第130話 それぞれの思惑とお勉強

ダンの特訓は夕方まで続いた。


「はぁ、はぁっ、もう魔力がヤバイぜ」


「俺の魔力も厳しいな。これで最後にしよう。続きはまた明日だね」


ダンはファイアボールを撃てたり撃てなかったりで安定して撃てるようにはならなかったが、一歩前進といったとこか。まぁ、この歳まで魔法使った事が無かったんだから仕方がない。


「わ、ワシもやってみていいかの?」


やけに大人しく見てるかと思ってたらドワンもやりたかったのか。


「おやっさんはファイアボール撃てるじゃん」


「わ、ワシも詠唱無しで撃ってみたいんじゃっ!いかんのかっ!」


「これおやっさんが作った奴だからいいけどさ。必要ないんじゃ・・・」


「う、うるさいっ!早く貸せっ!」


ダンがドワンにミスリル銃を渡すとニコニコ顔だ。


「よし、行くぞっ!」


ぶつぶつぶつ


「ファイアボールっ!」


ドゴンっ!


「わーはっはっは!撃てる!撃てるぞ!ワシにも撃てるっ!」


「・・・おやっさん詠唱してたよ」


はぁ~、無詠唱で撃ちたいんじゃなかったのかね?


「なにっ?そんなはずは・・・」


「それに最後ファイアボールって叫んでたじゃん」


「ムムムっ。もう一回じゃ」


ぶつぶつぶつ


「ほら、詠唱してるよ」


がっ・・


「し、しとらんっ。もう一回じゃ」


ぶつぶつ


くっ、


ぶつ





「だ、ダメじゃ。ファイアボールを撃とうとすると勝手に口が動きよる」


「長年染み付いたものはそう簡単に取れないよ」


「うるさいっ!お前らだけズルいぞっ!」


何がズルいんだか・・・


結局、日が暮れてもドワンの詠唱癖は取れなかった。


「おやっさん、もう真っ暗だよ」


森は夜が早い。あっという間に暗くなってしまった。


「あ、明日じゃ、明日もやるからなっ!」


ったく、夜の森は危ないんじゃなかったのかよ。と、ぶつぶつ言いながら俺の魔法で明かりを点けてゆっくりと森を出た。



ゲイルは屋敷に戻ってから自分の部屋で属性の付いた魔力水について考えていた。


魔力水に魔力を注ぎ続けると魔石になる。治癒魔法を注ぎ込んだらポーションみたいなものになったけど、あのまま治癒魔法を注ぎ込んだら治癒魔石になるのかな?


ちょっと試してみるか。


いつもの壺だとかなり魔力を注ぎ込まないといけないので、壺の1/10程度のコップでやってみることに。


コップの水に治癒魔法を注ぎ込んで行くと少しずつとろみを帯びてくる。魔力水を舐めて魔力を回復しながらどんどん注ぎ込んで行くとスッと体積が減ってピンク色の魔石になった。


思った通りだ!


あわてて鑑定してみる。どんな効能があるのだろうか?


【治癒魔石】小 ゲイル産

この石を身につけているものが怪我をした場合に即座に治癒魔法が発動する。


おや?なんか解説みたいなものがでたぞ、なぜだ?


効能を知りたいと思ったからか?鑑定魔法ってよくわからんな・・・


取りあえずこれは使えるな。指輪やペンダントにしていれば万が一の時の保険になる。


この大きさならどれくらいの怪我までいけるのかな?検証したいところだけど、怪我の検証を自分でするのは嫌だな・・・


アイナの治療院にくる怪我した人で試すのが一番なんだけど、それにはアーノルドとアイナに事情を話さないといけないからな。明日、おやっさんに相談してみよう。



ー朝稽古ー


「本日より宜しくお願いします」


本来は昨日からロロの朝稽古をする予定だったが、ロロの稽古着とか用意出来ていなかったので1日遅れての開始となった。


「おう、覚悟はいいか?俺の稽古は厳しいぞ」


「はいっ!英雄である領主様から直々に稽古を付けて頂けるとは光栄です。死ぬ気で頑張ります」


ロロは大工仕事でも懸命に取り組んでいるようでミゲルも気に入ったらしい。本日より屋敷からミゲルの所まで、帰りは屋敷までウイスキーの担当をすることになっていた。初日に一人でウイスキーに乗って帰って来たときは驚いたぞ。


「ではまずひとつ目の目標として、俺と打ち合いが出来る所まで成長してもらう」


「打ち合いですか?」


「そうだ。おいゲイル、お前手本見せてみろ」


は?


「何言ってんの?俺はダンと剣の稽古はしてるけど、父さんと打ち合いなんてしたことないじゃないか」


「お前、冒険者見習いをこてんぱんにしたらしいじゃないか。俺にもやってみせろ」


なんで知ってるんだよ?


「いいの?」


「遠慮するな。俺は冒険者見習いとは違うぞ」


そりゃそうだろうさ。


「わかった。ロロ、開始の合図してくれる? 始めって言うだけでいいから」


「わかりました。用意はいいですか?」


二人とも木剣を構える。アーノルドはニヤニヤ笑ってやがる。いきなり俺を打ちのめしてロロに良いところを見せる気だな。3歳児相手に大人気ないやつだ。


「始めっ!」


開始の合図と共にアーノルドの顔を水魔法で包んだ。


「グボボボボゥ」


バシャッ


ゲッ!闘気で水を弾け飛ばしやがった。


「ゴホッゴホッ。ゲイルっ!なんてことをしやがるんだっ!俺じゃなかったら死んでるぞっ!」


いや、死ぬ前に解除するって。


「だってこてんぱんにしてみろって言ったじゃないか」


「剣の立ち会い稽古に魔法使うなっ!」


そうほざきながらどんどんアーノルドの身体が金色に輝いていく。


こいつ、魔法使うなとか抜かした癖に。


「父さんこそ卑怯じゃないかっ!」


「フッフッフッ、何のことかなぁ・・・」


汚っねぇ。闘気、すなわち身体強化魔法はよほど戦いに慣れたやつにしかバレない。素人のロロにはなおさらだ。


わっ、そんなことを考えているとアーノルドが突進してきやがった。こうなりゃ奥の手だ!


「あ、母さんが見てる」


俺相手に闘気を使ってるのがバレたらしこたま怒られるだろう。アーノルドがぎょっと振り向いた瞬間に。


「隙ありっ!」


ドンッ


俺の木剣がアーノルドの腹に食い込んだ。


「はい、俺の勝ちだね」


「き、汚いぞゲイルっ!」


「何言ってんだよ。立ち会い中によそ見する方が悪い。真剣勝負だったら死んでたよ。それに父さんこそロロにはわからないからって闘気使ってたじゃないか」


「ぐぬぬぬぬっ」


理屈の言い合いで俺が脳筋アーノルドに負けるわけがない。悔しそうに唇を噛むだけだ。


「ええ~い、うるさいっ!これでも食らえっ!」


げ、また剣を振り上げやがった。お前は近所のガキ大将かよ。


「あ、母さん!」


「同じ手は喰らうかっ!覚悟しろっ!」


「何をやってるのかしら?」


へ!?


「あ、アイナ・・・?」


「だから言ったのに」


「ちょっとこっちにいらっしゃい」


「は、はひ・・・」


アーノルドはアイナクローで捕獲されどこかに連れて行かれた。


「ゲイル様、この領で一番強いのはアーノルド様でなくアイナ様なのですか?」


「母さんは英雄パーティーの一人だからね。オークとかグーパン1発よ1発!」


「あんなにお美しい上にお強いだなんで・・・」


何言ってんだコイツ?


ロロは顔赤らめてポーッとしていた。


しばらくして両頬を腫らして戻ってきたアーノルドはロロに剣の持ち方から教え始めたのだった。


頑張れよロロ。


さて、俺は先に戻ろうっと。



朝食の時、アーノルドは俺をうらめしそうな顔で見ていたが自業自得。



朝飯を食い終わったので商会に行く。


「お、坊主、これを見てみろ」


商会に着くなりドワンは自慢気に自分の銃を見せてきた。かなりデカイくてショットガンみたいだ。


「自分の分も作ったの?」


「そうじゃ。坊主、ワシに風魔法を教えろ。ダンにやったみたいにすれば出来るんじゃろ?詠唱を知らん魔法なら無詠唱で使えるようになるじゃろ」


あ、火魔法の無詠唱は諦めたのね。


「別にいいけど風魔法は目に見えないからイメージ付きにくいかもしれないよ」


「ぐぬぬぬぬっ、やってみないとわからんじゃろ」


別にいいけどさ


「ほれ、こいつはお前さんのじゃ。」


小さな護身用拳銃のような物を渡された。女の人がガーターベルトに挟んでピンチの時にスカートを捲し上げて出してくるようなやつだ。


「これは?」


「坊主には必要ないもんじゃが、まだ魔法が使えると公になっていない間の御守りじゃ。なんかあって攻撃魔法を使わないといけない時にこれを使え。魔導武器として言い訳出来るじゃろ」


なるほど!


「おやっさん、ありがとう」


「前にやった魔剣が使えるようになるまでは他に何か必要じゃからの」


ドワンはいつもよく色々考えてくれてるよね。闘気まで使って俺を打ちのめそうとしたアーノルドとえらい違いだ。


「いつも本当にありがとうおやっさん。大切にするよ」


俺が真剣にお礼を言うと、ちゃんと風魔法を教えろよと照れたように言った。



森の稽古場に着いたら早速練習だ。


ダンには自己練習してて貰って、俺はドワンに風魔法の特訓だ。


「おやっさんの覚えたい風魔法はぶわーっと吹き付けるやつ?それとも見えない空気の塊が飛んで行くようなやつ?」


「何っ?空気の塊が飛ぶじゃと?」


「あれ、銃で撃つんだからそうかと思ったけど」


「そんな魔法は聞いたことないぞ」


「風魔法って空気を操作する魔法だから出来るよ」


俺のイメージは圧縮された空気が対象物に当たって解放される、すなわち空気の爆発だ。


「ちょっとやって見せるよ」


俺は丸太に向かって空気の塊を飛ばした。


バンッ


いきなり丸太がはぜる。


「こんな感じだよ。圧縮された空気が当たるとその圧縮が解除されて爆発するんだ」


?????


あー、空気が圧縮されるとかイメージしにくいか。


知ってるとは思うけど空気の存在を強く意識してもらうことから始めるか。


「おやっさん、空気の存在は知ってるよね?」


「当たり前じゃ」


「でもここに空気があるということは意識してないでしょ?」


「そうじゃな」


「風と呼ばれるものは空気が動いていることなんだよ。だから空気の存在を強く意識することから始めたいと思う」


「どういうことじゃ?」


まず、空気抵抗から実感してみよう。


「まず普通に手のひらを広げて素早く振ってみて」


ぶんぶん


「これがなんじゃ?」


ドワンの手に大きめの板をくくりつける


「これでさっきと同じように手を振ってみて」


ぶーん ぶーん


「ね、振りにくくなったでしょ?」


「板が付いたんじゃ当たり前じゃろ?」


板を横に向ける。


「じゃ、もう一回」


ぶんぶん


「どう?」


「板の向きを変えると振りやすいの」


俺は地面に空気を矢印で表して書いてなぜ振りにくくなるかを説明した。


「なんとなくわかったようなわからんような・・・」


空気は目に見えないし、これくらいの板ならそこまで差が出ないからなぁ。空気を水に置き換えてやってみるか。


土魔法で水槽を作り、そこで同じ事をやらせた。


「水だと違いが分かりやすいでしょ?これが空気でも同じ事がおこってるんだよ」


「なるほどの、なんとなく分かってきたわい」


「じゃ次に圧縮なんだけど」


俺は土魔法で大きな水鉄砲のような物を作った。シリンダー部分は少し長めに。

ダンも興味が湧いたのかいつの間にか説明に加わっている。


まずシリンダーの中に水を入れる。


「おやっさん、これを押してみて」


ぐっぐっぐっ


「全然押せんぞ」


「そう、水はほとんど圧縮出来ないんだ」


水抜いて同じ事をする。


ぐーーーっ


「これ以上押せんぞ」


「ピストンの先はここまでしか来てないよ。まだまだ隙間があるからね」


ぐーーーっ


「ダメじゃ。押せんぞ」


「ここに空気があるからそれ以上押せないんだよ」


俺はシリンダーの先に穴を開けた。


「もう一度押してみて」


スカッ


「空気の抜けるところがあるとこんなに簡単に押せたでしょ」


「なんとなくじゃが、分かってきたぞ」


「よし、最後は爆発だね」


俺は土の風船みたいなボールを魔法で2つ作った。


片方はただのボール、もう片方は圧縮空気入りだ。


「おやっさん、こっちはただ空洞があるボール。こっちはさっきおやっさんがぎゅっと押した空気。つまり圧縮空気を入れてある」


「圧縮空気?」


「そう、おやっさんがぎゅーっと押したここの空気が入ってると思って」


まず普通のボールを投げて割ってもらう


「あっちまで投げて」


おやっさんが遠投すると地面に当たってガチャンと割れた。


「じゃ、こっちの圧縮空気入りのボールを投げて」


同じように投げて地面に当たった瞬間


バーーーッン


ボールが大きな爆発音と共に割れた。


「な、何が起こったんじゃ?」


「ボールの中に入ってた圧縮空気が一気に元に戻ったんだよ。さっきのピストンも押しても戻ってきたでしょ?あれが一気に起こると爆発になるんだよ。」


「ほー、そんな力があるのか。」


「これを魔法でイメージしながらやるんだ。難しいけどやる?風が出るだけの方が簡単だけど」


「これが出来たら敵は目に見えんから避けるのも難しいし、当たればふっ飛ぶんじゃろ?使い方によっては鉱山にも使えるかもしれん」


ダイナマイトがわりに使うってか?あれ、爆発力がどう働いてどれくらい崩れるか計算しないと危ないんじゃないか?そんな計算方法知らんぞ。


「鉱山にも使えるかもしれないけど、下手すりゃ坑道全部崩れるんじゃない?」


「そうか、それは危険じゃの。しかし可能性はあるの。覚えておく方がいいわい」


「とにかく、これを覚えるんだね?じゃやってみるよ」


俺はドワンの背中に手を当てて魔法を流す準備をする。


「おやっさん、まず空気をぎゅーっと丸めるイメージをして」


おやっさんが集中しだすのがよくわかる。


「次はぎゅーっと丸めた空気の玉が銃の中に詰め込まれて、引き金を引くと同時に飛んで行くイメージを持って。俺が合図したら引き金を引いて」


おやっさんは集中したままだ。


「いくよー、せーのっ」


俺はドワンに魔力を流して銃から放出されように力を込めた。


バーーーッン


銃から打ち出された塊が丸太を木っ端微塵にした。


「やった、やったぞ坊主!」





「・・・・おやっさん、土の弾が飛んでたよ・・・」



おやっさんは俺がやった土のボールのイメージが強かったみたいだ。


テレレテッテッテー♪


ドワンは土魔法を覚えた。


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