第120話 不公平と不条理

「セバス、ゲイルが言ってたこと説明してくれる」


翌日ベントがアーノルドの職場に行く前にどうしても分からなかったことをセバスに聞いていた。


「そうですね。孤児を預かる人はなぜ預かろうとするんでしょうね」


「可哀想だから」


「それもあるでしょうね。しかしまだ自分達もさほど裕福でない人達が可哀想だからというだけで面倒見るでしょうか?何度かご飯を食べさせるとかはあるでしょうが」


「じゃあどうして」


「ゲイル様がおっしゃった通り労働力の確保です」


「それでも面倒見てくれるならいいじゃない」


「道端で飢えて死ぬよりかはですね。しかし給料を貰えるかどうかわからないところで奴隷のように働くだけの人生になる可能性が高いのですよ。」


・・・・


「ゲイルはどうしてそんな事を知ってるの?」


「ゲイル様は異常とも思える聡明さをお持ちですから」


「そんなのズルい・・・、ジョンには剣があって・・・。僕にはそんなの無いのに・・・」


「ベント様も聡明でございますよ。それにベント様も十分ズルい方に入ります」


「僕には何もないじゃないか、何がズルいんだよっ」


「あの孤児達にそれが言えますか?生まれてから一度でもご飯が無くて落ちてる木の実を食べるしかないとか地面に布団も無しに寝たことがありますか?」


・・・・

・・・・・

・・・・・・


「今度進学される領主育成コースの学費を払える親が旦那様達以外にこの領地におりますか?」


・・・・・

・・・・・


「あの子達だけでなく、この国のほとんどの子供達からすればベント様は十分ズルいのですよ」


「でも、同じ兄弟なのに才能に差があるのは不公平じゃないか」


「はい、世の中は不公平と不条理で満たされております。すべてが公平なんて事は有り得ません。それをなんとかしていくのが努力でございます。いくら才能に恵まれていても努力しなければ無いのと同じです」


「僕は一生懸命努力してるよっ!」


「はい、存じておりますよ。初めにベント様も聡明だと申しました通り才能が無いとも思いません。」


「ならなんでゲイルより僕の方がダメ・・・」


「ダメなのではありません。足りないのです」


「足りない?これ以上何を努力しろって言うんだ。受験勉強もほとんど寝ずに努力をしてきたっ」


「足りないのは努力ではありません。経験です」


「経験?」


「そうです。ベント様が関わるのはこの屋敷の者だけでしょう?それもほぼメイドのサラだけです」


「それはそうだけど」


「屋敷に戻ったら旦那様にされた質問をサラにしてみて下さい。きっとベント様がされた回答と同じ事を言うでしょう」


・・・

・・・


「ベント様の知る世界はこの屋敷とサラというとても狭い世界なのです。ゲイル様は実に様々な人達と交流し、色々なところに出向かれ経験を積まれています。今回はその差が出たのでしょう」


「そんな・・・、ゲイルはただ遊んでるだけじゃ・・・」


「そうですね、楽しんで色々とされていますからベント様には遊んでいるように見えるのかもしれません。本人は経験を積もうとかは考えておられないと思いますが、何事も経験となるのです。孤児院の話以外に冒険者の事もおっしゃられてましたでしょ?あれはダンやドワン様と日頃からよく話をされているからこそ出てくる発想です。ただ旦那様も気付いていなかった事に気付いたことには驚愕しましたが」


「そんな平民や亜人なんかと・・・」


「どのような道を歩かれ、どのような経験を積まれるのかはベント様次第です。領主を目指すのであればその道や経験が領民の為になることをセバスは望むだけです、私もいち領民として・・・」



ゲイルは使用人の食堂に居る。


「おはようございますゲイル様」


「おはよう。よく眠れた?」


「はい。ありがとうございます」


「ゲイルちゃんご飯美味しかったよ」


ゲイルちゃん・・・


「そうだ、名前まだ聞いてなかったね、名前と年齢教えて」


「俺はロロ、7歳。妹はポポ、5歳です」


「ポポだよ!」


「そっか、俺はゲイル。ここの三男で、こっちはメイドのミーシャ。大きい男の方はダン、護衛と俺の面倒を見てくれている。宜しくねロロにポポ」


お互い自己紹介をした。ロロは今7歳か。来年学校に行く歳だな。これはセバスに言って早急に住民登録しないとダメだな。


「取りあえずしばらくの間ここに居ていい事になったから安心して」


「えっ!?迷惑なんじゃ・・・」


「そうだね、迷惑だよ。」


俺の言葉にぎょっとするダンとミーシャ。


「だから迷惑とならないように俺達の役にたって欲しいんだ。何が手伝える?」


「な、何でもやります。」


「じゃあ得意なこととかある?」


「村に居た時は畑を手伝っていました」


「ポポは美味しいもの作りたーい」


ポポは微笑ましいな。小さいミーシャみたいだ。


「ロロは畑やりたい?」


「お、俺は冒険者になりたいです。でも今は無理だから畑を手伝います」


「何で冒険者になりたいの?」


「と、父さんを探したい・・・」


「冒険者になっただけじゃ無理だよ。ちゃんと剣の稽古とかしないと無駄に死ぬだけだ」


俺の言葉にぐっと唇を噛み締めるロロ。


「じゃあ、ロロはまず畑の手伝い、ポポはブリックの手伝いだな。兄妹はずっと一緒にいないと不安か?」


「いや、ここに居させてくれるなら大丈夫だ。ポポ大丈夫だな?」


「ご飯食べたからへーき」


「了解。ミーシャ、ポポの面倒見てやってくれ。一緒にブリックの手伝いを頼む」


「こんな小さな子に手伝わせるんですか?」


「俺より歳上だぞ。大丈夫だろ」


目を丸くするミーシャ。


「ブリックには俺から言っておく。もし怪我したら母さんにすぐに言うように」


ミーシャは分かりましたと返事した。


「ダン、悪いんだけどセバスの所に行って二人の住民登録するように言って来て。ロロは来年学校だからすぐに登録しておかないと不味い」


「お。俺は学校なんて・・・」


「義務教育は全員行かないといけない決まりだ。それに読み書きと簡単な計算くらい出来んと冒険者になっても依頼すら受けれんぞ」


「でも金が・・・」


「義務教育は無料だ。それに畑を手伝うなら小遣い程度だが賃金は支払うから心配すんな」


俺がロロと話してる途中でダンはセバスの元へと向かっていた。


「お前たち朝飯まだだろ?今のうちに食っておいてくれ」


そう言い残して俺はブリックの元へ向かった。


「ブリック、お願いがあるんだけど」


「な、何ですか?ちょっといやな予感がします」


「あー、大したことじゃ無いよ。一人新人の面倒を見て欲しいんだ」


「なんだ、そういうことでしたか。大丈夫ですよ。」


「ただまったく料理したこと無いと思うんだけど」


「誰もが初めての時がありますよ。任せて下さい」


「出来れば色々な味とか覚えさせて欲しいんだ」


「分かりました」


「じゃ、後で連れてくるから宜しくね」


よし、これでOKっと。


ブリックの了解も取れたから使用人の食堂へ戻る。


「ミーシャ、ブリックのOK出たからご飯食べたら連れて行って。ロロはダンが戻って来たら出発だ。食い終わったらさっさと着替えろよ」


「え?着替えって」


「はい、これに着替えて下さいね」


「わーっ!新しい服と靴だぁー!」


着替えを渡されて大はしゃぎのポポ。


「こ、これは」


「着替えは必要だろ?ここでは毎日着替えて風呂にも入れよ」


「ふ、風呂まで・・・」


「さ、早く食え」


「は、はいっ!」


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