第122話 手の平コロコロ
皆で昼飯を食べに行くことにしたがロロが遠慮するのでその分働けと言っておいた。
「おやっさん、親方、ロロを働かせたいんだけど、田んぼの開墾作業以外に体力付きそうな仕事ある?」
「坊主、この小僧を働かせるのか?」
「年が明けて学校終わってからになるけどね。働かざる者食うべからずだよ」
「なるほどな、お前さんとこで世話になる分働かせるのか」
「そんな感じかな。まだ何が出来るかわかんないから給与は別に無くていいんだけど」
「体力付けたいなら大工見習いだな」
「だそうだ。ロロ、田んぼの開墾と大工の手伝いとどっちがいい? どっちも雪が降りだす前までの仕事になるから、雪が降ったらまた違うのになるけど」
「だ、大工の仕事をさせて貰えるんですか?」
「大工と言っても取りあえずは木材運びじゃがな」
「大工の仕事を手伝わせて下さい」
「なんで大工の仕事選んだの?畑は経験あるんだよね?」
「将来自分と妹が住める家が作れるようになれればと・・・」
お、ちゃんと考えがあるんだな
「了解。じゃ親方お願いしていい?」
「あぁ、坊主の頼みだ引き受けてやる。しかし、小僧よ。うちは厳しいぞ。途中で音を上げたらぶちのめすからな。覚悟しとけ」
「はい、ありがとうございます。ぶちのめされるのは嫌なので頑張ります!」
うん、負けん気も持ってるな。これなら続くだろう。
「明日から手伝いに来い。坊主は給与無しといったがな、真面目に働くなら見習いの給与くらいは払ってやる」
「あ、ありがとうございます。一生懸命頑張ります。それと貰える給与はゲイル様にお渡し下さい」
「坊主、だとよ。それでいいか?」
「いいよ。ロロしっかり働いてくれ」
「はい!」
こうしてロロは雪が降るまで大工の見習いをすることになった。かなりきついだろうけど頑張れ。
コソッ
(ダン、悪いんだけど冒険者ギルドに寄ってロロの父さんが受けた依頼内容を調べてきて)
(あぁ、構わんぞ)
(屋敷に戻ったら俺の部屋に来て内容教えて)
(分かった)
「じゃ、今日は早いけど屋敷に戻るか」
「ぼっちゃん、俺はちょっと寄るところあるから先に帰ってくれ」
「じゃ、ロロ。こっち来て俺の後ろに乗って」
ロロはダンにシルバーへと乗せてもらい俺の後ろへと回った。いつもはミーシャが乗る位置だ。
ポコポコとシルバーに揺られながら話をする。
「ロロ、おやっさんと親方はドワーフだが問題ないか?」
「ここに来て初めてドワーフに会いました。村には居なかったので。ドワーフって背は低いですけど筋肉もりもりで強そうですよね。大工の仕事を手伝っていれば俺もあんな風になれますか?」
良かった。亜人と呼ばれる人には何の抵抗も無いようだ。
「それは努力しだいだな。木材運びはかなり力のいる仕事だし、きちんと全身の筋肉を意識してやると効果的だぞ。ぼーっと言われた事だけ適当にこなすと無理だと思え」
「ゲイル様は妹より年下なのに、何でもよく知ってますよね。大人の人とも対等に話が出来てますし」
「そうだね、色々な人と話して勉強させて貰ってるからね。おやっさんも親方も俺が領主の息子とか関係無く良いと思った事も悪いと思った事もちゃんと言ってくれる。裏表の無い人達だよ。ロロにもそうしてくれると思う。子供だからとか関係なくね」
「はい、わかりました」
そんな話をしているうちに屋敷へと着いた。
今朝騙し討ちみたいに幼女を押し付けたのをブリックが怒ってるかもしれないな。夕飯前にちょっと覗いてみよう。
「ロロ、仕事は明日からだ。今日は早く休んで体力回復しとけ」
「はい、ありがとうございました」
厨房の近くまでくるとキャッキャッと楽しそうな声が聞こえて来た。
「あ、ぼっちゃんお帰りなさい。早かったですね」
「ゲイルちゃんお帰りなさーい」
またゲイルちゃん・・・
別にいいんだけど、屋敷の中では他の使用人の手前まずいかな。
「ぼっちゃまお帰りなさい。ブリックさんとポポちゃん仲良くしてましたよ」
「あ、ポポちゃん、ぼっちゃんの事はちゃん付けでお呼びしてはダメですよ」
おろ?怒ってるどころかブリックの野郎デレデレじゃねーか。
「え~、なんでぇ?ブリックおにぃちゃん」
お、おにいちゃん???
「でへへへぇ ポポちゃん、ぼっちゃんはこのお屋敷の偉い人だからね、ゲイル様って呼ばないとダメなんだよ。わかった?」
「じゃあブリックおにぃちゃんがぼっちゃんて呼んでるからポポもぼっちゃんて呼ぶ~」
4歳児にぼっちゃんとか呼ばれたくねぇ・・・
「ブリック、お前の弟子だ。なんとかしろ。それに弟子をちゃん付けで呼ぶな。おにぃちゃんも禁止だ。解ったな」
「はい・・・」
シュンとなって返事をするブリック。
おにぃちゃん呼ばわりされてデレるブリックの顔を見てたらなんかイラッとした。無理矢理幼女を弟子として押し付けた申し訳ない感情がぶっ飛んでしまったな。
・・・・おにぃちゃんと呼ばれてたのが決して羨ましかった訳ではない。
俺は自分の部屋に戻るとすぐにダンがやって来た。
「ぼっちゃん、調べて来たぞ」
「ありがとうね」
「ロロの親父の名前聞いて無かったから時間食っちまった」
あ、そうだった。
「1ヶ月くらい前に依頼を受けて帰って来てない冒険者が何人か居てな。そのうちの一人がドドってやつだ。多分名前からしてこれが親父だろう」
「ドドか。多分そうだね。で、何の依頼受けてたの?」
「村に出たオーク3体の討伐だ。パーティ組んでればさほど難しい依頼じゃ無いが素人のソロだと無謀だな」
「ギルドってさ、依頼受けるときにアドバイスしないの?」
「そうだな。もっと強い魔物や成人したばかりのような新人には簡単なアドバイスはするが、大人の冒険者だとオーク3体ならソロでも倒せるやつゴロゴロいるからな」
「冒険者の強さとか能力のランク付けってないの?」
「冒険者が依頼をクリアしたら貢献ポイントってのが加算されるんだよ」
「そのポイントは何になるの?」
「主に指名依頼だな。それと何ポイント以上の冒険者に限るとかの依頼があるんだ。そういう依頼の方が報酬も多い。ま、ポイント=信用みたいなもんだ。指名依頼だと貰えるポイントに加算されるから、指名依頼は喜ばれるな」
なるほど。だからこの前のクリア確実の指名依頼をあんなに喜んだのか
「で、どの辺の討伐依頼だったの?」
「この領から徒歩2日ほど行ったところの小さな村らしい。2週間ほど前に他のパーティがオークを討伐してきたと言ってた」
「じゃあやっぱり・・・」
「十中八九死んでるな。村にも冒険者が来てなかったらしいから途中の道で何かにやられた可能性が高い」
「分かった。ありがとう」
「ロロに教えるのか?」
「自分で探したいと言ってたけど何年も痕跡残る訳じゃないから、死んだ痕跡が無いまま生きてると信じて冒険者をやって行くのがいいか、現実を受け止めて仕切り直すのがいいか迷うんだよね」
「そうだな。しかし今日のロロの大工を選んだ姿を見るともう分かってんじゃねーか?妹と住む家を建てたいと言ってたからな」
「そうだね、分かってはいるけど認めたくないとかそんな感情かも知れないね」
「どうする?痕跡探しに行くか?行くなら早い方がいいぞ」
「そうだね、ダンと一緒とはいえ日帰り出来ないかも知れないから父さんに相談してみるよ。許可出たら行こうか。無理ならやめとこう。余計なお節介になるかもしれないし」
「そうだな、ぼっちゃんに任せるわ。しかし、今回はあの二人へのぼっちゃんの態度、らしくなく厳しめだな。何をたくらんでんだ? いつもなら迷惑だとか言わないだろ」
「あぁ、そうだね。面と向かって迷惑だとか言われたら苦しいね。他に頼るところもないのに」
「ならなんであんな態度とってるんだ?仕事もロロはまだわかるがポポまで」
「うん、いくつか理由があるんだけど、あの二人はこの領のモデルケースになると思ってるんだ」
「モデルケース?」
「そう。孤児院の話は進んでいくだろうけど、今のところ孤児はあの二人だけだろ?孤児院が出来たとしても二人だけ放り込む訳にも行かないから、他に孤児が増えるまでこのまま二人をここに住まわせることになると思うんだ」
「そうだな。それで?」
「短期間ならいいけど、二人をただ住まわせてるだけの期間が長ければ他の使用人達が良く思わないと思うんだ。そうなればずっと肩身の狭い思いをここでしないといけない」
「あー、サラとか嫌味いいそうだな」
「あとはモデルケースなんだけど、孤児院が出来た時にやる職業訓練の代わりなんだよ働かせるのは。成人するまでにきっちりと能力を身に付けとけば孤児院出身でもちゃんと仕事に就けるからね」
「しかしポポには早いんじゃねーか?」
「ポポは料理を作りたいと言ったからね。小さいうちに好き嫌い関係無く色々な味を体験する事は料理人にとって重要なんだよ。味覚が鍛えられるから。それにブリックが料理人の指導者になった時の練習台だよ」
「はー色々考えてたんだな、いつにもまして感心するわ。でもそうならちゃんと言ってやればいいじゃねーか」
「ここで引き受けるきっかけを作った俺がきつく厳しく当たってれば周りが同情するだろ?そうしたら使用人達も優しくしてくれるさ」
「おー怖ぇ、使用人達はぼっちゃんの手の上でコロコロ転がされるんだな」
「転がすとか人聞きの悪いこというなよ。高度な心理作戦と言ってくれたまえ」
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