ぶちょー、今度の人事異動は異世界ですって

第124話 ゲイル様の言う通り

「みんなどうしたの？決着ついたよ」

ドン引きしているみんなに終わった事を告げる。

「や、やりすぎじゃ坊主っ！」

「え～、コテンパンにやれって言ったのおやっさんじゃないか」

「あんなもの勝負とは言わん！あれは拷問と言うんじゃっ！」

「だって怪我させずにコテンパンにするのに最適じゃん」

「え～い、つべこべ言うな。剣でやれ剣で！」

もー、終わったからいいじゃないか

ぶつぶつ

「おい、バカ。もう一度剣で勝負だ。立て！」

ブンブンと首を横に振るバカ。

「いいから早く立てよ。俺は木剣でいいから」

「か、勘弁して下さい。お、俺が悪かったです。もう勝負を挑んだりしません」

バランカは完全に心が折れていた。

「ダンさん、ゲイル様ってあんなに恐ろしかったんですか・・・」

「ぼっちゃんが本気で奴を倒そうと思ったらいきなり消し炭にも出来るからな。本気で攻撃してた訳じゃねぇ。・・・しかし、あの攻撃も食らいたくねぇな・・・」

「じゃ、狩りに行こうか。ウサギでいいよね」

こうしてドン引きした皆で狩りに行くことにした。

「ぼっちゃん、バランカにウサギ狩らせてみるか？」

「それだと昼飯抜きになるぞ。アイツに剣でウサギを狩れると思う？」

「いや、無理だな。じゃどうする？今日は森にくる予定じゃなかったから弓持って来てねーぞ」

「あ、そっか。じゃ魔法で狩るか。バカにも魔法の怖さとか知っておいて貰った方がいいからな」

「いや、もう十分理解したと思うぞ・・・」

ウサギ２羽前方に発見。

ザシュッ

ゲイルはウサギの頭の下から土魔法で串刺しにした。

「おい、バカ。ウサギ狩ったから取ってきて」

「え？」

「え、じゃないよ。ほらあそこにウサギ２羽いるだろ。時間無いんだから早く取ってきて」

「そ、そう言われてもどこに・・・」

「ダン、バカに場所教えてやって」

ダンがバランカとロロを連れて串刺しのウサギの所に行く

「う、ウサギが土の串に刺さって・・・」

「おいバランカ、さっきの勝負でぼっちゃんがちょっと本気出してたらお前もこうなってたんだぞ」

バランカはそれを聞いてブルブルと震えだした。

ロロは驚きつつも、

「ゲイル様はどうやってこのウサギを見つけたんですか？自分はここに連れて来られるまでウサギがいることすらわかりませんでした」

「それは生き物の気配を探ったんだよ。こいつらは小さいし。ウサギは周りと同じ色で目で探すの難しいからな」

「気配を探る？そんな事が出来るんですか？」

「冒険者や狩人になるなら必須だからな。歩いてたらいきなり魔物に襲われることもある。気配を探れないやつはすぐに死ぬんだ。ぼっちゃんは俺とこの森で毎日のように狩りをしてるから気配を探るのもお手の物なのさ」

バランカはそれを聞いて、自分がいかに何も出来てないかを理解した。

「土魔法ってこんな使い方もあるんですね」

「魔法に関してはぼっちゃんは特別だな。こんなのは魔法が使えても誰でも出来るわけじゃない」

それからウサギ２羽を追加して小屋に戻った。

手分けしてウサギを解体し、味噌に浸けておく。短時間しか漬け込めないので薄切りだ。

米を土鍋で炊いてく。５合炊きを２つ。1つは白ご飯。1つは栗御飯だ。すでに届いていた栗を持って来ておいたのだ。

ロロとバカにも手伝わせる。

「御飯そろそろ炊けるからウサギも焼きだして」

おやっさん達にウサギは任せた。ミゲルはついでに銀杏も焼いていくようだ。

みんなには白ご飯の上に味噌ウサギ焼きを乗せたどんぶり。俺は栗御飯を食べた。

「う、旨い・・・」

初めて米を食べるロロとバランカは白飯と味噌焼のコンビネーションにいたく感激していた。

「ぼっちゃんの食ってる飯はなんだ？」

「この前のイガイガの実、栗と一緒に炊いたご飯だよ」

「ワシにもいっぱいくれ」

ドワンがそういうとみんなも栗ご飯を欲しがったので勝手に食べて貰った。残ったらおにぎりにして持って帰ろうと思ってたんだけどね。

「さて、飯も食ったし、剣の稽古でもするか。ロロもやってみるか？」

「え？剣の稽古ですか？」

「ロロ、ぼっちゃんはほとんど毎日ここで剣の稽古をしてるんだ。」

「魔法を使えるのにですか？」

「魔法は魔力が切れたら使えなくなるからね。剣の稽古もしとかないと。それにバカみたいなやつに絡まれた時にも必要なんだよ」

ちょっと意地悪を言ってみるとバランカはばつが悪そうな顔をした。

銀杏で酒を飲み出したドワーフ兄弟を残して稽古場に移動。

「おい、バランカ。これはぼっちゃんがやってる稽古だ。この木剣をこの隙間に通してみろ」

言われた通りにやってみるバランカ

たぁーっ！

ボキンっ

「あっ・・・」

「ロロもやってみろ。」

ガッ

「あっ・・・」

「ぼっちゃん、手本見せてやってくんねーか」

ダンにそう言われたのでやって見せる

ヒュパパパッ

すべの隙間に連撃でやってみせた。

「あ、う・・・」

バランカは目を奪われていた。

「バランカ、分かったか。ソロで討伐依頼を受けようと思えばこれくらい出来ないと無理だ。もしくは・・・」

フンッ

ダンは木剣で岩を叩き切って見せた。

「これくらいの威力があるかだ。これ以外に魔物の気配を感じとる能力や習性とか知らなければソロでやっていくのは無理だな」

ダンの説明にロロはがく愕然としていた。

「と、父さんはここまで強く無かった・・・」

父親がもしかしたらもう死んでいるかもしれないと想像はしていたが、ダンの説明を聞いてその想像が確信へと変わっていく・・・

「バランカ、自分が強いと思っていたのは間違いだと分かっただろ？これからも冒険者をやって行きたいならパーティを組め。そして自惚れずに剣の稽古を励め。お前はまだまだ成長する余地がある」

「だ、ダンさん。俺に稽古を付けてくれないか。俺に剣を教えてくれるやつはいないんだ」

ちょ、何言い出すんだコイツは？

「バカ、それは無理だな。ダンは俺の護衛兼世話役だ。お前に構ってる隙はない」

「そ、そんな・・・」

「そのうち冒険者の為の学校が出来ると思うからそこで学べばいい。それまでは足腰をしっかり鍛えとけ。お前の踏み込みとか遅すぎて話にもならん。それとロロ、お前は現実を知っても冒険者を目指すのか？」

暗に父親の事も含めて聞いてみた。

「はい、いずれは父親の敵を打ちたいと思います」

「そうか、それならお前も大工の仕事で力を付けておけ。必ず役に立つ」

「ゲイル様はそこまで考えて力の付く仕事を・・・」

「さぁな。お前は妹と住む家を建てるんだろ？自分で建てるもよし、冒険者になって稼いで建てるもよしだ。とっとと一人前になって自分の力で生きていけるようになってくれ」

「ゲイル様・・・」

「おいっ！ が、学校はいつ出来るんだ？」

「まだ出来ると決まったわけじゃないが、早ければ来年中だと思うぞ。それまで鍛練しとけ。ソロで討伐依頼受けんなよ。」

そうこうして小屋に戻るとドワーフ兄弟がうんうん唸っていた。転がった酒の瓶の横には大量の銀杏の殻が落ちていた

「ちょっとおやっさん、親方大丈夫？」

「坊主、腹が痛くて気持ち悪い・・・ 何とかしてくれ」

「だから銀杏は５個くらいしか食べちゃダメって言ったじゃないか」

「す、すまんつい旨くてな・・・」

バタッ

「わぁぁぁ、おやっさん、親方ぁぁぁ！」

二人は苦しみのあまり気を失った。

効果があるかわからないが必死に治癒魔法と体力回復の魔法をかけ続けた。

「いやぁ、面目ない。」

しばらく魔法をかけ続けた甲斐があって二人は回復した。

「人の言うこと聞かないからだよ。下手すりゃ死んでたかもしれないんだからねっ」

俺はこんこんと説教を続けた。どうやら一人５０個以上食べたらしい。それにあの強い酒を飲みながら。

商会へ戻ってから銀杏を全て没収した。二人は必死で少し残せと言ったが却下だ。あんな苦しんだのにまだ食いたいかね？

この銀杏は屋敷で茶碗蒸しにいれようかな。