第129話 ダンの特訓

「ところでぼっちゃん、俺の話なんだが・・・」


「あぁ、別に話さなくていいよ。父さんは知っててダンを俺の護衛や剣の師匠にしたんでしょ?」


「そうだな」


「じゃあ問題ないじゃない。話したくないものを無理矢理聞くつもりもないし、ダンを信用してるからね。話したいなら聞くけど?」


「いや、話したくないとか話したいとかでもなくてな。聞いてもつまんない話なんだ」


「そっか、じゃあ話したい時が来たら聞くよ」


「そうだな、ぼっちゃんがもう少し大きくなったら話す事があるかもしれんな」


なんか重そうな話なんだろな。しかし、ベアトリア・ ダンクローネ。どうせ略すならベアでよかったのに。熊だけにベアのほうがしっくりくる。


「あ、ひとつだけ聞きたいかな」


「なんだ?」


「ダンは家名からとってるんだろ?どうして名前から取らなかったの?ベアとか」


「ベアトリアって名前が好きじゃないんだよ。女の子みたいだろ?」


「アイナとかミーシャは女性の名前っぽいけど、ベアトリアもそうなの?」


「俺の生まれたところではな」


「ふーん、おやっさんところではどう?」


「どうじゃろな?ワシも女の名前といわれてもピンとは来ん」


「だってさ。気にすることないからベアに改名する?」


「するかっ!」


そのダンの反応にドワンと二人して大笑いした。ちょっと重そうな雰囲気が明るくなったように思えた。


「そろそろ帰るか」


気まずそうなダンが帰ろうと言ったことでお開きとなった。


「おやっさん、少しミスリルを分けてくれない?ミスリルって魔力の流れがいいんだよね?」


「構わんが、何を作るつもりじゃ?」


「商会に戻った時に説明するよ」



「で、何を作るつもりじゃ?またとんでもない代物じゃないじゃろな?」


「ダンが火魔法を簡単に使える様にする為のものが作れるんじゃないかと思ってね」


「魔法使いが持つ杖をミスリルで作るのか?」


「まさか。ダンに杖が似合うと思う?」


「いや、殴るためのものとしか思えんな」


ダン用の杖とか鬼の金棒みたいなイメージしか分かんな。とても魔法の為の道具には見えないだろう。


金棒ではなしに、こんな形でねと、ドワンに絵を描いて説明した。明日までに作っておいてやると言われたので屋敷に戻ることに。


「ぼっちゃん、あれで火魔法がちゃんと使えるようになるのか?」


「魔法って要するにイメージを魔力で具現化するものだから、ダンがスムーズにイメージするためのものだよ。魔法の詠唱ってイメージを固めるためにしてると思うんだよね。こう唱えたら魔法が出るって。それと同じ。俺は詠唱を知らないから別のやり方しか思い付かないんだ。それに魔力の通りが良いミスリルだと上手くダンの魔力を引き出してくれるんじゃないかと思って」


「あれがどうやってイメージを固めるか想像がつかんけどな」


「それは明日のお楽しみ。」


「相変わらずもったいぶるのが好きだな。まぁ、ぼっちゃんのやることを信じてみるか」


こんなやり取りをしながら屋敷に戻るとボロン村のシドがワインを持ってきていた。


「お、ゲイル戻ってきたか。お待ちかねのシドだぞ」


アーノルドとセバスがシドの対応をしているところだった。


「久しぶりだね。元気だった?」


「ぼっちゃん、お久しぶりです。ぼっちゃんが考えてくれた罠と農機具のおかげで随分と暮らしが楽になりました。皆もたいそう喜んでおります。それに今年のワインの量はまだ去年と変わりませんが、来年はもっとたくさんお持ち出来るかと思います」


今年の葡萄の収穫はかなり良かったようだな。来年も楽しみだ。


「それは良かったね。あ、シルフィードの事を父さんから聞いてくれた?」


「はい。戻りましたら聞いておきます。多分あの娘もぼっちゃんのお手伝いが出来るなら喜ぶと思いますので」


「ありがとう、期待して待ってるよ」


今回納品分はおやっさんの所に運ぶようだ。その前にうちに挨拶に立ち寄ってくれたらしい。


また蒸留三昧の日々が来るんだな。



翌日商会へ到着すると早速蒸留が始まっていた。


「おやっさん、もう始めてるんだ。」


「とっとと終わらせて、他から買い付けたワインもやらんといかんからな」


あ、そうだ。他の酒も蒸留してるんだった。


「ほい、頼まれてたやつはこれじゃ」


渡されたのはミスリル製のブツだ。見た目より随分と軽い。持ち運びも楽そうだ。


「ぼっちゃん、なんだこりゃ?」


「これ銃とか鉄砲と呼ばれるものだよ」


俺がイメージしたものは銃だった。実際の弾が飛ぶわけじゃないけど、ファイアボールが弾の代わりに飛べばイメージしやすいんじゃないかと思う。


「じゅう?」


「後は森で実験しようか。今日はダンの訓練だね」


「どうやって使うのかワシも興味があるから一緒に行くぞ」


おろ?酒よりこっちを選ぶのか。随分と気になってるようだ。



森に到着し、早速、銃を使ってみることにした。


「ダン、まず俺がやって見せるから良く見てイメージを焼き付けて」


俺の手には大きいので両手で構える。


稽古場に置いてある丸太に狙いを定めて、銃口から火の弾丸が出るイメージを持って引き金をひく。


ボウっという音と共に火の玉が飛び出して丸太に命中。一瞬で辺りが火の海に包まれる。


「あわわわっ」


「消せっ! 早く水を出して消すんじゃ!」


俺は水の弾をイメージして火の海に撃った。


ドバッシャッーーーン


思い描いた水の弾じゃなくかなりデカイのが飛んでいき、火の海は消えた。


「お前は加減を知らんのかっ!」


ドワンが俺に向かって怒鳴った。


「ほんの少ししか魔力込めてないよっ」


これは本当だ。丸太が焦げるくらいしか魔力を込めてない。


「なんじゃとっ?」


「ミスリルのせいかな?物凄くスムーズに魔力が出たんだけど」


ちょっと錆びて回りにくかったボルトとナットにオイルを差したらスカッと回る。そんな感覚だ。いつものように力を入れたらぶんまわってしまったようなもんだろう。


「坊主がミスリルを使うとそんなことになるのか。危険じゃの・・・」


また人を危険物みたいに・・・


今度は慎重に魔力を調節して引き金を引く。


ドンっという音と共に火の弾が丸太に命中する。続けて連射だ。


ドンッドンッドン ドドドドッ


こりゃ面白い。普通火魔法を使うより楽しい。


ズドドドドドッ・・・・・


「や、やめんかっ!」


あ、ちょっとハイになって連射しまくってしまった。


また火の海になってる。ゲイルはミスリル銃を使わずに水魔法で火を消した。


「ダン、この銃から火の弾が飛ぶのイメージ付いた?」


「あぁ・・・あぁ。なんか凄い事になってるな」


ダンは驚いた顔をしながら俺の顔を見ていた。


「はい、じゃこれを持って、ダンなら片手でいけるね。あの丸太に狙いを定めて、さっきの火の弾をイメージしながらここ引く。さっ、やってみて」


「こ、こうか?」


ダンは銃を構えて引き金を引いた。


カスッ


「あれ、なんもおこらんぞ」


「ちゃんと魔力出てないんじゃない?」


日頃魔法を使ってないと上手く発動しない。ホースの先にゴミが詰まって水が出ないような状態だちょっと手伝ってみるか。


「ダン、俺がダンを通して魔力流してみるよ」


「そんな事が出来るのか?」


「人から魔力吸ったり入れたり出来たんだから、出来るんじゃないかな?ダンは火の弾を強くイメージしてて」


俺はダンの背中に手を当て、ダンの体を通ってミスリル銃に流れるようにイメージして魔力を流した。


「はい、引き金を引いて」


本当は引き金を引く必要は無いんだけど、イメージ作りの為に何かアクションがあるほうが分かりやすい。


ドンッ


お、成功!


「ダン、そのままイメージして引くのと同時に魔力込めて」


ドンッ ドンッ ドンッ


俺は少しずつ魔力を流していくのを減らしていく。


ドンッ ドンッ ドンッ


そのまま魔力を減らし続けてやがて流す量を0にした。


ドンッ ドンッ ドンッ


「もういいよ」


「ぼっちゃん、すげぇな!まるで俺がファイアボール撃ってるみたいだったぜ!」


「何言ってんの? 俺が魔力流して撃ったのは最初のほうだけだよ。最後の方はダンが自力でやってたんだよ」


お父さんが子供の自転車の後ろを持って、そっと離すような感覚だ。子供が持ってる?本当に持ってる?とか言いながら実はもう手を離してるというお約束のやつだね。


「何?それは本当か?」


「じゃ、今度は一人でやってみて」


「よーしっ!」


スカッ


「あ、あれ?」


こりゃ、しばらく俺が魔力流したり流さなかったりして身に付くまでやるしかないな。




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