第125話 新たな発見と懲りない面々

あまりにもドワーフ兄弟がしつこいので、銀杏20個だけ置いてきた。


ここでバランカ、通称バカとはお別れだ。


「おいバカ。残りの梨は明日にでもここへ持って来いよ。ほらこれ」


始めに持って来たのが40個くらい。残りも同じくらいと言っていたので1個銅貨5枚、合計銀貨2枚を渡した。


「こ、この金は・・・」


「初めに持って来た分はお前の勉強代として貰っておく。残りは初めに言った価格で買い取ってやる。まだ同じくらいの数があるんだろ?」


「し、しかし俺は負けて・・・」


「お前が自分の無謀さに気付いたんならそれでいい。このまま冒険者をやるならしっかり修行しろ。冒険者学校のことはうちの父さんに早く進めるようにお願いしておくから」


「父さんにお願いしておく?」


キョトン顔のバランカ。


「バランカ、ぼっちゃんはここの領主アーノルド様の息子だ。俺からも今回の件も含めて冒険者学校の必要性を伝えておく」


「えっ、えっ、え?」


「なんだお前知らなかったのか?ここのドワーフのおやっさんはアーノルド様と伝説のパーティ組んでた人だぞ。ここいらじゃ有名だろが」


「えーーーっ!」


「お前なぁ、世間知らずにも程があるぞ。魔物のことだけでなく世間のこともよく勉強しとけ」


「お、俺は無礼を働いた罪で・・・打ち首とか・・・」


「そんなもんで打ち首にするならとっくにしてるわっ!とにかく俺が言った通り足腰の鍛練しとけよ」


「は、はいっ!分かりましたぁぁ!」


はぁ、帰ろ・・・



「なぁ、ぼっちゃん。ベントの合格祝いはしてやらないのか?ジョンの時にはしただろう?」


屋敷に戻る途中の道でダンが聞いてきた。俺も気にはなってたんだよね。


「そうなんだよね。ほら、俺とベントってアレじゃない?俺がなんか考えても喜ばないかなぁとか思っちゃうんだよね。それに第一志望に合格した訳じゃないから微妙だし」


「それでも合格は合格だろ?ぼっちゃんが考えなくてもアーノルド様とアイナ様が考えれば良い話だ。こういっちゃなんだが、あの二人はそういうところいつも鈍いからそれとなく伝えるだけでいいんじゃないか?」


「そうだね、そうするよ。冒険者学校の話もあるし、晩御飯食べたら俺の部屋に来てくれない?父さんには言っておくから」


「分かった。」



夕食後に話があるからとアーノルドとアイナに伝えたので、ダンと一緒に執務室へ向かう。


コンコンっ


「入れ」


ダンは失礼しやすと言って中に入った。


「おうダン、最近どうだ?」


「へへっ、色々ありやすぜ」


ダンはそう言ってにやっと笑った。


「あら、お待たせしたかしら?」


すぐにアイナもやって来た。


俺とダンはロロの父親の話とバランカの話をして冒険者学校創立の必要性を説明した。


「そうか、冒険者の質も落ちてるのかもしれんな」


「他領で生活に困った人とか、住んでる所に嫌気が差して飛び出してくる若者とかが多いんだろね。ここにくればなんとかなると思って」


「そうだな、人がどんどん増えてる割りに住民登録されてる人数はそうでもないからな」


「これから農業や畜産、建築関係に人手がもっと必要になると思うんだけど、平行して就職先斡旋した方がいいんじゃない?ある程度の年齢の人は冒険者として食べていくの難しいだろうし」


「なるほどな、自分で働き先探すのも見知らぬ場所なら難しいだろうからな」


働き先も無く、冒険者でも稼げずだと行く先は浮浪者みたいになるか犯罪者になるかだ。そうなれば領の治安がどんどん悪くなるだろう。


「あ、そうだ、話は変わるけど父さん最近剣の稽古してる?馬にしか乗ってないんじゃない?」


「あぁ、そうだな。ジョンが居なくなって、ベントもあのまま剣をやめちまったからな。なんだゲイル、剣の稽古してほしいのか?」


「俺じゃなくてロロに稽古付けてやって欲しいんだ。ミゲルの親方の所で大工見習いすることになったんだけど、冒険者になって父親の敵をとりたいとか言ってたから」


「え?ロロをもう働かせるの?」


アイナが驚いて聞き返してくる。


「何言ってんの?ポポはもうブリックの手伝い始めてるよ」


「ポポまで?」


「じーっと屋敷にいてもつまんないだろ?出来ることはやって貰った方が良いって。あの二人の一生をここで面倒見るつもりなら別にいいけど」


「しかし、お前、ロロはともかくポポはまだ5歳だろ?」


「父さん、俺3歳だよ。ポポは俺より年上じゃないか」


「そりゃそうだが・・・」


何か釈然としないアーノルド。


「ブリックもポポが来て嬉しそうだからいいんじゃない!?」


俺の年齢を言ったら二人は返す言葉が出なかった。まぁ、中身が初老の俺と純粋な5歳児を比べるのはどうかと我ながら思うが。


コソッ

(ぼっちゃん、ベントの件・・・)


あ、忘れてた。


「そういや父さん、ベントの合格祝はいつするの?」


どこがそれとなくだ。慌ててストレートに聞いてしまった。


「お、そうだそうだ。合格祝を兼ねて家族旅行をしようとアイナと言ってたんだ」


あ、ちゃんと考えてたんだね。


「また鱒釣りに行くの?」


「鱒釣りには行くが、あれとは別だ。どこか良いところないか?」


「いや、俺より父さん達の方が良く知ってるんじゃないの?冒険者としてあちこち行ってたんでしょ?」


「私達が行ってたところは魔物が多いとことかダンジョンとかよ。ベントが喜ぶと思う?」


色気の無い二人だな・・・

デートした場所とか無いのかね?


イテテテテっ


また考えを読まれたのかほっぺたをアイナにつねられた。


「ダンは知らないの?」


「俺も似たようなもんだな。」


そうだろうね。


ギロッ


ダンにも考えが読まれたようだ。


「じゃあ親方にでも聞いておくよ。おやっさんは父さんたちと似たようなもんだろうし、親方ならあちこちの町に詳しいだろうからね」


「じゃあ頼んでおくぞ」


へいへい。


「ダン、久々にいっぱいやるか?」


「お、良いですね。アーノルド様はもう銀杏食べましたか?」


「銀杏?なんだそれは?」


「じゃ、それつまみに飲みましょう」


「私もいいかしら?」


「もちろんですよ。」


今から3人で飲むのか。まぁ、用意するのはブリックだろうし、ダンもいるから食べ過ぎ注意って言っておかなくても大丈夫か。


「じゃ、父さん。ロロの稽古は本人が希望したらやってくれるってことでいい?」


「あぁ、かまわんぞ。それよりダン、銀杏ってのはなんだ?」


それがですねぇ・・・とか銀杏の説明しながら嬉しそうに食堂へ下りて行った。


さて、俺は部屋に戻って魔力総量アップでもするか。



いつものように壺の水に魔力を捨てていく。この壺の水ももうドロドロになってきてるな。この調子だと水に魔力捨てるのも追い付かなくなるだろうな。


そんな事を考えながらふとドロドロの水にもっと魔力流すとどうなるのか疑問に思った。ドロドロになってくると魔力を捨てるのに効率が悪いから新しいのに代えてたけどまったく魔力を流せなくなるわけじゃない。限界まで流すとどうなるんだろ?


ちょいとドロドロになった水を鑑定してみる。


【魔力水】

魔力が込められた水。高濃度


なるほどね。これ魔力回復に使えるのかな?


次は自分の魔力確認っと。


【魔力】

3268/3270


たった2年程で増えたなぁ。普通に暮らしていくには十分だな。しかしこれから先、何があるかわかんないからな。魔力総量アップは続けて行こう。備えあれば憂いなしだ。


魔力水に魔力を流し続けてみる。なんとなくだけど更にドロドロした感じが増している。


2000ほど魔力を流した所で魔力水が魔力を回復するかどうか舐めてみることにした。


お腹痛くなったりしないだろうな?しばらく置いてある水だしな。念のためクリーン魔法をかけておこう。


ペロッ


うわっ、なんだこれ?めっちゃ甘い。喫茶店に置いてあったガムシロより数倍甘いんじゃないか?魔力ポーションもうっすら甘かったけど、飲みやすくするための味付けだと思ってた。魔力って甘いんだな・・・


そんなことより魔力は・・・?お、回復しているぞ。やっぱり魔力水は魔力ポーション代わりになるんだな。棄てなくて良かった。


よし、もっと実験してみよう。


ひたすら流れにくくなった魔法水に魔力を注ぎ込む。自分の魔力が無くなれば貯めてあった他の魔力水で回復する。


2時間くらい魔力を流し続けただろうか。。もう流れないなと思ったその時、ドロドロの水の体積がどんどん減っていき・・・


カランっ


水が固形化して深くて濃い赤色を放つ石になった。もしかして、これって魔石なんじゃ・・!?


か、鑑定してみ


ドンっ ドンっ ドンっ


わっビックリした。誰ががドアを荒っぽく叩いた。


ドンっドンっドン


「ぼっちゃん、ぼっちゃん!旦那様達がっ!旦那様達がぁ~~!」


ドアを叩いているのはブリックだった。


慌てて食堂へ向かうとアーノルドとダンが倒れていた。アイナが必死で治癒魔法をかけている。もう二人はまっピンクの光に包まれまくっている。


「げ、ゲイル。二人が急に苦しみ出したのっ!」


ふと机を見ると大量の銀杏の殻が・・・


はぁ・・・


治癒魔法はアイナがかけてるので俺は回復魔法をかけた。


「ブリック、お前には銀杏は1日5個程度しか食べさせちゃダメだと言ってあっただろうがっ!」


「も、申し訳ありませんっ!旦那様はまだ大丈夫、まだ大丈夫だとおっしゃられてたので平気なものだとばっかり・・・」


はぁ、主人から言われたら断りにくいか。でもこれは言っておかないとな。


「あのなブリック。父さん達に頼まれたら断りにくいのはわかるが、命にかかわるんだぞ。焼いただけとはいえ、自分が作ったもの食べて誰かが死んだらどうするんだ?プロの料理人は人の命を預かっていると思え!」


「はいっ、申し訳ありませんでしたっっ」


その場でジャンピング土下座をしたブリック。


「分かればいい。もう立てブリック。これからは誰であろうとダメなものはダメとハッキリ言え。料理人に取って一番大事なのは味よりも安全だ。これからも生で食べちゃダメなものを食べたいとか、見たことないキノコを調理しろとか言われるかもしれないからな」


「はいっ、生涯、肝に命じ銘じておきます。」


俺にびっちり怒られているのを見て、回復したダンがコソッと帰ろうとしていた。


「ダン、ここへ座りなさい」


「は、はひ・・・」


ダンを見捨てて先に部屋に戻ろうとしたアーノルドはアイナクローを食らっていたのだった。

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