第123話 お水の正しい使い方

翌日、ロロを連れておやっさんのところまでいくとすごい臭いが漂っていた。


「おい坊主、とっとと処理してくれ。臭くてたまらん」


そこにはぐちゃぐちゃの汁を垂れ流している銀杏がかごに山積みされていた。


「分かったよ。すぐやる」


触るのも嫌なのでちゃっちゃと魔法で処理をした。ついでにクリーン魔法で滴り落ちた汁と全体の空気を綺麗にしておく。


「ダ、ダンさん。ゲイル様は今何されたんですか?」


「ここで見たことは秘密だぞ。ぼっちゃんが魔法を使ってここを綺麗にしたんだ。クリーン魔法って奴だ。お前が屋敷に来た時も服とか綺麗になっただろ」


「あ、あれ、すごくすっきりしたのはゲイル様が魔法を使ったんですか。しかし凄いですね。あんな魔法は初めてみました」


「冒険者の中にもクリーン魔法を使える奴がいるが、ぼっちゃんのは桁違いだ。さっきも言ったがぼっちゃんが魔法を使えるのは公になってないから見なかった事にしとけ」


「わ、分かりました」




「おい、この前の持ってきてやったぞ!」


外から大声で叫ぶやつがいる。


「おい坊主、お前に客だ」


そう言われて外に出ると梨を持って来たヤツが大きなかごを抱えていた。あいつ、おやっさんの言う通りホントに戻ってきたのか。


「ちゃんと持って来てくれたんだね。じゃ数えるからちょっ・・・」


「金はいらん。ズルされたとはいえ負けは負けだからな。しかーし、この実はまだ同じだけの数を用意してある。それを懸けてもう一度勝負しろ!」


これもおやっさんの言う通りだ。面倒くせぇ・・・


「お前、負けたらあるだけ持ってくると言ってたじゃないか。負けを認めたなら全部持ってくるのが筋じゃないか?」


「ぐぬぬぬっ・・・、分かった。後でそれも持ってくるわっ!この卑怯者め」


卑怯者ってコイツ・・・


「じゃ、早く持って来るように。ホントに金はいらないんだな」


「くっ・・・ 一度いらねぇっと言ったからにはいらん。その代わりおれともう一度勝負をし・・・」


「やだよ、お前弱いもん。それにまた負けたらズルだなんだと言い掛かり付けるだろ?切りがないや」


「おおおお、俺様が弱いだとっ!?」


「お前、俺の動きまったく見えて無かっただろ?何度やっても無駄なんだよ。お前の腕じゃ鶏くらいしか斬れないんじゃないか? しかし、採取には才能がありそうだから採取メインの冒険者の方がいいと思うぞ。なんならキノコの採取を指名依頼出してやろうか?」


「このぉ、言わせておけばっ」


「はい、もう忙しいから帰って。あ、お前が持って来た実は梨って言うんだよ。梨持ってきてくれてありがとね。じゃバイバイ!」


「待てっ!いや待ってくれ」


「なんだよ~、忙しいって言ったじゃん」


「た、頼む。いや、お願いします。もう一度だけ勝負して下さい」


「なんでそこまでこだわるんだよ?」


「お、俺は周りのやつらに負けた事がなかったんだ。それで冒険者になったが討伐系の依頼はギルドがぐちゃぐちゃ言って許可してくれねぇ。もっと大人になるかパーティ組めとか言いやがる」


「当たり前だ。すぐに死ぬとわかってる奴に討伐依頼するやつがいるか」


「お前を倒して俺は強いと証明して見せる!」


「お前は弱い上に馬鹿だな。3歳児に勝っても強さの証明にはならんだろ?」


「そ、それは・・・」


「おい、坊主。コテンパンにしてやればそいつも理解するじゃろ。ぐちゃぐちゃ言ってても終わらんぞ」


「何言ってんだよ。こんな大通りでそんなことしたらまずいじゃないか」


「なら森の稽古場でやればいいじゃろ。昼飯に味噌焼きと米が食いたいんじゃ」


「ワシも行くぞ。この前ダンが銀杏を持って帰りやがったらしいからな。それも焼け。ワシだけ食っとらんのじゃ」


ミゲルも行くとか言い出した。


「ぼっちゃん、諦めて森へ行こうや。この前おやっさんが言ってた通り、自分が強いと勘違いさせたままだと無茶して死ぬぞアイツ」


あー、もう


「分かった。ここじゃなんだから場所変えるぞ。お前の名前なんて言うんだ?」


「お、俺様はバランカだ!」


「よし、バランカ。俺が負けたら残りの梨を1個銅貨10枚で買ってやる。その代わりお前がまた負けたら、お前の名前を略してバカにするからな」


「ば、バカだと」


「嫌なら止めとけ」


「勝てばいいだけの話だ。その勝負受けたっ!」


はい、バカ確定。


「親方も来るって言ったけど、ロロが今日から大工見習いすんのどうするの?」


「そんなもん明日からじゃ」


もー、昼間っから銀杏で飲むつもり満々じゃないか。


「親方がそういうなら仕方ない。ロロ、見習いは明日からにして今日は森に行くぞ」


「森にですか?」


「あぁ、来たらわかる」



森に到着するとロロとバランカは驚いていた。


「どうする?先に狩りに行く?それともちゃっちゃと勝負を済ませる?」


「お、俺様との勝負をちゃっちゃとだと・・・」


「そうだよ。獲物狩ってそれを捌いて調理してと時間かかるんだよ。それともバカがなんか狩ってきてくれるのか?ウサギくらいなら狩れるか?」


「まだバカと呼ぶな!それとウサギくらい余裕だ!」


ウサギが余裕ねぇ。剣でウサギ狩ることの難しさを分かってないね。


「じゃ、ちゃっちゃと勝負してその後で狩りだ。お前、食いたきゃ自分で狩れよ」


「上等だ!全員の分まで狩ってやらぁ!」


そう啖呵を切ったバランカを連れて稽古場に行く。


「勝負方法はどうする?」


「何でもありだ。地面に這いつくばった方が負けだ!」


「何でもありなんだな?」


「あぁ、あの時は慣れない木剣だったからな、今日は使い慣れたこの剣でやる。死んでも文句言うなよ」


「ふーん、じゃおやっさん、立ち会い宜しく」


ロロは相手が真剣を抜いているのに、誰も止めようとしないのに驚いていた。



「おい、バカ。また後でごちゃごちゃ言われんの嫌だから好きな間合いで、お前のタイミングで勝負開始しろ」


「くそっ、またバカと呼びやがって。それに剣はどうした?丸腰でする気か?」


「なんでも有りなんだろ?お前ごときに剣なんていらん」


「あとで吠え面かくなよ」


たーっ!


フイを打つようにバランカは上段から剣を振り下ろして来た。


ドバシャンっ!


その瞬間、俺はウォーターボールを顔にぶつけてやった。


ブッ


バランカはカウンターで顔面に水の固まりをぶつけられてぶっ飛びそのまま気絶してしまった。


「はいお仕舞い。」


「おいおい、ぼっちゃん、えげつねぇな。あんなの俺でも避けれんぞ」


「ダンならいくつか予測して攻撃してくるでしょ。試してみる?」


「バカやろう。そうしたらいきなり燃やしたりするだろうが」


まだ頭燃やされたこと根に持ってんのかな?まぁ、ダンはああ言ったけど、実際、あの間合いでダンのタイミングで仕掛けられたら俺が斬られて終わりだな。


「坊主、コテンパンにやれと言ったが、魔法で瞬殺したら自分がやられたかどうかもわらんじゃろ」


「え~、あいつがなんでも有りって言い出したんだよ。」


「起きたらまた勝負しろと言い出すぞ」


「分かったよ。あいつがまた勝負と言い出したら自分で負けたと言い出す勝ち方すればいいんだね?」


「お前さん悪い顔しとるぞ」


「してないわっ」



はっ!


「な、何をしたっ?」


バランカは目を覚ました。


「はい、お前は今からバカを名乗れ。」


「お、俺は負けてないっ!早く勝負しろ」


「良いのか?次は自分から負けました、止めて下さいって泣いて謝る事になるぞ」


「そんなこと言うかっ!」


たっー


開始もへったくれもなく飛びかかってきた。


えいっ


(ぐぼぼっ な、なんだ み、水が顔の周りに・・・ぐぼぼぼぼ)


俺はバランカの顔の周りを水で包んだ。


また失神されても困るので口の下まで水を下げる。


ぐほっぐぼっぐほ


「な、何しやがるっ!」


「えっと、水攻め!?」


「水攻めじゃね・・ ぐぼぼぼぼ」


また下まで水下げて。


「降参する?」


「だ、誰が ぐぼぼぼぼぼ」


意外と頑張るな。もう少し待ってみよう


(ぐ、ぐ苦しい)


「どう? 早くごめんなさいしないと死んじゃうよ?」


水を下げる。


「ガハッガハッ だ、誰が降参なんか」


粘るね。


ぐぼぼぼぼ・・・


あと同じ事を数回繰り返した。


「ご、ごめんさい。お、おでか悪かったです も、もうかんべんしてくだざい・・・」


やっと降参したので俺はバシャッと水の塊を解除してやる。ようやくまともに息が吸えるようになったバランカ改めバカはその場で倒れ込んだ。


「おやっさん、自分から降参したよ」


そういって皆をみるとドン引きしていたのだった。

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