていた。


「母さん、ボロン村のシルフィードが来てくれたよ。今、応接室で待って貰ってるから仕事が片付いたらこっちに来て」


アイナにそう伝えたら次はブリックだ。


「ブリック、今晩のご飯一人追加出来る?」


「あ、ぼっちゃん。お客様ですか?大丈夫ですよ。今晩はクリームシチューなのでお代わりもいけますよ」


ありがとうと言って急いで応接室に戻る。


応接室に戻るとすでにアイナが来ていた。


「ゲイル、この娘がボロン村のシルフィードね。ずいぶんと可愛らしい娘ね。あなたがソワソワしてた理由がわかったわ」


クスッと笑いながらなんてこと言ってくれてんだ。シルフィードも顔を赤くするんじゃない。誤解だから。


「母さん、確かにシルフィードは可愛いけど、俺は魔法を・・・」


俺が可愛いと言った瞬間に深く被ったフードの中の顔から火が出たように見えた。


「え~、ゴホンっ。シルフィード、わざわざ来てくれてありがとう。今回来てもらったのは植物魔法を使って手伝いをお願いしたいんだ」


先にキチンと理由を言っておこう。


「シルフィード、こちらアイナ・ディノスレイヤ。俺の母さんだよ」


「初めまして。ボロン村のシルフィードです。この度は領主様を始め皆様に大変お世話になりました。ありがとうございます」


キチンと挨拶をしてからおずおずとフードを脱いだ。


「宜しくね。あら?ずいぶんと綺麗な髪してるわね。シルフィードはハーフエルフだったわよね?」


ハーフエルフと言われてビクッとするシルフィード。


「そんなに怖がらなくていいわよ。アーノルドから聞いてるでしょ?私たちのパーティーにもハーフエルフがいたから慣れてるわよ。エルフもドワーフにもね」


クスクスと笑いながらそう説明するアイナ。


「母さん、シルフィードにはここにしばらく泊まって貰おうと思ってるんだけど」


「あら、いいわよ。ゲイルの部屋で一緒に寝る?」


「別の部屋があるでしょ・・・」


シルフィードは顔をあげられなくなっていた。



ガチャ


「誰か来てるのか?お、シルフィードじゃないか。よく来てくれたな」


アーノルドが帰って来た。普通、自分の屋敷の応接室でもノックくらいするよね?


「お久しぶりです、アーノルド様。その節は大変お世話になりありがとうございました」


「元気そうで何よりだ。あ、コイツを紹介しておこう。次男のベントだ。」


「べ、ベントでふ・・・です」


ベントの野郎いっちょまえに緊張してやがる。


「初めまして。ボロン村のシルフィードといいます。」


「父さん、いま母さんに話してたんだけど、ここにしばらく泊まって貰ってもいいよね?」


「あぁ、もちろんだ。」


「い・・・いえ、ご迷惑なんじゃ・・・」


「ぼ、僕も泊まって貰ったらいいと思う」


ベントが珍しく自分の意見を言う。こいつ、相手が可愛い娘なら平民がとか言わんのな。シルフィードはお前と同じ歳くらいに見えてても20歳過ぎてるんだぞ。


「だって、みんな賛成だから遠慮なく泊まっていってよ。俺たちも泊めて貰ったんだし」


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・お世話になります」


「今日の晩御飯はクリームシチューだって。お代わりもあるから遠慮しないでね」


「あら、いつの間に聞いてきたの?」


「さっきブリックに聞いたんだよ。」


「あなたはよくそういうのに気付くわね」


「ブリックの仕事とか状況は知ってるからね。明日以降の予定はまた伝えておくよ」


「ゲイル様、申し訳ありません・・・」


「なんで謝るの?コックのブリックも屋敷以外の人が食べてくれるならいつもより張り切るよきっと」


そう言うとシルフィードは嬉しそうに笑った。



「ぼっちゃん、お客様ですか?」


ミーシャがやってきた。最近ポポに付きっきりになっている。


「あ、ミーシャ、紹介するよ。ボロン村のシルフィード。こっちは俺付きのメイドのミーシャ。二人とも仲良くやってくれ」


お互いに挨拶をすませニコッと微笑みあう。


ご飯までは少し時間があるので、ミーシャに部屋の手配をお願いした。準備が調うまで俺の部屋で打ち合わせをしておこう。


「シルフィード、準備が出来るまで俺の部屋で打ち合わせをしたいんだがいいかな?」


「あら?内緒の話でもするのかしら?」


ちゃうわっ!


「なんなら母さんも来る?」


「お邪魔みたいだからやめとくわ。じゃ、シルフィちゃんごゆっくり~。」


何がごゆっくりだよ。



俺はシルフィードを連れて部屋に行った


「今回来てもらったのは植物魔法で育てて欲しい果物の木があるんだよ」


「果物ですか?」


「そう、梨、柿、栗とかだね。そこそこ大きい果樹園にするつもりだからけっこうな数を植えるんだけど、普通に植えたら木が育って実がちゃんとなり始めるのが10年くらい後だろ? 待ちきれなくてさ。それに10年後はここにいないかもしれないからね」


「え?ゲイル様どこかに行ってしまうんですか?」


「あ、ごめん、そういう訳で無くて、王都の学校に行きたいなと思ってるんだよ。学校に行くまでにちゃんと木が育って果樹園を世話してれる人に引き継ぎたいから」


「そんな先の事まで考えてるんですか。凄いですねぇ」


「いや、美味しいものが簡単に手に入るようにしておきたいだけ。誰かがやってくれてるといいんだけど、誰も果樹園を開墾して種からなんて育ててくれないからね」


「分かりました。やってみますね」


「あとね、俺にも植物魔法を教えて欲しいんだ。シルフィードがずっとここに居てくれるといいんだけど、そういうわけにも行かないから自分で出来るようになりたいなぁって」


・・・

・・・・

・・・・・

「ぷ、ぷ、プロポーズででですか?まままままだゲイル様は成人されてませんし、それにわたたたしは・・・」


はっ?プロポーズ?今の話でどこにそんな要素があるんだ?


「待って待って待って!プロポーズじゃないからっ」


俺はまだ3歳だぞ。


「え?だってここにずっと居て欲しいって・・・」


あーー、


「いや、果樹園が出来るまでずっといる訳にはいかないでしょってこと」


「あ、そういう意味ですか。私ったらとんだ早とちりを・・・」


真っ赤になるシルフィード。もー、ビックリするなぁ。



コンコンっ


「ぼっちゃま~ ご飯ですよ~」


ミーシャが呼びに来てくれた。良かった。



晩御飯のクリームシチューがとても気に入ったらしくシルフィードはとても喜んでいた。1杯食べ終わったあとモジモジしてたので、お代わりを俺がお願いしておいた。


食事中、アーノルド、アイナはシルフィードと色々話をしていたが、ベントはポーッと赤い顔をしてシルフィードを見つめ続けていたのだった。


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